のっぺら無双

やあ

文字の大きさ
上 下
26 / 43

記録二十六:ゼド邸〜冒険者ギルド本部

しおりを挟む
 「まさかぁ?!この俺様が…こんなににあっけなく……!!」

 「ぬりゃああ!!」

 ジャララララララララ! 
           ギシィ!!

 キノクニはイルファの断末魔と思しき声には耳も傾けず、漆黒の鎖で斬り離した上半身と下半身を縛り上げます。

 「ぐはあ?!何しやがる?!」

 「ぬううううりゃあ!!」

 ガシィ!!

 そしてキノクニは、ルーク…今はイルファとなったその顔を、両手でしっかりと掴みます。

 「なんだ…何しやがる気だ?!離せぇ!!止めろぉ!!!」

 ピュンピュン!ピュピュン!!

 ズブッ!スブシャッ!ブシャッ!!

 イルファはやたらめったら光の矢を放ち、キノクニを貫き続けますが、キノクニは全く力を緩めません。

 それどころか、ますます力は強くなります。

 「うぎゃあああああ!!俺様が何したってんだあああ!!止めろ!止めろおおおおお!!」

 ブンブンと首を揺らし、抵抗するイルファですが、魔人の力を持ってしても、キノクニの手は振りほどけません。

 「ぬううううううえりゃああああああああああ!!!!!」

 グチィイイイイッ!!

 そしてキノクニは力の限り顔を掴み、引っ張ります。

 顔はミキミキと音を立てて伸び、ブチブチと少しずつ千切れていきます。

 「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!止めろぉおおおお!止めてく…」

 「貴様が私に直接やったことは少ない。ただ襲い、ただ刺した。それだけだ。
 しかし貴様が私の周囲の人々に行ったことは許し難く解せん。
 それが巡りて、貴様を殺す。
 因果応報。死とは時にそのようなものだ。」

 「…れええええあぎゃああああああ!!!」

 ブチィッ…!!

 キノクニはついに顔を引き千切ると、口を大きく開け、一呑みにしてしまいました。

 すると、千切られ、筋組織のみとなった顔面から、魂の残滓が漏れ出します。

 ___俺様は生きる!生きる生きる生きる!
 俺様は戦う!戦う戦う戦う!
 俺様は強く!強く強く強く!

 俺様を覚えておけ!

 俺様はイルファ!!

 暴虐たる魔王をぶち殺す、魔人の中の魔人!魔族の中の魔族!!

 俺様はイルファ…!!!___

 そしてキノクニが完全にイルファの顔を呑み込んだとき、その存在は完全にこの世から消え去りました。

 キノクニの体には、光の魔法が吸収されていきます。

 「…ふぅぅう…」

 「~ぃやったでぇ~~!!!光を捉えて食ってもうた!!さっすがオレの所持者やで!!わしゃしゃしゃしゃ!」

 「…ふん。中々に厄介だったな…
 お前がいなければ、死んでいたのは私だったやもしれぬ。」

 「せやろ!?せやろせやろ!!?
 今回オレ、ものごっつい役に立ったよなあ?!
 いや~!お前の言葉思い出してん!ま!オレに出来ることを全力でやった結果やな!」

 「ふ…」

 「お?!笑ろたな?!わしゃしゃしゃしゃ!!
 感情豊かになってきおったなぁ!」

 「感情ぐらいある。
 …無駄に出さぬだけだ。」

 そしてキノクニは双剣をしまい中庭に向かいます。

 屋敷の外では爆発音を聞きつけた野次馬や兵士達が集まり、まぁまぁな大騒ぎになっていました。

 もくもくと立ち昇る白煙は、まるで勝利の狼煙のようでした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 キノクニは中庭で外套をはおり、ゼドとガンマを抱えます。

 「ダチにこんなことしやがって…
 ほんま許せへん…
 未だに殺意が浮かぶわ…」

 「敵は殲滅した。殺意を引きずるな。
 それに呑まれ、縛られる。
 そしてやがては、それのみにしか生きられなくなるぞ。心を平線に保て。」

 「…せやな。お前の言う通りやわ。
 すまん…」

 ゼドとガンマを抱えたまま、キノクニは門に近づいて行きました。

 「誰か来るぞ!?」

 「待て!何者だ!!止まれ!」

 ガチャガチャと音を立て、兵士が数人近寄って来ます。

 キノクニはそれを確認すると、ゼドとガンマを素早く下ろし、隠密機能をオンにし、物陰に隠れました。

 「隊長!この方は屋敷の主人…
 ゼド・フォーデン殿であります!!」

 「こっちは鍛治師のガンマ殿だ!
 早く担架をよこせ!酷い状態だぞ!」

 兵士達はゼドとガンマを担架に乗せて、野次馬をかき分けて運んで行きました。

 どうやら大丈夫そうです。

 「…ふむ…
 あとは奴らに任せれば良い。」

 「えぇっ!?ゼドちゃん達に会いに行けへんの?!」

 「あの分では数日は目覚めまい。
 それにこの騒ぎの聴取でもされて見ろ。即座に捕まり殺される。
 お前も燃やし尽くされるだろう。」

 「…そら嫌やな…」

 「…そうだなあ。燃やし尽くされるのは嫌だろう。
 でも説明責任はあると思うが。」

 キノクニはガバリと振り返って剣を抜きます。

 そこにはいつぞやのギルド長・エドガードが、キノクニと同じくしゃがんでいました。

 「…貴様は…」

 「ははは…かくれんぼか…
 懐かしいな…鬼ばかりやって呆れられたものだ…
 私は昔から隠れているものを見つけるのが得意でな。」

 「…私を捕らえる気か。
 指名手配は解かれたと聞いた。」

 「そうだ…ついでに懸賞金もな。」

 「懸賞金だと?」

 「ああ…君の存在について、キコリ村のギルドから報告を受けてな。
 それを聞いた王が君を恐れ、懸賞金をかけたんだ…
 その額白金貨1000枚。」

 「…」

 「ははは…驚かないのか。
 肝が座っているな。
 だが、今回の件のことを君の犯行だと決めつけて、捕らえることはできるぞ。
 大人しく付いて来て、事情を詳しく話せば、私達は何もしない。」

 「…わかった。行こう。」

 キノクニは剣を持ったまま、立ち上がります。

 「剣を収めてくれないか。」

 「断る。
 この屋敷を襲撃したのはSSS級冒険者だ。貴様が私を殺そうとせんとも限らない。貴様はただでさえ、私に一度斬りかかって来た。
 信頼はできん。」

 「…そうか……はぁ…ルーク…
 ………わかった。付いて来い。
 剣もそのままで良い。」

 キノクニは剣を構えたまま、ギルド長に付いて行きました。

 「……ほんまに大丈夫なんか?
 また殺されそうになるんとちゃう?」

 「…そうなれば全て滅ぼすのみ。」

 「かあー!渋いな!かっこええな!
 せやな!やったればええねん!
 オレ、どこまででも付いて行くで!」

 「…地獄までもか。」

 「…へ?」

 「仮に今、私が目の前のこの男を本気で殺そうと思い斬りかかるとする。
 一瞬の後、死体になっているのは間違いなく私だろう。」

 「嘘…あいつそんな強いん…?
 でもお前、あいつの刀受け止めてたやん!壁の上で!」

 「あんなものはお遊びにも入るまい…
 奴にしてみればな。
 だが、私は本気で受け止めた。
 奴のお遊びをだ。」

 「まじか…」

 「故に、奴には即座に斬りかかることはしなかった。
 …言っただろう。世の中には、私より強く上位の者などいくらでも存在するのだと。」

 「…ほんまにおるとは…思わへんかったわ…」

 「…奴の場合は力の底が見えぬのもそうだが、力の得体が知れん。
 私の居場所、出現場所に、ことごとく奴が現れる。
 先読みに近い技だとは思うが…
 精度が桁外れている。」

 「確かに…オレの鑑定も弾かれたしな…」

 「それはお前の鑑定レベルが低いだけだろう。」
 
 「んなにをー?!大体お前かてビビり上がっとるくせに何を他人には減らず口叩いとんねんこのやろう!!
 というかやなあ…!!」

 キノクニはグリモアの文句は全く耳に入れず、目の前の男の背中を睨みながら考えていました。

 ___もしこの男がグリモアを持っているとしたら…___

 そのような確証はどこにもありませんでしたが、そう考えずにはいられないキノクニでした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「さあ、着いたぞ。
 ここがあらゆる強者が集う場所。
 夢と冒険の始まり。
 冒険者ギルド本部だ。
 ようこそ、旅人・キノクニ君…」

 目の前の建物は、ゼドの屋敷に負けず劣らず巨大で、ゼドの屋敷より遥かに頑強でした。

 なにせ、建物の上には巨大なドラゴンの物と思しき頭蓋骨と、それを貫くように着地している飛行船が鎮座していたからです。

 「はははは…中々派手な建物だろう?
 初代ギルド長があの"巨龍"を狩って屋根にしたのが、この冒険者ギルドの始まりなんだ。
 並みの建物では、あの頭蓋骨の重さには耐えられない。
 この建物は"永久樹・ラシル"で作られている。
 したがって、腐食もしないし改修も必要ない。
 主人の意のままに、増築できる。
 もちろん、今の主人は私だが…
 まぁ、増築には王の許可がいる。」

 ギルド長は長々と説明していますが、キノクニの耳には一言も入っていません。
 いえ、"永久樹・ラシル"のことだけは、耳に入っていました。

 「グリモア。」

 「ほいよ!…」

__________________
 名前:ラシル

 鑑定拒否
__________________

 「あかん!
 弾かれたしなんか頭痛い!
 ……いででででで!!
 ご、ごめんなさい!もうしません!」

 「どうした。」

 「鑑定したら、拒否されただけやなく、逆に頭にとんでもない量の情報を流された。
 このオバ…あ、お姉さん、生きとるでいだだだだだだだだ!!
 ごめんなさい!
 オバハンやなんて思うてません!
 ほんまです!
 許して!!」

 「…生きているのか。この樹は…」

 キノクニが建物の柱をそっと撫でると、チクリと指先に痛みが走りました。

 キノクニが慌てずそれを見ると、小さな木片が指に刺さっています。

 「…むう。」

 キノクニがそれを抜くと、木片は光の粒になり、ハートを形取って元の柱に戻りました。

 「すごいな。キノクニ君…
 彼女に…ラシル様に気に入られたのか。中々あることでは無い。
 今の時代では、私と君だけだろう。」

 「いだだだだだだ!やめてください!
 申し訳ありませんでした~!!!
 あぁ~~~~ん!!!」

 グリモアは泣き喚いてしまいました。

 「…ふん。御託はいい。さっさと中に通せ。」

 「ああ、すまないな。どうぞ。」

 ガチャッ…

 重々しい扉を開けると、そこには…

 先程までは騒いでいたであろう、多くの冒険者達が、キノクニを一斉に睨んでいました。

 「キノクニ様っ……!!!」

 その中には、マリアンの姿もありました。

 続きは次回のお楽しみです。



 


 



 
しおりを挟む

処理中です...