のっぺら無双

やあ

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記録二十七:ギルド本部にて

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 「心配しましたのよ!!
 今までどこにいましたの?!」

 マリアンが心配と安堵が混じった声を上げながら近寄って来ようとします。

 「お待ちなさい!はしたない!アレは貴女がお負けになられた旅人ではなくて?!
 それをまぁよくも、そんな黄色い声を上げて近寄れますね!」

 しかし、サイケとその手下達に、行く手を阻まれてしまいました。

 「黄色くなどありませんわ…!
 通して!どいてくださいませ!!」

 「ステュー様!只今よりサイケ様のお時間でございます!
 …負け犬様はご遠慮くださいませ!」

 「なんですって!?くっ…
 キノクニ様!!」

 サイケはヒールを鳴らし、ツカツカとキノクニに近寄っていきます。

 目と鼻の先まで近づくと、キノクニの足元から頭の先まで、舐め回すようにじっくりと観察します。

 「…へえ…
 中々肉付きは良いようですね…
 しかし何故そこまで厳重に顔を隠しているのでしょう?」

 「貴様には関係の無いことだ…」

 「まあ!初対面の、それも女性に向かって貴様ですって?!
 なんて教育がなっていないのでしょう!!
 私が一から叩き込んであげましょうか!!!」 

 ブアッ!

 サイケが背中の鎚を抜き放ち、キノクニに向かって振り下ろします。

 スタンッ!

 しかし、鎚はキノクニを潰す前に、ぴたりと止まっていました。

 「なっ…?!」

 「キノクニ様には…何もさせませんわっ…!!」

 マリアンがサイケの手下達の間から、念魔法を使い、鎚を止めていたのです。

 「貴女っ…いつの間にそんな魔法をっ…?!
 皆さん!マリアン様を止めてください!」

 「「「かしこまりましたっ!」」」

 手下達がマリアンの杖を奪おうと手を伸ばして来ます。

 しかし、マリアンは魔法に集中していて避けることができません。

 手下の内の1人の手が、マリアンの杖に触れたその時です。

 「次の課題は杖無しでの魔法の発動だ。そうすれば武器を持てる。
 すなわち、戦闘の幅が広がる。」

 「キノクニ様っ……!?どうやってここに…?」

 「魔法だ。光のな。」

 キノクニは光魔法を使い、天井から反射してマリアンのそばに降り立ったのでした。
 そしてそのまま、手下の手を掴み、杖から引き剥がしました。

 「貴様っ…!手を離せぇ!」

 「それにこうして杖を抑えられて魔力制御が狂う心配も無い。」

 キノクニな手を放してマリアンに説明を続けました。

 手下は、自分の手が青白く動かないので、顔が真っ青になってしまっています。

 「どうやってマリアン様のもとまで…!!
 ちょっと貴方!!私を無視して、他の方のもとに行くなど…」

 「黙れ。失せろ。」

 「とっ………!!!?」

 キノクニはサイケの目を睨み、殺気を飛ばします。
 
 ___その目に光の速さで指を刺し込み、脳髄をかき回した挙句に引きずり出してやろうか。___

 ___それとも今すぐその鎚ごと叩き潰してやろうか。___

 そういう意思を込めて。

 「ひゃっ…はぁわっ………なんですかぁ………」

 サイケは目を逸らしたくてたまりませんが、まんじりとも眼球が動きません。

 本能が告げているのです。

 ___今目を離せば殺される。___

 周りの冒険者達も、手下達も、全く手出しできません。

 睨まれすぎてサイケの瞳が真っ赤になり、涙がにじみ出た時です。

 パンパン!
 
 「はい。お疲れさん。
 今お前達も見たとおり、彼は私の客だ。そして私ぐらい強い。
 …死にたくなければ彼にちょっかいを出すな。
 いいな。」

 ギルド長が手を叩き、張り詰めた空気を断ちました。

 キノクニはそれに乗っかり殺気を収めます。

 「貴様…私にわざとあの女をぶつけたな。ふざけているのか…
 わずらわしい。」
 
 「ははは。いや何、昨今の冒険者達は、SSS級になろうと、殺気の使い方も知らん奴らばかりでな。
 君の実力を示すのと併せて、ご教授して頂いたこうと思ってな。」

 「…ふん。」

 「でも凄かったですわ…キノクニ様…
 あの技、どうやるのですか…?」

 「技などという上等なものでは無い。
 あんなものはただの虚仮威しだ。
 通用せぬ輩は山程いる。
 そこの男などいい例だ。」

 「いや…ギルド長様のような方は山程いませんわよ…?」

 「やってみたくばあの竜の時のような修羅場をあと1000ぺんは体験しろ。
 そうすれば自然と身につく。」

 「あのレベルを…先は長いですわ…」

 「さて!それでは私の部屋に行こうか。君の話も聞きたい。マリアン。
 一緒に来てくれ。」

 「は、はい!分かりましたわ!…あの…キノクニ様……横を歩いてもよろしいですか…?」

 「好きにしろ。」

 「はいっ!!ふふふっ!」

 こうしてキノクニ達は、ギルド長に付いて、階段を上って行きました。

 後には恐怖の余韻を噛み締め、ただ床を見つめることしかできないサイケと、
冒険者達が座りこんでいました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「なんなの…あの旅人は…」

 「杖や補助具も無しにあれほどの魔を使う者は、久方ぶりに見る…」

 ざわっ…

 キノクニ達が去った後の広間に、騒めきが広がります。

 サイケがそれに気付き、振り返ると…

 「これはっ…
 魔法院頭組大長老、
 "魔法の創始"メイカーズ様!!」

 そこには小さな小さな、膝下程の大きさの女性がチョコンと立っていました。

 「私は作り変えただけ。みんなが使いやすいように。
 …ただ、彼の魔法は魂から溢れてる。
 だからこそ、自在に使えて共にある。
 …私も聞きたいわ。彼は一体何者?」

 「か…彼は、ギルド長・エドガード様のお客様ですわ…
 メイカーズ様も彼に興味が…?」

 「個人的には…でもここに来たのは別件。
 先程、商人ゼドの屋敷を鑑定して来たのだけど、そこで世にもおぞましいものを見つけた。
 ……魔族の死体を。」

 ざわざわっ…!!

 さらに騒めきは大きくなります。

 ___魔族だと?!開国以来この国に入ったことは無いんじゃ…___

 ___いや、"語られない歴史"には幾度も襲来があったと記されているぞ…___

 ___恐ろしい…しかし死んでも死なぬ民の死体が何故…___

 パシンッ!

 メイカーズが扇子をひと叩きし、騒めきを鎮めます。

 「貴女…確かSSS級、"大華"さんね…
 ギルド長は?」

 「はっ…彼の者と共にギルド長室へ…
 話をするとか…」

 「丁度よし。」

 パシンッ!

 もう一度扇子の音がした時、メイカーズは既に消えていました。

 「なんなの…本当に…」

 後には、さらに呆気にとられるサイケと、魔族についての話を再開した冒険者達が残るばかりでした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 キノクニ達はギルド長に付いて歩き、長い階段を登ります。

 「ではキノクニ様、戦とは何と心得ますの?
 わたくしは国を富ませるための豊事だと考えますわ。」

 「くだらん…
 戦ほど無駄なものは無い…戦は野を食み人を食み、死をばら撒き広める。
 それはさながら疫病のごとくな。
 お前の言うことにも一理はあるだろう…だが、それでもし人が滅びれば、残る物はなんだ。
 富とは無だ。
 …だからこそ人は富に惹かれる。」

 「そんな…でも……」

 「…ふ。ここでしても栓の無い話だ。
 戦に加わった者にしか、実際は分からぬ話だ。」

 「…キノクニ様は、参加したことが…?」

 「…さあ。どうだかな。」

 「あかん…まだ頭痛がする…許してや…ラシルの姐さん…」

 「ははは…そろそろ着くぞ。
 難しい話はやめにしてくれ。」

 話をやめると、丁度階段の頂きに着いていました。ギルド長は扉のノブをひねり、開きます。

 ガチャリ…
      ボン!

 ギルド長が部屋に踏み入った途端、ギルド長の頭が爆発しました。

 「遅い。私が来てから5分も経った。」

 目の前の机に、とても小さい女性が立っていました。

 皆さんはご存知でしょう。

 先程パシンと扇子を鳴らして消えた、メイカーズです。

 彼女は空間転移を使い、ギルド長の部屋にいち早く着いていたのです。

 「なんやあの嬢ちゃん…」

 「こっ…これはメイカーズ様!!久しくお目にかかりますわ!」

 「貴女は…"魔導師"…
 マリアン・ステュー・グレイシア…」

 「わ…わたくしの名前を覚えて…?」

 「私は一度聞いた名は全て覚えてる…思い出すかどうかは別だけど。」

 「では…わたくしは思い出していただけましたの…?」

 「ええ。纏う空気が、他の冒険者とは違う。いい魔導師になったね。」

 「それは多分….いえ、絶対、キノクニ様のお陰ですわ…」

 そこでようやく、メイカーズはキノクニを見ます。

 「やはり近年稀に見る魔の波…はじめまして。
 私は、メイ・カーズド・ミレニア。
 みんなからはメイカーズと呼ばれてる。よろしく。」

 「…」

 「こらっ!キノクニ!
 嬢ちゃんが手を出して来とるやん!
 握手せい!ほれ!握手や握手!!」

 「…むぅ…」

 「良かった。握手してくれないのかと思った。悲しくなるところだった。」

 メイカーズは悲しげな様子など全く見せずに、フワリと浮かぶと床に着地しました。

 「…私に詫びは無いのか?
 メイさん。」

 「お黙り。あんたが遅いのが悪い。
 ゴリゴリと年々、力だけ強くなって。
 気色悪い。」

 「そこまで言うか…」

 メイカーズには、ギルド長も形無しです。

 「茶番はよせ。
 私の話を聞くためにこのような場所まで来させたのだろう。
 時間は有限だ。」

 「良いことを言う。若いのに。」

 「貴様の方が若いだろう。」

 「あら…意外と無知?」

 メイカーズは扇子を開き、口元を隠します。

 「キノクニ様。メイカーズ様はグリーンエルフの女性ですの。
 実年齢は300を越しますわ。」

 「グリーンエルフ…聞いたことはある…希少な種族だとな。」

 「そう。見た目に騙されるとは、
 貴方もまだまだね。」

 キノクニはメイカーズを睨んだ後、顔を上げます。

 「あら?言い返さないの?」

 「的を得ている。
 何を言い返す事がある?
 そんなことより早く事情聴取とやらを始めろ。」

 「あらあら…これは稀に見る……良い男…かしら…?」

 「んんっ…では始めるか…」

 こうして、事情聴取が始まりました。

 続きは次回のお楽しみです。

 

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