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記録二十九:宿〜関所
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翌日。
朝早く、日の出と共に目覚めたキノクニは、笠を編んでいました。
ポーチにしまった荷物から、藁を大量に取り出し、こより、紡いでいきます。
「…よし。こんなものか。」
朝の7時頃には、完成していました。
「……~っっっ……あふぁ~~…むにゃむにゃ…ああ…お早うさん。
キノクニ。」
「眠すぎだ。日の出から既に1時間半は経っているぞ。」
「堅いこと言いなやもぅ。たまの宿屋なんやから惰眠は貪らんと。
…マリアンちゃんは?」
「?。昨日の夜中、しばらく共に月を眺めた後に、帰っていったが。」
「…え、それだけ?」
「何がだ。」
「…いや別に?……
なぁ、お前って童貞?」
「知ってどうする。」
「いや、なんとなく気になって…」
「…ふん。
今までそういった姦計を用いて修羅場を切り抜けて来たことは幾度もある。
もう覚えていないがな。」
「ほえ…お前……大人やな~…
…弱点無しやん。」
「くだらん…アモンの所へ行くぞ。」
「はいよ!」
キノクニは妙な部分に感心するグリモアを吊り、フードと外套を纏って外に出ました。
昨夜の満天の星空と満月にくらべて、今日はひと雨降りそうな天気でした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あかん!降って来たわー!笠編んどいてよかったなー!」
ちょうど裏町のバーに着いたところで、雨粒がピチピチと落ちて来ました。
「なあ。
やっぱブックカバー欲しいわ。頼むわキノクニ。」
「…」
キノクニはグリモアには答えず、バーのマスターに目を配り、床を開けさせ、床下に潜りました。
少し潜って、突き当たりの扉を開きます。
ガチャッ…
「ぐがー…ぐがー…ぐがー…」
「すぴー…すぴー…すぴー…」
そこには、黒を基調とした肩当てと前鎧、胴巻きにホルダーバンドとブックカバーを装備したマネキンと、そのマネキンの足元で、アモンとカナンが寝ていました。
とても満足気で、安らかな寝顔です。
「…見事だ。」
「へ?…ああ。あの鎧か…
まだ鑑定してへんけど…なんちゅうか、神気みたいなんを帯びとるな。」
キノクニはアモンとカナンを起こさないようにマネキンに近付くと、静かに素早く鎧を身につけました。
鎧は直しを入れるまでもなく、キノクニの体にぴったりと吸い付くように装着できました。
「すごいな…しかもこれお前…
ブックカバーまで作ってくれとるやんか?!
なんで?!なんでなんで?!」
「静かにしろ…私が頼んだのだ……
欲しがっていただろう。」
「ええっ…嘘なんやのん…胸キュンや…
あかん。キュンキュンするわ…サプライズやなんて…
チューしたろか?チュー。」
「黙れ。気色の悪い。」
「ああっ…そのツンもなんや愛おしく感じてくるわ……」
「もういい…」
キノクニは鎧の感触を静かに確かめると頷き、ポーチに手を入れます。
そして狩って来た竜の半分を部屋の奥に置き、今まで貯めてきた貴重な魔石の類いも置きました。
狩った竜のもう半分は、既にゼド邸の倉庫に置いていました。
「…起こさへんの?」
「静かに動いたとは言え、これだけ騒いで目覚めないのだ。
…この鎧を作るために、徹夜したのだろう。
私が1日で作れと言ったしな。
起こすことはあるまい。」
「…せやな。ゆっくりおやすみ。カナンちゃん、爺ちゃん。」
キノクニは最後にガンマから預かった"神降ろしの木槌"をアモンの手元に置き、床下の鍛治室から床上のバーへと上がりました。
「うへへ…にいちゃん…ここにはもう来ねえ気かい…?」
「…」
「沈黙は何よりの肯定ってなぁ。
うへへ…またのお越しを…
いつでも待ってますよ…」
キノクニは返事もしないまま、バーの出入り口をくぐり、ますます雨の降りしきる裏町に、姿をくらませて行きました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
雨はザンザンと降っています。
キノクニは宿に戻らず、都の大通りを歩いていました。
「すごい雨やな…雨季か思うわ。
なあ、宿に戻らへんのん?」
「…宿の方に嫌な予感が漂っている…
宿は既に引き払った。旅に必要な物も調達した。
このまま都を出るぞ。」
「うん!ええよ!…ってなるかぁ!
アホウ!!なんでやねん!なんでお前はいつも唐突やねん!!
つか、グリモアの持ち主探しはどうなんねん!」
「…お前は今までこの都で、一度でもグリモアの気配を感じたか。」
「…感じてへん…今の今まで…」
「それが答えだ。」
「でも…そしたらどこに向かうん?
当てなんて無いやろ…」
「お前の頭は空壺か?」
「誰が空壺やねん!夜中いっぱい叫び通したろか!?不眠症にしたろか!?」
キノクニはグリモアの文句をいつもどおり無視し、話を続けます。
「魔族領だ。」
「それか夜中いっぱい、ポコポコ…
ま、ままままま…魔族領やとぉ!?」
グリモアに体があったなら、飛び跳ね損ねたカエルのように、ひっくり返っていたことでしょう。
「お前…あれだけ魔族に絡まれといて怖ないんか?!それかマジアホか!?
魔族領はお前のドテっ腹ぶち抜いたり、ハリネズミかと思うくらい光矢を刺したような連中がウヨウヨおんねや!」
「黙れ。1番グリモアがある可能性が高いのは魔族領だ。違うか。」
「…そら…魔族領は広大やし…オレらの母ちゃんも魔族やった…
1冊や2冊はありそうやけど…」
「1冊や2冊でもあれば良い。
無いよりはマシだ。少なくともこの都よりはな。」
「いやいやいや!あかんて!
魔族領なんぞゲームで言うたら、いっちゃん最後に行く場所や!!
魔王がおんねんぞ!?それに足は?!めっっっっっちゃ遠いど!!?」
「足ならば平原に腐るほどある。」
「……ドラゴンンンンン!?」
グリモアはギャーギャーといつも以上に喚き、なんとかキノクニを都にとどまらせようとします。
魔族領が怖いというのもありますが、グリモアは宿に漂う悪い予感に心当たりがありました。
昨日メイカーズに言った言葉を思い出したのです。
___今日のところはそっとしときや。…今度マリアンちゃんとでも来たらええわ。___
「とにかく戻らなあかんて!あかんねんて~~~!!!」
「やかましい…」
そんなグリモアの思いなど全く知る由も無いキノクニは、関所へと足早に向かいました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「えぇっ!?
今朝がた早くにチェックアウトされましたの!?」
「ええ…あの…くれぐれも個人情報を漏らしたことは内密に…」
「……わかりましたわ。
ありがとうございました…」
マリアンは宿の受付で礼を言うと、入り口にいるメイカーズの元へ、申し訳なさげに戻って行きました。
「あの…メイカーズ様…
非常に言いにくいのですが…」
「……聞こえた。
既に居ないんでしょ。」
「…申し訳ありませんわ……」
「貴女が謝ることじゃない。
…ああ…やはり…」
「…?…どうされましたの…?」
「今、都全体を魔力感知してみた…
結果、キノクニくんは都にいない。
既に都から出て行ってる…」
「そんな…」
マリアンとメイカーズは、ただうつむき、降りしきる雨音を聞き続けていました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
都にはそれから1週間雨が降り続きました。
ちょうどキノクニが去った日から1週間で止みました。
それはまるで、キノクニが居なくなって悲しみ、流れる涙のように。
突然いなくなったキノクニを、都で彼に関わった者たちは惜しみます。
キノクニは確かに無愛想で顔無しでしたが、それでも人の命を沢山救いました。
また、それと同じくらい、いえ、それ以上に沢山の悪者をくだしました。
関わりを持った者達の心には、キノクニという人間が確と刻まれました。
苦しくも都は、キノクニが居なくなってから平穏が戻りました。
果たして、関わった者たちのその後はどうなったのでしょうか?
キノクニは無事、魔族領に辿り着けるのでしょうか?
続きは次回のお楽しみです。
朝早く、日の出と共に目覚めたキノクニは、笠を編んでいました。
ポーチにしまった荷物から、藁を大量に取り出し、こより、紡いでいきます。
「…よし。こんなものか。」
朝の7時頃には、完成していました。
「……~っっっ……あふぁ~~…むにゃむにゃ…ああ…お早うさん。
キノクニ。」
「眠すぎだ。日の出から既に1時間半は経っているぞ。」
「堅いこと言いなやもぅ。たまの宿屋なんやから惰眠は貪らんと。
…マリアンちゃんは?」
「?。昨日の夜中、しばらく共に月を眺めた後に、帰っていったが。」
「…え、それだけ?」
「何がだ。」
「…いや別に?……
なぁ、お前って童貞?」
「知ってどうする。」
「いや、なんとなく気になって…」
「…ふん。
今までそういった姦計を用いて修羅場を切り抜けて来たことは幾度もある。
もう覚えていないがな。」
「ほえ…お前……大人やな~…
…弱点無しやん。」
「くだらん…アモンの所へ行くぞ。」
「はいよ!」
キノクニは妙な部分に感心するグリモアを吊り、フードと外套を纏って外に出ました。
昨夜の満天の星空と満月にくらべて、今日はひと雨降りそうな天気でした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あかん!降って来たわー!笠編んどいてよかったなー!」
ちょうど裏町のバーに着いたところで、雨粒がピチピチと落ちて来ました。
「なあ。
やっぱブックカバー欲しいわ。頼むわキノクニ。」
「…」
キノクニはグリモアには答えず、バーのマスターに目を配り、床を開けさせ、床下に潜りました。
少し潜って、突き当たりの扉を開きます。
ガチャッ…
「ぐがー…ぐがー…ぐがー…」
「すぴー…すぴー…すぴー…」
そこには、黒を基調とした肩当てと前鎧、胴巻きにホルダーバンドとブックカバーを装備したマネキンと、そのマネキンの足元で、アモンとカナンが寝ていました。
とても満足気で、安らかな寝顔です。
「…見事だ。」
「へ?…ああ。あの鎧か…
まだ鑑定してへんけど…なんちゅうか、神気みたいなんを帯びとるな。」
キノクニはアモンとカナンを起こさないようにマネキンに近付くと、静かに素早く鎧を身につけました。
鎧は直しを入れるまでもなく、キノクニの体にぴったりと吸い付くように装着できました。
「すごいな…しかもこれお前…
ブックカバーまで作ってくれとるやんか?!
なんで?!なんでなんで?!」
「静かにしろ…私が頼んだのだ……
欲しがっていただろう。」
「ええっ…嘘なんやのん…胸キュンや…
あかん。キュンキュンするわ…サプライズやなんて…
チューしたろか?チュー。」
「黙れ。気色の悪い。」
「ああっ…そのツンもなんや愛おしく感じてくるわ……」
「もういい…」
キノクニは鎧の感触を静かに確かめると頷き、ポーチに手を入れます。
そして狩って来た竜の半分を部屋の奥に置き、今まで貯めてきた貴重な魔石の類いも置きました。
狩った竜のもう半分は、既にゼド邸の倉庫に置いていました。
「…起こさへんの?」
「静かに動いたとは言え、これだけ騒いで目覚めないのだ。
…この鎧を作るために、徹夜したのだろう。
私が1日で作れと言ったしな。
起こすことはあるまい。」
「…せやな。ゆっくりおやすみ。カナンちゃん、爺ちゃん。」
キノクニは最後にガンマから預かった"神降ろしの木槌"をアモンの手元に置き、床下の鍛治室から床上のバーへと上がりました。
「うへへ…にいちゃん…ここにはもう来ねえ気かい…?」
「…」
「沈黙は何よりの肯定ってなぁ。
うへへ…またのお越しを…
いつでも待ってますよ…」
キノクニは返事もしないまま、バーの出入り口をくぐり、ますます雨の降りしきる裏町に、姿をくらませて行きました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
雨はザンザンと降っています。
キノクニは宿に戻らず、都の大通りを歩いていました。
「すごい雨やな…雨季か思うわ。
なあ、宿に戻らへんのん?」
「…宿の方に嫌な予感が漂っている…
宿は既に引き払った。旅に必要な物も調達した。
このまま都を出るぞ。」
「うん!ええよ!…ってなるかぁ!
アホウ!!なんでやねん!なんでお前はいつも唐突やねん!!
つか、グリモアの持ち主探しはどうなんねん!」
「…お前は今までこの都で、一度でもグリモアの気配を感じたか。」
「…感じてへん…今の今まで…」
「それが答えだ。」
「でも…そしたらどこに向かうん?
当てなんて無いやろ…」
「お前の頭は空壺か?」
「誰が空壺やねん!夜中いっぱい叫び通したろか!?不眠症にしたろか!?」
キノクニはグリモアの文句をいつもどおり無視し、話を続けます。
「魔族領だ。」
「それか夜中いっぱい、ポコポコ…
ま、ままままま…魔族領やとぉ!?」
グリモアに体があったなら、飛び跳ね損ねたカエルのように、ひっくり返っていたことでしょう。
「お前…あれだけ魔族に絡まれといて怖ないんか?!それかマジアホか!?
魔族領はお前のドテっ腹ぶち抜いたり、ハリネズミかと思うくらい光矢を刺したような連中がウヨウヨおんねや!」
「黙れ。1番グリモアがある可能性が高いのは魔族領だ。違うか。」
「…そら…魔族領は広大やし…オレらの母ちゃんも魔族やった…
1冊や2冊はありそうやけど…」
「1冊や2冊でもあれば良い。
無いよりはマシだ。少なくともこの都よりはな。」
「いやいやいや!あかんて!
魔族領なんぞゲームで言うたら、いっちゃん最後に行く場所や!!
魔王がおんねんぞ!?それに足は?!めっっっっっちゃ遠いど!!?」
「足ならば平原に腐るほどある。」
「……ドラゴンンンンン!?」
グリモアはギャーギャーといつも以上に喚き、なんとかキノクニを都にとどまらせようとします。
魔族領が怖いというのもありますが、グリモアは宿に漂う悪い予感に心当たりがありました。
昨日メイカーズに言った言葉を思い出したのです。
___今日のところはそっとしときや。…今度マリアンちゃんとでも来たらええわ。___
「とにかく戻らなあかんて!あかんねんて~~~!!!」
「やかましい…」
そんなグリモアの思いなど全く知る由も無いキノクニは、関所へと足早に向かいました。
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「えぇっ!?
今朝がた早くにチェックアウトされましたの!?」
「ええ…あの…くれぐれも個人情報を漏らしたことは内密に…」
「……わかりましたわ。
ありがとうございました…」
マリアンは宿の受付で礼を言うと、入り口にいるメイカーズの元へ、申し訳なさげに戻って行きました。
「あの…メイカーズ様…
非常に言いにくいのですが…」
「……聞こえた。
既に居ないんでしょ。」
「…申し訳ありませんわ……」
「貴女が謝ることじゃない。
…ああ…やはり…」
「…?…どうされましたの…?」
「今、都全体を魔力感知してみた…
結果、キノクニくんは都にいない。
既に都から出て行ってる…」
「そんな…」
マリアンとメイカーズは、ただうつむき、降りしきる雨音を聞き続けていました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
都にはそれから1週間雨が降り続きました。
ちょうどキノクニが去った日から1週間で止みました。
それはまるで、キノクニが居なくなって悲しみ、流れる涙のように。
突然いなくなったキノクニを、都で彼に関わった者たちは惜しみます。
キノクニは確かに無愛想で顔無しでしたが、それでも人の命を沢山救いました。
また、それと同じくらい、いえ、それ以上に沢山の悪者をくだしました。
関わりを持った者達の心には、キノクニという人間が確と刻まれました。
苦しくも都は、キノクニが居なくなってから平穏が戻りました。
果たして、関わった者たちのその後はどうなったのでしょうか?
キノクニは無事、魔族領に辿り着けるのでしょうか?
続きは次回のお楽しみです。
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