のっぺら無双

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記録三十:首都ウォー後日談

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 「はぁ…」

 魔導院とは、魔法の研究や新たな魔法の開発、禁魔法と言われる極めて有害な魔法の解析・封印など、魔法に関する様々な業務を一手に引き受ける、王国きっての研究機関です。

 そんな魔導院の休憩テラスに、メイカーズは浮かない表情で座っていました。

 目の前にはマリアン・ステュー・グレイシア…マリアンが座っています。

 「私…嫌われたままだった…」

 「メイカーズ様…」

 「今までに無い程いい男だったのに…」

 「えぇっ!?
 そういう理由でいらっしゃいますの?!」

 キノクニが去ってから早1週間。

 長いこと続いた雨模様も晴れ、久しぶりの気持ち良い天気だというのに、メイカーズはずっと後悔し続けていました。

 「…別に変じゃないでしょ?…第一印象でビビビっと来るのは。
 貴女達、人族にだってあるはず。」

 「えっ…いえ…その…キノクニ様に直接魔法のお話をお聞きになりたかったのではないかと思って…」

 「そんなの建前。
 あーあ…私がビビビっと来るなんて、長いエルフ生の中でも2度目だったのに…」

 「…1度目が、あられましたの?」

 「…誰にも言わない?」

 「…はいっ。勿論ですわ!」

 「………初代ギルド長。」

 「えぇっ!?
 それって建国王の弟君では…」

 「…ふふふ。凄いでしょ?彼、めちゃくちゃ無愛想でね…」

 昔のことを思い出し、少し元気になったメイカーズの話を聞きながら、マリアンは考えます。

 ___ビビビがもしメイカーズ様のおっしゃられるような感情なら…___

 マリアンは黒龍を倒し、血みどろになりながらもしっかりと立っていたキノクニの姿を思い出していました。

 ___いえ、違いますわ。きっと恐怖と興奮で、勘違いしただけですわ…でなければ…この気持ちは…あまりに切ない…___

  マリアンは考えるのを止め、メイカーズの話に耳を傾けることに集中しました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「はぁ…」

 マリアンはメイカーズの話を聞き終え、魔導院から冒険者ギルドへ戻って、クエストカウンターに座り、ソーダ水を飲みながら、頬杖をついていました。

 「お隣失礼します!」

 ドカッ!

 と、マリアンの隣の席に誰かが座ってきました。

 横に顔を向けると、そこにはサイケが座っていました。

 「…サイケ……」

 「なんですかそのショボくれた様は!!訓練所に行きますよ!」

 「…え?」

 「え?じゃない!!
 早く支度なさい!」

 「…なぜ、わたくしに?」

 「ああーもう!あなた!私の大華槌を念魔法で止めていたでしょう!?」

 「え…はい…」

 「私の華麗で優雅な大華槌が、念ごときに止められるわけにはいかないのです!
 あなた!あの旅人に色々と学んだのでしょう!?」

 「ええ…まあ…」

 「それであんなにも強力な魔法を使えるようになったのでしょう!?」

 「勿論…あの方のお陰ですわ…」

 「ならばその教えを私にも示しなさい!…私はもう、殺気に怯えるような、不甲斐ないSSS級冒険者ではいたくないのです!」

 「サイケ…」

 そういうとサイケは、槌を片手に立ち上がります。

 「…あなたにショボくれている暇はありません。
 皆、あなたの教えを…あの旅人の教えを知りたくてウズウズしているのですから。
 …強い者には、力を共有する義務がある。…そう私は思います。」

 サイケはツカツカと歩いて訓練所の入り口まで行くと、振り返ってマリアンを睨みます。

 「ですから、早くなさい!
 手始めに私に教授なさい!」

 「あっ…待ってくださいませ…!!」

 マリアンも急いで杖を…いつもの杖ではなく、力の弱い杖を持って、サイケを追います。

 マリアンはキノクニの最後の課題…杖を使わずに魔法を使う練習を欠かさず行っていたのです。

 走っていく2人の冒険者は、後にSSS級をも超える力を持つ冒険者となるのですが、それはまた先のお話です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「はぁ…」

 マリアンが走り去っていったクエストカウンターの片隅で、重い溜息をつく若い女性がいました。

 彼女の背中には旅の荷物と、矢筒、弓が纏めてくくりつけられていました。

 矢は女性が作ったもので、先には鋭く尖らせた石が付いています。

 弓は女性が作った物と、綺麗に磨かれた弓の2つがありました。

 「見つからない…一体どこに…」

 ドスン!

 女性が水を飲んでいると、背後の荷物を叩く者がいました。

 「おい!テメェ!!こんなデケェ荷物背負ったままで、居座ってんじゃねぇよ!!」

 「す、すいません。」

 「すいませんで済んだら
 警邏はいらねぇんだよ!!
 その荷物置いてとっとと出て行きな!
 俺が有意義に使ってやるよ!!」

 「え、そんな…」

 ___なんだなんだ!?___

 ___ガバネの新人いびりだ!___

 野次馬が集まり、女性と、ぶつかった男…ガバネを取り囲みました。

 「え、あの、え…」

 「さもなくばここで痛ぇ目をみて、尻尾を巻いて逃げ出しなぁ!田舎者!
 冒険者に男も女も無いんだぜぇ!!」

 ブァ!

 男がその太い腕を振り上げたその時です。

 「はい。そこまで。」

 着物を着た大きな赤い髪の男…ギルド長の、エドガード・カノン・ノアルその人でした。

 「ぎっ…ギルド長?!」

 ガバネが腕を掴まれ、驚いています。

 野次馬達はすぐに散っていきました。

 「冒険者に男も女も無い。誰でも歓迎だ。良いことを言うじゃ無いか。」

 「へっ…いや、その……俺は…」

 「違うのか?ん?」

 「…ちっ…違いません!失礼しました!」

 ガバネはバッと振り返ると、一目散に外へと逃げ出していきました。

 「……ふぅ。良かった。君も収めてくれるか?」

 ギルド長が女性に目を向けると、女性は両手に装備している籠手から短剣を出すと、2つとも鞘に収めました。

 「殺す気だったのか…」

 「…ごめんなさい。
 でも正当防衛で大丈夫かなと思ったんです…
 それに死ぬ間際で止めようとも思っていました。」

 「…失礼。君、名前は?」

 「…え?」

 「ああ、私から自己紹介しよう。
 ギルド本部長のエドガード・カノン・ノアルだ。よろしく。」

 エドガードと女性は握手をしました。

 「…私はF級冒険者のフロル・メールです…
 …みんなからはメールと呼ばれていました。」

 「そうか。メール。よろしくな。」

 皆さんはご存知でしょう。

 センジュの樹海でキノクニと共に冒険をした、あのメールです。

 冒険者ギルドに所属し、今日まさに、都に到着したのでした。

 「何故殺そうとした?罪に問われる可能性も高い。確実にギルドをやめねばならなくなる。」

 「はぁ…別にギルドにこだわってはいませんし…お金は旅には邪魔ですから…
 食料や薬草は、道すがら手に入れられます。」

 「…ギルドで偉大な冒険者になるのが目的では無いと?」

 「興味ありません。」

 メールは確固たる信念でエドガードに答えました。

 その気迫は、キノクニの殺気に似たものがある…

 エドガードはそう、既視感を感じました。

 「…では君の目的とはなんだ?ギルドに所属するよりも大切な目的とは…」

 「…人を、探してるんです…」

 「…それは誰だ?」

 「名前はいいません。
 あの人はきっとそれを望まないから。」

 「……キノクニ…」

 「えっ!!!?」

 メールは思わず席を立ち、驚きました。

 「やはりか…
 …君は一体、彼のなんだ?」

 「…短い間で、戦いを教えてもらいました…自分に出来る事を、全力でやる事の大切さも。」

 「…なるほど。君は彼に似た雰囲気を纏っている。心に当たるはずだ。」

 「あのっ…
 キノクニさんは今どこに?!」

 「彼は1週間程前に都から旅立った。誰にも何も告げずにな。」

 「そんな…遅かった…」

 メールは座り込み、カウンターに突っ伏してしまいました。

 「…私も後悔していてな。彼と喧嘩をしたまま、別れてしまった…
 一言謝罪したかったんだがな…」

 「喧嘩…?キノクニさんと…?」

 「私が一方的にいじめたようなものだがな…」

 エドガードはギルド長室での経緯を、メールに話しました。

 「…キノクニさんは気にして無いと思います。自分の目的に真っ直ぐな人だから。…だから大丈夫ですよ。」

 「…そうか?」

 「はい。」

 「…ははは。そうか!ははは…君は見たところ、弓を主に使うのか?予備も持ち歩くとは、感心だ。」

 「?…いえ、2つ一緒に使うんです。」

 「なに…?」

 ドタガタン!

 その時、カウンターの向こうで書類がバラバラと舞いました。

 職員が転んで、ぶちまけてしまったようです。

 「…見ますか?」

 「あ、あぁ…」

 メールは弓を2つ抜くと、両に構えて舞い散る書類を見つめます。

 そして丁度15本、矢を抜くと、右に8本、左に7本つがえ、口にくわえてギリギリと引きしぼります。

 「!!?」

 ヒュンッ!!

 エドガードが驚き、見つめるのも構わず、メールは矢を放ちました。

 トトンッ!!!!

 ほぼ同時に壁に書類を打ち付けた矢は、しかし、一本外れてしまっていました。

 ズガッ!

 最後の1枚を短剣の投擲で壁に刺し、メールはエドガードを見ます。

 「こんな感じです。
 私には細い腕が2本しかないから、腕より力が強い顎で矢を絞った方が早いし、沢山撃てるんです。
 今みたいにたまに外すから、短剣は5本持ってますけど…」

 「…流石は彼の教え子だな…その弓は?」

 「1つはキノクニさんが、もう1つは私が作りました。…はぁ。キノクニさん…」

 メールは弓を見つめ、悲しげです。

 「…君、是非この治癒院に行ってみてくれ。この部屋だ。
 この書状を渡せば中の人物に会える。」

 「え…でも…」

 「彼らもキノクニ君とゆかりのある者達だ。会って損は無い。」

 「…はい!ありがとうございます!
 エドガードさん!」

 メールにはギルド本部長という肩書きがピンと来ていませんでした。

 「はははは!いやいや…私も君のおかげで気が晴れた。彼らに会ったらよろしく伝えてくれ。」

 「はい!」

 メールはペコリと頭を下げると、荷物を背負い直し、外に出て行きました。

 後にはエドガードが残るだけです。

 エドガードは頼んでいたウィスキーを飲み、呟きます。

 「あの弓…神気を微かに帯びていた…キノクニ君の作った弓…それに、面白い少女だ。」

 エドガードは微笑むと、ウィスキーを一気に飲み干しました。

 後日談はまだ途中。

 続きは次回のお楽しみです。



 

 
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