【完結】うちの家の玄関はたまに異世界に繋がります。

かのん

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第三話 お魚食べたいな。

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 お魚食べたいな。

 けどなぁ。お魚ってさ、さばくのは大変だし、まな板に生臭い匂いが付くし、焼いたら焼いたで匂い付くしなぁ。けど、美味しいんだよなぁ。

 ひと手間はかかるけれど、それだけ美味しい。

 煮つけ、刺身、焼き魚。どれにしても美味しい。けど、魚だと骨がのどに引っ掛かるって嫌がる人が家にいるから調理もまた手間がかかって大変。

 さあどうしたものか。

 そんな事を考えながら、エコバックに財布に携帯を持ち重い腰を上げます。今日はお魚と決めたからには少し早めに買い物に出かけて、少し遠くのお魚屋さんへと行くことにしましょう。

 そう思って玄関を開くと、はい。

 かなり遠くに今日は行く日のようです。

 今日はうちの玄関が異世界に繋がっている日のようでした。しかも、目の前には大きな海が広がって見えます。

 これはあれですかね。

 お魚食べたいって思ったから、おう、じゃあ釣っちゃいなよっていう粋な計らいでしょうか。でも、釣竿なんてもの家にあったかなぁなんて思っていたら、近くにある大きな岩に釣竿が刺さっています。

 これはもはや釣って行けよって誰かに心を押されている気がします。

 でも、周りに人がいて誰かの物だといけないので一応声を上げます。

「この釣竿お借りしてもいいですか?あの、誰かいらっしゃいますか?」

 うん。誰もいません。

 辺りはしんとしていて、人っ子一人いませんから、お借りしても問題ないでしょう。もし、持ち主が現れたら丁寧に謝りましょう。

「よいっしょっと。」

 釣竿は岩に本当に刺さっているようで、最初手に掴んだ時には、岩から取れなかったけれど思いきり力を入れるとするりっと抜けた。

 しかも、ルアーが付いていて、餌もいらないよう。

 よし、取りあえずはやってみようと池に向かって釣竿を振り下ろしました。




 海沿いにある小さな村は今、海に現れた魔物によって海産物が取れなくなり、危機に陥っていた。

「村長、このままじゃぁ、村はダメだ。魔物を退治しねぇと。」

「けんどなぁ、退治するったって、どうやってだよぉ。」

「聖なる杖を抜くしかねぇ。」

「誰も抜けなかったよぉ。皆、村人は試した。」

「もう一度試してみようべ。」

「んだんだ。もう、聖なる杖を抜くしかねぇ。」

 村には、言い伝えがあった。

 村が危機に瀕した時、聖なる杖を抜き戦え。さすれば光がもたらされるだろう。

 村人たちはそれを信じ、聖なる杖に最後の希望を持つ。

「もしダメだった時は、もう、この村さ出ていくしかねぇ。」

 慣れ親しんできた村。そこを出ていくことを皆が嫌がり、ぎりぎりまで残ることを決意していた。だがそれも限界に近い。

「よし、村人全員で聖なる杖の所へと行こう。」

「あぁ。」

 村人たちは声を掛け合い、そして希望を胸に聖なる杖の元へと歩き始めた。

 海が見え始めた時、異変は起こった。

 地鳴りが起こり、そして海の方から魔物の雄叫びが聞こえてくる。

「わっぁぁぁぁ!」

「何だ何だ!?」

 皆は恐ろしさを感じながらも、海まで行くと、そこで信じられないものを目にする。

「うらぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 一人の乙女が聖なる杖を操り、海の魔物と対峙しているのである。

「大物だぁぁぁぁぁ!」

 村人たちは目を丸くした。

 聖なる杖は今まで誰にも抜くことのできなかった物。それを抜き、見事に操り、そして海の魔物と対峙している。

「聖女だ。」

「聖女様だ!」

 皆が狂喜乱舞し、聖女を応援する。

「聖女様ぁぁぁぁぁ!」

「頑張ってくださいだぁぁぁぁ!」


 いつの間にか私の周りには人が溢れかえり、応援をしてくれていてかなりびっくりはしましたが、確かに、これだけの大物です。そりゃあ、皆血がたぎる事でしょう。

 ですがちょっと盛り上がり具合が狂気に満ちていてちょっと引きました。

 けど、釣竿の方はしっかりと握りしめます。

 これだけの大物です。きっと美味しいに違いありません。

「うらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 最後の力を振り絞って、一気に引き上げました。

『ぎゃぁぁっぁっぁぁっぁっぁぁ!』

 雄叫びと共に、巨大な魚が宙を舞い、そして地面へとあがります。

 その瞬間、そこにいた人々の歓喜のしかたが半端ないほどのもので、ちょっと怖かったです。

「聖女様!ありがとうございます!これで村は救われます!!!」

 皆がきらきらとした目で私を見つめてきます。

「いえ、私は主婦です。」

「あぁ、主婦様!主婦様万歳!」

「主婦様万歳!」

 皆が声を上げ、魚を釣った事を喜んでくれますが、ちょっと喜び過ぎではないでしょうか。あぁ、皆も食べたいんですね。なら、一緒に食べましょう。でも、その、その代りと言っては何ですが料理を手伝っていただけるとありがたい。

 それを伝えると、村人たちは大喜びして私はもてなされ、そして机の上には大量の魚料理が並びます。

 煮つけ、刺身、焼き魚、カルパッチョ、ムニエル?ですかね。まぁ様々ですが、はい。とっても美味しそうな料理達です。ありがたい。

 お礼を言って、釣竿をまた岩に刺しなおしてから家へと帰りました。帰るときには皆がまたかなり狂喜乱舞した様子で最後まで見送ってくれて、ちょっとやっぱり引きました。

 机の上に魚料理を並べて言っていると、玄関の開く音がします。

「あ、魚の良い匂いだぁ。やった。今日朝から魚食べたかったんだよね。」

「ふふ。私もー。」

「気が合うねぇ。」

 今日もお仕事お疲れ様。

 一緒に巨大なお魚を食べましょう。
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