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二十七話 匂い袋は万能です

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 頬がちりりと痛み、ローワンはハッと目を開いた。

 気が付けば辺りはすでに暗闇に包まれており、どのくらいの時間自分が意識を失っていたのかが分からない。

「・・・いって・・」

 頬の痛みに眉を顰めていると、次第に暗闇に目が慣れ始める。今日が満月で良かったとその光を頼りにシバの容体を見ていくと、未だに苦しげにシバは呼吸を繰り返している。
 
 自分もシバも致命的な傷は追っていないはずなのにもかかわらず、一体何が起こったのだろうかとローワンは考えながらシバの体を見ていくと、腕に弓矢が掠った傷跡があった。そしてその部分が黒く色を変えていた。

「・・・原因はこれか・・けど、何故私は・・・シバよりも・・・回復が早い?」

 黒い部分を見て、恐らくはあの黒く染まった大地の土が弓矢に塗り込まれていたのではないかと考える。

 しかし一体誰が何のために自分達を攻撃したのか。

「いっ・・・」

 深く考えようとすると、頭が痛み、自分の体も全快したわけではないのだなとローワンは深くため息をつく。

「・・・ココレットは・・一人で大丈夫だろうか・・・」

 不意に残してきたココレットの事が気になり、ローワンは胸ポケットからココレットからもらった匂い袋を出すと、それを鼻に寄せ香りを嗅いだ。

「・・・ココレットの所に、早く戻らなければな・・・」

 心配をかけてしまってはいけない。婚約者としてココレットを不安にさせないようにしたい。そう思った時であった。

「・・・ん?」

 先程まで痛んでいた頭も、頬も、痛みが嘘のように消えている。

 そんなことがあるわけがないと、自分は感覚がマヒしたのではないかと心配になり頬に触れると、ローワンは目を見張った。

「ない・・・傷が・・消えている。」

 先程までは確かに会った傷が指で触れてみても、すでに繋がっており、痛みもない。手をぐーぱーと握っては開いてを繰り返しても、先ほどまで体の中にあった気だるさや、頭痛も消えているのだ。

 ローワンは突然の事に一体何が起こったのかと辺りを思わず見まわした。

 近くに聖女がいるわけもない。この洞穴に何かがあるのかとも考えたが、隣にいるシバには何の変化もないために、この場所が原因ではないだろうと思う。

 ならば、何が原因か。

 ローワンは視線を自分の手のひらの中にある匂い袋へと移した。

 甘い花の香りが、心を落ち着けてくれる。初めて婚約者からもらったプレゼント。

「・・まさか・・・・な・・」

 そんなわけがない。ただの匂い袋である。匂い袋に不思議な力があるわけでもあるまいしと頭を振り、そして動きを止めた。

 頭の中で、あの夜聞いた声と、ココレットの声が、似ていることに気付く。

「何を・・私は考えているんだ。そんなわけが・・・」

 確かめる方法が、今、自分の手の中にある。

 もしこの匂い袋に、不思議な力があるのであればシバで試せばいいのだ。シバの怪我が治れば、それはつまりこれを作ったココレット、もしくはこお匂い袋自体の薬草の成分によって不思議な現象が起こった事になる。

 ココレットが聖女である可能性が、高くなる。

 心臓が、どくどくと脈打ち、汗が流れ落ちる。

「もしココレットが・・聖女だったら・・・」

 頭の中で様々な考えが浮かんでは消えていく。

 聖女だった場合、結婚はどうなる?出来るのか?第二王子の婚約者が聖女というのは、立場的に難しいのではないか。ならば聖女の力が薄れるまで待つか。いや、もしかしたら歴代最強の聖女と同等の力を持っているかもしれない。そうなればいつ聖女の力が弱まるかは分からない。

 頭の中で考えがぐるぐると渦巻、ローワンは額を抑えた。そしてそこでふと、ローワンは自分の気持ちに気付く。

「私は・・・ココレットと・・結婚したいのか。」

 すとん、と、自分の感情の意味を知った。

 それと同時に、ローワンは一つの覚悟を決めるとシバの鼻元へと匂い袋を近づけたのであった。





  
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