【完結】ちびっ子元聖女は自分は成人していると声を大にして言いたい

かのん

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二十八話 バチバチ

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 結局、一夜洞窟の中で過ごし、明るくなってからココレットはダシャと共に騎士団の所へと戻ろうとした時であった。一瞬空気が変わったかと思うと、緑の温かな風が吹き、ココレットの体がふわりと浮いた。

「え?」

「っ!?」

 ダシャはココレットに慌てて手を伸ばすが、ココレットの体は風に包まれてダシャから少し離れると気が付けば、温かな体に抱きしめられていた。

「え?え?え!?」

 ココレットは自分が誰かに抱きしめられていると言う事態に挙動不審になる。

「誰!?何!?」

 ぎゅっと抱きしめられながら、ココレットがゆっくりと顔を上げると、そこには苦しそうな表情を浮かべるヴィシアンドルの姿があった。

 今にも泣きだしそうな顔が、幼い頃の表情と重なる。

「無事で・・・・良かった。」

 その言葉に、ココレットは目を丸くした。そして、一つの考えに行きつく。

「ヴィアン・・・あなた・・・知っていたの?」

 その呟きに、ヴィシアンドルは唇を噛むともう一度ココレットの体をぎゅっと抱きしめた。それにココレットが動揺した時であった。

「聖女様を放せっ!この、変態!」

 ダシャは近くに落ちていた木の棒を振り上げると、ココレットを抱きしめているヴィシアンドルに向かって振り下ろした。

 ヴィシアンドルはココレットを抱きしめたままそれを軽やかによけると、ダシャの脇腹に蹴りを入れ、距離を取ると言った。

「誰だ小僧。・・・はぁ・・また、たぶらかしたんですか。」

「え?・・ちょっとヴィアン。口が悪いし、たぶらかしたって何の事?」

 ココレットにじとっとした視線をヴィシアンドルは送ると、大きくため息をついて言った。

「貴方は、これまでの僕の苦労を・・・どうして簡単にどぶに捨てるんだ。」

「え?ちょっと待って、確認だけど、やっぱり、貴方、私の事気づいていたの!?」

「それだけ光を纏っているのに、気づかないわけがない。この僕が、わざわざ気づかないふりをしてまで守ろうとしてあげているのに、どうして・・どうして他国の人間を癒そうとする!?」

 その表情は悲しげに歪んでおり、ココレットは慌ててヴィシアンドルを抱きしめ返すと言った。

「あぁもうごめんなさい!気づかなかったのよ!貴方に守られているなんて。だって貴方が私の事に気付いているなんて思わなかったんだもの!」

 ぎゅっとされたことにヴィシアンドルは少し気をよくして、わざとらしくため息をついた。

「気づかなくて良かったんだ。貴方を守れれば良かった。けど、突然消えるなんて・・やめてくれ。心臓に悪い。・・・・・もう・・・・・・貴方を守れないのは・・・・・・嫌なんだ。」

 ぎゅっと抱きしめられている手が、震えている事にココレットは気づくと、それを止めようと必死で抱きしめ返す。

 その様子を呆然と、地面に転がされたダシャが見つめた時であった。横を何かが駆け抜けたかと思うと、剣を手にしたローワンがヴィシアンドルに切りかかった。

 ヴィシアンドルはそれを神力の壁にて意図も容易く防ぐと、優しげな微笑を浮かべて言った。

「あぁ、第二王子殿下、ご無事で何よりです。」

「なんだ。私の婚約者を攫おうとする不届き者かと思えば、何故このような場所に最高神官長殿がいらっしゃるのか?」

 二人の間にぴりりとした何かが走るのをココレットは呆然と見つめていたのだが、ふと、今の自分の状況に心臓がバクバクとし始める。

 -これじゃあ、浮気現場を目撃されたみたいじゃない。

 ココレットは慌ててヴィシアンドルから降りようとするのだが、ぎゅっと抱きしめられており、その手は緩まない。

「ヴィアン!降ろして!」

 その声に、ローワンの頬がぴくりと震え、笑顔を浮かべたままココレットに言った。

「いつの間に、そんなに仲良くなったの?」

「へっ!?えっと、えーっと・・・・」

 すると、ヴィシアンドルはココレットの頭に自分の顎を乗せると、にっこりと笑って言った。

「実の所、以前から仲良しでして。」

「ちょっとヴィアン!わけわからない事言わないで!?ろ、ローワン様、こ、これは」

「ほう。以前から・・・でも、今は私の婚約者なので、不用意に触れないでいただきたい。」

「あぁ、そうですね。今は、婚約者でしたね。」

「ちょっと、不吉な事を言わないでちょうだい!私は絶対に婚約破棄何てされないわ!」

 場違いな事を言っているココレットの様子に、ヴィシアンドルとローワンは大きくため息をつくと、ローワンは剣を鞘へと戻すとココレットへと手を伸ばした。

「とにかく、今は、返してもらおうか?」

「はい。今は、返しておきましょう。」

 そんな男同士のにらみ合いを、地面にしりもちをついた状態で見つめていたダシャは、小さな声で、呟いた。

「・・・ロリコン・・・?」

『違う。』

 二人の怒気をはらんだ声が響き、ダシャは小さな悲鳴を上げた。


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