2 / 16
第二話
しおりを挟む
混沌の闇は蘇る。
それはそうだ。
人の心は光を求め、そして陰りが出る。
物を望めば、悪意も生まれる。
必然的に、闇とは生まれ出物なのだ。
勇者と混沌の闇との死闘から一年の月日がたった。
世界は光で照らされ、そして今、闇が蘇る。
「く、く、く、、、勇者よ、蘇ったぞ。」
暗闇の中から黒い影がもこりと起き上がり、その血に飢えた瞳がぎらりと輝き揺れる。
体は人の子くらいの大きさしかないが、その体には闇が染みつき、力は少なからず取り戻していた。
その時、外から何かの泣き声が耳に響き、混沌の闇はその体にまとわりつく闇を揺らしながら森の中を進んで行った。
闇が進めば地面は黒く焼け、その地を焦がしていった。
草をかき分けてその鳴き声の主を見つけた時、混沌の闇は口を三日月に歪め笑い声を漏らす。
「くくく、、、人とは本当に恐ろしい生き物よ。」
草の中に横たわっていたのは、ぼろ雑巾のような布に包まれた骨と皮ばかりの赤子であった。
生まれてから幾日がたったのか。その肌はまだ赤黒く、瞳はまだ何の景色も映し出しはしない。
おそらくは親に捨てられたのであろう。
人とはなんと悍ましい生き物か。
「残念だったな。人として生まれたことを悔いて逝くがよい。」
耳をつんざくような泣き声は響き渡るが、それを聞くのは混沌の闇、ただ一つ。
「どれどれ、久しぶりの外だ。最初の死を見届けてやろう。」
混沌の闇は気まぐれに近くに岩に腰を下ろすと、泣きわめく赤子をじっと見つめた。
四肢は折れそうなほど細く、まるで猿のようである。
小さな体から、大きな声で泣きわめくさまは【生きたい】と叫び声をあげているかのようであった。
混沌の闇はにやりと笑みを浮かべると、指をぱちんと鳴らした。
「そうだ。この赤子を使って一興と行こう。」
混沌の闇は、赤子の周りに黒い闇を漂わせ、魔法陣を描く。
「そら、そら、泣きわめけ。泣きわめけ。」
ぎゃあぎゃあと泣き続ける子を見つめながら、混沌の闇が何かを呟いた瞬間、魔法陣は赤黒く輝き、赤と黒の柱を空へと伸ばす。
それは厄災。
人が見れば恐怖を抱き、厄災の原因を調べに来るはずである。
混沌の闇は、この厄災の中心にいる赤子を人がどうするのか楽しみで仕方がなかった。
勇者の言う愛と言うものが世界にあるならば、世界はこの赤子に祝福をもたらすであろう。
その瞬間を自分が断ち切ってやろう。
そう思った。
数刻が立った時、馬の走る音が響き渡る。
愛とやらが来たのだ。
陰に隠れて見つめていると、武装した騎士らしき男達が魔法陣を取り囲む。そして、赤子を見た瞬間にその表情を歪めて声を上げた。
「悪魔の子だ。」
「見ろ。この髪の色を。」
「恐ろしい、白髪ではないか。呪いの子か。」
「肌も見ろ。悪魔のように浅黒い肌だ。」
「なんと醜い。」
「先ほどの厄災の証は、この赤子を殺せという天命だろう。」
その声を聴いた瞬間、混沌の闇は頭をポリポリと掻いた。
自分が思い描いていた現実と違う事が目の前で起こっている。
勇者は言った。
この世界には愛があると。
だが、目の前の騎士らは同じ人間であり、慈しむべき赤子を殺そうと剣を振りかざそうとしている。
赤子は必死に泣きわめき、騎士らに手を伸ばしてはばたつかせている。
生きたい。
生きたい。
そうまるで言っているようであった。
けれどそんな事に気づかないように恐ろしい瞳で騎士らは赤子を見つめる。
すでに厄災の魔法陣は消えうせており、そこにいるのはただの人の子だ。
助けを求める、ただの人の子だ。
「人間は醜い生き物だ。」
混沌の闇はそう呟くと、がさりと森の木の陰から男達に姿を見せた。
男達は息を飲み、そして驚くと同時に悲鳴を上げて逃げ出した。
「闇だ!闇が蘇った!」
「逃げろ!」
大の男が我の姿を見ただけで逃げ出すか。しかも仲間がよろけても助けようともせず、我先にと逃げていく。
残ったのは、泣きわめく赤子と混沌の闇のみ。
混沌の闇は赤子の顔を覗き込むと、泣きわめくその赤子の首へと手を伸ばした。
「醜い生き物に成り果てる前に、我が呑み込んでやろう。」
「あ・・・あぅ・・・あぅ。」
その瞬間、赤子の小さな紅葉のような手が混沌の闇に触れ、先ほどまで泣きわめいていたのがウソのようにぴたりと止まると、まるで安心したかのように声を出す。
「あぅ・・あぅ・・・。」
混沌の闇の手を乳と間違え、ちゅっちゅと口を向けてくる。
その温かなぬくもりに、混沌の闇は手を止めた。
「あぅ・・・あぅ・・・・」
必死に必死に吸ってくるその口に、混沌の闇は目を奪われた。
手足をばたつかせて、そして自分を求めてくる。
「お前は捨てられたのだぞ?」
「あぅ・・あぅ。」
「人に。拒絶されたのだ。」
「あぅ・・あぅ・・。」
「それでも、生きたいと願うか。」
この時点では気まぐれである。
長く生き、そして人の愛を説かれて殺された混沌の闇はその温もりに手を伸ばした。
「くくく。生きたいと願うながらば、せいぜい頑張るがいい。」
抱き上げた体は、両の手ほどの大きさしかなく、体はぐにゃぐにゃとして頼りなく、生きているのが不思議なほどであった。
「何、時間はある。」
この日初めて混沌の闇は、人の赤子のぬくもりに触れた。
それはそうだ。
人の心は光を求め、そして陰りが出る。
物を望めば、悪意も生まれる。
必然的に、闇とは生まれ出物なのだ。
勇者と混沌の闇との死闘から一年の月日がたった。
世界は光で照らされ、そして今、闇が蘇る。
「く、く、く、、、勇者よ、蘇ったぞ。」
暗闇の中から黒い影がもこりと起き上がり、その血に飢えた瞳がぎらりと輝き揺れる。
体は人の子くらいの大きさしかないが、その体には闇が染みつき、力は少なからず取り戻していた。
その時、外から何かの泣き声が耳に響き、混沌の闇はその体にまとわりつく闇を揺らしながら森の中を進んで行った。
闇が進めば地面は黒く焼け、その地を焦がしていった。
草をかき分けてその鳴き声の主を見つけた時、混沌の闇は口を三日月に歪め笑い声を漏らす。
「くくく、、、人とは本当に恐ろしい生き物よ。」
草の中に横たわっていたのは、ぼろ雑巾のような布に包まれた骨と皮ばかりの赤子であった。
生まれてから幾日がたったのか。その肌はまだ赤黒く、瞳はまだ何の景色も映し出しはしない。
おそらくは親に捨てられたのであろう。
人とはなんと悍ましい生き物か。
「残念だったな。人として生まれたことを悔いて逝くがよい。」
耳をつんざくような泣き声は響き渡るが、それを聞くのは混沌の闇、ただ一つ。
「どれどれ、久しぶりの外だ。最初の死を見届けてやろう。」
混沌の闇は気まぐれに近くに岩に腰を下ろすと、泣きわめく赤子をじっと見つめた。
四肢は折れそうなほど細く、まるで猿のようである。
小さな体から、大きな声で泣きわめくさまは【生きたい】と叫び声をあげているかのようであった。
混沌の闇はにやりと笑みを浮かべると、指をぱちんと鳴らした。
「そうだ。この赤子を使って一興と行こう。」
混沌の闇は、赤子の周りに黒い闇を漂わせ、魔法陣を描く。
「そら、そら、泣きわめけ。泣きわめけ。」
ぎゃあぎゃあと泣き続ける子を見つめながら、混沌の闇が何かを呟いた瞬間、魔法陣は赤黒く輝き、赤と黒の柱を空へと伸ばす。
それは厄災。
人が見れば恐怖を抱き、厄災の原因を調べに来るはずである。
混沌の闇は、この厄災の中心にいる赤子を人がどうするのか楽しみで仕方がなかった。
勇者の言う愛と言うものが世界にあるならば、世界はこの赤子に祝福をもたらすであろう。
その瞬間を自分が断ち切ってやろう。
そう思った。
数刻が立った時、馬の走る音が響き渡る。
愛とやらが来たのだ。
陰に隠れて見つめていると、武装した騎士らしき男達が魔法陣を取り囲む。そして、赤子を見た瞬間にその表情を歪めて声を上げた。
「悪魔の子だ。」
「見ろ。この髪の色を。」
「恐ろしい、白髪ではないか。呪いの子か。」
「肌も見ろ。悪魔のように浅黒い肌だ。」
「なんと醜い。」
「先ほどの厄災の証は、この赤子を殺せという天命だろう。」
その声を聴いた瞬間、混沌の闇は頭をポリポリと掻いた。
自分が思い描いていた現実と違う事が目の前で起こっている。
勇者は言った。
この世界には愛があると。
だが、目の前の騎士らは同じ人間であり、慈しむべき赤子を殺そうと剣を振りかざそうとしている。
赤子は必死に泣きわめき、騎士らに手を伸ばしてはばたつかせている。
生きたい。
生きたい。
そうまるで言っているようであった。
けれどそんな事に気づかないように恐ろしい瞳で騎士らは赤子を見つめる。
すでに厄災の魔法陣は消えうせており、そこにいるのはただの人の子だ。
助けを求める、ただの人の子だ。
「人間は醜い生き物だ。」
混沌の闇はそう呟くと、がさりと森の木の陰から男達に姿を見せた。
男達は息を飲み、そして驚くと同時に悲鳴を上げて逃げ出した。
「闇だ!闇が蘇った!」
「逃げろ!」
大の男が我の姿を見ただけで逃げ出すか。しかも仲間がよろけても助けようともせず、我先にと逃げていく。
残ったのは、泣きわめく赤子と混沌の闇のみ。
混沌の闇は赤子の顔を覗き込むと、泣きわめくその赤子の首へと手を伸ばした。
「醜い生き物に成り果てる前に、我が呑み込んでやろう。」
「あ・・・あぅ・・・あぅ。」
その瞬間、赤子の小さな紅葉のような手が混沌の闇に触れ、先ほどまで泣きわめいていたのがウソのようにぴたりと止まると、まるで安心したかのように声を出す。
「あぅ・・あぅ・・・。」
混沌の闇の手を乳と間違え、ちゅっちゅと口を向けてくる。
その温かなぬくもりに、混沌の闇は手を止めた。
「あぅ・・・あぅ・・・・」
必死に必死に吸ってくるその口に、混沌の闇は目を奪われた。
手足をばたつかせて、そして自分を求めてくる。
「お前は捨てられたのだぞ?」
「あぅ・・あぅ。」
「人に。拒絶されたのだ。」
「あぅ・・あぅ・・。」
「それでも、生きたいと願うか。」
この時点では気まぐれである。
長く生き、そして人の愛を説かれて殺された混沌の闇はその温もりに手を伸ばした。
「くくく。生きたいと願うながらば、せいぜい頑張るがいい。」
抱き上げた体は、両の手ほどの大きさしかなく、体はぐにゃぐにゃとして頼りなく、生きているのが不思議なほどであった。
「何、時間はある。」
この日初めて混沌の闇は、人の赤子のぬくもりに触れた。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!
寿明結未(旧・うどん五段)
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。
皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。
この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。
召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。
確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!?
「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」
気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。
★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします!
★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる