【完結】人嫌いの竜（少女）は、人を愛することが出来るのか！？

第三話 自由

　キャロルは大空を飛んでいた。

　体の中から不思議な力が沸き起こり、自分に空へと飛び立つ力をくれた。

　飛び立つ時、マタイの姿が見えたが、キャロルはもうそんな事はどうでも良かった。

　自由だ。

　目の前に自由がある。

　そう思っただけで胸が高鳴り、空へ飛んだ瞬間に高揚感が全身を満たした。

　一瞬。

　マタイの近くにいた男の姿が目に入った。

　眼帯を付けた金色の髪を持つ男はとても美しかった。

　だが、そう考えたのはほんの一瞬。

　後は、空を自由に飛ぶ事だけが胸の内を占める。

　頬にあたる風が冷たく、それでいて心地よい。

　翼を大きく羽ばたかせると、まるで世界が色を変えたかのように見えた。

　私は自由だ！

　もう、自由なのだ！

　どこへでも行ける！

　どこまででも行ける！

　その思いが胸を占め、ひたすらに飛び続けた。

　そして何かに導かれるように、高い高い山の山脈に降り立つと、緑の木々の中に大きな洞窟のある場所へとたどり着いた。

　横にはきれいな泉があり、そこへとキャロルは飛び込んだ。

　冷たい水が全身を包み込み、キャロルはその気持ちのよさに水の中をぐんぐんと泳いでいく。

　虹色にきらめく魚や、太陽の光を反射する水中花が美しく咲いていた。

「気持ちいい！」

　キャロルは水の中を泳ぎながら、自分の体が元の人の姿に戻っていることに気が付いた。

　けれど、心で念じればすぐに竜の姿へと変えれる。

　ここはかなり山奥であり、高い位置にある場所だ。きっと人は滅多には訪れないだろう。

「もう、囚われるのは嫌。ここなら、きっと捕まらないわ。」

　キャロルはこの洞窟をねぐらにすることを決めると竜の姿へと変わり水から上がると全身を震わせて水をはじいた。

　そして、洞窟の中にどっしりと体を丸まるようにしてうずくまると大きく息を吐いた。

　自由だ。

　私は自由になったのだ。

　そう思うだけで、心の中が満たされていくのが分かった。

「自由だわ。」

　そう呟くと、心の中が満たされた。

　白髪に赤目で生まれた私は両親から先祖返りだろうと言われていた。はるか昔、竜と契りを交わしたことがあるらしく、たまに先祖返りの子が生まれていたという。

　はるか昔の事だから竜にまで変身できるとは思っていなかった。

　だが、何かがはじけた感覚があったと思ったら、体の中から力が湧きあがってきたのだ。

「自由だ。」

　風が気持ちよく、そして地面の感触も心地よい。

　一瞬、北の塔での生活を思い出しぶるっと体を震わせるとキャロルは洞窟の中の心地の良さに大きな欠伸をした。

　こんなにも穏やかな気持ちになったのは十年ぶりである。

「ここなら、誰にもきっと捕まらないわ。」

　そう思うだけで、心の中が満たされる。

　人は怖い。

　だから、ここで一人の時間を満喫しよう。

　キャロルは大きな欠伸をもう一度すると瞼を閉じて久しぶりの心地の良い眠りについた。