【完結】人嫌いの竜(少女)は、人を愛することが出来るのか!?

かのん

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第十一話 人攫い

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 その日は朝から町が賑わっているのが山の上からでも分かった。

 今日はシーの待ち合わせの日である。

 キャロルは朝起きると、水浴びを済ませシンがやってくるのを待った。

「おはよう。愛しい人よ。」

 私は今は竜なんだがなというつっこみを心の中でしつつ、キャロルはシンにあいさつするように頭を下げた。

 シンは微笑み、そして言った。

「今日は町へ祭りに行くんだ。何か土産を買ってこよう。何がいい?」

 その言葉に、キャロルはドキッとした。

 シンも町へと行くのだ。

 もし、鉢合わせしたらどうしようか。

 そんな事が頭をよぎるが人になった姿で会った所でシンが自分に気づくはずがないと頭を振る。

 そこで、少しがっかりとした気になった自分が不思議だったが、キャロルは深くは考えずにシンに伝われと思って鳴いた。

「ギャウ。(楽しんで)」

 そう心を込めて鳴いたつもりだったが、シンはニコリと笑って言った。

「分かった。たくさんお土産を買ってくる。」

 全然伝わっていないとがっくりしながらシンが去るのを待って、キャロルは竜の姿で山を下りると、人の姿に戻り、使われていない小屋で着替えを済ませた。

 身だしなみを整え久しぶりの人の姿を楽もうとガサリと草むらから出ようとした時であった。

 目の前に、見た事のある男、シンが立っていた。

 シンもキャロルの方を見て目を丸くしており、二人がしばらくの間そのまま固まっていると、シンの横からラハトが声をかけた。

「シン様。今は、初対面ですよ。」

「あ、、、分かっている。」

 何のことだろうかとキャロルは一歩後ずさると、ぺこりと小さく頭を下げてその横を通り抜けようとした。

 だが、シンに腕を掴まれキャロルが目を丸くすると、慌ててシンが腕を離して言った。

「すまない。」

「え?あの、いえ。では。」

 シンは何故自分がキャロルの腕を掴んだのか首を傾げると自分の手をしげしげと見つめた。

「シン様。急がなければ、あの娘との待ち合わせに間に合いませんよ。」

 シンははっとすると慌てて着替え、そして眼帯を外すとキャロルを追いかけた。

 キャロルはシーと別れた待ち合わせ場所で待っており、シーはキャロルに声を掛けようとした。

 だが、シーが声をかけるよりも前にキャロルの周りを体格の良い男達が取り囲む。

「キャロル!」

 慌てて走ったが、男達はキャロルの腕を掴むと路地裏へと引きずり込まれてしまい、どんどんと奥まった所へと進んでいく。

 キャロルはと言うと、突然男達に掴まれて驚いたものの、どこかで隙を見て竜に変身して逃げればいいと安易に考えていた。

 やはり人間とは醜いものだなんてことを考えていると、必死に自分の名を呼びながら走ってくるシーの姿が見えてキャロルは慌てた。

「シー!逃げて!」

 もしこの人攫いにシーまで攫われて酷い目にあったらと思うとぞっとした。

「キャロルを離せ!」

 身軽なシーは追いつくと男達に向かって勇ましくそう叫んだが、男達はシーを見て下世話な笑みを浮かべた。

「はは。この娘はな、あるお方がお求めになっているのさ。何だ?お前も一緒につれていってほしいのか?」

 その言葉にシーは眉間にしわを寄せると、腰に携えていた短剣を引き抜いた。

「キャロルを離せ。でなければ、命をもって償う事になるぞ。」

「勇ましい嬢ちゃんだなぁ。」

「どうする?こいつも連れていくか?」

「あぁ。そうだな。」

 シーが剣を構えて男達に挑もうとした時であった。

 黒服に身を包んだ男がキャロルののど元にナイフを当てた。

「騒ぐな。この娘、死んでもいいのか?」

 ガサツな大男達と違い、黒服に身を包んだ男は静かな口調でシーにそう言った。

 その瞬間、先ほどまで勇ましかったシーが顔を青ざめさせると慌てた声で言った。

「やめろ。傷つけるな。ほら、剣は下すから。」

 シーは何故自分がこんなにもうろたえているのかが自身でも分からなかった。だが、キャロルの首元にナイフがあてられた瞬間から、自分の心臓がわしづかみにされているような心地がして、どうしようもない不安に駆られた。

 男達はシーも捕まえると、縄で縛り、キャロルと共に運んでいく。

「すまないキャロル。必ず助けるから。」

 シーのその真っ直ぐな瞳に、キャロルは心臓がどきりと跳ねた。

 自身の実を危険にさらしてまで、自分を助けようとしてくれるシーに驚いてしまう。

「シー。ごめんなさい。貴方だけでも、逃げてほしいの。」

 そう言うと、シーはくすりと笑った。

「必ず助けるから。」

 何故かその笑みがシンと重なり、キャロルはまたどきりとした。











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