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五話 デート?
しおりを挟むエラはトーランドとの食事の日、さほど着飾らずに行く予定であった。しかし、ふたを開けてみれば両親が気合を入れてデートの服から装飾品まで準備をしており、何故かトーランドに渡す菓子折りなども手に持たされた。
ジャンは、エラと出かけることを嫌がり一緒に食事に行ったのも数回のみ。
しかも会えば見た目からまず可愛くないと言われ、洋服なども、もっとましなものはなかったのかなどよく言われた。
「ねぇ、私、おかしくはないかしら?」
馬車の中で侍女にそう尋ねると、侍女は首を横に振って笑顔で答えた。
「とてもお似合いです。お嬢様は可愛らしいです!」
「……はぁ。トーランド様に呆れられないといいけれど……」
婚約破棄された女がこんなに着飾って現れたら、変に誤解をされるのではないかとエラは気が気ではない。
ーきっと励ますつもりで誘ってくださったのに、勘違い女と思われたくはないわ。
待ち合わせ場所の店へと着き、エラが馬車から降りるとそこにはルイスが先につき待っていてくれた。
ルイスは屋敷まで迎えに来てくれると言ったのだが、エラがそれは悪いと食事をする店の前で待ち合わせすることになったのだ。
先日の騎士団の服もに合っていたが、今日のきっちりとした服装もよく似合っている。
「コーラル嬢。今日は来てくれてありがとう」
手を差し出され、エラはどきりと胸が高鳴った。まるで王子様のようだな、なんてことを頭の中で考えて、恥ずかしさから顔が赤らんでしまう。
「いえ、誘っていただきありがとうございます。トーランド様」
エスコートされてエラは店の中へと足を踏み入れる。中はとても広々としているが、その中でも個別の一室へと案内された。
そこは、庭がよく見える席であり、庭には小川が流れ、美しい花々で彩られている。
「……きれいですね」
「あぁ。気に入っている店なんだ」
席に着くと、ルイスは苦笑を浮かべると言った。
「よければルイスと呼んでくれないか? トーランド様というのがなんともくすぐったくて」
騎士団で自分のことをトーランドというものは少なく、だからこそルイスはそういったのだが、エラはその言葉に驚いたように目を丸くした後に、うなずいた。
「では、私のこともエラとお呼びくださいませ」
「ありがとう。エラ嬢」
「いえ……ルイス様」
しばらく二人は見つめあい、そしてぱっとお互いに視線をずらすと少し顔を赤らめた。
その後、元々ルイスが頼んでいたシェフおすすめのコース料理が運ばれ始め、二人は食事をしながら他愛のない会話から、自身たちの家族の話や、好きなものの話などで盛り上がった。
食事が終わるとエラは持ってきていた菓子をルイスへと手渡した。
「これは?」
「あの、両親が、その……ごちそうになるならお礼をと……」
そう伝えると、ルイスは頭をぽりぽりと掻いたのちに、大きく息を吐き、そして覚悟を決めたように口を開いた。
「エラ嬢」
「は、はい」
ルイスは耳まで真っ赤にしながらエラの瞳を真っすぐに見つめて言った。
「俺は、君はとても可愛らしい女性だと思う」
「え?」
突然の言葉にエラが驚くと、ルイスは言葉を続けた。
「舞踏会の時から、思っていた。君は可愛らしいし、それに、あの今日は着飾ってきてくれて、また舞踏会とは違った君が見れて、それで、そんな姿も俺は可愛いと思った」
「え? え?」
戸惑うエラだったが、ルイスが自分を励ましてくれているのだと思い顔を赤らめながら言った。
「ありがとうございます。あの、でも心配なさらないでください。私は大丈夫ですから」
「あ、いや、俺は心配していったわけではなくて、そう思うから言ったのだ」
「あ、ありがとうございます。でも……」
エラは顔を赤らめながらルイスを見上げ、そして呟くように言った。
「そのように優しくされますと、あの、勘違いしてしまいそうなので……あ、大丈夫です。私はわかっていますから」
「? 勘違い?……あー……あぁ」
「あ、大丈夫ですよ? 本当に。わかっております。ルイス様が私を励ますためにこうして」
「いや、勘違いしてくれていい」
「え?」
ルイスはエラの手をやさしく握り、言った。
「この年で申し訳ないんだが、こんなにも女性を可愛いと思ったのは初めてなんだ。だから、よければ、また誘ってもいいだろうか?」
エラはボッと顔を赤らめながらもコクコクとうなずき、そしてその日は分かれた。
馬車の中でエラは両手で顔をおって悶絶した。
その様子を見て、侍女は楽し気に微笑みよかったですねと何度も嬉しそうにエラに声をかけた。
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