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八話
しおりを挟むフィオーナは、アルベルトと共に仕事をしていたのだが、途中で執事がお茶を用意したことでその手を止めた。
「お茶にしよう。」
「そう、ですね。」
ちょうどきりもよいところであり、アルベルトに同意すると、フィオーナは椅子に腰を下ろした。
アルベルトは少し躊躇った後に小さく息を吐くとフィオーナの隣へと腰かけた。
「え?」
思わずフィオーナは驚き、アルベルトに視線を向けると、アルベルトは困ったように眉間にシワを寄せた。
「嫌か?」
「えっと、そう言うわけではありませんが・・その、少し近すぎるかと。」
「そう、か?」
「はい。結婚前の淑女としてはやはり殿方との距離はしっかりとらねばなりません。」
その言葉にアルベルトは、眉間のシワをさらに深くした。
(獣の姿の時にはあれほど近くに来るくせに、この姿では許さないと?)
アルベルトの中で、フィオーナへの獣好き疑惑が高まっていく。
「その、君は獣が・・好きなのか?」
「え?いえ、別に。」
あっさりと否定されたアルベルトは困惑し髪を撫で上げた。
否定されたけれど、ならば何故こうも獣姿の時と対応が違うのかという疑問がアルベルトの中で起こる。
ため息をつくとアルベルトは席を立った。
「少し頭を冷やしてくる。」
部屋から出ていったアルベルトの背を見送ったフィオーナは、大きく息を吐くと両手で顔を覆った。
耳まで赤くなっているのが自分でもわかる。
(ダメよ!フィオーナ!私は魔王様の妻になるのだから、いくら魔王様と声かにていても、いくら魔王様と雰囲気がそっくりでも、流されてはダメ!)
はっきり言ってしまえば、フィオーナは毎日仕事を共にするうちに、次第にアルベルトに惹かれている自分に気がつき始めていた。
けれども自分は魔王の妻になるべくしてここへ来たのだ。
そう、何度もじぶんに言い聞かせるのだが、どうしても魔王と同じように惹かれてしまうのだ。
魔王のあの艶々とした毛並みに惹かれるように、アルベルトの美しい黒髪を撫でたくなる時もある。
自分はこんなに淫乱な女だったのだろうかとフィオーナは両手で顔を覆いながら呻き声を上げた。
「はぁ・・魔王様に会いたい。」
会えばきっとこの心の中の熱が嘘だと思えるはずだ。
アルベルトと魔王の二人の男性に心惹かれるなど、フィオーナは大きくため息をまたもらす。
その頃アルベルトはカラシュを捕まえると、大きくため息をつきながら言った。
「人間の女とは、こうも難しいのか。」
そんな弱気な魔王を見たことのなかったカラシュは、結婚式を出来るだけ早めるようにしましょうという提案しか出来ないのであった。
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