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第十話
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オーレリア皇女殿下の侍女ミリーは、月に一度、死にたくなる日があった。
あぁ、今日は中庭でのお茶会の日。
ミリーは身支度を整えながら大きくため息を付く。
使用人たちの手洗い場は朝はとても混雑しているが、そんな中でミリーはまたため息をついた。
その理由を他のメイドらも知っている。
今日は庭でのお茶会の日。お茶会の会場となる中庭は、帝王様の執務室から見えるのである。だからこそ、死にたくなる。
侍女らは侍女長の前に集まり、今日の予定を確認した後に、帝王様からの絶対の命令に従わなければならない。
皆の顔が青ざめる。
ある日は、虫。
ある日は、毒。
命令は絶対。
命令に背けば、鞭で打たれ、その後に仕事を失う。
仕事を失えば、次の職にはまずつけないだろう。街へ降りれば貧困はそこかしこであり、家族事そこへ落ちるのは目に見える。
だが、侍女らが命令に従うのはそれらが理由ではない。
侍女らは、硬い決意で結ばれていた。
たとえ、オーレリア皇女殿下に嫌われても、信用されなくても自分達は側にいよう。
皇女殿下に出来るだけ気付かれるように、虫を入れ、毒を入れる。
そうすれば、賢い皇女殿下はにこやかに悲鳴を演じ、苦しむふりをする。
皇女殿下が虫が平気な事は侍女らは知っていたし、毒は小さな頃より慣らされているので殆ど効かない事も知っている。
これは茶番劇。
帝王様の心を満たすだけの。
侍女らはそれを知っている。そして、オーレリア皇女殿下はそれらに苦しみながらも、民のために行動をして下さる方。
帝王様はオーレリア皇女殿下を魔女だと呼ぶ。
だが、侍女らは、街の民らは聖女と呼ぶ。
どんなに辛いことがあっても、どんなに苦しい事があっても、次の日には前を向き、皆を太陽の光のように照らしてくれる。
ミリーは思う。
オーレリア皇女殿下は素晴らしいお方。きっといずれこの国を導いてくださる。
だから、嫌でも今は帝王様の命令に從う。
いずれ自分にも罰が下るだろう。
この手はオーレリア皇女殿下を傷つけ過ぎた。
自分は将来的にはオーレリア皇女殿下の側にはいられないだろう。
だから願ってしまう。
どうか、どうか。
オーレリア皇女殿下が幸せに笑っていられるような方が現れますように。
幸せな愛情のある方と結ばれますように。
ミリーは、帝王に打たれベッドの中で涙を流すオーレリア皇女の部屋の、侍女の控室で共に涙を流した。
力のない私達侍女ですが、貴方様を必ずや影から支えてみせます。
ミリーや皇女付きだった他の侍女らはリリアーナ付きの侍女になり、アルバスの密偵となって帝国で暗躍していく。
オーレリアはレスターと共に何の花を植えるか図鑑を見ながら考えていた。
「にこにこと笑って、その花が好きなのですか?」
レスターの言葉に、オーレリアは微笑みを浮かべた。
「この花、それにこれも、あ、これも。侍女のミリーが落ち込む私に花をいつも持ってきてくれたの。」
その花たちを見て、レスターは微笑みを浮かべると言った。
「良い侍女をおもちですね。」
「え?」
「花言葉をご存知で?」
オーレリアは首を傾げた。
「貴方の侍女は、きっと貴方を深く思っていたのでしょう。どの花も貴方への思いが込められている。希望。信頼。尊敬。幸福。貴方は思われてていたのだな。」
花の絵を指でなぞりながら、オーレリアは花言葉を口にして、そして黙った。
レスターはハンカチを取り出すとそっとオーレリアに手渡し黙ってただ横にいた。
オーレリアはその優しさが嬉しくて、瞳からこぼれ落ちる涙をハンカチで抑えながら侍女を想った。
『オーレリア皇女殿下。お帰り、お待ちしております。』
侍女達の言葉をオーレリアは信じてなどいなかった。
信頼して裏切られるのが嫌だったから。
けれど、それは間違いだったのだと気付く。
オーレリアは顔を上げるとレスターにお礼を伝えた。
「ありがとうございます。レスター様のおかげで、私は改めて心が決まりました。」
私を信じてくれる人がいる。
ならば、その信頼を裏切らないように自分は真っ直ぐに立たねばならない。
あぁ、今日は中庭でのお茶会の日。
ミリーは身支度を整えながら大きくため息を付く。
使用人たちの手洗い場は朝はとても混雑しているが、そんな中でミリーはまたため息をついた。
その理由を他のメイドらも知っている。
今日は庭でのお茶会の日。お茶会の会場となる中庭は、帝王様の執務室から見えるのである。だからこそ、死にたくなる。
侍女らは侍女長の前に集まり、今日の予定を確認した後に、帝王様からの絶対の命令に従わなければならない。
皆の顔が青ざめる。
ある日は、虫。
ある日は、毒。
命令は絶対。
命令に背けば、鞭で打たれ、その後に仕事を失う。
仕事を失えば、次の職にはまずつけないだろう。街へ降りれば貧困はそこかしこであり、家族事そこへ落ちるのは目に見える。
だが、侍女らが命令に従うのはそれらが理由ではない。
侍女らは、硬い決意で結ばれていた。
たとえ、オーレリア皇女殿下に嫌われても、信用されなくても自分達は側にいよう。
皇女殿下に出来るだけ気付かれるように、虫を入れ、毒を入れる。
そうすれば、賢い皇女殿下はにこやかに悲鳴を演じ、苦しむふりをする。
皇女殿下が虫が平気な事は侍女らは知っていたし、毒は小さな頃より慣らされているので殆ど効かない事も知っている。
これは茶番劇。
帝王様の心を満たすだけの。
侍女らはそれを知っている。そして、オーレリア皇女殿下はそれらに苦しみながらも、民のために行動をして下さる方。
帝王様はオーレリア皇女殿下を魔女だと呼ぶ。
だが、侍女らは、街の民らは聖女と呼ぶ。
どんなに辛いことがあっても、どんなに苦しい事があっても、次の日には前を向き、皆を太陽の光のように照らしてくれる。
ミリーは思う。
オーレリア皇女殿下は素晴らしいお方。きっといずれこの国を導いてくださる。
だから、嫌でも今は帝王様の命令に從う。
いずれ自分にも罰が下るだろう。
この手はオーレリア皇女殿下を傷つけ過ぎた。
自分は将来的にはオーレリア皇女殿下の側にはいられないだろう。
だから願ってしまう。
どうか、どうか。
オーレリア皇女殿下が幸せに笑っていられるような方が現れますように。
幸せな愛情のある方と結ばれますように。
ミリーは、帝王に打たれベッドの中で涙を流すオーレリア皇女の部屋の、侍女の控室で共に涙を流した。
力のない私達侍女ですが、貴方様を必ずや影から支えてみせます。
ミリーや皇女付きだった他の侍女らはリリアーナ付きの侍女になり、アルバスの密偵となって帝国で暗躍していく。
オーレリアはレスターと共に何の花を植えるか図鑑を見ながら考えていた。
「にこにこと笑って、その花が好きなのですか?」
レスターの言葉に、オーレリアは微笑みを浮かべた。
「この花、それにこれも、あ、これも。侍女のミリーが落ち込む私に花をいつも持ってきてくれたの。」
その花たちを見て、レスターは微笑みを浮かべると言った。
「良い侍女をおもちですね。」
「え?」
「花言葉をご存知で?」
オーレリアは首を傾げた。
「貴方の侍女は、きっと貴方を深く思っていたのでしょう。どの花も貴方への思いが込められている。希望。信頼。尊敬。幸福。貴方は思われてていたのだな。」
花の絵を指でなぞりながら、オーレリアは花言葉を口にして、そして黙った。
レスターはハンカチを取り出すとそっとオーレリアに手渡し黙ってただ横にいた。
オーレリアはその優しさが嬉しくて、瞳からこぼれ落ちる涙をハンカチで抑えながら侍女を想った。
『オーレリア皇女殿下。お帰り、お待ちしております。』
侍女達の言葉をオーレリアは信じてなどいなかった。
信頼して裏切られるのが嫌だったから。
けれど、それは間違いだったのだと気付く。
オーレリアは顔を上げるとレスターにお礼を伝えた。
「ありがとうございます。レスター様のおかげで、私は改めて心が決まりました。」
私を信じてくれる人がいる。
ならば、その信頼を裏切らないように自分は真っ直ぐに立たねばならない。
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