【完結】皇女は当て馬令息に恋をする

かのん

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第十二話

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 アレクシスとヨハンはバタバタとその後挨拶もおざなりに出ていってしまい、オーレリアは驚いた。

 だが、用意されたケーキは毒は入っていないし美味しそうだったので、オーレリアは美味しく頂いた。 

 その後部屋に帰ったオーレリアは、妖精からアルバスからの手紙を受け取るとそれを読み、目を細める。

 リリアーナ王女はかなりの贅沢をしているようで帝王が何処まで許すか、オーレリアは心配になってしまう。逆鱗に触れなければいいのだが。

 ただ、民らは戦争がない事で少しずつ生活が安定し始めたようである。

 オーレリアは民への支援をアルバスに願い、そして、アルメニア国との貿易の情報を調べて欲しい事も手紙に書いた。妖精に手紙を任せ、ソファに座ると息を吐いたその時であった。

『オーレリア!緊急事態!』

『逃げて!』

 妖精が突然慌てた様子で声を上げ、オーレリアは驚くと立ち上がり飛び退くと廊下に出ようと扉へ走った。

 だがナイフが飛んできてそれを阻まれたオーレリアは、侍女の控室へと飛び込んだ。

 中には誰もおらず、オーレリアは外へと続く扉に手をかける。

 だが、黒い衣装の男が現れオーレリアの腕を掴むと押し倒し、その細い首にナイフを添えた。

「、、、何故、、、分かった?」

 黒髪に黒目の顔半分をマスクで隠した男は低い声でそう呟いた。オーレリアは焦ってはいけないと自分を落ち着けると笑みを浮かべて尋ねた。

「貴方はだぁれ?」

 その微笑みを見た瞬間男は目を丸くして、オーレリアから飛び退くと距離を取った。

「お前、、、、何者だ。」

 オーレリアは起き上がると男を見つめて震える手を抑えながら言った。

「貴方、殺そうという相手の名前すら知らないの?」

「知らない。必要などないが、、、その目は。」

 オーレリアは言っている意味は分からなかったが、とにかく時間を稼ごうと会話を続ける。

「目?、、、、私の名はオーレリアよ。貴方は?」

「オーレリア?、、、皇女か?」

 少し驚いたような男に、オーレリアは出来るだけゆっくりと話しかける。

「ええ。オフィリア帝国皇女よ。貴方は私の事を知らなかったのね。」

「魔女の、、、、娘か。」

「あら?よく知っているわね。それは殆どのものが知らないはずだけれど?何故知っているの?」

「それは、、、。」

 押し黙る男を見てオーレリアは眉をひそめる。

「あら、言えない何かがあるのかしら?」

「この状況でよく平然としていられるな。」

「私は一国の皇女よ。」

「っは!そうかい。」

 その時であった。扉が勢いよく開き、レスター部屋に入ってくるとオーレリアを背にかばい男に剣を向けた。

 男は舌打ちをすると窓ガラスを割り、逃げていく。レスターは声を上げ、外にいたが護衛の騎士らに暗殺者を追うように声を上げた。

 男の逃げた方へ他の騎士らが駆けて行くのを見てオーレリアはやっと力を抜くとその場に座り込んだ。

「大丈夫ですか?」

 オーレリアは、呆然としながらも何故レスターがここに現れたのか疑問に思った。

 それを悟ったのか、レスターはしゃがみ、ゆっくりとした口調で言った。

「先ほどまで王城の図書館に居たのですが、突然胸騒ぎがして、目の前に見たことのない扉が現れるとその中へと背中を押されて、そしたら、貴方がいました。何故こんな事に?」

 オーレリアは、レスターこそ不思議な体験をしているではないかと思ったが、何故か、レスターが側にいるというだけで安心してしまった。その途端に体が恐怖を思い出し、震えてしまう。

 それを必死に止めようと笑顔を顔に貼り付けた時、レスターの手が優しくオーレリアの手を包み込んだ。

「大丈夫です。話は後にしましょう。お茶を用意してもらいますから、さ、こちらに。」

 レスターはオーレリアの体を支え、そしてソファに座らせると部屋に入ってきた侍女らにお茶を準備するように伝えた。

『オーレリア大丈夫?』

『ごめんね!怖い思いさせて、ごめんね!』

 泣きそうになっている妖精達に、オーレリアは大丈夫だと言うように笑みを浮かべた。

 それを見ていたレスターは、静かな声で言った。

「もう、大丈夫ですよ。無理しないで下さい。」

 突然そう言われ、オーレリアは目を見張った。

「え?、、、えぇ。大丈夫。」

「まだ、誰もいません。無理して笑わなくていい。」

「何を、、、、え?」

「誰にも言いませんから。」

 オーレリアは、その瞬間、自分の瞳から涙が、溢れている事に気がついた。

 手が震え、体が震える。

 最近は妖精達が声をかけてくれるからと気を抜いていたのだ。

 だからいくら命を狙われても大丈夫な気になっていた。

 だが、違う。

 喉に突きつけられた冷たいナイフ。

 なんの躊躇いもなく殺すという冷めた瞳。

 明確な殺意に、恐怖を思い出してしまった。

 嗚咽を繰り返すオーレリアの背をレスターは何度も何度も優しく擦る。

 オーレリアは、その手が優しすぎて、やめて欲しかった。

「側にいますから。大丈夫ですよ。」

 優しくしないで。

 一人に戻れなくなる。

 お願い。

「側にいて。」

 息を呑む気配がして、ふっと和らぐとレスターは頷いた。

「はい。側にいますからね。怖かったですよね。」

 その日、久しぶりに人前で涙を流したオーレリアは知った。

 直接向けられた殺意よりも、一度覚えてしまった温もりがなくなる方が怖いと、知ってしまった。




 

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