【完結】皇女は当て馬令息に恋をする

かのん

文字の大きさ
50 / 54

第四十九話

しおりを挟む
 この一年、リリアーナはラオックの命によりオフィリア帝国に留まることはできなかったが、オフィリア帝国とレイズ王国との懸け橋となり、国交に携わるようになると自らの地位を着実に築き上げていっていた。

 元々世渡り上手なリリアーナではあったが、この一年での人脈の広げ方は恐ろしいほどであり、確実にラオックを黙らせる手筈が整いつつあった。

 そして、それと同時にアルバスの外堀から、リリアーナは着実に詰めていっていた。

 すでに周りにはリリアーナの気持ちは気づかれており、ほとんどの交友関係をリリアーナは掌握していた。

「アルバス様!」

「おや、リリアーナ様。今日はどうしたのですか?」

 両国を行き来するようになっていたリリアーナは事あるごとにアルバスを訪ねては話をするようになっていた。

 アルバスもリリアーナには好感を抱いているため、来たときにはいつもおいしい紅茶を出したり、事前に来ることが分かっているときには焼き菓子などを準備したりしていた。

 リリアーナはアルバスの手をそっと握った。

 突然の行動にアルバスは目を丸くすると、少し悲しげに、儚い笑みを浮かべるリリアーナに困惑の瞳を向けた。

 令嬢の手を振り払うわけにもいかず、首を傾げてしまう。

「アルバス様。私に今、アレクシス殿下との婚約の打診が来ておりますの。」

 その言葉に、アルバスは目を丸くした。

 確かにアレクシスであればリリアーナとの年も近く、外交的にも有用だと言える。

 なるほど、と思うが、胸に、何かとっかかりを感じ、アルバスは自分の動揺に首を傾げたくなった。

 喜ばしいことのはずである。

 だが、何故か、引っかかる。

 それが何故なのか自分では分からず視線を泳がせると、リリアーナが言った。

「ですが、私がお慕いしているのは、、、、アルバス様です。」

 まるで雷に打たれたかのような衝撃が、アルバスに走った。

 言葉の意味が分からずに、アルバスはまるで機械仕掛けの人形のように、ぎぎぎっと首を傾げた。

 それに、リリアーナは悲しげに目を伏せた。

「ご迷惑よね、、、、ごめんなさい。忘れてください。」

 背を向けて立ち去ろうとしたリリアーナの腕を、アルバスは掴んでしまい、その自分の行動に動揺する。

 何故、自分はリリアーナを引き留めた?

 どうして?

 この一年のリリアーナの様子が記憶から蘇る。

 二つの国の中を良くしようと奮闘する姿。

 上手くいかなくても嘆かず前を向く姿。

 事あるごとにアルバスの所に来ては無邪気に微笑む姿。

 さまざまなリリアーナの様子を思い出し、そして胸を締め付ける。

 娘ほどの年の差がある。

 自分の胸に渦巻く感情に、アルバスはバカなと思う。

 だが、純粋に向けられるリリアーナからの愛情に似た感情を感じるたびに、もしや、いや、まさかと思っていた。

 そして、それを嬉しいと感じてしまっている自分にも気づき、愕然とした。

 だが、リリアーナと自分では年の差も、そして地位の差も、大きく開いている。

 そんな事を考えていた時点で、自分の感情がリリアーナに向いているということにやっとアルバスは気が付いた。

 アルバスは、苦笑を浮かべ、そして、リリアーナを真っ直ぐに見つめると言った。

「お気持ち、嬉しいです。私も同じ気持ちです。ですが、私達には壁がありすぎる。ですから、、」

 諦めよう、きっといずれ、この感情も良い思い出へと変わっていくとアルバスはそう伝えようとしたのだが、目の前のリリアーナは歓喜の表情を浮かべていた。

 そして次の瞬間アルバスに抱き着いてきたのである。

 アルバスは突然の事に体を強張らせた。

 リリアーナの喜びの声が聞こえる。

「嬉しい!嬉しい!やったわ!賭けは私の勝ちだわ!」

「は?賭け?どういうことですか!?」

 アルバスが困惑していると、リリアーナは満面の笑みを浮かべると言った。

「お父様に、一年のうちにアルバスの心を勝ち取れば、お前の好きにしていいって!賭けをしましたの!ふふ!私の勝ちですわ!アルバス様!愛しております!」

 くいっと服をひかれ、アルバスはリリアーナに唇を奪われた。

 その衝撃はかなりのもので、アルバスは固まり、何が起こったのか理解するまでにかなりの時間を要した。

 そしてその後、アルバスは本当に良いのかと頭を悩ませるのであった。それは、もちろん、リリアーナの父であるラオックも同様であった。

 娘ほどの差がある王女を妻にするアルバスの方が悩むのか、それとも、自分の方が年が近い、しかも隣国の男が息子になるラオックの方が悩むのか、どっこいどっこいの勝負なのであった。
 
 そして、最終的にアルバスは覚悟を決め求婚をした時に、アレクシスとの婚約など話すらないという事実に騙されたと、愛しいリリアーナを見つめながら大きな笑い声をあげるのであった。


 
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

【短編】夫の国王は隣国に愛人を作って帰ってきません。散々遊んだあと、夫が城に帰ってきましたが・・・城門が開くとお思いですか、国王様?

五月ふう
恋愛
「愛人に会いに隣国に行かれるのですか?リリック様。」 朝方、こっそりと城を出ていこうとする国王リリックに王妃フィリナは声をかけた。 「違う。この国の為に新しい取引相手を探しに行くのさ。」 国王リリックの言葉が嘘だと、フィリナにははっきりと分かっていた。 ここ数年、リリックは国王としての仕事を放棄し、女遊びにばかり。彼が放り出した仕事をこなすのは、全て王妃フィリナだった。 「待ってください!!」 王妃の制止を聞くことなく、リリックは城を出ていく。 そして、3ヶ月間国王リリックは愛人の元から帰ってこなかった。 「国王様が、愛人と遊び歩いているのは本当ですか?!王妃様!」 「国王様は国の財源で女遊びをしているのですか?!王妃様!」 国民の不満を、王妃フィリナは一人で受け止めるしか無かったーー。 「どうしたらいいのーー?」

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...