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第四十九話
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この一年、リリアーナはラオックの命によりオフィリア帝国に留まることはできなかったが、オフィリア帝国とレイズ王国との懸け橋となり、国交に携わるようになると自らの地位を着実に築き上げていっていた。
元々世渡り上手なリリアーナではあったが、この一年での人脈の広げ方は恐ろしいほどであり、確実にラオックを黙らせる手筈が整いつつあった。
そして、それと同時にアルバスの外堀から、リリアーナは着実に詰めていっていた。
すでに周りにはリリアーナの気持ちは気づかれており、ほとんどの交友関係をリリアーナは掌握していた。
「アルバス様!」
「おや、リリアーナ様。今日はどうしたのですか?」
両国を行き来するようになっていたリリアーナは事あるごとにアルバスを訪ねては話をするようになっていた。
アルバスもリリアーナには好感を抱いているため、来たときにはいつもおいしい紅茶を出したり、事前に来ることが分かっているときには焼き菓子などを準備したりしていた。
リリアーナはアルバスの手をそっと握った。
突然の行動にアルバスは目を丸くすると、少し悲しげに、儚い笑みを浮かべるリリアーナに困惑の瞳を向けた。
令嬢の手を振り払うわけにもいかず、首を傾げてしまう。
「アルバス様。私に今、アレクシス殿下との婚約の打診が来ておりますの。」
その言葉に、アルバスは目を丸くした。
確かにアレクシスであればリリアーナとの年も近く、外交的にも有用だと言える。
なるほど、と思うが、胸に、何かとっかかりを感じ、アルバスは自分の動揺に首を傾げたくなった。
喜ばしいことのはずである。
だが、何故か、引っかかる。
それが何故なのか自分では分からず視線を泳がせると、リリアーナが言った。
「ですが、私がお慕いしているのは、、、、アルバス様です。」
まるで雷に打たれたかのような衝撃が、アルバスに走った。
言葉の意味が分からずに、アルバスはまるで機械仕掛けの人形のように、ぎぎぎっと首を傾げた。
それに、リリアーナは悲しげに目を伏せた。
「ご迷惑よね、、、、ごめんなさい。忘れてください。」
背を向けて立ち去ろうとしたリリアーナの腕を、アルバスは掴んでしまい、その自分の行動に動揺する。
何故、自分はリリアーナを引き留めた?
どうして?
この一年のリリアーナの様子が記憶から蘇る。
二つの国の中を良くしようと奮闘する姿。
上手くいかなくても嘆かず前を向く姿。
事あるごとにアルバスの所に来ては無邪気に微笑む姿。
さまざまなリリアーナの様子を思い出し、そして胸を締め付ける。
娘ほどの年の差がある。
自分の胸に渦巻く感情に、アルバスはバカなと思う。
だが、純粋に向けられるリリアーナからの愛情に似た感情を感じるたびに、もしや、いや、まさかと思っていた。
そして、それを嬉しいと感じてしまっている自分にも気づき、愕然とした。
だが、リリアーナと自分では年の差も、そして地位の差も、大きく開いている。
そんな事を考えていた時点で、自分の感情がリリアーナに向いているということにやっとアルバスは気が付いた。
アルバスは、苦笑を浮かべ、そして、リリアーナを真っ直ぐに見つめると言った。
「お気持ち、嬉しいです。私も同じ気持ちです。ですが、私達には壁がありすぎる。ですから、、」
諦めよう、きっといずれ、この感情も良い思い出へと変わっていくとアルバスはそう伝えようとしたのだが、目の前のリリアーナは歓喜の表情を浮かべていた。
そして次の瞬間アルバスに抱き着いてきたのである。
アルバスは突然の事に体を強張らせた。
リリアーナの喜びの声が聞こえる。
「嬉しい!嬉しい!やったわ!賭けは私の勝ちだわ!」
「は?賭け?どういうことですか!?」
アルバスが困惑していると、リリアーナは満面の笑みを浮かべると言った。
「お父様に、一年のうちにアルバスの心を勝ち取れば、お前の好きにしていいって!賭けをしましたの!ふふ!私の勝ちですわ!アルバス様!愛しております!」
くいっと服をひかれ、アルバスはリリアーナに唇を奪われた。
その衝撃はかなりのもので、アルバスは固まり、何が起こったのか理解するまでにかなりの時間を要した。
そしてその後、アルバスは本当に良いのかと頭を悩ませるのであった。それは、もちろん、リリアーナの父であるラオックも同様であった。
娘ほどの差がある王女を妻にするアルバスの方が悩むのか、それとも、自分の方が年が近い、しかも隣国の男が息子になるラオックの方が悩むのか、どっこいどっこいの勝負なのであった。
そして、最終的にアルバスは覚悟を決め求婚をした時に、アレクシスとの婚約など話すらないという事実に騙されたと、愛しいリリアーナを見つめながら大きな笑い声をあげるのであった。
元々世渡り上手なリリアーナではあったが、この一年での人脈の広げ方は恐ろしいほどであり、確実にラオックを黙らせる手筈が整いつつあった。
そして、それと同時にアルバスの外堀から、リリアーナは着実に詰めていっていた。
すでに周りにはリリアーナの気持ちは気づかれており、ほとんどの交友関係をリリアーナは掌握していた。
「アルバス様!」
「おや、リリアーナ様。今日はどうしたのですか?」
両国を行き来するようになっていたリリアーナは事あるごとにアルバスを訪ねては話をするようになっていた。
アルバスもリリアーナには好感を抱いているため、来たときにはいつもおいしい紅茶を出したり、事前に来ることが分かっているときには焼き菓子などを準備したりしていた。
リリアーナはアルバスの手をそっと握った。
突然の行動にアルバスは目を丸くすると、少し悲しげに、儚い笑みを浮かべるリリアーナに困惑の瞳を向けた。
令嬢の手を振り払うわけにもいかず、首を傾げてしまう。
「アルバス様。私に今、アレクシス殿下との婚約の打診が来ておりますの。」
その言葉に、アルバスは目を丸くした。
確かにアレクシスであればリリアーナとの年も近く、外交的にも有用だと言える。
なるほど、と思うが、胸に、何かとっかかりを感じ、アルバスは自分の動揺に首を傾げたくなった。
喜ばしいことのはずである。
だが、何故か、引っかかる。
それが何故なのか自分では分からず視線を泳がせると、リリアーナが言った。
「ですが、私がお慕いしているのは、、、、アルバス様です。」
まるで雷に打たれたかのような衝撃が、アルバスに走った。
言葉の意味が分からずに、アルバスはまるで機械仕掛けの人形のように、ぎぎぎっと首を傾げた。
それに、リリアーナは悲しげに目を伏せた。
「ご迷惑よね、、、、ごめんなさい。忘れてください。」
背を向けて立ち去ろうとしたリリアーナの腕を、アルバスは掴んでしまい、その自分の行動に動揺する。
何故、自分はリリアーナを引き留めた?
どうして?
この一年のリリアーナの様子が記憶から蘇る。
二つの国の中を良くしようと奮闘する姿。
上手くいかなくても嘆かず前を向く姿。
事あるごとにアルバスの所に来ては無邪気に微笑む姿。
さまざまなリリアーナの様子を思い出し、そして胸を締め付ける。
娘ほどの年の差がある。
自分の胸に渦巻く感情に、アルバスはバカなと思う。
だが、純粋に向けられるリリアーナからの愛情に似た感情を感じるたびに、もしや、いや、まさかと思っていた。
そして、それを嬉しいと感じてしまっている自分にも気づき、愕然とした。
だが、リリアーナと自分では年の差も、そして地位の差も、大きく開いている。
そんな事を考えていた時点で、自分の感情がリリアーナに向いているということにやっとアルバスは気が付いた。
アルバスは、苦笑を浮かべ、そして、リリアーナを真っ直ぐに見つめると言った。
「お気持ち、嬉しいです。私も同じ気持ちです。ですが、私達には壁がありすぎる。ですから、、」
諦めよう、きっといずれ、この感情も良い思い出へと変わっていくとアルバスはそう伝えようとしたのだが、目の前のリリアーナは歓喜の表情を浮かべていた。
そして次の瞬間アルバスに抱き着いてきたのである。
アルバスは突然の事に体を強張らせた。
リリアーナの喜びの声が聞こえる。
「嬉しい!嬉しい!やったわ!賭けは私の勝ちだわ!」
「は?賭け?どういうことですか!?」
アルバスが困惑していると、リリアーナは満面の笑みを浮かべると言った。
「お父様に、一年のうちにアルバスの心を勝ち取れば、お前の好きにしていいって!賭けをしましたの!ふふ!私の勝ちですわ!アルバス様!愛しております!」
くいっと服をひかれ、アルバスはリリアーナに唇を奪われた。
その衝撃はかなりのもので、アルバスは固まり、何が起こったのか理解するまでにかなりの時間を要した。
そしてその後、アルバスは本当に良いのかと頭を悩ませるのであった。それは、もちろん、リリアーナの父であるラオックも同様であった。
娘ほどの差がある王女を妻にするアルバスの方が悩むのか、それとも、自分の方が年が近い、しかも隣国の男が息子になるラオックの方が悩むのか、どっこいどっこいの勝負なのであった。
そして、最終的にアルバスは覚悟を決め求婚をした時に、アレクシスとの婚約など話すらないという事実に騙されたと、愛しいリリアーナを見つめながら大きな笑い声をあげるのであった。
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