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番外編 ヒロインは恋に夢は見ない
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物語のヒロインは大抵困難を乗り越えた後は、幸せに結婚をしてめでたしめでたしとなる。
けれど、私は恋愛を途中ですることをやめた。
恋を信じられなくなって、そして恋をするのが怖くなった。
しかもティナ様に使えるのが楽しくなって、仕事が生き甲斐になっていった。
仕事はとても充実していたし、ティナ様と過ごす日々はキラキラと輝いて見えた。
けれどティナ様にもお子が生まれて、周りの方々も結婚していくと、何故だか私だけ取り残されているようで、何とも言いがたい感情が胸の中を渦巻いた。
休みを利用してそんな気持ちの時には聖者アンサムの所へと足を伸ばす。
聖者アンサムは城の横にある神殿へと住まいを移しており、結婚をしていないもの同士で気楽に話せる唯一の相手となっていた。
アンサムは神殿で静かに祈りを捧げており、マリアが神殿に入ると笑顔で祈りらをやめ、声をかけてくれる。
「マリア様。いらっしゃい。」
「お祈りの途中でごめんなさいね。」
「いえ、妖精達が来る事は教えてくれましたから。お茶を入れましょう。どうぞ。」
「ありがとう。」
神殿の奥には小さな植物園があり、そこにはまるで秘密基地のような場所がある。
机と椅子が二つ。
二人で話をするのはいつもここであった。
マリアがお茶を入れ、アンサムは菓子の準備をする。
とりとめのない話をしたのちに、自分の不安を吐露するとアンサムはクスリと笑った。
「真剣に、今悩んでいるのよ?」
この年までくれば結婚相手が見つからない事は分かってはいる。だが、このままでいいのかとも不安に思うのだ。
「マリア様は好きな方がいるんですか?」
「え?」
「それとも、漠然とした不安から結婚したいのですか?」
その言葉に、マリアは黙りこむとアンサムは言葉を続けた。
「マリア様は仕事を責任を持って勤めている。私はそれはとても凄いことだと思います。結婚はもちろん良いと思いますが、一生の事ですからねぇ。マリア様がこの人となら、と思える方を見付けた時にされてはどうですか?」
「正論だけど、それだと何時まで経っても私は結婚出来そうにないわ。」
「そうですねぇ、、、なら、私と結婚しますか?」
「え?」
アンサムは紅茶を一口飲むと、菓子を口に入れた。
その様子をまじまじと見つめながら、マリアは空耳だったのかと首をかしげた。
「いえ、マリア様は現実主義者のような所がありますからね、マリア様が結婚相手に望むことを考えてみたんです。まぁ、予想ですが。合ってるかどうか答えてくださいね?」
「え?、、、ええ。」
「仕事を続ける事を許してくれる。」
「そうね。出来れば。」
「となれば必然的に王都から離れたくない。」
「出来れば。」
「ティナ様を一番に考えることを許してくれる。」
「それは絶対。」
「この三つだけでもかなり絞られます。後は信頼できるとか、子どもが出来なくても問題ないとか、金銭感覚が同じとか、出来れば年が近いとかですかね?」
「え?ええ。」
「貴族でなくていいならいるかもしれませんが、ある程度信頼できる相手でないとティナ様が許さないでしょう。そうなると地位もないといけない。」
「あー。そうかも知れないわ。」
「そうなるとね、誰がいます?」
「えーっと。」
頭の中でその条件に当てはまる相手を探してアンサムを見る。
アンサムは肩をすくめた。
「ほら、私しかいない。聖者であっても結婚は許されていますしね。」
「本当ね。でも、アンサムには幸せになってほしいわ。」
するとアンサムは微笑み、マリアの前へ来るとしゃがみ、マリアの手を取ると言った。
「知らないでしょうが、私は貴方の事、昔から好きですよ?」
「へ?」
「貴方がいつも仕事で頑張る姿を見るたびに惹かれていました。でも、貴方は恋に夢は見ない人だというのは分かっていましたから、今まで黙っていましたが、今がチャンスかと思いまして。」
あっけらかんとしていうアンサムに、マリアは目を丸くした。
「どうです?悪い話ではないでしょう?幸せにしますよ?」
「え!えーっ!?」
「愛しています。マリア様。」
それからしばらく、アンサムからひっきりなしに愛を囁かれ続けたマリアが絆されるのに然程時間はかからなかったという。
けれど、私は恋愛を途中ですることをやめた。
恋を信じられなくなって、そして恋をするのが怖くなった。
しかもティナ様に使えるのが楽しくなって、仕事が生き甲斐になっていった。
仕事はとても充実していたし、ティナ様と過ごす日々はキラキラと輝いて見えた。
けれどティナ様にもお子が生まれて、周りの方々も結婚していくと、何故だか私だけ取り残されているようで、何とも言いがたい感情が胸の中を渦巻いた。
休みを利用してそんな気持ちの時には聖者アンサムの所へと足を伸ばす。
聖者アンサムは城の横にある神殿へと住まいを移しており、結婚をしていないもの同士で気楽に話せる唯一の相手となっていた。
アンサムは神殿で静かに祈りを捧げており、マリアが神殿に入ると笑顔で祈りらをやめ、声をかけてくれる。
「マリア様。いらっしゃい。」
「お祈りの途中でごめんなさいね。」
「いえ、妖精達が来る事は教えてくれましたから。お茶を入れましょう。どうぞ。」
「ありがとう。」
神殿の奥には小さな植物園があり、そこにはまるで秘密基地のような場所がある。
机と椅子が二つ。
二人で話をするのはいつもここであった。
マリアがお茶を入れ、アンサムは菓子の準備をする。
とりとめのない話をしたのちに、自分の不安を吐露するとアンサムはクスリと笑った。
「真剣に、今悩んでいるのよ?」
この年までくれば結婚相手が見つからない事は分かってはいる。だが、このままでいいのかとも不安に思うのだ。
「マリア様は好きな方がいるんですか?」
「え?」
「それとも、漠然とした不安から結婚したいのですか?」
その言葉に、マリアは黙りこむとアンサムは言葉を続けた。
「マリア様は仕事を責任を持って勤めている。私はそれはとても凄いことだと思います。結婚はもちろん良いと思いますが、一生の事ですからねぇ。マリア様がこの人となら、と思える方を見付けた時にされてはどうですか?」
「正論だけど、それだと何時まで経っても私は結婚出来そうにないわ。」
「そうですねぇ、、、なら、私と結婚しますか?」
「え?」
アンサムは紅茶を一口飲むと、菓子を口に入れた。
その様子をまじまじと見つめながら、マリアは空耳だったのかと首をかしげた。
「いえ、マリア様は現実主義者のような所がありますからね、マリア様が結婚相手に望むことを考えてみたんです。まぁ、予想ですが。合ってるかどうか答えてくださいね?」
「え?、、、ええ。」
「仕事を続ける事を許してくれる。」
「そうね。出来れば。」
「となれば必然的に王都から離れたくない。」
「出来れば。」
「ティナ様を一番に考えることを許してくれる。」
「それは絶対。」
「この三つだけでもかなり絞られます。後は信頼できるとか、子どもが出来なくても問題ないとか、金銭感覚が同じとか、出来れば年が近いとかですかね?」
「え?ええ。」
「貴族でなくていいならいるかもしれませんが、ある程度信頼できる相手でないとティナ様が許さないでしょう。そうなると地位もないといけない。」
「あー。そうかも知れないわ。」
「そうなるとね、誰がいます?」
「えーっと。」
頭の中でその条件に当てはまる相手を探してアンサムを見る。
アンサムは肩をすくめた。
「ほら、私しかいない。聖者であっても結婚は許されていますしね。」
「本当ね。でも、アンサムには幸せになってほしいわ。」
するとアンサムは微笑み、マリアの前へ来るとしゃがみ、マリアの手を取ると言った。
「知らないでしょうが、私は貴方の事、昔から好きですよ?」
「へ?」
「貴方がいつも仕事で頑張る姿を見るたびに惹かれていました。でも、貴方は恋に夢は見ない人だというのは分かっていましたから、今まで黙っていましたが、今がチャンスかと思いまして。」
あっけらかんとしていうアンサムに、マリアは目を丸くした。
「どうです?悪い話ではないでしょう?幸せにしますよ?」
「え!えーっ!?」
「愛しています。マリア様。」
それからしばらく、アンサムからひっきりなしに愛を囁かれ続けたマリアが絆されるのに然程時間はかからなかったという。
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