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一話 「愛しのリリィ」

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 太陽の光が温かく降り注ぐ丘で、ヒロインのリリィはこの世界を救うことが出来るのかと一人、たくさんの人々が平穏な時を重ね、暮らす街を見下ろしていた。

「リリィ…」

 白銀色の髪を風になびかせ、宝石のルビーよりも澄んだ赤色の瞳を持ったセオはその姿を愛しそうに見つめるが、リリィの元へと駆け寄るのは自分の役目ではない事を知っている。

 横に立つ金髪碧眼の王子レクスの背を押すように、セオは叩くと言った。

「リリィを頼むぞ。」

 レクスは苦笑を浮かべ頷くと、リリィの元へと駆け寄る。

 二人は街を眺めながら笑いあい、その様子を見てセオは少し悲しげに、それでも二人を祝福するように微笑むとその場を後にした。

 そして自身の父である帝王が崩御したことにより自国へと帰国を余儀なくされ、二人とは別れ、帝国へと戻る。しかしそれは、セオにとっての不幸の始まりだった。

 自身の中に抑えていた呪いが体を蝕み始め、闇へと呑みこまれていく。闇を必死に抑えようと頼った魔女によってさらにセオの闇は広がり、そしてついには闇の王へと変り果て、リリィとレクスの敵となる。

 そしてリリィとレクスの手によって打たれるのだ。
 
「リリィ・・・最後に君の顔を見れて良かった。」そう言って死んでしまう。

 
「何でなの!?何で、振られた上に敵になって、その上殺されなきゃいけないの!?」

 小説を抱きしめながら、鼻水と涙を垂れ流しながら私は泣き喚いた。

「私だったら絶対に、セオを幸せな道に導いてあげられるのに!」

 恋愛経験ゼロの私にできる事など本来何一つない。だがしかし、その時の私は小説を読んだばかりというハイテンションに加えて徹夜が重なり情緒不安定であった。

「セオにお似合いの嫁を私だったら絶対に見つけてあげられるのにぃぃ!」

 そう叫んだのを最後に、何故か私の記憶はぷつりと途切れて、そして次の瞬間、私ははっと持っていた櫛を手から落とした。

「・・・どうした。」

 冷ややかな冷たい声。そして視線の先には、白銀色の美しい髪と赤い瞳をした彼がいた。

 帝王セオ・コール・オーフェディア。

 私は驚きを表情に出さないように努め、櫛を拾うと頭を下げた。

「申し訳ございません。手元が狂い、櫛を落としてしまいました。新しい櫛がありますので、そちらで髪を整えさせていただきます。」

「・・そうか。」

 震えそうになる手をどうにか抑え、目の前の椅子に座る彼の髪を、新しい櫛を出して梳かしていく。髪に触れるとそれはとても柔らかく、ずっと撫でていたい衝動に駆られるような、そんな髪であった。

 けれどずっとそうもしていられない。

 無音の中に響く、時計の音に視線を上げてみると、後しばらくすれば朝食の時間となる。

 手際よく髪を整え、衣装の最終チェックを行い、ハンカチを主に手渡すと、それを彼はポケットへと終った。

「では、行ってくる。」

「行ってらっしゃいませ。」

 頭を深々と下げて、彼が部屋から出て行くのをじっと待つ。そして、彼が部屋から出て行ったのを頭を上げて確認をしてから、私はその場で顔を手で覆って声にならない悲鳴を上げた。

 -一体何がどうなっているの!?私、何転生したの?!しかも何でここ?!ここはすでに帝国。隣国のドルシェン王国の学園から帰国し、帝王位を継いだ後じゃない!?

 頭の中でクエスチョンマークが飛び交う。

 ーこういう転生ものは、娘とか、妹とか、お姫様とかいうポジションで転生するモノでは無いの!?何でよりにもよって帝王専属の侍女なんかに転生しちゃったのよ!?しかも、もうすでにヒロインに振られた後じゃない。これじゃあヒロインとの恋愛を応援できない!もう私にどうしろってのよぉぉっぉ。

 優秀な侍女としての記憶から、声に出して叫ばない、錯乱する私を許していただきたい。



 

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