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五話 疑問
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花瓶を拭いていた一件から、セオはアリシアを常に傍に置くようになった。そして、もし汚れを見つければ掃除しても構わないという事で、アリシアは常に刺繍入りのハンカチを手に持つようになった。
そう、刺繍入りのハンカチである。
セオの傍にいるようになってから気づいたことは、やはりまっくろくろすけがどこかに潜んでいるのではないかと言う疑問である。
先程までは汚れていなかったティーカップに汚れがついていたり、カートに汚れがついていたり、はたまたセオの腰につける剣の鞘についていたりと、見つける度にアリシアの綺麗に拭き取りたいという気持ちに火をつける。
そんなある時、刺繍入りのハンカチで汚れを拭いたのはほんの偶然であった。
セオに渡したハンカチがやはりごてごてすぎるのではないかと、新しく刺繍をし、それを手渡そうと思っていた。だが手渡す前に、セオの胸に着けるブローチに汚れが付いている事に気づき、ハンカチで拭いたのだ。
するとどうしたことであろうか。雑巾の時には、ごしごしと時間をかけて拭かなければとれなかった汚れが、刺繍入りのハンカチを使うと何故か、あら不思議。一撫でで光沢まで取り戻すという。
これに気づいた時には内心歓喜した。
これで重たいバケツと雑巾を持ち歩かなくて済む。
ハンカチであれば、何枚でも折りたたんで小さな鞄の中に忍ばせて持って居られるので、便利が良い。
アリシアは刺繍入りのハンカチを毎日せっせと大量生産していくと、それをカバンに詰めて持ち歩くようになった。
最初こそその様子に驚いてたセオであったが、最近では気に入った刺繍のハンカチがあるとすぐにくれと言ってくるものだから、可愛らしい一面があるなと少しばかり萌えた。
セオの仕事にも付いて行くようになってから気づいたことは、セオがとても忙しい事と、呪いがどこかへと消えてしまったかのように姿を現さないという事。そろそろ呪いが悪化してきて苦しい日々が続いている頃なのにもかかわらず、気配すらない。
その事実に、この世界は似ているだけで別の世界なのだろうかと最近思い始めている。
「アリシア。何を考えている。」
紅茶を入れ、手を動かして仕事をしながら、別の世界だったらストーリーも違うのだろうかなどと考えていると、セオからそう声をかけられ、しばし考える。
「何と言われると、難しいです。・・・セオ様、今日の紅茶はいかがですか?疲労回復によいうそうです。」
「難しい事を考えていたのか。ふむ、オレンジの香りがするな。」
「はい。香りだけでもほっとします。」
「たしかに。・・・なぁアリシア。」
「はい。何でしょうか。」
セオは紅茶を一口飲むと、言った。
「この紅茶は美味しいな。」
「セオ様は、爽やかな味わいを好まれているようでしたので、用意いたしました。好ましく思われたなら良かったです。」
「あぁ・・・話がそれた。アリシア。君は私に結婚しろと言わないのか?」
「は?」
突然の質問に、アリシアは小首を傾げた。
そう、刺繍入りのハンカチである。
セオの傍にいるようになってから気づいたことは、やはりまっくろくろすけがどこかに潜んでいるのではないかと言う疑問である。
先程までは汚れていなかったティーカップに汚れがついていたり、カートに汚れがついていたり、はたまたセオの腰につける剣の鞘についていたりと、見つける度にアリシアの綺麗に拭き取りたいという気持ちに火をつける。
そんなある時、刺繍入りのハンカチで汚れを拭いたのはほんの偶然であった。
セオに渡したハンカチがやはりごてごてすぎるのではないかと、新しく刺繍をし、それを手渡そうと思っていた。だが手渡す前に、セオの胸に着けるブローチに汚れが付いている事に気づき、ハンカチで拭いたのだ。
するとどうしたことであろうか。雑巾の時には、ごしごしと時間をかけて拭かなければとれなかった汚れが、刺繍入りのハンカチを使うと何故か、あら不思議。一撫でで光沢まで取り戻すという。
これに気づいた時には内心歓喜した。
これで重たいバケツと雑巾を持ち歩かなくて済む。
ハンカチであれば、何枚でも折りたたんで小さな鞄の中に忍ばせて持って居られるので、便利が良い。
アリシアは刺繍入りのハンカチを毎日せっせと大量生産していくと、それをカバンに詰めて持ち歩くようになった。
最初こそその様子に驚いてたセオであったが、最近では気に入った刺繍のハンカチがあるとすぐにくれと言ってくるものだから、可愛らしい一面があるなと少しばかり萌えた。
セオの仕事にも付いて行くようになってから気づいたことは、セオがとても忙しい事と、呪いがどこかへと消えてしまったかのように姿を現さないという事。そろそろ呪いが悪化してきて苦しい日々が続いている頃なのにもかかわらず、気配すらない。
その事実に、この世界は似ているだけで別の世界なのだろうかと最近思い始めている。
「アリシア。何を考えている。」
紅茶を入れ、手を動かして仕事をしながら、別の世界だったらストーリーも違うのだろうかなどと考えていると、セオからそう声をかけられ、しばし考える。
「何と言われると、難しいです。・・・セオ様、今日の紅茶はいかがですか?疲労回復によいうそうです。」
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「はい。香りだけでもほっとします。」
「たしかに。・・・なぁアリシア。」
「はい。何でしょうか。」
セオは紅茶を一口飲むと、言った。
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「セオ様は、爽やかな味わいを好まれているようでしたので、用意いたしました。好ましく思われたなら良かったです。」
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