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二十一話 掃除
しおりを挟む魔女は、大声で笑い始めると言った。
「お前は本当に逸脱した存在でしかないなぁ! はっは! それならばお前が本当にここを掃除できるかお手並み拝見してやろう。ただし、下手に触って、死んでも知らないがなぁ!」
アリシアはそれを聞くと、ふむとうなずくとセオへと視線を向けた。
「少し、お掃除してもよろしいですか?」
セオはじっとアリシアを見ると肩をすくめ、そして自らも立ち上がった。
「俺も手伝おう」
その言葉にアリシアは目を丸くすると、慌てて首を横に振った。
「セオ様は座っていてくださいませ! 一国の王に掃除などさせられるわけがございません!」
「だが」
「だがではありません。お願いいたします」
「……ふむ。では重たい荷物など運ぶときには手伝おう」
「ありがとうございます」
魔女はそんな様子をにやにやとして見つめる。
アリシアは気合を入れると、カバンからハンカチを取り出し、丁寧に掃除を始める。
ハンカチを取り出した瞬間魔女は嫌そうに顔をゆがめた。
「お前のそれは本当に嫌だねぇ……まぁでも、いい暇つぶしだ。面白いから、少しばかり我慢してやるよ」
魔女は本当に暇を持て余しているのであろう。
だからこそアリシアの行動をまるでモルモットを見るかのように見つめ、そして暇つぶしになるのならば何でもいいみたいな雰囲気をアリシアは感じた。
アリシアは魔女の部屋を見まわすと、黒いすす汚れのようなものを的確に掃除をしていく。
魔女はアリシアが触ってはいけないものに触れるのを期待していたが、何故かそれらはアリシアは見事にするりとよけて、触っても別段問題のないものばかりを拭いていく。
セオは部屋の中の空気が次第に澄んでいくのを感じていた。
アリシアは気づいていない様子だが、部屋の中が薄暗かったのが次第に光が入っているかのように明るい雰囲気に変わってきているのである。
「あらあら、これはすごい」
アリシアはそういうと、棚の中から一つの小瓶を取り、それを丁寧に拭いた。
真っ黒だったそれはアリシアが吹くと一瞬できらめく銀色の小瓶へと変わり、置いた瞬間に中が透けて見えるとその中に美しい真っ赤な小魚が泳ぐ。
魔女はそれに驚いた様子で目を丸くした。
「なんだと!? 小娘。ちょっとそれをこっちに持っておいで! お前は一体全体、本当にどういう……もう二度と、見ることはないと思っていたのに……」
魔女は嬉しそうにアリシアから手渡された小瓶を受け取ると、その中の魚を見つめる。
「あぁ……三百年ぶりに会えたねぇ……」
魔女が感極まっていた時であった。
アリシアは小瓶を渡した時に、魔女の指輪が真っ黒に、ぎちぎちと音を立てていることに気づいた。
だからこそ、アリシアは小瓶を手渡した次の瞬間、さっと魔女の手の指輪をハンカチで拭いたのである。
その時であった。
「ぎゃぁぁぁっぁぁぁっぁぁ!!!!」
魔女は雄たけびを上げ、アリシアは飛び上がって驚くと慌ててセオの後ろへと隠れた。
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