5 / 14
第五話
しおりを挟む屋敷へと案内され、そして今日はもうゆっくり過ごしてくれとジャックフォッドに部屋を案内されたエマは、部屋に入ってから目を丸くした。
部屋の中の調度品はエマが見ても素晴らしい物ばかりであり、しかも恐らく魔物が好むであろう品々を用意したのであろう。
色は薄暗い色が多いが、所々に魔物の令嬢が好むような明るいパステルな色もありエマはその部屋にとても好感を抱いた。
「ジャックフォッド様。」
天蓋付の黒で統一された落ち着くベッドに腰を下ろしたエマはジャックフォッドの姿を思い出してほっと息をついた。
エマは別に自分を魔物だと思っているわけではない。もちろん人間の国で暮らしていた頃の記憶はあるし、人間の趣味嗜好だって多少は分かっているつもりだ。
だが、エマにとって人間とは自分を牢へと幽閉し、殺そうとしていた者達という印象の方が強く、最後に見た兄の恐ろしい姿から、人間に対して恐怖というものが胸に巣食っていた。
優しい母の面影を忘れさせるほどに、兄の姿が鮮烈に残っているのだ。
だから、人間の国に嫁ぐことを決意しながらもエマは不安はあった。
もし兄のような男が結婚相手だったならばエマは悲鳴を上げていただろう。ハッキリ言えば、国王や他のきらびやかな衣装に身を包んだ貴族の男女を見ていて恐怖しかなかった。
だがその中でジャックフォッドは輝いて見えた。
魔物ほどではないが、大きな体に毛むくじゃらの顔。そして何と言っても美しい赤色の瞳。
あれほどの美男子は魔物の国でもなかなかいないだろう。
エマはジャックフォッドが結婚相手だと知った瞬間、内心歓喜していた。
しかも、ジャックフォッドはあの美男子の外見でありながらも傲慢ではなく、何から何まで優しかった。
この部屋を見ても一目瞭然ではあるが、魔物の嫁を毛嫌いするどころか大切にしようと誠心誠意思っているのが伝わってくるのである。
エマは今日のジャックフォッドの様子を思い出しながら、ベッドにごろごろと身悶えた。
『エマ嬢。段差があります。気を付けて。さぁ手を。』
『不安な事があったらすぐに行ってください。出来る限り、貴方のためにつくしますから。』
『部屋・・気に入って下さったらいいのですが。以前魔物と話をする機会があったので、その時の会話からイメージして部屋を整えたのですが・・・その明日感想を聞かせて下さい。もし趣味でなかったら、エマ嬢の好みを教えてもらえると助かります。』
『明日は、良かったら一緒に過ごしませんか?その・・・俺もしばらく休みをもらっているので・・・正式な結婚式までの間に少しでも仲が良くなれたら嬉しいのです。』
「はぁ・・・素敵な方ね。」
そう思いながら、エマは起き上がると、鏡の前へと行き、頭の被り物を取ると鏡に映る自分を見て大きくため息をついた。
「この・・・・本当の姿を見られてしまったら、きっと嫌われてしまうわ。」
鏡に映るのは、毛むくじゃらではないつるりとした陶器のような肌をした色白の娘。
魔物の中では嫁の貰い手などないと思っていた。だから人間の国であれば自分を受け入れてくれるものもいるのではとも思ったが、あれほどの美男子が結婚相手だと不安になってくる。
エマは自分の外見が人間のそれであるというのは理解していたし、人間であれば肌がつるりとしているのも当たり前なのだと分かっていた。だが理解はしていても自分が人間から見られてどう思われるかなどとは考えた事が無かったのである。
しかもエマの美醜については感覚がねじ曲がっている事を本人はあまり理解していなかった。
「はぁ・・・でも、ずっとこれをかぶっていればいいわよね!」
エマは鏡の前の自分を励ますのであった。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者なんて眼中にありません
らんか
恋愛
あー、気が抜ける。
婚約者とのお茶会なのにときめかない……
私は若いお子様には興味ないんだってば。
やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?
大人の哀愁が滲み出ているわぁ。
それに強くて守ってもらえそう。
男はやっぱり包容力よね!
私も守ってもらいたいわぁ!
これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語……
短めのお話です。
サクッと、読み終えてしまえます。
わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。
離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。
王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。
アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。
断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。
毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。
※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。
※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。
【完結】離縁など、とんでもない?じゃあこれ食べてみて。
BBやっこ
恋愛
サリー・シュチュワートは良縁にめぐまれ、結婚した。婚家でも温かく迎えられ、幸せな生活を送ると思えたが。
何のこれ?「旦那様からの指示です」「奥様からこのメニューをこなすように、と。」「大旦那様が苦言を」
何なの?文句が多すぎる!けど慣れ様としたのよ…。でも。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件
水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
転生皇女はフライパンで生き延びる
渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。
使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。
……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。
自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。
そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。
「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」
※※※
死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。
※重複投稿作品※
推しであるヤンデレ当て馬令息さまを救うつもりで執事と相談していますが、なぜか私が幸せになっています。
石河 翠
恋愛
伯爵令嬢ミランダは、前世日本人だった転生者。彼女は階段から落ちたことで、自分がかつてドはまりしていたWeb小説の世界に転生したことに気がついた。
そこで彼女は、前世の推しである侯爵令息エドワードの幸せのために動くことを決意する。好きな相手に振られ、ヤンデレ闇落ちする姿を見たくなかったのだ。
そんなミランダを支えるのは、スパダリな執事グウィン。暴走しがちなミランダを制御しながら行動してくれる頼れるイケメンだ。
ある日ミランダは推しが本命を射止めたことを知る。推しが幸せになれたのなら、自分の将来はどうなってもいいと言わんばかりの態度のミランダはグウィンに問い詰められ……。
いつも全力、一生懸命なヒロインと、密かに彼女を囲い込むヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:31360863)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる