虐げられ魔物の国に救われた少女は、恩を返すために人間の王国へと嫁ぐ！？

第十話

　ジャックフォッドとエマは顔を見合せると神獣に向き直って尋ねた。

「どう言うことだ？」

　そのジャックフォッドの言葉に神獣は何も答えず、エマをじっと見つめている。

　それにジャックフォッドは苦笑を浮かべるとエマに言った。

「神獣に尋ねてくれないか？」

「え？、あ、はい。」

　エマは恐る恐るといった様子で口を開くと尋ねた。

「あ、あの。私が主とはどういうことなのです？それに、リフレ帝国の王、とは？」

　神獣は尻尾をブンブンと振ると嬉しそうに声を上げた。

『そのままの意味です。主！』

　エマはしばらく考えると、少し一人で考えたいとジャックフォッドに伝え、その日はそのまま屋敷へと帰ることとなった。

　神獣はどうするのだろうとエマが視線を向けると、神獣は嬉しそうに鳴き声をあげて言った。

『ならば主、後程また会いに行きます。』

　そう言うと神獣はエマの額にキスをした。

『印をつけたので、もうどこに行こうとも主を見失うことはありません。では、後程。』

　そう言うと神獣はキラリと光り、元の水の中へと消えてしまい、エマは呆然としていた。

　それから屋敷へと帰ったエマは、疲れたのでと一度自室へと下がった。

　そして、一人になったエマは急に体が震えだす。

　怖い。

　真実を知るのが怖い。

　エマは魔物の被り物と手袋を外すと、鏡に写る自分を見た。

　鏡に写るのは、一人の人間の娘。

　何故自分は本物の魔物ではないのだろうかと悲しみのあまり涙が溢れてくる。

　神獣は言った。

　私が主だと。

　神獣は言った。

　リフレ帝国の正当なる王だと。

　エマは鏡に写る自分の姿に手を伸ばし、ひやりとした鏡に触れると呟いた。

「貴方は誰なの？」

　自分の思い出したくない記憶を遡る。

　冷たい部屋。

　空腹。

　恐怖。

　絶望。

　そして兄。

「いやぁぁぁぁぁぁぁ！！！」

　エマは悲鳴をあげると自分の頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。

「エマ嬢！どうした！入るぞ！」

　ジャックフォッドは先程の一件についてエマにもう一度話を聞こうと部屋の前へとやってきたはいいものの、やはりエマも疲れているだろうしと、エマの部屋の前をうろうろしていた所でその悲鳴を聞きつけ、慌てて部屋へと足を踏み入れた。

「え？」

　ジャックフォッドは動きを止める。

　しゃがみこみ、大きな瞳から止めどなく涙をポロポロと流す、光の精霊のように美しい少女が、ジャックフォッドにすがるように手を伸ばしてきた。


「ジャックフォッド、様・・・。」

　金色に煌めく美しい髪。

　濡れた大きな瞳は桜色。

　白く陶器のように滑らかな肌は傷ひとつなく、そしてジャックフォッドに伸ばされる手は細く、か弱い。

　その手を取り、ジャックフォッドは驚きを隠せずに呟いた。

「エマ、嬢？」

「ジャックフォッド様。」

　震える細い手を、ジャックフォッドは優しく握りながら、何がどうなっているのだと、困惑する頭で考えるのであった。