虐げられ魔物の国に救われた少女は、恩を返すために人間の王国へと嫁ぐ!?

かのん

文字の大きさ
14 / 14

第十四話

しおりを挟む
 美しい装飾の施された一室は、窓には鉄格子がはめられ、入口にも鉄格子がつけられている。部屋の中にトイレや風呂などの設備も用意されており、エマは目覚めてすぐにここが自分の新しい檻なのだという事に気が付いた。

 地下牢だろうと、高級な部屋だろうと、檻であることに違いはない。

「あぁ・・・目が覚めたか?」

 声がかけられ、視線を向けると、扉を開け入ってすぐにある入口の鉄格子の鍵を開けながら、兄であるエゼビアが入ってくるのが見えた。

 記憶の中のエゼビアよりも、どこかやつれた印象と、どこか獣のような瞳を携えている事にエマは恐怖を感じた。

 近寄ってくるエゼビアにベッドまで追い詰められたエマは、ベッドの隅へと身を寄せながら声を上げた。

「近寄らないで。」

 震えそうになるのを堪えながら、エマがそう言うと、舌で妖艶に唇をぺろりとなめながら、にやりとエゼビアは笑う。そしてエマの顎を乱雑に持ち上げると自分と無理やり瞳を合わさせて言った。

「あぁ、お前のその顔が見れて心が晴れるようだ。・・これまでの屈辱の日々がやっと終わる。」

「どうするつもりなのですか・・」

「ん?名を変え、お前を見事見つけた立役者として俺はこの国の宰相に収まる。お前は傀儡の王となるんだよ。」

「そのような事が出来ると?!聖獣がいるのに出来るとでも?」

 次の瞬間エマの頬をエゼビアは叩きつけ、エマはベッドへと倒れた。それにエゼビアは馬乗りになると腕を押さえつけ、エマの耳元でささやく。

「聖獣を押さえつける手立ては見つけたさ・・・王は聖なる聖獣に選ばれるなど、この国はおかしいんだ。俺が王にふさわしいと言うのに・・・聖なる力を抑え込む魔術師は俺の部下だ。彼らがいれば聖獣を押さえつけるのも容易い。」

 ひりひりと熱を持つ頬の痛みに、幼い頃に刻みつけられた恐怖が蘇る。

「それに・・・」

 エゼビアの手がエマの服へと延び、スカートをめくるとその白く細い脚を撫でるように動かす。

「・・・お前の純潔を奪い、お前自身に俺に逆らえない呪いを植え付けることも出来る。」

 その悍ましい言葉に、エマは目を見開くと体をよじって暴れようとするが、エゼビアに抑えつけられた体をわずかに?よじる事しかできない。

 触れられた場所からはぞわぞわと嫌悪感がせり上がり、エマは恐怖に負けそうになる。

 だが、思い出す。

 自分は一人ではない。

 魔物の両親には惜しみない愛をもらった。

 ジャックフォッドと出会い、胸の高鳴りも知った。

 負けてなるものかとエマはエゼビアを睨みつけると言った。

「可愛そうな人。何も持っていないから、人から奪う事しかできない。」

 蔑むようなエマの瞳にエゼビアはカッと目を見開くと、エマの頬を叩いた。

 だがエマはすぐにエゼビアを睨みつけた。

「暴力でしか、物事を解決できないなんて・・・貴方は王の器ではないわ。」

 エゼビアはエマの髪の毛をぐっと引っ張ると、怒りに燃える瞳で言った。

「お前のような悍ましい存在を抱いてやろうと言うのに・・・感謝の気持ちはないのか?」

「あるわけがない。私は負けないわ。・・・お兄様・・・いえ、エゼビア。貴方はただの卑しくて汚い男よ。そんな男に屈しはしないわ。」

「っふ・・・その口答えがいつまで続くかな?」

 エゼビアがエマの服をはぎ取ろうとした時であった。

 エマの体の周りに光が集まり、エゼビアの体をベッドからはじき出した。

「っな!?・・・・これは、聖なる光?!くそ・・覚醒が早すぎる!」

 エゼビアは声を上げ、外に控えていた黒装束の魔術師たちを部屋へと呼ぶと、部屋一面に様々な魔術の紋様が浮かび上がりエマの力を封じようと動き始める。

 だがしかし、それらが一つ一つ砕け散っていく。

「エマ!お前は王になどなれない!諦めろ!」

 エゼビアの声に、エマはベッドから立ち上がると言った。

「いいえ。貴方を王にするわけにはいかない。」

 自分が王の器にふさわしいのかは分からない。だが、この男を王に据えるわけにはいかない。自分の弱かった心を、今は支えてくれる人達がいる。ならば、その人たちに胸を張れるように、自分はこの男に負けてはいけないのだ。

 美しい光に包まれたエマが一歩進むごとに、魔術は砕け散り、魔術師達はその様子に悲鳴を上げる。

 エゼビアは剣を引き抜き、声を荒げた。

「言う事を聞け!」

 エマが優しくその剣さきに手を伸ばした瞬間、剣には緑のツタが絡まり、淡いピンク色の花が咲く。

「・・もう、逃げるのは嫌。」

 エマの美しい聖なる光は舞い上がり、国中に光をもたらす。

 国民は空を見上げて歓声を上げた。

「王だ!王が見つかったんだ!」

「リフレ帝国に、聖なる王が戻られた!」

 歓声は広がり、国民は王城前へとどんどんと集まっていく。

しおりを挟む
感想 22

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(22件)

naomao
2021.05.09 naomao

お願いします!続きを渇望しています!

解除
アイ
2021.04.23 アイ

エマはどうなるのかなぁ🤭
続きが気になります。
いつ更新になりますか?😭

解除
チャーリー
2020.06.11 チャーリー

始めまして。
最近になって、このアプリを知りました。
何せ、アラフィフなもので……
でも、キュンキュンして、あぁ、こんな気持ちになったのは、30年ぶりかも、
これって、本当に、心が満たされると、幸せを感じて、若返りました‼️
ありがとうございます。

解除

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

婚約破棄された王太子妃候補ですが、私がいなければこの国は三年で滅びるそうです。

カブトム誌
恋愛
王太子主催の舞踏会。 そこで私は「無能」「役立たず」と断罪され、公開の場で婚約を破棄された。 魔力は低く、派手な力もない。 王家に不要だと言われ、私はそのまま国を追放されるはずだった。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 この国が長年繁栄してきた理由も、 魔獣の侵攻が抑えられていた真の理由も、 すべて私一人に支えられていたことを。 私が国を去ってから、世界は静かに歪み始める。 一方、追放された先で出会ったのは、 私の力を正しく理解し、必要としてくれる人々だった。 これは、婚約破棄された令嬢が“失われて初めて価値を知られる存在”だったと、愚かな王国が思い知るまでの物語。 ※ざまぁ要素あり/後半恋愛あり ※じっくり成り上がり系・長編

婚約破棄されたので、辺境で「魔力回復カフェ」はじめます〜冷徹な辺境伯様ともふもふ聖獣が、私の絶品ご飯に夢中なようです〜

咲月ねむと
恋愛
「君との婚約を破棄する!」 料理好きの日本人だった前世の記憶を持つ公爵令嬢レティシアは、ある日、王太子から婚約破棄を言い渡される。 身に覚えのない罪を着せられ、辺境のボロ別荘へ追放……と思いきや、レティシアは内心ガッツポーズ! 「これで堅苦しい妃教育から解放される! 今日から料理三昧よ!」 彼女は念願だったカフェ『陽だまり亭』をオープン。 前世のレシピと、本人無自覚の『魔力回復スパイス』たっぷりの手料理は、疲れた冒険者や町の人々を瞬く間に虜にしていく。 そんな店に現れたのは、この地を治める「氷の騎士」こと辺境伯ジークフリート。 冷徹で恐ろしいと噂される彼だったが、レティシアの作った唐揚げやプリンを食べた瞬間、その氷の表情が溶け出して――? 「……美味い。この味を、一生求めていた気がする」 (ただの定食なんですけど、大げさすぎません?) 強面だけど実は甘党な辺境伯様に胃袋を掴んで求婚され、拾った白い子犬には懐かれ、レティシアの辺境ライフは毎日がお祭り騒ぎ! 一方、彼女を捨てた王太子と自称聖女は、レティシアの加護が消えたことでご飯が不味くなり、不幸のどん底へ。 「戻ってきてくれ」と泣きつかれても、もう知りません。 私は最強の旦那様と、温かいご飯を食べて幸せになりますので。 ※本作は小説家になろう様でも掲載しています。ちなみに以前投稿していた作品のリメイクにもなります。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。