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第二十話
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静かな部屋だった。
ただし、部屋の中に広がるのは黒く濁った穢れの漂う空気。
そんな中、御簾の中に座る祟り神はその時を今か今かと待っていた。
早くおいで。
早くおいで。
この穢れた私のところへと、早くおいで。
その声に招かれるように、玉枝と鈴は部屋の中へと足を踏み入れた。
鈴の体は硬直し、もう一歩たりとも進めないと言わんばかりに、首を横に振る。
玉枝はそんな鈴の頭を優しく撫でると、また一歩前へと進み出た。
そして、御簾の前にて袖を祓い、跪いた。
「御前に突然の訪問、申し訳ございません。私めは狐の面を授かりし薬師玉枝と申します。どうか御身を穢す穢れを取り払うお手伝いをさせてはいただけないでしょうか。」
くつくつとした笑い声が聞こえ、玉枝がちらりと御簾へと視線をやれば、ゆっくりと御簾が開いていく。
そして、その中から扇子で顔を隠した、美しい十二単を纏った女の姿が現れる。
『神々の薬師か・・・ふふ。私を癒せると?』
「そのお手伝いをさせていただきとうございます。」
『ふふふ。では、癒して見せよ。』
次の瞬間、扇子を取り払った祟り神の姿に、玉枝は息を飲んだ。
その顔は、鈴と同じであり、後ろを振り返ると、真っ青な顔を鈴がガタガタと震えながら祟り神を見つめている。
「これ・・・は・・・。」
『人とは恐ろしい生き物よのぉ。私のこの身を崩しては切り、それを人へと植え付ける。私は祟り神となり、私を切り身を植え付けられた子は、人間の宮にて、人身御供として生きる。ふふふふ。そんな私を、元は人の子が癒すと?ふふふふははははは!』
黒い穢れが一気に部屋へと広がり、玉枝は鈴を背に庇うと声を荒げた。
「お怒りを鎮めてくださいませ!」
『っは!この身にはすでに怒りと悲しみ、人を亡ぼすという憎しみしか残っていない。人間など、いない方が世界の為だ!』
玉枝は心の中で舌打ちをする。
人の世がどうなろうと、玉枝にだって今はどうでもいいと言える。
関わり合いのある人間などいない。
けれども、後ろでガタガタと震え続ける鈴の手が、玉枝の服の袖をぎゅっと掴む。
すがるような小さな手。
この手はきっと今何が起こっているのか分からず、自分の存在についても分からず、恐れ、そして悲しみに満ちている。
玉枝は呼吸を整えると言った。
「鈴。まずは神を鎮めることが先決だ。人の業については後で。お前はまずは生き延びる事を考えろ。」
瞳におびえと涙が浮かぶ。
けれども、ここに頼れる人間などいない。
鈴は震えながらも小さく頷いた。
「いい子だ。出立前に渡した札を使いなさい。しばらくは防げる。」
「た、玉枝様は?」
「なに。神様に直談判さ。」
玉枝は怒りに満ちる祟り神の姿を見つめる。
鈴には事前に守護の為の札を渡してある。自分が生きているうちはもつだろう。
玉枝は苦笑を浮かべた。
どこまで生き延びられるか。
袖を祓い、玉枝は祟り神へと向き直るのであった。
ただし、部屋の中に広がるのは黒く濁った穢れの漂う空気。
そんな中、御簾の中に座る祟り神はその時を今か今かと待っていた。
早くおいで。
早くおいで。
この穢れた私のところへと、早くおいで。
その声に招かれるように、玉枝と鈴は部屋の中へと足を踏み入れた。
鈴の体は硬直し、もう一歩たりとも進めないと言わんばかりに、首を横に振る。
玉枝はそんな鈴の頭を優しく撫でると、また一歩前へと進み出た。
そして、御簾の前にて袖を祓い、跪いた。
「御前に突然の訪問、申し訳ございません。私めは狐の面を授かりし薬師玉枝と申します。どうか御身を穢す穢れを取り払うお手伝いをさせてはいただけないでしょうか。」
くつくつとした笑い声が聞こえ、玉枝がちらりと御簾へと視線をやれば、ゆっくりと御簾が開いていく。
そして、その中から扇子で顔を隠した、美しい十二単を纏った女の姿が現れる。
『神々の薬師か・・・ふふ。私を癒せると?』
「そのお手伝いをさせていただきとうございます。」
『ふふふ。では、癒して見せよ。』
次の瞬間、扇子を取り払った祟り神の姿に、玉枝は息を飲んだ。
その顔は、鈴と同じであり、後ろを振り返ると、真っ青な顔を鈴がガタガタと震えながら祟り神を見つめている。
「これ・・・は・・・。」
『人とは恐ろしい生き物よのぉ。私のこの身を崩しては切り、それを人へと植え付ける。私は祟り神となり、私を切り身を植え付けられた子は、人間の宮にて、人身御供として生きる。ふふふふ。そんな私を、元は人の子が癒すと?ふふふふははははは!』
黒い穢れが一気に部屋へと広がり、玉枝は鈴を背に庇うと声を荒げた。
「お怒りを鎮めてくださいませ!」
『っは!この身にはすでに怒りと悲しみ、人を亡ぼすという憎しみしか残っていない。人間など、いない方が世界の為だ!』
玉枝は心の中で舌打ちをする。
人の世がどうなろうと、玉枝にだって今はどうでもいいと言える。
関わり合いのある人間などいない。
けれども、後ろでガタガタと震え続ける鈴の手が、玉枝の服の袖をぎゅっと掴む。
すがるような小さな手。
この手はきっと今何が起こっているのか分からず、自分の存在についても分からず、恐れ、そして悲しみに満ちている。
玉枝は呼吸を整えると言った。
「鈴。まずは神を鎮めることが先決だ。人の業については後で。お前はまずは生き延びる事を考えろ。」
瞳におびえと涙が浮かぶ。
けれども、ここに頼れる人間などいない。
鈴は震えながらも小さく頷いた。
「いい子だ。出立前に渡した札を使いなさい。しばらくは防げる。」
「た、玉枝様は?」
「なに。神様に直談判さ。」
玉枝は怒りに満ちる祟り神の姿を見つめる。
鈴には事前に守護の為の札を渡してある。自分が生きているうちはもつだろう。
玉枝は苦笑を浮かべた。
どこまで生き延びられるか。
袖を祓い、玉枝は祟り神へと向き直るのであった。
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