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十よん

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 雪女の身体から呪は消え、その表情も苦しそうなものではなく落ち着いて寝息をたてたいる。

 その様子を見た夜叉は、その場にしゃがみこんでしまっている光葉に礼を伝えた。

「感謝する。」

 放心していた光葉であったが、その言葉に我に返ると笑みを浮かべて頷いた。

「雪女さんが無事で良かったです。」

「あぁ。」

 夜叉は光葉を抱き上げると、後のことは他の者らに任せ屋敷の廊下を歩きだした。

 そして光葉は寝所へと運ばれ、布団に下ろされる。

「疲れただろう。」

「いえ・・・」

 浮かない顔の光葉の頬を指先で優しく夜叉は撫でると言った。

「どうした?」

 光葉は、あのもやの中に見えた目を思いだし、眉間にシワを寄せると、首を横に振った。

「いえ、なんでもないです。」

「本当にか?」

「えぇ。多分、少し疲れたのだと思います。」

 夜叉はその言葉にほっとしたように息をつくと、光葉の頭を優しく撫でた。

「ゆっくり休め。俺は後片付けをしてくる。」

「はい。」

 部屋から出ていく夜叉を見送った光葉は、小さくため息をつくと、ごろりと布団に横になった。

 空はだいぶ明るくなり、二度寝しようにも先程の光景が頭を過り、瞼を閉じることさえ出来ない。

 夜叉に話した方がよかっただろうかと、頭ではそう思うのに、何故か口が開かなかった。

 こちらを見つめてきたあの目が怖いと感じた。

 それなのに、光葉は自分の胸に手を当てると、ざわつく心にこの感情は何なのかと問いたくなる。

 ちりりと何かが燃えるような痛みを感じて光葉は額を押さえた。

 そして、いつの間かに光葉は眠りに落ちていたようで、気付けば日は高く昇っていた。

 目を何度か瞬かせ、そして小さく息をつくと光葉は身体を起き上がらせようとして固まる。

 布団の横に、見知らぬ子どもが一人、座ってこちらを見つめていた。

 光葉は、ぱちりと瞬きをすると、ゆっくりと身体を起き上がらせてから、その子どもをじっくりと見つめた。

 尻尾も、耳も、牙も、まして角なんてものもない。

 どこからどう見ても、普通の人の子のように見えるものだから、光葉は困ってしまった。

「おはよう。あの、貴方はどなたかしら?」

「おはようございます。僕は、廣光様の式である名を楽と申します。」

「廣光様?・・えっーと、どなたかしら?」

「簡単に言えば、殿様でございます。」

「殿様?」

「ええ。廣光様より夜叉の屋敷を探るよう命じられましたが、おそらくは、廣光様の知りたかった根元はあなた様であると考え、お目覚めを待っておりました。」

 光葉はその言葉に首をかしげると、優しく楽の頭を撫でた。

 楽はその様子に首をかしげる。

「あなた小さいのにしっかりしているのねぇ。」

「これは、子ども扱いというものでしょうか?僕は子どもではありません。式です。なので、このような扱いは不要です。」

「あら、そうなの。」

 光葉はそう言うとクスクスと笑い、立ち上がると棚の中から金平糖を取り出し、それを楽の前へと置いた。

「これ、夜叉様からいただいたの。とっーても甘くて美味しいの。食べてみてごらんなさいな。」

「・・・」

 楽が困ったように眉間にシワを寄せた時であった。

 部屋の外側からまるで鎖のようなものが部屋中を取り囲み、光葉の寝所がまるで牢獄のように閉ざされる。

 光葉が目を丸くすると、いつの間にかその横には夜叉が立ち、楽へと刀を向けるのであった。



 

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