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十さん
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藤原 廣光はたった今起こった出来事に衝撃を受け、動けずにいた。
城の一室に戻り、夜叉はどうなっていることかとそう思っていた。
廣光の両手は、妖怪を脅かす力。特別な力を持つ呪を操ることが出来る。
対価を支払い手に入れた呪いの力であるが、妖怪に対抗する為に廣光は躊躇うことなくその力を欲した。
呪を解除する方法はいくらかはある。
けれどもどの方法も容易ではない。
また、廣光の呪は特別なものであり、それらの方法を用いても簡単には解けるものではない。
簡単に解けるものならば、廣光は対価を支払ってまで手には入れなかっただろう。
だが。
「なんじゃ、あの、力は。」
呪が跳ね返される瞬間、廣光はその原因を探ろうと呪に干渉し、道を開いた。
目があった。
美しい、澄んだ瞳を見た。
「光・・葉・・・?いや、そんなバカな。」
廣光は頭を振ると頭を掻きむしり項垂れた。
そんな訳はない。
いるはずがない。
彼女は死んだのだ。
妖怪のせいで、あの夜に、死んだのだ。
彼女なわけがない。
そう頭の中では思うのにも関わらず、心臓がどくりと脈打ち痛む。
心臓、いや、心がだろう。
心が叫ぶ。
あれは光葉だと。
否定する頭と、肯定する心。
ぎりりと、失った右目に痛みが走る。
あの時の痛みや絶望を思い出せと言わんばかりに。
あの夜、全てを失ったあの夜に廣光は決意したのだ。
妖怪など、この世から消してやると。
自分は妖怪になど負けないと。
廣光は人の形をした紙にふっと息を吹き掛けると子どもの姿をした式神を作りだした。
「夜叉の屋敷を見てこい。」
「はい。」
とにかく何が原因で自らの呪が跳ね返されたのかを突き詰めなければならない。
もし呪を意図も簡単に解ける力を持った者が存在するのであれば、何としてでもこちら側へと取り込まなくてはならない。
夜叉に掛けた呪は通常のものではないから恐らく容易に解けることはないはずだ。
それでも、あれをもし解かれたら。
廣光は眉間にシワを寄せるとふーっと息を吐き、怒りを静めていく。
呪に関しての疑問と光葉に関しての期待。
廣光は顔を上げると、にやりと笑みを作った。
笑え。
どうせこの世は地獄も同然。
ならば笑って楽しむ方が生きやすい。
「不条理ばかりじゃのぉ。」
廣光の言葉はシンとした部屋にただ響いた。
城の一室に戻り、夜叉はどうなっていることかとそう思っていた。
廣光の両手は、妖怪を脅かす力。特別な力を持つ呪を操ることが出来る。
対価を支払い手に入れた呪いの力であるが、妖怪に対抗する為に廣光は躊躇うことなくその力を欲した。
呪を解除する方法はいくらかはある。
けれどもどの方法も容易ではない。
また、廣光の呪は特別なものであり、それらの方法を用いても簡単には解けるものではない。
簡単に解けるものならば、廣光は対価を支払ってまで手には入れなかっただろう。
だが。
「なんじゃ、あの、力は。」
呪が跳ね返される瞬間、廣光はその原因を探ろうと呪に干渉し、道を開いた。
目があった。
美しい、澄んだ瞳を見た。
「光・・葉・・・?いや、そんなバカな。」
廣光は頭を振ると頭を掻きむしり項垂れた。
そんな訳はない。
いるはずがない。
彼女は死んだのだ。
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彼女なわけがない。
そう頭の中では思うのにも関わらず、心臓がどくりと脈打ち痛む。
心臓、いや、心がだろう。
心が叫ぶ。
あれは光葉だと。
否定する頭と、肯定する心。
ぎりりと、失った右目に痛みが走る。
あの時の痛みや絶望を思い出せと言わんばかりに。
あの夜、全てを失ったあの夜に廣光は決意したのだ。
妖怪など、この世から消してやると。
自分は妖怪になど負けないと。
廣光は人の形をした紙にふっと息を吹き掛けると子どもの姿をした式神を作りだした。
「夜叉の屋敷を見てこい。」
「はい。」
とにかく何が原因で自らの呪が跳ね返されたのかを突き詰めなければならない。
もし呪を意図も簡単に解ける力を持った者が存在するのであれば、何としてでもこちら側へと取り込まなくてはならない。
夜叉に掛けた呪は通常のものではないから恐らく容易に解けることはないはずだ。
それでも、あれをもし解かれたら。
廣光は眉間にシワを寄せるとふーっと息を吐き、怒りを静めていく。
呪に関しての疑問と光葉に関しての期待。
廣光は顔を上げると、にやりと笑みを作った。
笑え。
どうせこの世は地獄も同然。
ならば笑って楽しむ方が生きやすい。
「不条理ばかりじゃのぉ。」
廣光の言葉はシンとした部屋にただ響いた。
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