妖怪の親方様に捧げられた生贄姫は生き生きと館を闊歩する

かのん

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十はち

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 瞼がとてつもなく重たく感じる中、光葉はどうにか瞼を持ち上げ、天井を見つめる。

 外は明るく、日はとうに高く登っているようであり、自分はどれほど眠っていたのだろうかと瞬きを繰り返す。

 するとふと、手が温かで柔らかな何かに包まれていることに気が付く。

 何かと少し身体を起こして、手の方へと視線を向け、そして、その先で寝息をたてているその者に、光葉は目を奪われた。

 まだ幼いその容姿ではあるが、髪も角も見たことのある色合いであり、そして何より自分の鼓動が手を握るその人物が誰かを物語っていた。

「夜叉・・様?」

 夜叉の半分ほどの大きさしかなく、手もあのごつごつと男らしいものではなくなっている。

 光葉よりも幼く見えるその姿。

 けれども、光葉には夜叉であると確信をもって言うことができる。

 この、鼓動がその証だ。

 名を呼ばれたからか、微かに瞼がぴくりと反応し、瞳が開く。

 そして、目があった瞬間に、優しい眼差しが光葉に向けられた。

「起きたか。光葉。」

 声すらも、男らしい低い声から、少女のような可愛らしい声に変わっている。

 少しばかり驚きながらも、光葉はその優しい視線に笑みを返して頬を染めると頷いた。

「はい。おはようございます。夜叉様。」

「あぁ。」

 夜叉はそう言うと身体を起こして光葉の身体を優しくぎゅっと抱き締めた。

 突然の包容に光葉はさらに顔を赤らめると、おずおずと夜叉の背に自身の腕を回し、ぎゅっと抱き締め返した。

 温かなその温もりと、心臓のとくりとくりという音が聞こえ、光葉は幸せだなと感じながら、夜叉の肩口に自らの頭をもたげて、息をついた。

「光葉。どこまで覚えている?」

 その言葉に、光葉は少し考えると言った。

「楽に金平糖を進めたところまでは、覚えていますが、一体どうなったのです?」

「お前は倒れて、十日ほど眠っていた。」

「え?十日?!」

 光葉はその瞬間に夜叉から身体を離すと、自身の身体を抱き締めながら声をあげた。

「ち、近寄らないでくださいませ!」

 夜叉はその言葉に少なからず衝撃を受け、目を丸くするとそのまま固まった。

「ど、どうしたのだ?」

 夜叉は狼狽える光葉に、理由を訪ね、そして、その答えに目を丸くして声をあげて笑うこととなる。

「私十日も湯浴みをしていないのでしょう?!臭くて汚いです!」

 夜叉の笑い声に身を潜めていた他の妖怪達も姿を現し、光葉の目覚めを喜ぶのだが、光葉はそれどころではない。

「ゆ、湯浴みをさせてくださいませ!どうかお願いでございます!」

 涙目で狼狽える光葉の姿に夜叉はさらに笑い声をあげ、その様子に他の妖怪達は目を丸くする。

「なんと、親方様が笑っている。」

「初めて見ましたなぁ!」

「はは!さすがお嫁様じゃ!」

「親方様を笑わせられるのはお嫁様だけじゃな!」

 和気あいあいと和やかな空気が流れる中、光葉だけは童達と慌てて湯浴みへと向かったのであった。

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