18 / 23
十はち
しおりを挟む
瞼がとてつもなく重たく感じる中、光葉はどうにか瞼を持ち上げ、天井を見つめる。
外は明るく、日はとうに高く登っているようであり、自分はどれほど眠っていたのだろうかと瞬きを繰り返す。
するとふと、手が温かで柔らかな何かに包まれていることに気が付く。
何かと少し身体を起こして、手の方へと視線を向け、そして、その先で寝息をたてているその者に、光葉は目を奪われた。
まだ幼いその容姿ではあるが、髪も角も見たことのある色合いであり、そして何より自分の鼓動が手を握るその人物が誰かを物語っていた。
「夜叉・・様?」
夜叉の半分ほどの大きさしかなく、手もあのごつごつと男らしいものではなくなっている。
光葉よりも幼く見えるその姿。
けれども、光葉には夜叉であると確信をもって言うことができる。
この、鼓動がその証だ。
名を呼ばれたからか、微かに瞼がぴくりと反応し、瞳が開く。
そして、目があった瞬間に、優しい眼差しが光葉に向けられた。
「起きたか。光葉。」
声すらも、男らしい低い声から、少女のような可愛らしい声に変わっている。
少しばかり驚きながらも、光葉はその優しい視線に笑みを返して頬を染めると頷いた。
「はい。おはようございます。夜叉様。」
「あぁ。」
夜叉はそう言うと身体を起こして光葉の身体を優しくぎゅっと抱き締めた。
突然の包容に光葉はさらに顔を赤らめると、おずおずと夜叉の背に自身の腕を回し、ぎゅっと抱き締め返した。
温かなその温もりと、心臓のとくりとくりという音が聞こえ、光葉は幸せだなと感じながら、夜叉の肩口に自らの頭をもたげて、息をついた。
「光葉。どこまで覚えている?」
その言葉に、光葉は少し考えると言った。
「楽に金平糖を進めたところまでは、覚えていますが、一体どうなったのです?」
「お前は倒れて、十日ほど眠っていた。」
「え?十日?!」
光葉はその瞬間に夜叉から身体を離すと、自身の身体を抱き締めながら声をあげた。
「ち、近寄らないでくださいませ!」
夜叉はその言葉に少なからず衝撃を受け、目を丸くするとそのまま固まった。
「ど、どうしたのだ?」
夜叉は狼狽える光葉に、理由を訪ね、そして、その答えに目を丸くして声をあげて笑うこととなる。
「私十日も湯浴みをしていないのでしょう?!臭くて汚いです!」
夜叉の笑い声に身を潜めていた他の妖怪達も姿を現し、光葉の目覚めを喜ぶのだが、光葉はそれどころではない。
「ゆ、湯浴みをさせてくださいませ!どうかお願いでございます!」
涙目で狼狽える光葉の姿に夜叉はさらに笑い声をあげ、その様子に他の妖怪達は目を丸くする。
「なんと、親方様が笑っている。」
「初めて見ましたなぁ!」
「はは!さすがお嫁様じゃ!」
「親方様を笑わせられるのはお嫁様だけじゃな!」
和気あいあいと和やかな空気が流れる中、光葉だけは童達と慌てて湯浴みへと向かったのであった。
外は明るく、日はとうに高く登っているようであり、自分はどれほど眠っていたのだろうかと瞬きを繰り返す。
するとふと、手が温かで柔らかな何かに包まれていることに気が付く。
何かと少し身体を起こして、手の方へと視線を向け、そして、その先で寝息をたてているその者に、光葉は目を奪われた。
まだ幼いその容姿ではあるが、髪も角も見たことのある色合いであり、そして何より自分の鼓動が手を握るその人物が誰かを物語っていた。
「夜叉・・様?」
夜叉の半分ほどの大きさしかなく、手もあのごつごつと男らしいものではなくなっている。
光葉よりも幼く見えるその姿。
けれども、光葉には夜叉であると確信をもって言うことができる。
この、鼓動がその証だ。
名を呼ばれたからか、微かに瞼がぴくりと反応し、瞳が開く。
そして、目があった瞬間に、優しい眼差しが光葉に向けられた。
「起きたか。光葉。」
声すらも、男らしい低い声から、少女のような可愛らしい声に変わっている。
少しばかり驚きながらも、光葉はその優しい視線に笑みを返して頬を染めると頷いた。
「はい。おはようございます。夜叉様。」
「あぁ。」
夜叉はそう言うと身体を起こして光葉の身体を優しくぎゅっと抱き締めた。
突然の包容に光葉はさらに顔を赤らめると、おずおずと夜叉の背に自身の腕を回し、ぎゅっと抱き締め返した。
温かなその温もりと、心臓のとくりとくりという音が聞こえ、光葉は幸せだなと感じながら、夜叉の肩口に自らの頭をもたげて、息をついた。
「光葉。どこまで覚えている?」
その言葉に、光葉は少し考えると言った。
「楽に金平糖を進めたところまでは、覚えていますが、一体どうなったのです?」
「お前は倒れて、十日ほど眠っていた。」
「え?十日?!」
光葉はその瞬間に夜叉から身体を離すと、自身の身体を抱き締めながら声をあげた。
「ち、近寄らないでくださいませ!」
夜叉はその言葉に少なからず衝撃を受け、目を丸くするとそのまま固まった。
「ど、どうしたのだ?」
夜叉は狼狽える光葉に、理由を訪ね、そして、その答えに目を丸くして声をあげて笑うこととなる。
「私十日も湯浴みをしていないのでしょう?!臭くて汚いです!」
夜叉の笑い声に身を潜めていた他の妖怪達も姿を現し、光葉の目覚めを喜ぶのだが、光葉はそれどころではない。
「ゆ、湯浴みをさせてくださいませ!どうかお願いでございます!」
涙目で狼狽える光葉の姿に夜叉はさらに笑い声をあげ、その様子に他の妖怪達は目を丸くする。
「なんと、親方様が笑っている。」
「初めて見ましたなぁ!」
「はは!さすがお嫁様じゃ!」
「親方様を笑わせられるのはお嫁様だけじゃな!」
和気あいあいと和やかな空気が流れる中、光葉だけは童達と慌てて湯浴みへと向かったのであった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる