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三話 別れを告げる
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月に一度のアベル様とのお茶会の席。私は毎月この日を楽しみにし、一喜一憂していた。
そしてたいていの場合、帰りの馬車の中で今日もアベル様を不機嫌にさせてしまったと落ち込んで帰るのである。
けれど、私はもう以前までの私ではない。
馬車の中で自分の胸に手を当ててみると、アベルに会える喜びよりも、別れを早く告げたいという思いの方が強くなっていた。
両親にはすでにアベル様の一件については、浮気から今までの自分に対する言動だとかそういうものも、もろもろと伝えてある。
今までアベル様を愛していたので黙っていた私だったが、もう関係はない。
クズ男などこちらからご免である。
両親は賛成すると同時に婚約破棄に向けての手続きも取ることを了承してくれた。もちろん浮気したのはアベル様であるから、慰謝料もとると、両親ともに意気込んでいる。
ただ、ちゃんと別れは自分から告げたいと両親に伝え、現在はまだ婚約者の状態である。
けれど、それも今日で終わりである。
馬車を降りるといつものようにアベル様の出迎えはない。私はいつもアベル様が待っている庭まで移動し、そしてすでに席に座り、いらだった様子でお茶を飲む姿を見て、呼吸を整えた。
さっさと終わらせて帰ろう。
アベル様は私が来たことに気づくと、眉間にしわを寄せて、それから舌打ちをした。
「セリーナ嬢。やっときたか。遅い」
私は微笑みを浮かべてアベル様の隣の席へと腰を下ろした。
「ごきげんよう。アベル様」
「……あぁ」
この後きっと他のご令嬢との約束があるのであろう。
時計をしきりに気にする様子を見て、私はこの人も懲りない人だなと思いながら口を開いた。
「アベル様。アベル様は、私との婚約どう思っていらっしゃるのですか?」
元々アベル様は私のことが好きではないのだ。今考えてみれば、好きでもない女など相手にしたいわけはないだろう。ただ、貴族の役目であるから、本来ならばしょうがないことではあるのだが。
「っち。ふざけるな。嫌に決まっているだろう。前から言っているだろう。俺はお前が好きではない。好みでもない」
私はその言葉にうなずくと、はっきりとした声で言った。
「では、婚約破棄いたしましょう」
一瞬の間があく。
近くにいた侍女や執事は動きを止め、アベルもまた、突然のことに動きを止めると、一拍置いてから私の方へと視線を向けた。
「何を言っているんだ?」
私は持ってきたカバンの中から書類を取り出し、それをアベル様に手渡した。
アベル様は困惑した様子ではありながらもそれらを受け取り、そしてその書類に目を通してから眉間のしわが深くなった。
「これまでの、アベル様の浮気についての情報とその証拠、あと私に言った言葉についても記載してあります」
「こ、これがなんだという?」
意味が分からないといった様子のアベル様に、私は静かに答えた。
「アベル様。別れましょう」
「なっ!?」
驚いた様子で立ち上がったアベル様は声を荒げた。
「何を!? っは! わかったぞ。そう言って俺の気を引く作戦か。ふっ、無駄なことだ」
私はその言葉に笑顔で答えた。
「いえ、違います。私、もうアベル様のこと、これっぽっちも愛しても好きでもありませんから、むしろこんなクズ男こちらから願い下げです」
その言葉に、アベル様は驚いたように、動きを止めたのであった。
そしてたいていの場合、帰りの馬車の中で今日もアベル様を不機嫌にさせてしまったと落ち込んで帰るのである。
けれど、私はもう以前までの私ではない。
馬車の中で自分の胸に手を当ててみると、アベルに会える喜びよりも、別れを早く告げたいという思いの方が強くなっていた。
両親にはすでにアベル様の一件については、浮気から今までの自分に対する言動だとかそういうものも、もろもろと伝えてある。
今までアベル様を愛していたので黙っていた私だったが、もう関係はない。
クズ男などこちらからご免である。
両親は賛成すると同時に婚約破棄に向けての手続きも取ることを了承してくれた。もちろん浮気したのはアベル様であるから、慰謝料もとると、両親ともに意気込んでいる。
ただ、ちゃんと別れは自分から告げたいと両親に伝え、現在はまだ婚約者の状態である。
けれど、それも今日で終わりである。
馬車を降りるといつものようにアベル様の出迎えはない。私はいつもアベル様が待っている庭まで移動し、そしてすでに席に座り、いらだった様子でお茶を飲む姿を見て、呼吸を整えた。
さっさと終わらせて帰ろう。
アベル様は私が来たことに気づくと、眉間にしわを寄せて、それから舌打ちをした。
「セリーナ嬢。やっときたか。遅い」
私は微笑みを浮かべてアベル様の隣の席へと腰を下ろした。
「ごきげんよう。アベル様」
「……あぁ」
この後きっと他のご令嬢との約束があるのであろう。
時計をしきりに気にする様子を見て、私はこの人も懲りない人だなと思いながら口を開いた。
「アベル様。アベル様は、私との婚約どう思っていらっしゃるのですか?」
元々アベル様は私のことが好きではないのだ。今考えてみれば、好きでもない女など相手にしたいわけはないだろう。ただ、貴族の役目であるから、本来ならばしょうがないことではあるのだが。
「っち。ふざけるな。嫌に決まっているだろう。前から言っているだろう。俺はお前が好きではない。好みでもない」
私はその言葉にうなずくと、はっきりとした声で言った。
「では、婚約破棄いたしましょう」
一瞬の間があく。
近くにいた侍女や執事は動きを止め、アベルもまた、突然のことに動きを止めると、一拍置いてから私の方へと視線を向けた。
「何を言っているんだ?」
私は持ってきたカバンの中から書類を取り出し、それをアベル様に手渡した。
アベル様は困惑した様子ではありながらもそれらを受け取り、そしてその書類に目を通してから眉間のしわが深くなった。
「これまでの、アベル様の浮気についての情報とその証拠、あと私に言った言葉についても記載してあります」
「こ、これがなんだという?」
意味が分からないといった様子のアベル様に、私は静かに答えた。
「アベル様。別れましょう」
「なっ!?」
驚いた様子で立ち上がったアベル様は声を荒げた。
「何を!? っは! わかったぞ。そう言って俺の気を引く作戦か。ふっ、無駄なことだ」
私はその言葉に笑顔で答えた。
「いえ、違います。私、もうアベル様のこと、これっぽっちも愛しても好きでもありませんから、むしろこんなクズ男こちらから願い下げです」
その言葉に、アベル様は驚いたように、動きを止めたのであった。
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