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二話 さよなら 初恋
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昨日まではアベル様のことを思うと胸が痛くて、一喜一憂していたというのに、私が今アベル様に抱く感情と言えば、クズな男。というものだった。
「うそ……私、アベル様のこと、好きじゃないわ。まぁ。不思議」
「ははっ。そりゃそうだろうね。ほら、これがあんたの恋心さ」
目の前にいるのは、黒いローブを着た魔女。
私は現在、魔女様の占いの館に来ている。
魔女の手には桃色の水晶が握られており、その内側はかすかに濁っていた。
「魔女様がこんなことが出来るなんて、すごいですね」
「ふふ。私はね、長い時間生きてきたから、いろんな男に出会ってきた。世の中には本当にどうしようもない人間に恋をするやつがいるのさ。あまりにもねぇ、そんな人たちが不憫で、私はこの魔法を生み出したのさ。それで、最後にもう一度聞くが、これはもう、いらないね?」
「ええ。いりません」
きっぱりと私が告げると、魔女様は桃色の水晶を自身の紅茶の中へと落とした。するとそれはすっと溶けて消えてしまう。
「あんたは悪いがね、これがなんとまぁ、美味いこと。美味いこと」
魔女様はそういうと、カランコロンと音を立ててティーカップを混ぜ、そしてゆっくりとそれを味わうように飲みだす。
私は本当に美味しいのだろうかといぶかし気に見つめるが、飲み干した魔女様は若返っており、頬が朱色に染まっている。
「ぷはぁ~。若返ったわぁ~」
「す、すごいですね」
魔女様はくすりと笑うと、私の方をじっと見つめながら言った。
「あんたの想いが純粋だったからさ。だからこんなに甘くて美味しい。けどね、純粋だからといて幸せになれるもんじゃない。あんたはこの想いをなくした方がきっと幸せになれるよ」
「そうだと、いいんですが……」
「大丈夫さ。私が選ぶ子は皆、辛い思いを抱えていたがね、その後すぐに運命が訪れた」
「運命?」
魔女様は楽しそうににこりと微笑むと言った。
「あんたは初恋ってやつに縛られて、本当の運命を逃してきた。それがきっとすぐにやっと自分の出番が来たと飛んでくるだろうよ」
「不思議な、話ですね?」
魔女様はけらけらと笑い声をあげると言った。
「世の中は不思議なものだらけさ。けれど、それを見つけられるかどうかは自分次第。あんたも私を見つけただろう? きっと導かれたのさ」
魔女様と私が出会ったのは、数日前の土砂降りの日だった。
私がアベル様の屋敷から帰っている途中、馬車が止まると、路上にうずくまる魔女様と出会った。私は魔女様をご自宅まで送り届けた。
魔女様は病気とかそういうのではなくて、べろんべろんに酔っぱらっていたのだ。
「いやぁ、久しぶりに飲みすぎた。けどね、私が飲むのも運命だったのさ。そのおかげであんたに出会えて、こうやって美味しいものにありつけた」
そういうと、また魔女様はけらけらと笑い声をあげた。
最初私は魔女様からお礼をしたいと招待され、行くかどうかも迷った。けれど、魔女様にアベル様とのことを言い当てられ、恋心をなくす方法があると聞き、私は思わずそれに縋ったのだ。
もう、嫌だった。
恋心に振り回される自分も。
アベル様を思い続ける辛い日々も。
だから、私は魔女様に飲み干されていく自分の恋心を見つめながら心の中でお別れを言った。
さようなら。私の初恋。
「うそ……私、アベル様のこと、好きじゃないわ。まぁ。不思議」
「ははっ。そりゃそうだろうね。ほら、これがあんたの恋心さ」
目の前にいるのは、黒いローブを着た魔女。
私は現在、魔女様の占いの館に来ている。
魔女の手には桃色の水晶が握られており、その内側はかすかに濁っていた。
「魔女様がこんなことが出来るなんて、すごいですね」
「ふふ。私はね、長い時間生きてきたから、いろんな男に出会ってきた。世の中には本当にどうしようもない人間に恋をするやつがいるのさ。あまりにもねぇ、そんな人たちが不憫で、私はこの魔法を生み出したのさ。それで、最後にもう一度聞くが、これはもう、いらないね?」
「ええ。いりません」
きっぱりと私が告げると、魔女様は桃色の水晶を自身の紅茶の中へと落とした。するとそれはすっと溶けて消えてしまう。
「あんたは悪いがね、これがなんとまぁ、美味いこと。美味いこと」
魔女様はそういうと、カランコロンと音を立ててティーカップを混ぜ、そしてゆっくりとそれを味わうように飲みだす。
私は本当に美味しいのだろうかといぶかし気に見つめるが、飲み干した魔女様は若返っており、頬が朱色に染まっている。
「ぷはぁ~。若返ったわぁ~」
「す、すごいですね」
魔女様はくすりと笑うと、私の方をじっと見つめながら言った。
「あんたの想いが純粋だったからさ。だからこんなに甘くて美味しい。けどね、純粋だからといて幸せになれるもんじゃない。あんたはこの想いをなくした方がきっと幸せになれるよ」
「そうだと、いいんですが……」
「大丈夫さ。私が選ぶ子は皆、辛い思いを抱えていたがね、その後すぐに運命が訪れた」
「運命?」
魔女様は楽しそうににこりと微笑むと言った。
「あんたは初恋ってやつに縛られて、本当の運命を逃してきた。それがきっとすぐにやっと自分の出番が来たと飛んでくるだろうよ」
「不思議な、話ですね?」
魔女様はけらけらと笑い声をあげると言った。
「世の中は不思議なものだらけさ。けれど、それを見つけられるかどうかは自分次第。あんたも私を見つけただろう? きっと導かれたのさ」
魔女様と私が出会ったのは、数日前の土砂降りの日だった。
私がアベル様の屋敷から帰っている途中、馬車が止まると、路上にうずくまる魔女様と出会った。私は魔女様をご自宅まで送り届けた。
魔女様は病気とかそういうのではなくて、べろんべろんに酔っぱらっていたのだ。
「いやぁ、久しぶりに飲みすぎた。けどね、私が飲むのも運命だったのさ。そのおかげであんたに出会えて、こうやって美味しいものにありつけた」
そういうと、また魔女様はけらけらと笑い声をあげた。
最初私は魔女様からお礼をしたいと招待され、行くかどうかも迷った。けれど、魔女様にアベル様とのことを言い当てられ、恋心をなくす方法があると聞き、私は思わずそれに縋ったのだ。
もう、嫌だった。
恋心に振り回される自分も。
アベル様を思い続ける辛い日々も。
だから、私は魔女様に飲み干されていく自分の恋心を見つめながら心の中でお別れを言った。
さようなら。私の初恋。
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