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一話 私の妹
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公爵令嬢である私、シーラ・エターシャには、皆が溺愛してやまない妹がいる。
エル・エターシャは、家に現れた瞬間から父、母、兄の関心を全て、根こそぎ奪っていった。今まで蝶よ花よと育てられてきた私にとっては青天の霹靂。
昨日までは私のことを可愛いと言っていた両親も兄も執事も侍女もメイドも、皆がエル至上主義へと変わり、そして私への関心は一切持ち合わせていないとばかりに冷たくなった。
三歳年下の妹に全て奪われた気持ちになって意地悪したり、わがままを言ったりしたけれど、そうしたことで私は別館へと移されて、たった一人になってしまった。
別館とはいえ綺麗な屋敷である。
けれど、当時たった三歳の私は家族にほぼ捨てられたような状況に絶望した。
寂しくて、毎日泣いていた。
ただ、エルに会うことのできない下っ端の使用人たちは私のことを可哀そうに思ってくれて、ちゃんとご飯だってくれたし、公爵令嬢として生きていけるように世話だって焼いてくれた。
別館の料理人のおじさんは今の状況はとても異質だと言いながらも、公爵様には逆らえないからすまないと何度も私に謝っていた。
そして私はそれから十二年間、両親にも兄にも放置され、十五歳のデビュタントを迎えることになる。
両親も兄も私のことを忘れていないらしく、ちゃんと家庭教師はつけてくれたし、誕生日にはプレゼントをくれた。
不思議だった。
誕生日プレゼントは何故か私の好みのものであった。
ただ、そうしたプレゼントも数日内には妹のエルが欲しいとねだっていると、エル付きの侍女がやってきて奪っていくのだ。
私はたまに遠目で家族が仲良さげに庭を散歩したりしているのを見つめながら、小首をかしげてしまう。
「不思議ねぇ」
私は、私付きとなった侍女であるリーナに髪の毛を解かされながらつぶやいた。
「不思議でございますか?」
リーナは私のデビュタントに合わせてお父様が私の為にと雇ってくれたのだ。それもまた、不思議だった。
いや、普通公爵令嬢と言えば五人くらい侍女を携えていてもおかしくはないのだが。それでも、たまにお父様が仕事で長期間屋敷を離れた後などは、真面な父親らしいことをしてくれるので驚いてしまう。
「不思議よ。ねぇ、遠目から見てるだけで私近くでエルに会ったことすらないのだけれど、ここから見ていて思うのよ。あの子、そんなに可愛いかしら?」
「え?」
リーナは小首をかしげたのちに、遠目にいるエルへと視線を向け、目を細めてじっと見つめる。
「えぇーっと、私はエル様に直接お会いしたことがないので、ここからの感想になりますが……」
「いいのよ。はっきり聞かせて頂戴」
「あの、可愛らしいとは思いますが、その、はっきり申し上げまして、貴族の令嬢としては、その、普通かと」
「やっぱり? 私もずっとそう思っていたのよ」
しかもいつも思うのだが、本当に公爵家の血筋かと思ってしまうくらいに、エルは誰にも似ていないのである。
エターシャ一家はエル以外は皆金髪碧眼である。しかし、エルだけは違う。桃色の髪にエメラルドの瞳である。
確かにご先祖様にはそのような外見の方もいるにはいるのだが。
「私の妹って、そんなに可愛いかしら?」
というか、本当に私の妹なのかしら? と疑ってしまうシーラであった。
エル・エターシャは、家に現れた瞬間から父、母、兄の関心を全て、根こそぎ奪っていった。今まで蝶よ花よと育てられてきた私にとっては青天の霹靂。
昨日までは私のことを可愛いと言っていた両親も兄も執事も侍女もメイドも、皆がエル至上主義へと変わり、そして私への関心は一切持ち合わせていないとばかりに冷たくなった。
三歳年下の妹に全て奪われた気持ちになって意地悪したり、わがままを言ったりしたけれど、そうしたことで私は別館へと移されて、たった一人になってしまった。
別館とはいえ綺麗な屋敷である。
けれど、当時たった三歳の私は家族にほぼ捨てられたような状況に絶望した。
寂しくて、毎日泣いていた。
ただ、エルに会うことのできない下っ端の使用人たちは私のことを可哀そうに思ってくれて、ちゃんとご飯だってくれたし、公爵令嬢として生きていけるように世話だって焼いてくれた。
別館の料理人のおじさんは今の状況はとても異質だと言いながらも、公爵様には逆らえないからすまないと何度も私に謝っていた。
そして私はそれから十二年間、両親にも兄にも放置され、十五歳のデビュタントを迎えることになる。
両親も兄も私のことを忘れていないらしく、ちゃんと家庭教師はつけてくれたし、誕生日にはプレゼントをくれた。
不思議だった。
誕生日プレゼントは何故か私の好みのものであった。
ただ、そうしたプレゼントも数日内には妹のエルが欲しいとねだっていると、エル付きの侍女がやってきて奪っていくのだ。
私はたまに遠目で家族が仲良さげに庭を散歩したりしているのを見つめながら、小首をかしげてしまう。
「不思議ねぇ」
私は、私付きとなった侍女であるリーナに髪の毛を解かされながらつぶやいた。
「不思議でございますか?」
リーナは私のデビュタントに合わせてお父様が私の為にと雇ってくれたのだ。それもまた、不思議だった。
いや、普通公爵令嬢と言えば五人くらい侍女を携えていてもおかしくはないのだが。それでも、たまにお父様が仕事で長期間屋敷を離れた後などは、真面な父親らしいことをしてくれるので驚いてしまう。
「不思議よ。ねぇ、遠目から見てるだけで私近くでエルに会ったことすらないのだけれど、ここから見ていて思うのよ。あの子、そんなに可愛いかしら?」
「え?」
リーナは小首をかしげたのちに、遠目にいるエルへと視線を向け、目を細めてじっと見つめる。
「えぇーっと、私はエル様に直接お会いしたことがないので、ここからの感想になりますが……」
「いいのよ。はっきり聞かせて頂戴」
「あの、可愛らしいとは思いますが、その、はっきり申し上げまして、貴族の令嬢としては、その、普通かと」
「やっぱり? 私もずっとそう思っていたのよ」
しかもいつも思うのだが、本当に公爵家の血筋かと思ってしまうくらいに、エルは誰にも似ていないのである。
エターシャ一家はエル以外は皆金髪碧眼である。しかし、エルだけは違う。桃色の髪にエメラルドの瞳である。
確かにご先祖様にはそのような外見の方もいるにはいるのだが。
「私の妹って、そんなに可愛いかしら?」
というか、本当に私の妹なのかしら? と疑ってしまうシーラであった。
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