【完結】ヒロインは暗黒龍と共に、悪役令嬢の恋を応援します!

かのん

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第一章

アイデール王国 106

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 グリードは、泣き続けるレクス側にいた。

 その涙は止まらず、グリードが心配になる程である。

「レクス。もう泣き止んだらどうだ?」

 レクスは首を横に振る。

「泣き止み方を忘れた。すまない。だが、グリードが自由になっていて、驚いた。」

 その言葉に、グリードはこれまでの経緯をレクスに話した。

 そしてレクスもまた、これまでの人生を話した。





 大地は赤く燃え、太陽は遮られた災の魔力の満ちた時代。

 生きとし生ける者達全てが絶滅の一途を辿っていた。

 だれもが絶望し、前の日まで生きていたものが次の日には動かなくなっているのが当たり前の日々。

 レクスは今は無き忘却の王国の王子として、聖なる乙女を探し続けた。

 だが、聖なる乙女は見つからず、その旅の途中で聖龍であるグリードと出会った。

 グリードとはすぐに友になった。

 暗い事ばかりの日々が友を得た事で明るく楽しい日々へと変わった。

 だが、終わりは訪れる。

 これ以上、災の魔力を放っておけば、世界は終わる。

 あの日、無理な事は分かっていた。

 それでも、グリードと力を合わせれば災の魔力を封じる事が出来るのではと微かな希望も抱いていた。

 そんな訳はなかったのに。

 二人は魔法を駆使し、災の魔力を封じようとしたが難しく、災の魔力には聖なる力しか効かないのだと思い知らされた。

 あぁ、世界が終わる。

 その時、魔が差した。

 聖なる力は目の前にある。

 人々を助けたい。

 世界を救いたい。

 けれど、その為には、友を失う。

 初めての友。

 初めての同士。



 そんな揺れる心を彼に気づかれた。

 そして、選んだ。

 友よりも世界を救う事を。



 それからの日々こそが、自分にとっての地獄だった。

 人々は歓喜に湧き、英雄だと自分を褒め称える。

 違う。

 自分は残虐な裏切り者だ。

 だからこそ、自分も罪を背負うべきなのだ。


 聖龍ニフエルが、窓辺に降り立ち言った。


 我が同胞を災の魔力の生贄とし、生き延びたかと怒りを顕にして。

 けれど、彼は自分を殺すのではなく、ただ、彼を封印し、見守る事を自分に伝えに来たのだった。

 だから、あの山には誰も近づく事のできないようにしろと要求してきた。

 当然頷いた。

 だが、さり際に見たニフエルの瞳は、怒りと嘲りが入り交ざり、自分の胸に突き刺さった。

 あぁ、自分はなんと愚かなのだろう。

 苦しい。

 平和な世界の代償がこの苦しみ。

 それからの日々は、災の魔力の研究に徹した。

 国を渡り、文献を読み漁り、そして災の魔力を直に扱う研究を始めた。

 体が次第に蝕まれていくことは分かっていた。

 それでも、彼を助けたかった。

 そして、気がつくと、意識は魔力に呑み込まれていた。




 目の前にグリードが見えた瞬間奇跡だと思った。

 あぁ、奇跡だ。

「グリード、、、僕は、、君を失って辛かった。苦しかった。世界よりも、君を取れなかった自分が嫌で、、、、嫌で、、、。」

 グリードは笑った。

「そうか。なら良かったな。俺は帰ってきた。」

 そう言うグリードが眩しかった。

 フィリアは、そんな二人を後ろから見守っていたのだが、我慢できなくなるとグリードの横に行き、椅子に座った。

 レクスはやっと涙を止めると、フィリアに頭を下げた。

「聖なる乙女よ。本当にありがとう。」

 内心ただ二人の仲の良さげな様子にヤキモチを焼いただけのフィリアは、感謝されて驚いた。

 だが、それをあくまでバレないように微笑んで頷くと言った。

「私は私のしたい事をしたまでですから。」

 レクスがキラキラとした瞳でフィリアを見つめると、グリードがフィリアを抱き寄せた。

「レクス、フィリアは俺のモノだからあまり見つめるな。減る。」

 その言葉に、レクスは笑い声を上げた。

「さっきの君のこれまでの話を聞いた時に愛が溢れていたから、それは分かっているよ!」

 レクスにとって、八百年ぶりの笑いであった。

 あぁ、生きていればこんなにも幸福な日を迎える事もあるのだな。

 心が温かくなり、レクスはフィリアに感謝した。

 その後、八百年ぶりの笑顔の代償に顔が痛くなり、レクスはおかしくてまた笑った。





 
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