魔法使いアルル

かのん

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12話

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 穴の周りは昨日と同様に騎士が警備しており、人々はちらちらと訝しむように覗き込んでいる。

「結局どうなったんだ?」

「解決したのか? いや、でも解決しなたら穴をふさぐよなぁ」

「魔法使いっていうのは案外、役立たずなんだな」

「本当に……もっと早く解決できるのだと思っていたわ」

 街の人々のそうした声に、私はむっとしてしまう。

 けれどしゃべったら気づかれるかもしれないので、口は噤んで、べーっと舌を突き出してお父さんに続いて穴の中へとほうきに乗ったまま降りていく。

 昨日は中がどうなっているか分からなかったから行きは歩いていったけれど、道がわかっているのでほうきにまたがったまま穴の中を降りていく。

 穴の中にお父さんが明かりを灯してくれる。

「さて、どうなっているかのぉ」

 地下まで降り立ち、昨日の神域という場所までたどり着いた私たちは急いで杖を取り出した。

「何故じゃ。魔法が消えかけておる。急ぎ、魔法をかけなおすぞ!」

「「はい!」」

 赤い花がまた咲き、凍っていたはずのツルが溶けかけている。

 このままではまた動き出してしまう!

 私たちは急いでツルに魔法をかけ、凍らせていく。

 昨日と同じように、赤い花が咲いているところの、氷は溶けており、それを私たちはまた修復していく。

「一日でとけるとは……こりゃ、やっかいじゃぞ」

「先生! アルル! こっちに来てください!」

 レオの声に、私たちはその場の修復を終えるとすぐに駆け付けた。

 一体何を見つけたのだろうか。

 レオが指さした方は、小さな洞窟になっており、そこから隣にある空間がのぞき見れるようだ。

 私とお父さんがそこをのぞきこむと、息を呑んだ。

「え……うそ」

「こりゃぁ……大変じゃ」

 隣には三か所の神域のうちの一つがある。

 そして一つ目と同じように、巨大な氷の塊が浮いており、それにツルが絡みつき、真っ赤な花を咲かせているのだ。

 しかも、地面は氷ではなく、すでにたくさんのツルで覆いつくされていた。

「もう一か所の聖域はどうなっているのかな」

「うむ……そちらをまず確認しに行くか」

 私たちはうなずきあうと、もう三か所目の神域目指して歩き始めた。

 少しばかり歩きいきついた三か所目の神域に入った瞬間、私たちは今までとは違い空気が変わったことに気がついた。

 ここは入ってはいけない場所。

 そんな雰囲気が空気から伝わってくる。

「……なるほど、神域というだけあるの」

「お父さん、なんか、ここ、怖いね」

「僕もそう思った。なんだか怖い。ほかの二か所はそんなこと思わなかったのに」

 たしかにそうだな。

 ほかの二か所はこんなに怖いような空気は感じなかった。

 お父さんは静かに答えてくれた。

「この世界には、不思議な場所がいくつもある。この神域もその一つなのだろう。おそらく、あとの二か所にこの雰囲気がなかったのは、ツルにのみ込まれていたからだろう。ここにはツルは入っていないからな」

 その言葉にたしかにそうかもしれないと思う。

 空中に浮く氷の塊は、後の二か所よりも大きく、それでいて輝きが違う。

「ここに結界をはるぞ。ここツルが侵入しないようにな」

 私たちはうなずくと、三人の魔力を合わせて結界の魔法をかけていく。

 何者も入れないように、何者も通さない結界をしっかりとかけていく。

「よし。これで大丈夫じゃ。さてさて、次は、二か所目の神域のツルを凍らせて、一時的にだが進行を止めるか」

 お父さんがそう言った時であった。

 パタパタと、どこからか音が響いて聞こえてそちらへと私たちは視線を向ける。

 すると、そこには、一羽の白い鳥がいた。

 どこから飛んできたのだろうか。

 そう思っていると、お父さんの目の前でその姿は変わり、一通の手紙になった。

「おぉ。ジプソフィラ殿とスターチス殿からの手紙の返事じゃ。速かったの」

 手紙には一体何と書いてあるのだろうか。

 お父さんが手紙の封を開けた時、みどりの風がふんわりとその場に吹き抜けた。

 清涼な森の香りだ。

 次の瞬間、美しいジプソフィラとスターチスが、姿を現した。

 ただしその体は半透明であり、私はびっくりしてしまう。

「二人とも! 体が透けているよ! どうしたの!?」

 慌ててそう声をかけると、ジプソフィラさんとスターチスさんが私の頭を優しく撫でる。

 ただ、撫でられていると言う感覚は不思議となくて、そよ風が触れたような、そんな感じがした。

「アルル、久しぶりねぇ。私たちは実体ではないのよ」

「そうなんだ。ここには緑がないだろう? だから、ここへは我々は来られないんだ」

「だから、この手紙を通して話をしているの」

 その言葉に私はそんなこともできるのかと思った。

 二人はそれから真面目な表情に変わると話始めた。

「氷の王国には、基本的には植物は生えない。それはこの大地だからなの」

「だが、方法がないわけではない。それはヤドリギを作ってしまうこと」

「先ほどの手紙に描いてあったのは太陽の花と呼ばれるものよ」

「太陽の花はヤドリギがあれば、太陽とは真逆の力を吸い取り成長していく」

「つまり、氷の王国は最も育ちやすい土地ということ」

 二人は息ぴったりにそう話をしていく。

 お父さんはその花の名を聞き、眉間のシワを深くした。

「待て、その花の名は聞いたことがあるぞ。ヤドリギを見つけぬ限り、増え続けるという恐ろしいものではなかったか?」

 その言葉に、二人は困ったようにうなずく。

「そうなの。増えるのよ。しかも巨大になりそのツルは地面をもつきやぶり、根を伸ばそうと動き続けるの」

「しかも攻撃を仕掛ければやり返してくると言う厄介ものさ」

 二人の言葉に私とレオは一歩引いてしまう。

「え……」

「なんだか、怖い、ですね」

 二人は困ったように宙を漂いながら苦笑を浮かべると、あ! と気づいたように言った。

「でもね、一ついいこともあるわよ」

「そうそう」

「ヤドリギを倒しさえすれば、枯れてしまうのよ」

「枯れるのは悲しいけどな」

「そうね」

 二人の言葉に、お父さんが呟いた。

「ヤドリギはどうなるのじゃ」

 ジプソフィラさんは難しそうにつぶやく。

「上手く切り離せることもあるわ」

 けれどスターチスさんが首を横に振る。

「可能性だ。融合しすぎていれば、そうはいかない」

「じゃが、可能性は、あるのだな」

 二人がうなずくのを見て、お父さんはなるほどと小さくそう言う。

 考え込むお父さんの代わりに私はお礼を伝えた。

「教えてくれてありがとう」

 すると二人が私のことをぎゅっと抱きしめた。

「アルル。無理しないようにね」

「また森にも遊びに来ておくれ」

「うん! また遊びに行くね!」

 すると光に溶けるように二人は消えてしまった。

 森の香りが吹き抜けてく。

 そんな私の手をぎゅっとレオは握った。

「森にも遊びに行きたいね」

「うん。この戦いが終わったら、行こうね」

「うん」

 お父さんは考えるのをやめると、私たちの頭をぽんっと撫でて言った。

「とにかく、二か所目の神域を凍り付かせて、一時、ツルの進行を止めるぞ」

 お父さんの言葉にうなずきかえすと、来た道を戻り始める。

 ジプソフィラさんとスターチスさんに会いに早く森に行きたいな。でも、その前に今は目の前のことに集中しなくちゃ。

「気合をいれて、頑張るぞ!」

 私がそうつぶやくと、レオも同じように気合をいれる。

「僕も! 頑張るぞ!」

「「おー!」」

「……子どもは元気じゃのぉ」

 私たちは笑いあった後、気持ちを引き締めると、しっかりとした足取りで歩み始めたのであった。


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