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一話 妹に婚約者を取られました
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「お父様!私、お姉様の婚約者であるロアン様を愛してしまったの。」
客間にいるのは、私の婚約者である見目麗しい青年ロアン・カポーネ子爵。そしてその横に私の妹である、父の青色の瞳と、母の美しい金色の髪を受け継いだナタリア・ロドリコ。
私は両親の横に座っており、父アゼフと母ミランはその言葉に驚いて目を見開いている。
ちなみに、そんな今間抜けな顔で驚いている両親に、私は似ていない。
私は父の浮気相手であった踊り子の庶民であった今は亡きセシリアお母様の血を色濃く継いでおり、透き通るように白い肌に、エメラルドの瞳。そして銀色の髪をしている。
いつものように私は顔に笑顔を張り付けて、家族の騒動に耳を傾ける。
ロアンは鷲色の瞳を歪め、悲しげな表情で私に視線を向けると言った。
「ルチアーナ嬢・・・申し訳ない。貴方はとても、本当に美しい人だが・・僕は人形のような貴方よりも、いきいきとして可愛らしいナタリアに惹かれてしまったんだ・・・本当にすまない。」
内心で、いつかはこんな日が来るのではないかと思っていたので、驚きもしない。ロアンと私の結婚は、ロアンが子爵家の跡取りであり、侯爵家のうちと縁を繋ぎたいとしてなされる予定だった。
そんなロアンだが、はっきりと言えばあまり出来がよろしくない。顔は良いが、頭はお花畑で、可愛らしい女性がいるといつも顔を赤らめて声を掛けに行く。
そしてそんなロアンの好みに、ナタリアはぴったりだったのだ。
可愛らしい顔立ちに、少しバカっぽい喋り方。大きな胸に、男性を褒めちぎる口調。
なので婚約が決まって、大丈夫かなと内心ずっと思っていた。
そして案の定である。
ただ、一つ問題があるのだ。
うちにはお金がない。
私の両親はナタリアを溺愛している。だからこそ、私を早く外に嫁にやって追い出そうとしていた。しかもだ、私を子爵家に嫁がせることによって、子爵家から支援金を受け取る予定だった。だがこれがロアンを婿にもらうとなると状況が変わってくる。
ロアンには弟がいるが、まだ五才である。
次期子爵にする予定だったロアンを婿にもらうとなると、支援金はどうなるであろうか。ナタリアを溺愛する両親がナタリアを嫁に出すことはないだろう。
「だ・・だがナタリア。ナタリアも家は出たくないと言っていたじゃないか。」
「そうよ。私も可愛いナタリアをお嫁には出したくないわ。」
両親が焦ったように声を上げると、ロアンはしっかりとナタリアの手を握りながら言った。
「両親には僕から話をして、僕が婿に入ります。支援金は・・その・・少し少なくなるかもしれませんが。」
「それでは困るのだよ。」
頭を抱えるアゼフに、ロアンは自信ありげに笑みを浮かべると言った。
「ですが僕は絶対にナタリアを幸せにしてみせます!」
「お父様お願い。ナタリアの一生のお願い!」
ナタリアの一生のお願い。
何度その一生のお願いによって私は宝石やドレスを取られた事か。だがさすがに婚約者まで取られるとは。
私は心の中で小さくため息をつくと、今後どうなるのであろうかと頭が痛くなった。そして、この時の私は考えが甘かった。
それからロアンは一度子爵家へと帰り、ナタリアも自室へと下がるように父に言われ下がった。
私は両親の前に立たされ、いつものように冷たい視線を向けられる。
「ルチアーナ。お前は見た目だけしか取り柄がないと言うのに・・・何故ロアン殿の心を留めておけなかったのだ。」
「本当に、腹立たしいわ。やっと貴方を追い出せると思ったのに!」
両親の言葉に、私はただ心を静かにして、ただただ声を聞き流す。小さな頃は、両親の声とその視線に泣いていたこともあったが、ずっと繰り返されれば慣れてくる。
どんなに正論を述べようと、二人の怒りの矛先は自分へと向けられるのだ。なら、抵抗しても無駄である。
「はぁ・・・とにかくお前には子爵家よりも良い条件の金払いの良い家へ嫁いでもらうぞ。」
アゼフはにやりと笑みを浮かべると、私の顔から体を舐めるように視線を向けて言った。
「これでも親心として年の近いロアン殿の元へと嫁がせてやろうと思っていたが・・こうなっては仕方がない。まぁお前ならば、金を払う男はいくらでもいる。」
その言葉に、母がクスクスと笑った。
「そうねぇ。あの女の娘ですものねぇ。」
私の母は可愛そうな人だった。この父に捕まり、そして母に疎まれて死んだ。優しい人だったけれど、見た目が美しかったからこそ、可愛そうな運命に縛り付けられた。
そして、私は母そっくりな娘。
見た目が良かったから、何かに使えそうだと侯爵家の娘として迎え入れられたただの贄。
母と同じように、可愛そうな、哀れな運命を歩むのだろう。
「以前お前に興味を持っていた貴族が何人かいる。次の舞踏会で、お前の顔と体を使って、たらしこめ。」
父の言葉に、私は内心血の気が引きながら、どうしたらいいのだろうかと唇を噛んだ。
「男性を相手にするのなんて、簡単でしょう?」
生まれて十七年。三年前からロアンと婚約していたこともあって、異性と関わった事などない。
「まぁ、いい相手がいれば・・そうだな。味見くらいはさせてやってもいいか・・・」
不敵な笑みを浮かべる父の言葉に、いくら平静でいようと、心を無にしようとしても、自然と体が震えた。
客間にいるのは、私の婚約者である見目麗しい青年ロアン・カポーネ子爵。そしてその横に私の妹である、父の青色の瞳と、母の美しい金色の髪を受け継いだナタリア・ロドリコ。
私は両親の横に座っており、父アゼフと母ミランはその言葉に驚いて目を見開いている。
ちなみに、そんな今間抜けな顔で驚いている両親に、私は似ていない。
私は父の浮気相手であった踊り子の庶民であった今は亡きセシリアお母様の血を色濃く継いでおり、透き通るように白い肌に、エメラルドの瞳。そして銀色の髪をしている。
いつものように私は顔に笑顔を張り付けて、家族の騒動に耳を傾ける。
ロアンは鷲色の瞳を歪め、悲しげな表情で私に視線を向けると言った。
「ルチアーナ嬢・・・申し訳ない。貴方はとても、本当に美しい人だが・・僕は人形のような貴方よりも、いきいきとして可愛らしいナタリアに惹かれてしまったんだ・・・本当にすまない。」
内心で、いつかはこんな日が来るのではないかと思っていたので、驚きもしない。ロアンと私の結婚は、ロアンが子爵家の跡取りであり、侯爵家のうちと縁を繋ぎたいとしてなされる予定だった。
そんなロアンだが、はっきりと言えばあまり出来がよろしくない。顔は良いが、頭はお花畑で、可愛らしい女性がいるといつも顔を赤らめて声を掛けに行く。
そしてそんなロアンの好みに、ナタリアはぴったりだったのだ。
可愛らしい顔立ちに、少しバカっぽい喋り方。大きな胸に、男性を褒めちぎる口調。
なので婚約が決まって、大丈夫かなと内心ずっと思っていた。
そして案の定である。
ただ、一つ問題があるのだ。
うちにはお金がない。
私の両親はナタリアを溺愛している。だからこそ、私を早く外に嫁にやって追い出そうとしていた。しかもだ、私を子爵家に嫁がせることによって、子爵家から支援金を受け取る予定だった。だがこれがロアンを婿にもらうとなると状況が変わってくる。
ロアンには弟がいるが、まだ五才である。
次期子爵にする予定だったロアンを婿にもらうとなると、支援金はどうなるであろうか。ナタリアを溺愛する両親がナタリアを嫁に出すことはないだろう。
「だ・・だがナタリア。ナタリアも家は出たくないと言っていたじゃないか。」
「そうよ。私も可愛いナタリアをお嫁には出したくないわ。」
両親が焦ったように声を上げると、ロアンはしっかりとナタリアの手を握りながら言った。
「両親には僕から話をして、僕が婿に入ります。支援金は・・その・・少し少なくなるかもしれませんが。」
「それでは困るのだよ。」
頭を抱えるアゼフに、ロアンは自信ありげに笑みを浮かべると言った。
「ですが僕は絶対にナタリアを幸せにしてみせます!」
「お父様お願い。ナタリアの一生のお願い!」
ナタリアの一生のお願い。
何度その一生のお願いによって私は宝石やドレスを取られた事か。だがさすがに婚約者まで取られるとは。
私は心の中で小さくため息をつくと、今後どうなるのであろうかと頭が痛くなった。そして、この時の私は考えが甘かった。
それからロアンは一度子爵家へと帰り、ナタリアも自室へと下がるように父に言われ下がった。
私は両親の前に立たされ、いつものように冷たい視線を向けられる。
「ルチアーナ。お前は見た目だけしか取り柄がないと言うのに・・・何故ロアン殿の心を留めておけなかったのだ。」
「本当に、腹立たしいわ。やっと貴方を追い出せると思ったのに!」
両親の言葉に、私はただ心を静かにして、ただただ声を聞き流す。小さな頃は、両親の声とその視線に泣いていたこともあったが、ずっと繰り返されれば慣れてくる。
どんなに正論を述べようと、二人の怒りの矛先は自分へと向けられるのだ。なら、抵抗しても無駄である。
「はぁ・・・とにかくお前には子爵家よりも良い条件の金払いの良い家へ嫁いでもらうぞ。」
アゼフはにやりと笑みを浮かべると、私の顔から体を舐めるように視線を向けて言った。
「これでも親心として年の近いロアン殿の元へと嫁がせてやろうと思っていたが・・こうなっては仕方がない。まぁお前ならば、金を払う男はいくらでもいる。」
その言葉に、母がクスクスと笑った。
「そうねぇ。あの女の娘ですものねぇ。」
私の母は可愛そうな人だった。この父に捕まり、そして母に疎まれて死んだ。優しい人だったけれど、見た目が美しかったからこそ、可愛そうな運命に縛り付けられた。
そして、私は母そっくりな娘。
見た目が良かったから、何かに使えそうだと侯爵家の娘として迎え入れられたただの贄。
母と同じように、可愛そうな、哀れな運命を歩むのだろう。
「以前お前に興味を持っていた貴族が何人かいる。次の舞踏会で、お前の顔と体を使って、たらしこめ。」
父の言葉に、私は内心血の気が引きながら、どうしたらいいのだろうかと唇を噛んだ。
「男性を相手にするのなんて、簡単でしょう?」
生まれて十七年。三年前からロアンと婚約していたこともあって、異性と関わった事などない。
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