【完結】妹に婚約者を奪われた私は、悪女を目指します。ただ、悪女ってよくわかりません。

かのん

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二話 値踏み

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 いつもよりも侍女らに丁寧に着飾られて、そして父と共に馬車へと乗り込んだ。

 母とナタリアは今回は家で留守番をしているとのことだったが、母の出立前のにやにやとした視線が忘れられない。

 まるで出荷されるみたいだななどと考えていると、馬車の中で父アゼフがにやりと笑みを浮かべながら言った。

「お前は本当にセシリアに似ているな・・美しい。我が子でなければ妾に迎えたいくらいだが、ミランの目がある以上は仕方がない。」

 その言葉にぞっとしていると、父の手が私の手を撫ではじめた。

「白い肌が滑らかなところも・・そっくりだなぁ・・ふふふ。」

「お・・お父様やめて下さい。」

「っは。まぁいい。・・・今日はしっかりと、上手くやるのだぞ。」

 父の手が離れ、私はほっと息を吐いた。

 鳥肌が立ち、気分が悪くなってくる。

 私は一体これからどうなるのだろうか。

 舞踏会の会場に付くと、すぐに父は私の事を様々な貴族の前で紹介していく。男達の生々しい視線を感じて、裏で父とどんなやり取りがあったのかが想像できた。

 自分は、まるで物のように、男の元へと宛がわれるのだろうかと思うと、怖くなる。だが、それと同時に心の中に苛立ちも感じていた。

 何故自分が、男達の良いように扱われないといけないのだろうか。

 その時、幼い頃に言われた母の言葉を思い出した。

『ルチアーナ。男なんて生き物に、心を許してはダメよ。体を許しても、心だけは強く持ちなさい。男なんて生き物は利用してやればいいの。仮面をかぶって悪女になりなさい。その男が好きそうな、馬鹿な女だと思われればいい。そして貴方が主導権を得なさい。自分の心だけは、貴方の物なのだから。』

 何故こんな時に思い出すのだろう。

 いや、こんな時だから思い出すのだろう。きっと母は、私も自分と同じような運命になると考えていたのかもしれない。

 私は、心の中で仮面をかぶった。

 悪女とはどんなものかまだわからないが、それでも母の言葉に倣おうとする。

 強くあろう。例え嫌な事を強いられても、心までは奪われないように。私の心だけは、私の物だ。

 そう思うと、男達の体を這いまわるような気持ちの悪い視線にも耐えられた。

 しばらく経った時だった。会場が少しざわついたかと思うと、黒い衣装を身に纏った、漆黒の髪と瞳を持った青年が会場へと現れた。

「あれを見ろ・・戦場の悪魔だ。」

 会場の視線は戦場の悪魔と呼ばれる青年へと集まる。

「ほう・・・花嫁を探していると言う噂は本当だったか。」

 にやりと笑みを深めた父が、私の事を気持ちの悪い視線で見てくる。そして、私の耳元でささやいた。

「あの男もなぁ・・お前を欲しがっていた一人だ・・・お前のその白い肌を、汚したいと願った男だぞ。まあその時にはロアン殿との婚約が決まった後だったから・・惜しい事をしたが・・・」

 ぞっとした。

 父親の言葉がまるでねっとりと絡みついて来るようで、耳をむしり取ってしまいたくなる。

「だがなぁ、今日は先客がいる。こちらのファロ侯爵が・・お前を味見したいと言っている。ふふ。さぁ、部屋は用意してある。行って来い。」

 背筋が凍りそうになる。

 ファロ侯爵と呼ばれた人は、父と同じ年頃の男性であり、あごひげを撫でながら、私のことを見て人のよさそうな笑みを浮かべた。

「心配することはありませんよ。さぁ、あちらで少し話をしましょう。」

 まるで人身売買だなと、そう思いながらも、逆らう事など出来ない。腰を抱かれ、ファロ侯爵にリードされて会場を出るしかない。

 腰を撫でる手が気持ちが悪くて仕方がなかった。

 悪女ならばこんな時、笑えるのだろうかと思ったが、そんな余裕などなかった。


 

 
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