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六話 目覚めると

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 太陽の温かな光を感じた。

 ふんわりとした優しい石鹸の香りと、ふわふわの布団。

 瞼を開ければその幸せが逃げてしまうのではないかと、しばらくの間、頭は目覚めているのに、瞼を開くのが嫌だった。

 けれど、開けなければ。

 恐ろしい現実が待っているかもしれなくても。

 ルチアーナはおそるおそる瞼を開くと、自分はベッドに寝かされ、そしてそのベッドの横に置かれた椅子で寝息をたてるレバノン公爵の姿が見えた。

 状況が分からず困惑するが、レバノン公爵の手を自分が握って眠っていたことに驚き、慌てて離すと自身の衣服を確認した。

 乱れている様子はないが、服がドレスから緩やかな寝巻へと変わっている。ただ、ネグリジェのような可愛らしい物ではなく、どちらかというと、子どもが着るような、本当に寝巻というもので色気のかけらもない。

「・・・どういう・・・こと?」

 困惑するルチアーナはレバノン公爵へと視線を向けた。

 とても体格の良い、整った顔をした人だ。黒目黒髪は忌避されるが、ルチアーナは少なくとも嫌悪する気持ちはなかった。どちらかと言えば、彼には黒が良く似合っていると感じた。

「レバノン・・公爵様・・・?」

「・・・ルチアーナ嬢。おはよう。俺の事はジークと呼べ。」

 返事が返ってきたことに驚き、布団を掴んで一歩後ろへと下がると、ジークは瞳を開いて大きく背伸びをした。

「久しぶりによく眠れた。ルチアーナ嬢が意識のない時に悪いとは思ったが、体が心配だったからな、昨日の晩医者に診察してもらった。今日一日ゆっくり過ごせば大丈夫だろうとのことだったのだが・・・昨日の事は覚えているか?」

 その言葉で、ファロ侯爵の気持ちの悪い手を想いだし、ぞわりと鳥肌が立って体が震えた。

 ジークはその様子に心配げに顔を歪めると、ルチアーナの頭を優しく撫でた。

「大丈夫だ。もう、あのような事は二度とない。」

「やめて!」

 触られるのが怖くて、ルチアーナは思わずジークの手を振り払った。

 そして、振り払った後で、公爵に対して何という事をしてしまったのだろうかと顔を青ざめさせてジークを見ると、そこには、予想外の姿があった。

「・・すまない。」

 まるで大型犬が耳と尻尾を垂れさせて、しょげているような、そんな姿のジークがいた。

 ルチアーナの方を伺うような視線をジークは向け、そして言った。

「次から許可なく触れないと約束しよう。だから・・そう・・嫌わないでくれ。」

「え?」

 しょんんぼりとした様子のジークに、ルチアーナは困惑してしまう。

 どういうこと?どうして、怒らないの?どうして私を非難しないの?

 意味が分からずルチアーナが視線を泳がせると、扉がノックされる音が聞こえた。

「旦那様、奥様、失礼してもよろしいでしょうか。」

「あぁ。入れ。」

 扉から姿を現したのは、白髪の混じった優しげな印象の女性であった。

「ルチアーナ嬢。これから貴方の世話をするフィーネだ。困った事や欲しい物があった時には彼女に言ってくれ。」

「え?」

「奥様。フィーネでございます。さぁさぁ旦那様。奥様は朝の準備がございますので一度部屋から出て下さいませ。」

 ジークはその言葉にすねたように顔を歪めた。

「まだルチアーナ嬢と話がしたいんだが・・」

「旦那様。初日からべったりでは、奥様に呆れられてしまいますよ。さぁさぁ、朝は女性は準備に時間のかかるものです。時間があるのであれば、朝のいつもの鍛練をしてきてくださいませ。」

「はぁ・・分かった。フィーネ。よろしく頼む。ルチアーナ嬢。朝食を一緒に食べよう。では、また後で。」

 ジークはそう言うと名残惜しそうに部屋を後にした。

 ルチアーナはその様子に呆然としていると、フィーネは肩をすくめて言った。

「旦那様があれほどまでに女性に優しい顔をされるとは思いませんでしたよ。奥様。私は奥様の味方ですから、何か旦那様に嫌な事をされたらすぐに言ってくださいね。私が旦那様のお尻を叩いて差し上げます。」

 その言葉にルチアーナは目を丸くした。

「あ・・あの・・奥様?それに・・お尻を叩く?」

 フィーネはにっこりと笑顔で頷いた。

「ええ。奥様でございます。詳しくは旦那様にお話を後程伺ってくださいませ。ちなみに私は旦那様の乳母を元々しておりましてね、赤ちゃんの時からお世話をさせていただいていました。この屋敷のことはほとんどの事を把握していますから、何でも聞いて下さいね。」

「え?えぇ・・」

 一体何がどうなっているのだろうかと、ルチアーナは呆然とするしかできなかった。

 





 

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