鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人

文字の大きさ
17 / 20

lv.17 老剣士の依頼

しおりを挟む
   [Ⅰ]


 ソレスさんは俺の目を見て、真顔で話を始めた。

「コジロー殿……大変申し上げにくいのだが、貴方がキエーザを倒してしまった事で、少々、面倒な事になっているのだよ」
「面倒な事? なんか新しい悪さでも始めたんですかね」

 ソレスさんは首を横に振る。

「いや、そうではない。逆だ。アイツは貴方にやられた事が相当堪えたのか、あれ以降、ずっと家に引きこもっているみたいなんだよ。困ったことにな」

 キエーザは意外とメンタルが弱いみたいだ。
 まぁだから、取り巻き連れてイキっていたのかもしれない。
 自分の優位性を保つ為に、恵まれた身体から繰り出される剛剣で相手をねじ伏せ、言うを聞かせてきたんだろう。
 実際、最初に一太刀受けたが、まぁまぁな剛の剣だった。
 剣の腕が未熟なら、あの力にやられてしまう事もあるだろう。

「ほう……あのキエーザがな。コジローさんは相当な勝ち方をしたようだな。あの悪童も堪える時が来たか」

 と言って、フレイさんは笑った。

「へぇ……でも、意外と小心者なんですね。オラついてましたけど」

 たぶん、今まで挫折する事なく、歩んで来たに違いない。

「コジローさんの言うとおりですね。私もそんなに気の小さい奴とは思いませんでした。コジローさんに負けたのが堪えたんですかね」

 レティアも意外そうに話を聞いていた。
 シムもそれに頷く。

「コジロー様は簡単に倒してしまいましたが、キエーザはああ見えて、マティスのシグルードでも2番手につける剣士ですからね。その誇りもあったでしょう。あそこまで完膚無きにやられたら、自信を無くすでしょうね」
「うむ。2人の言う通りだ。キエーザもあんな負け方するのは、剣を始めた子供の頃を除いて、そんなにないだろうからな。今にして思えば、最初の立ち合いで止めておけばよかったと、私も後悔してるところだよ。あの剣裁きを見て、私はわかったからな。キエーザの勝てる相手じゃないと」

 ソレスさんはそう言って、感心したように俺を見ていた。
 この人はスグラムで教官みたいな事をしているので、なかなかの目利きを持ってるようだ。
 
「そうですか。まぁキエーザの話は分かりましたが、私にお願いというのは何でしょう?」
「うむ、それでだが……そのキエーザが戦える状態じゃないので、ちょっと問題なのだよ。実は今……マティスの北東にアラトリアという古代の遺跡があるんだが、そこでヤグルが徘徊する事案が発生していてな。その原因を突き止めよと、マティス公の御触れがシグルードに出ているのだよ。いつマティスに近づくとも限らんのでな」

 一気にテンション下がる話であった。
 ヤグルとは、この辺りにおけるゾンビの総称である。
 まぁとはいえ、オヴェリウスの一件もある為、少々気になる事案ではあった。
 この世界だとゾンビのようなアンデッドは、割と普通にあり得る話だからだ。
 だが、人為的なモノか、自然発生的なモノかで話が変わるのである。
 ちなみにシュレンの記憶によると、自然発生的なゾンビは、禍々しいアングラが死体に憑いて、動き出すという風に考えられているそうだ。
 ちなみにアングラとは、ここの古代語で、悪霊や怨霊を意味する言葉らしい。
 よくわからん論理だが、解明はされてない。
 所謂、異世界都市伝説みたいなモノなんだろう。

「ヤグルが徘徊ね……で、それがどうかされたのですか? まさかそれに私が参加しろとでも?」
「このシグルードに於いて、領主直々の案件は、キエーザのような上級者……つまり、アレスト階級の者が対応する事になっているのだよ。シグルード最高峰の討伐隊を結成するのが通例なのだ。つまり、キエーザがあんな感じだから、少々困っているのだ。奴も素行は悪いが、シグルードの仕事はそれなりにしてはいたからな。だから、こちらとしても気を揉んでいてね」

 回りくどい言い方だ。
 まるで、キエーザをあんな風にしたのはアンタだから、代わりに仕事しろとでも言いたげな話し方であった。
 こういうのはハッキリ言ってくれんと困るところである。
 ちなみに、シグルードの階級は3つあり、上から順にアレスト・ベーネス・ノトスと呼ばれている。
 そして、これらは全部、花の名前らしい。
 しかも、シュレンの記憶によると、勇者に手向ける花だそうだ。
 シュレンもいまいち格付け理由がわからないようだが、ここでは恐らく、松竹梅みたいな扱いなんだろう。

「ええっと……つまり、キエーザの代わりを私が務めろという事ですか? それとも奴を説得しろとでも?」

 ソレスさんは、苦笑いを浮かべた。

「まぁその……なんというか、そういう事なのだよ。代わりを務めて欲しいのだ。お願いできるだろうか? 相手がヤグルだから、エルファナの神官もお供する。エルファナの加護を受ければ、ヤグルにもそうそう遅れは取らぬだろうからな」

 エルファナの加護とは、つまり、魔法の事だ。
 そう、エルファナ神殿の神官の中には、癒しの魔法や不死の魔物を浄化させる魔法、そして、補助的な力を付加させる魔法を使える者もいるのである。
 まぁ簡単に言えば、ファンタジー系ゲームでいう僧侶系の魔法使いという感じだろうか。
 そして、その魔法の習得は秘匿とされており、師から弟子への厳格な伝承によってのみ、行われるのである。
 以上、シュレンの記憶だ。

「言っておきますが、私はシグルードに登録してないので、上級討伐者ではないですよ」
「ああ、それなら問題ない。私が推薦するからな。こう見えて私は、シグルードの責任者でもあり、階級の試験官も務めているんだよ。コジロー殿ならば、すぐにでもアレスト階級の討伐者に推挙しよう。どうだろうか? しかも報酬は、10000ラウムだ。悪い話ではないと思うがね」

 俺はそこでシムとレティアに視線を向けた。

「だそうです。どうするかな? ちょっと負い目もあるから、行ってもいい?」

 正直言うと、ヤグル相手ならば気兼ねなく剣を振るえる上に、とある魔法のテストも兼ねて、行きたいところであった。
 というのも、アンデッド系を浄化できる力を武器に付加させる魔法を、俺はちょっと前に習得したからだ。
 これはまだ魔法の効果を確認できていないので、要は試し切りをしてみたいのである。

「ええ!? 行かれるのですか、コジロー様? しかも、ヤグルは屍の化け物ですよ。私はやめた方が良いと思いますが……」
「コジローさんが行かれるのなら、私も行きますよ。確かアレスト階級の同伴者は、階級関係ないですよね?」

 レティアはソレスさんに、確認した。
 ソレスさんは頷く。

「ああ、そうだ。コジロー殿が連れて行きたい者なら構わぬぞ」
「コジローさん、良いですよね?」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ一緒に行こうか、レティア。シムはどうする?」

 するとシムは観念したのか、そこで溜め息を吐き、仕方ないとばかりに口を開いたのであった。

「本当にコジロー様は……以前と正反対の性格になりましたね。昔のコジロー様なら……こんな事には絶対に首を突っ込みませんでした。それもこれも、全て私の責任です。申し訳ありませんでした。よって……私もお供しますよ」
「じゃあ、決まりだ。ではソレスさん、そういう事になりましたんで、よろしくお願いします」

 俺の言葉を聞き、ソレスさんは安堵の息を吐いた。

「ありがたい。この西部地方は、もう暫くすると雨季に入る。だからマティス公も、早めに対処したい案件らしいのだ。引き受けてくれて感謝するよ、コジロー殿。では、よろしく頼む」――

 その後、ソレスさんは日程などの詳細な話をして、マティスに帰ったのであった。
 さて、とりあえず、近場の冒険に出かけてみるとしよう。


   [Ⅱ]


 ソレスさんが訪れてから数日後、俺はまたマティスの街へとやって来た。
 そして、その日は街で旅支度を整え、翌日の早朝、神殿の鐘がなる頃に、俺は仲間達と共に宿を出たのである。
 向かう先はエルファナ神殿前の広場。そこが今回の旅の集合場所だ。
 外に出ると、眩い朝日がマティスの街を照らしていた。
 今日も暑い1日になりそうである。水筒にはタップリ水を入れておこう。
 それと仲間の面子だが、俺とシムとレティア、そしてランドとユミルの計5人であった。
 ランド達にソレスさんの話をしたら、一緒に行きたいと懇願された為、こうなった次第だ。
 とりあえず、自分勝手な行動はしないよう念は押しておいたので、それに期待するとしよう。 
 まぁそれはさておき、今日の俺の装備だが、白い布の服の上からロギン製の軽い胸当てと小手、それと皮のブーツに茶色のフード付きローブ、そして背負っているお手製の刀と腰の短剣である。
 細かい道具や糧食等は、肩掛けの道具袋に全部仕舞ってあるところだ。
 ちなみにこれらは、昨日、街で揃えた物も多い。
 フレイさんの鍛冶手伝いで、700ラウムほど収入を得られたので、その資金を使って揃えたのである。
 それと、以前使っていた長剣はランドに貸してやった。
 そこそこな切れ味なので、少しは戦力アップに繋がると見ての事だ。
 また、同行者達も各々が装備を整え、広場に向かっているところである。
 まぁ見た目を簡単に言うと、ほぼ全員、戦士系コスプレファッションといったところだ。
 ここが現代の日本ならば、職質間違いなしから、銃刀法違反待ったなしの格好である。

「コジロー様、エルファナ神殿前の広場は、この先にあるアレですよ」

 シムはそう言って、歩いている道の先を指さした。
 すると前方に、円形の広場が見えてきたのである。
 広場の地面は全て石畳で、その中央には、翼が生えた女神エルファナの白く美しい石像が建立されていた。
 そして、広場の更に奥には、厳かなエルファナ神殿が鎮座しているのである。
 エルファナ神殿は、マティスの中心部に位置する宗教施設であった。
 古代ギリシャの神殿に似た造形をしており、外側に丸柱が格子のように立つ建造物だ。
 なかなかの壮観な眺めである。

「いよいよね、コジローさん。私、こういう討伐は初めてだから、色々教えてね。ヤグルとかは苦手だけど、私、頑張るから!」

 ユミルは力強い口調で、俺に話を振ってきた。

「あのな……言っとくが、俺も初めてだよ」
「ええ!? 嘘、初めてなの?」
「え? そうなのかい?」

 ランドとユミルは目を大きくして驚いていた。
 なぜそんなに驚く。

「なんだよ、その反応は? 初めてじゃ悪いのか? というか、俺は討伐とか興味ないんだよ。今日は特別さ。キエーザの件で迷惑かけたようだから、来ただけだしな」
「へぇ、そうなんだ。コジローさんて凄く強いから、討伐経験が多そうな気がしたのに……」
「シグルードの仕事に関しちゃ、君の兄さんの方がよく知ってるんじゃないか」
「へへへ、俺の方がコジローさんより、上な事があったみたいだ」
「全然、自慢にならないわよ、兄さん」

 レティアとシムは、兄妹のやり取りを微笑ましく見ていた。

「仲の良い兄妹ねぇ」
「ええ、本当に。コジロー様の御兄弟も、元気にしておられるといいんですが……」

 そんなやり取りをしつつ、俺達は広場へと足を踏み入れた。
 すると、女神像の前に屯している武装した連中が、視界に入ってきたのである。
 数にして20人はいるだろうか。中にはエルファナの神官服に身を包む者もいた。
 そして、その中にはソレスさんの姿もあったのだ。
 ソレスさんは今回の旅に同行しないが、依頼の取り纏め役として来ているのだろう。
 俺達はそこへと足を運んだ。
 ソレスさんが俺達に気付き、こちらに来る。

「おお、来てくれたか、コジロー殿」
「どうもです。まぁとりあえず、今日はよろしくお願いします」
「いやいや、こちらこそ、よろしく頼む。さて、それでは、女神像の前に来てくれだろうか。貴方を皆に紹介したいのでな」
「わかりました」――

 さて、どんな旅が待ち受けているのやら。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る

丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。 現代では中世近世史を研究する大学講師。 史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。 ならば変える。 剣でも戦でもない。 政治と制度、国家設計によって。 秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、 戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。 これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。 戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。 敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。 結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。 だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。 「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」 謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。 少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。 これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。 【※作者は日本語を勉強中の外国人です。表現が拙い部分もあるかもしれませんが、温かく見守っていただけると嬉しいです。】

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...