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vol.8 困った娘
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[Ⅰ]
バーンズという男が、女の隣にやって来た。
近くで見ると、かなりデカい。
ヘビー級の中でも、かなりデカい部類に入るだろう。
身長175cmの俺より、20cm以上は高いので、見上げる大きさである。
歳はそこそこいってると思うが、なかなか悪そうな親父さんであった。
だが、顔つきが娘とあまり似ていないのが気になるところだ。まぁどうでもいいが。
女は慌てて男に振り向いた。
「お、お父さん……なんでここに」
「おい、ミュリン、コイツが何か言ってきたのか? なんならぶっ飛ばしてやるぞ」
奥さん、聞きました?
ぶっ飛ばすですって……おーこわっ。
まぁそれはさておき、この親父は恐らく、裏社会の人間なんだろう。
リンクがさっき見せた表情は、恐怖というよりも、面倒さからくる嫌な顔だったからだ。
たぶん、この辺りがシマのヤクザ者なのかもしれない。
「違うわよ! あっち行っててよ。というか、なんでここにいるのよ!」
「今朝、お前の様子が変だったからだよ。どうしたんだ、ミュリン。珍しいじゃないか、朝食に顔を出さないなんて……」
「ほっといてよ! 食べたい気分じゃなかったからなの!」
「そんなに怒らなくても良いじゃないか。何があったんだ? 昨夜、帰ってきてから、様子が変だぞ」
はい、原因はたぶん、俺です。
アンタの娘さんで楽しませてもらったぜ……なぁんて事は言わないでおこう。
今は成り行きを見守るべし。
とはいえ、他の客達の視線がこちらに集まっているのが、如何ともしがたいところだ。
それはともかく、女はそこで、俺をチラッと見た。
女の表情は、若干困った感じだ。
言おうかどうか、迷ってるんだろう。
好きにするがいい。
俺は逃げも隠れもせん。
などと考えていると、女は俺に近づき、小さく囁いたのだった。
「貴方が何とかしてよ」と。
俺は思わず声が出てしまった。
「は? なんで?」
だがその直後、鬼の形相をしたバーンズが、俺に迫ってきたのである。
「おい、貴様! 娘に何を言いやがった!」
「何って……寧ろ俺は、言われた方なんですけど……」
「テメェ! なんだその口の利き方は!」
女はそこで親父に振り返った。
「お父さん、話があるの。私、この人と冒険に出るわ!」
「ぼ、冒険!? 何だとぉ!」
「ちょっと待て! なんじゃそら!」
俺とバーンズは声を荒げた。
この女、一体何を考えているのやら……。
「だって、この人、凄く強いのよ! お父さんの部下なんて目じゃないくらいに!」
俺はムンクの叫びのような気分であった。
(も、もうやめてぇぇ! 変な事を吹き込まないでェェ! なんちゅう迷惑娘だ。俺が悪かったよぉ。ちゃんと最後までして満足させてやるべきだったか……う~ん)
バーンズは目をひんむいて大きな声を上げた。
「ミュリン! お前、冒険って事は……チッ! おい、お前達、このアメノ野郎をわからせてやれ!」
「はッ、バーンズ様」
この男の後ろから、強面の厳つい戦士達がやって来た。
なんつーか、最低な展開になってきました。
サタはそれを見て、ケラケラ笑っていた。
ムカつくエテ公である。
まぁとはいえ、俺が播いた種だ。
刈り取りは自分でするとしよう。
「なんでこうなるかなぁ……つか、ここでするんですか? 店の迷惑になるから外でしません?」
バーンズが眉を吊りあげた。
「ほう……良い度胸じゃねぇか、アメノ野郎。なら、表出ろ!」
というわけで、俺は奴等と共に、表に出るハメになったのである。
その途中、リンクが慌てて俺に駆け寄り、囁くように忠告してきた。
「エ、エイシュンさん……アイツ等と揉めるのは不味いよ。バーンズ一家は有力貴族お抱えの何でも屋なんだ。今からでも謝って、穏便に済ませた方がいい。冒険者仲間でも、こいつ等のせいで、王都から離れた奴もいるんだから」
つまり、支配者側から裏の仕事を請け負う奴等……って、事なんだろう。
昨夜、女が俺に絡んで来たのも、宮廷魔導師長の娘の依頼らしいし。
お上と通じてる公認ヤクザみたいなモノなのかもしれない。
確かに、面倒な奴等だが、俺的にはどうでもいいので、とっとと終わらせるとしよう。
とはいえ、あまりにもしつこかったら、高飛びだが。
店を出たところで、バーンズの声が聞こえてきた。
「おい、アメノ野郎、ミュリンに何を吹き込んだのか知らねぇが、後悔させてやる。簡単にミュリンは渡さねぇからな」
「は? 渡す? 意味わかんないんスけど……」
バーンズの周りには、取り巻きと思われる連中が十数人いた。
まぁ揃いも揃って、素行の悪そうな輩ばかりである。
そこにあの女もいた。
女は俺を見て笑っている。
してやったり、ってとこか。
周囲に目を向けると、野次馬も集まってきていた。
「おい、お前達5人で、ちょっとコイツを痛めつけてやれ。殺しちまっても、俺がなんとかしてやらぁ」
「ハッ、バーンズ様」
バーンズは取り巻きにいる戦士系の輩達に、そう指示を出した。
殺人司令が出ましたね。凄いですね。文化の違いを感じます。
倫理観も中世レベルなようですね。って、当たり前か。
それはさておき、5人の輩は剣を抜き、俺へと迫ってきた。
俺達がいる大通りには野次馬が集まっている事もあり、ちょっとしたショー状態である。
とはいえ、野次馬達は哀れな目で、俺を見ているのは言うまでもない。
誰も止めないところを見ると、バーンズという男と関わるのが嫌なのだろう。
「おい、アメノ野郎! お前も背中の剣を抜いたらどうだ? もう始まってるぞ」
バーンズは面白おかしく、そう言った。
だが、俺はこんな事で刀を抜くつもりはない。
「どうするんじゃ、エイシュン。刀を抜かんのか? 5人もいるぞ、ゴツイのが」
と、肩にいるサタが訊いてきた。
「抜かんよ。真紋の一族をナメんな。一般人に後れを取るようじゃ、名を継げんよ」
それよりも、アメノ野郎という言い方が気になるところだ。
たぶん、アメノナカツクニ人の野郎を略したんだとは思うが、ここでは俺みたいな東アジア系の顔付きの奴は、こういう風に呼ばれてるのかもしれない。
まぁいい。とりあえず、とっとと終わらせよう。
俺は無造作に奴等へと近付いた。
「なんだ、コイツ……武器も抜かずにこっちに来やがった。ナメてんのか!」
奴等の1人が声を荒げた。
俺は構わず、その辺を歩くかのように奴等へと近付く。
すると、その中の1人が、俺に間合いを詰め、剣を振り被ったのである。
俺はその隙を逃さず、その戦士の額に、幽震の不動術を打ち込んだ。
と、その直後、戦士はそこでバタリと倒れ込んだのである。
「な!? 何しやがった!」
「いきなり倒れたぞ!」
4人の戦士はそれを見て、ギョッとしていた。
バーンズの声が聞こえてくる。
「おい、アメノ野郎……今、何をした!」
「さぁね。さて、続けようか」
俺は4人の戦士に視線を向けた。
「チッ! おい、コイツは得体の知れない魔法を使いやがる! コイツを囲むぞ!」
「ああ!」
4人は不動術にビビったのか、やや間合いを開けながら俺を取り囲んだ。
そして、ジリジリと俺に近づいて来たのである。
だが、距離にして5mくらいで奴等は足を止め、俺をジッと見据えたのだ。
どうやら、俺の出方を窺っているようである。
そんな中、俺は術を行使する為の霊力を練り始めたのであった。
「ほう……囲まれたのう。奴等も警戒しとるわ。どうするんじゃ? 我を追い詰めたように、結界でも張るのか?」
と、サタ。
俺は鼻で笑ってやった。
「フッ、そんな事する必要ない。こういう輩には、良い方法があるんだよ」
「良い方法?」
「まぁ見てろ」
俺はそこで、道に転がる大き目の石を手に取った。
そして、石に何かを仕込むようなフリをして、真上に大きく放り投げたのである。
すると案の定であった。
この場にいる者達は皆、石へと視線を向けていたのだ。
それは、取り囲む戦士達も例外ではなかった。
俺はこの隙を逃さなかった。
すぐさま縮地の手印を結び、呪言を小さく唱えると、見上げる4人の額に幽震の不動術を打ち込んでやったのだ。
丁度そこで、俺が投げた石が地面に落ちてきた。
それと同じくして、4人の戦士達も事切れたかのように、地面へと突っ伏したのである。
その瞬間、この場は静まり返った。
「な!? た、倒れてるだと! いつの間に……」
バーンズはこの有り様を見て、目を大きくしていた。
石に気を取られていて、何も見えていなかったようだ。
「ウソだろ……今、どうやって倒したんだ……」
「すげぇ……あの男……何者だよ……」
野次馬達もその瞬間を見失っていたようだ。
俺はバーンズに視線を向けた。
「どうします、バーンズさん? まだ続けますか? 俺も用があるので、あまり貴方と揉めたくないんですよ。これで終わりにしてもらえませんでしょうか。それと、貴方の娘さんに何も吹き込んだりしてませんから、そこは安心してください」
「何?」
バーンズは面白くなさそうに俺を睨んだ。
すると、その時であった。
「ね? 凄いでしょ、この人! だから私、この人と冒険することにしたのよ。お父さん、いいでしょ?」
なんと、女が俺の前に立ち、妙な事を言い出したのだ。
正直、流れの読めない会話であった。
というか、何言ってんだお前は! である。
「おいおい……なんだよ、冒険て?」
女が俺の傍に来る。
「ここからは私に任せて。貴方も、お父さんと、これ以上揉めたくないでしょ?」
「まぁな。で、どうすんだ?」
「とりあえず、私の話に合わせればいいわ」
「……はいよ」
話が纏まったところで、女は親父に向き直った。
「お父さん、以前言ってたわよね。俺が認めるくらい強い奴とじゃないと、冒険は認めないって。彼ならいいでしょ? 凄く強いんだから」
「でもミュリン……冒険に出るって……つまり……」
バーンズは俺と女を交互に見て、困った表情になっていた。
娘と何やら約束してたようだが、俺と本当に冒険するのは、正直、勘弁してほしいところだ。
この女もセクハラ男と冒険なんて、口から出たデマカセだろう。だよね?
「そうよ……私が決めた事なんだからいいでしょ?」
バーンズは困った表情で黙り込んだ。
暫し沈黙の時が続く。
すると程なくして、バーンズは溜め息混じりに、こちらへとやって来たのだった。
バーンズは俺をジッと見据えると、
「おい、お前……なかなかの腕っぷしだな。良いだろう。何モンか知らねえが……ミュリンをちゃんと護れよ。泣かしたら承知しねぇからな」
なぁんて事を言い出したのだ。
俺は「は?」としか言えなかった。
バーンズは完全に、娘の言葉を信用している感じだ。
少しは疑えよ! と、思ったのは言うまでもない。
「おい、ミュリン。一応、認めるが……その時にはちゃんと俺の所に来いよ。お前は俺の娘なんだからな」
「わかってるわよ」
「よし! じゃあ、行ってこい、ミュリン!」
「ありがとう、お父さん」
親子は目を潤ませ、そこで抱き合った。
なんというか、わけのわからない展開であった。
話が纏まる頃になると、大通りは通常モードになっていた。
沢山いた野次馬共も、いつの間にか居なくなっている。
そして、バーンズ一味もその後、静かにこの場から去っていったのである。
リンクがそこで俺に駆け寄ってきた。
「エイシュンさん……アンタ、すげぇよ。目にも止まらぬ速さで、あのゴツい5人を倒しちまったじゃないか。どうやって倒したんだよ?」
「それは企業秘密だな」
「キギョウヒミツ? ん? ア、アンタは……」
そこでバーンズの娘がやってきた。
すると娘は俺に向かい、ニコッと可愛く微笑んだのだ。
「エヘ……そういうわけで……私、ミュリンて言うの。これからよろしくね」
そして、何ともいえない寒い風が、俺達の間を抜けていったのであった。
バーンズという男が、女の隣にやって来た。
近くで見ると、かなりデカい。
ヘビー級の中でも、かなりデカい部類に入るだろう。
身長175cmの俺より、20cm以上は高いので、見上げる大きさである。
歳はそこそこいってると思うが、なかなか悪そうな親父さんであった。
だが、顔つきが娘とあまり似ていないのが気になるところだ。まぁどうでもいいが。
女は慌てて男に振り向いた。
「お、お父さん……なんでここに」
「おい、ミュリン、コイツが何か言ってきたのか? なんならぶっ飛ばしてやるぞ」
奥さん、聞きました?
ぶっ飛ばすですって……おーこわっ。
まぁそれはさておき、この親父は恐らく、裏社会の人間なんだろう。
リンクがさっき見せた表情は、恐怖というよりも、面倒さからくる嫌な顔だったからだ。
たぶん、この辺りがシマのヤクザ者なのかもしれない。
「違うわよ! あっち行っててよ。というか、なんでここにいるのよ!」
「今朝、お前の様子が変だったからだよ。どうしたんだ、ミュリン。珍しいじゃないか、朝食に顔を出さないなんて……」
「ほっといてよ! 食べたい気分じゃなかったからなの!」
「そんなに怒らなくても良いじゃないか。何があったんだ? 昨夜、帰ってきてから、様子が変だぞ」
はい、原因はたぶん、俺です。
アンタの娘さんで楽しませてもらったぜ……なぁんて事は言わないでおこう。
今は成り行きを見守るべし。
とはいえ、他の客達の視線がこちらに集まっているのが、如何ともしがたいところだ。
それはともかく、女はそこで、俺をチラッと見た。
女の表情は、若干困った感じだ。
言おうかどうか、迷ってるんだろう。
好きにするがいい。
俺は逃げも隠れもせん。
などと考えていると、女は俺に近づき、小さく囁いたのだった。
「貴方が何とかしてよ」と。
俺は思わず声が出てしまった。
「は? なんで?」
だがその直後、鬼の形相をしたバーンズが、俺に迫ってきたのである。
「おい、貴様! 娘に何を言いやがった!」
「何って……寧ろ俺は、言われた方なんですけど……」
「テメェ! なんだその口の利き方は!」
女はそこで親父に振り返った。
「お父さん、話があるの。私、この人と冒険に出るわ!」
「ぼ、冒険!? 何だとぉ!」
「ちょっと待て! なんじゃそら!」
俺とバーンズは声を荒げた。
この女、一体何を考えているのやら……。
「だって、この人、凄く強いのよ! お父さんの部下なんて目じゃないくらいに!」
俺はムンクの叫びのような気分であった。
(も、もうやめてぇぇ! 変な事を吹き込まないでェェ! なんちゅう迷惑娘だ。俺が悪かったよぉ。ちゃんと最後までして満足させてやるべきだったか……う~ん)
バーンズは目をひんむいて大きな声を上げた。
「ミュリン! お前、冒険って事は……チッ! おい、お前達、このアメノ野郎をわからせてやれ!」
「はッ、バーンズ様」
この男の後ろから、強面の厳つい戦士達がやって来た。
なんつーか、最低な展開になってきました。
サタはそれを見て、ケラケラ笑っていた。
ムカつくエテ公である。
まぁとはいえ、俺が播いた種だ。
刈り取りは自分でするとしよう。
「なんでこうなるかなぁ……つか、ここでするんですか? 店の迷惑になるから外でしません?」
バーンズが眉を吊りあげた。
「ほう……良い度胸じゃねぇか、アメノ野郎。なら、表出ろ!」
というわけで、俺は奴等と共に、表に出るハメになったのである。
その途中、リンクが慌てて俺に駆け寄り、囁くように忠告してきた。
「エ、エイシュンさん……アイツ等と揉めるのは不味いよ。バーンズ一家は有力貴族お抱えの何でも屋なんだ。今からでも謝って、穏便に済ませた方がいい。冒険者仲間でも、こいつ等のせいで、王都から離れた奴もいるんだから」
つまり、支配者側から裏の仕事を請け負う奴等……って、事なんだろう。
昨夜、女が俺に絡んで来たのも、宮廷魔導師長の娘の依頼らしいし。
お上と通じてる公認ヤクザみたいなモノなのかもしれない。
確かに、面倒な奴等だが、俺的にはどうでもいいので、とっとと終わらせるとしよう。
とはいえ、あまりにもしつこかったら、高飛びだが。
店を出たところで、バーンズの声が聞こえてきた。
「おい、アメノ野郎、ミュリンに何を吹き込んだのか知らねぇが、後悔させてやる。簡単にミュリンは渡さねぇからな」
「は? 渡す? 意味わかんないんスけど……」
バーンズの周りには、取り巻きと思われる連中が十数人いた。
まぁ揃いも揃って、素行の悪そうな輩ばかりである。
そこにあの女もいた。
女は俺を見て笑っている。
してやったり、ってとこか。
周囲に目を向けると、野次馬も集まってきていた。
「おい、お前達5人で、ちょっとコイツを痛めつけてやれ。殺しちまっても、俺がなんとかしてやらぁ」
「ハッ、バーンズ様」
バーンズは取り巻きにいる戦士系の輩達に、そう指示を出した。
殺人司令が出ましたね。凄いですね。文化の違いを感じます。
倫理観も中世レベルなようですね。って、当たり前か。
それはさておき、5人の輩は剣を抜き、俺へと迫ってきた。
俺達がいる大通りには野次馬が集まっている事もあり、ちょっとしたショー状態である。
とはいえ、野次馬達は哀れな目で、俺を見ているのは言うまでもない。
誰も止めないところを見ると、バーンズという男と関わるのが嫌なのだろう。
「おい、アメノ野郎! お前も背中の剣を抜いたらどうだ? もう始まってるぞ」
バーンズは面白おかしく、そう言った。
だが、俺はこんな事で刀を抜くつもりはない。
「どうするんじゃ、エイシュン。刀を抜かんのか? 5人もいるぞ、ゴツイのが」
と、肩にいるサタが訊いてきた。
「抜かんよ。真紋の一族をナメんな。一般人に後れを取るようじゃ、名を継げんよ」
それよりも、アメノ野郎という言い方が気になるところだ。
たぶん、アメノナカツクニ人の野郎を略したんだとは思うが、ここでは俺みたいな東アジア系の顔付きの奴は、こういう風に呼ばれてるのかもしれない。
まぁいい。とりあえず、とっとと終わらせよう。
俺は無造作に奴等へと近付いた。
「なんだ、コイツ……武器も抜かずにこっちに来やがった。ナメてんのか!」
奴等の1人が声を荒げた。
俺は構わず、その辺を歩くかのように奴等へと近付く。
すると、その中の1人が、俺に間合いを詰め、剣を振り被ったのである。
俺はその隙を逃さず、その戦士の額に、幽震の不動術を打ち込んだ。
と、その直後、戦士はそこでバタリと倒れ込んだのである。
「な!? 何しやがった!」
「いきなり倒れたぞ!」
4人の戦士はそれを見て、ギョッとしていた。
バーンズの声が聞こえてくる。
「おい、アメノ野郎……今、何をした!」
「さぁね。さて、続けようか」
俺は4人の戦士に視線を向けた。
「チッ! おい、コイツは得体の知れない魔法を使いやがる! コイツを囲むぞ!」
「ああ!」
4人は不動術にビビったのか、やや間合いを開けながら俺を取り囲んだ。
そして、ジリジリと俺に近づいて来たのである。
だが、距離にして5mくらいで奴等は足を止め、俺をジッと見据えたのだ。
どうやら、俺の出方を窺っているようである。
そんな中、俺は術を行使する為の霊力を練り始めたのであった。
「ほう……囲まれたのう。奴等も警戒しとるわ。どうするんじゃ? 我を追い詰めたように、結界でも張るのか?」
と、サタ。
俺は鼻で笑ってやった。
「フッ、そんな事する必要ない。こういう輩には、良い方法があるんだよ」
「良い方法?」
「まぁ見てろ」
俺はそこで、道に転がる大き目の石を手に取った。
そして、石に何かを仕込むようなフリをして、真上に大きく放り投げたのである。
すると案の定であった。
この場にいる者達は皆、石へと視線を向けていたのだ。
それは、取り囲む戦士達も例外ではなかった。
俺はこの隙を逃さなかった。
すぐさま縮地の手印を結び、呪言を小さく唱えると、見上げる4人の額に幽震の不動術を打ち込んでやったのだ。
丁度そこで、俺が投げた石が地面に落ちてきた。
それと同じくして、4人の戦士達も事切れたかのように、地面へと突っ伏したのである。
その瞬間、この場は静まり返った。
「な!? た、倒れてるだと! いつの間に……」
バーンズはこの有り様を見て、目を大きくしていた。
石に気を取られていて、何も見えていなかったようだ。
「ウソだろ……今、どうやって倒したんだ……」
「すげぇ……あの男……何者だよ……」
野次馬達もその瞬間を見失っていたようだ。
俺はバーンズに視線を向けた。
「どうします、バーンズさん? まだ続けますか? 俺も用があるので、あまり貴方と揉めたくないんですよ。これで終わりにしてもらえませんでしょうか。それと、貴方の娘さんに何も吹き込んだりしてませんから、そこは安心してください」
「何?」
バーンズは面白くなさそうに俺を睨んだ。
すると、その時であった。
「ね? 凄いでしょ、この人! だから私、この人と冒険することにしたのよ。お父さん、いいでしょ?」
なんと、女が俺の前に立ち、妙な事を言い出したのだ。
正直、流れの読めない会話であった。
というか、何言ってんだお前は! である。
「おいおい……なんだよ、冒険て?」
女が俺の傍に来る。
「ここからは私に任せて。貴方も、お父さんと、これ以上揉めたくないでしょ?」
「まぁな。で、どうすんだ?」
「とりあえず、私の話に合わせればいいわ」
「……はいよ」
話が纏まったところで、女は親父に向き直った。
「お父さん、以前言ってたわよね。俺が認めるくらい強い奴とじゃないと、冒険は認めないって。彼ならいいでしょ? 凄く強いんだから」
「でもミュリン……冒険に出るって……つまり……」
バーンズは俺と女を交互に見て、困った表情になっていた。
娘と何やら約束してたようだが、俺と本当に冒険するのは、正直、勘弁してほしいところだ。
この女もセクハラ男と冒険なんて、口から出たデマカセだろう。だよね?
「そうよ……私が決めた事なんだからいいでしょ?」
バーンズは困った表情で黙り込んだ。
暫し沈黙の時が続く。
すると程なくして、バーンズは溜め息混じりに、こちらへとやって来たのだった。
バーンズは俺をジッと見据えると、
「おい、お前……なかなかの腕っぷしだな。良いだろう。何モンか知らねえが……ミュリンをちゃんと護れよ。泣かしたら承知しねぇからな」
なぁんて事を言い出したのだ。
俺は「は?」としか言えなかった。
バーンズは完全に、娘の言葉を信用している感じだ。
少しは疑えよ! と、思ったのは言うまでもない。
「おい、ミュリン。一応、認めるが……その時にはちゃんと俺の所に来いよ。お前は俺の娘なんだからな」
「わかってるわよ」
「よし! じゃあ、行ってこい、ミュリン!」
「ありがとう、お父さん」
親子は目を潤ませ、そこで抱き合った。
なんというか、わけのわからない展開であった。
話が纏まる頃になると、大通りは通常モードになっていた。
沢山いた野次馬共も、いつの間にか居なくなっている。
そして、バーンズ一味もその後、静かにこの場から去っていったのである。
リンクがそこで俺に駆け寄ってきた。
「エイシュンさん……アンタ、すげぇよ。目にも止まらぬ速さで、あのゴツい5人を倒しちまったじゃないか。どうやって倒したんだよ?」
「それは企業秘密だな」
「キギョウヒミツ? ん? ア、アンタは……」
そこでバーンズの娘がやってきた。
すると娘は俺に向かい、ニコッと可愛く微笑んだのだ。
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この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
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