我、迷い込みし者也

書仙凡人

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vol.10 悪魔の爪痕

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   [Ⅰ]


 悪魔の爪痕……それは緑の大地に走る、地割れのような巨大な穴であった。
 その幅は広いところで50m程あり、長さは500mくらいあるんじゃないだろうか。
 そして、その穴の外周を囲うように、灯台のような形をした塔が、幾つも点在しているのである。
 ファレルさんの話によると、これらは魔物を封じる為の結界塔との事だ。
 グランディス教のシャギヴ大司教と宮廷魔導師長ワーグナーの指導により建立されたモノらしい。
 これのお陰で、強い魔物の出現をなんとか抑え込んでいるそうである。

(ふぅん……こりゃまた大掛かりな結界だな。塔同士を清らかな霊力で繋いでるのね……いや、ここでは魔力というべきか)

 で、そんな悪魔の爪痕だが、こんな状況だから、どこからでも入れるわけではない。
 決められた入り口があるのだ。
 幾つもある結界塔の1つに、砦のような建造物があり、そこが入り口となっているのである。
 そして、そこで探索者としてのチェックを行い、爪痕への通行許可が降りるのであった。
 まぁとはいえ、その辺の手続きはリーダーであるファレルさんがしてくれるので、他の者達は特に何もする事はない。
 俺達は今、それを待っているところだ。
 そして、その手続きも程なく終わり、俺達は砦の地下へと、アレングランドの兵士達に案内されたのであった。
 案内された先は、石の壁と床に囲われた行き止まりの通路。
 幅はそこそこ広いが、行き止まりの壁には、妖しげな円形の魔法陣が描かれた両開きの扉があり、その手前には数名の者達が屯していた。
 屯しているのは、紫色のローブを纏う者や、ルーミアのような法衣を纏う者、そしてアレングランドの兵士である。
 それはさておき、俺達が扉の前に来たところで、青い法衣服を纏う白髪のアールヴ族の男が、こちらに向かって会釈をしてきた。

「ようこそ参られた、アレングランド王に認められし探索者達よ。グランディスの印は持っているだろうか?」
「あります、ガレス司教」

 ファレルさんは首に掛けられた銀色のペンダントを男に見せた。
 男は頷く。

「うむ。失くすでないぞ。帰れぬようになるからな。さて……これより先は魔物の世界。探索者達よ……心して行くがよい。では封印の扉を緩めよう……アーズダ……レング……」

 ガレス司教は扉に向かって両手を突き出し、奇妙な呪文を唱えた。
 すると程なくして、扉の魔法陣が淡く輝き、左右にゆっくりと開き始めたのである。

(へぇ……なるほどね。これもある種の結界術だな。しかし……この悪魔の爪痕に施されている結界……妙なんだよな。どうやってこの結界を作り上げたんだろ? 霊力の流れに違和感がある……まぁいいか。俺の知ったこっちゃないし。さて、それはともかく、いよいよ探索か……何が待っているのやら)

 程なくして、扉は完全に開かれた。
 向こうの景色が見える。
 この先は、岩や土砂ばかりの薄暗い峡谷であった。
 恐らく、地割れになっている悪魔の爪痕上層部だろう。
 底が見えないところを見ると、かなり深いようだ。

「さぁ扉は開かれた。探索者達よ、行くがよい。其方達にグランディスの加護があらんことを……」

 いよいよ、冒険の開始である。


   [Ⅱ]


 俺達は扉を潜り、悪魔の爪痕の中へと足を踏み入れた。
 すぐは崖になっており、そこに沿うように、下へと降りる不気味な道が伸びていた。
 周囲は邪気や妖気とでも言うべき、嫌な霊気で満たされている。
 発生源は間違いなく、この下だろう。
 俺の霊感にビンビン来ている。
 某妖怪小僧ではないが、髪の毛がアンテナのように、ピンと立ちそうなくらいであった。
 最下層で何かが起きているのだろう。
 勿論、原因を突き止める気はサラサラない。

(この感じ……恐らく、下に行けば行くほど邪気が強くなっていくに違いない。それに比して、厄介な化け物も下に蠢いてる筈だ。どこまで降りるのか知らないが、面倒な事にならなきゃいいけど……ン?)

 俺達が悪魔の爪痕に入ったところで、扉は閉められた。
 退路を断たれたようだが、ファレルさんが持つグランディスの印が、鍵の役目を果たすようである。

「さて、行こう。だがその前に、ルーミア。グランディスの加護を頼む」

 と、ファレルさん。
 ルーミアさんは頷くと両手を天に掲げ、呪文のようなモノを小さく詠唱した。
 するとルーミアさんの両手から光の霧が発生し、俺達全員に降り注いだのである。
 それは穢れを祓い、俺達を守るように包み込む光の霧であった。
 俺は霊気の質から、効能はすぐに理解した。
 これはまさに、守りの魔法のようだ。
 簡単に言うと、霊的にも物理的にも、少々の防御壁を作ったという事である。
 だが、そこまで強力ではない。
 無いよりマシな程度であった。
 とはいえ、興味深い魔法である。
 この世界には、俺が知らない魔法がまだまだ沢山あるんだろう。
 追い追い勉強してゆくとしよう。

「よし、では進もう……まずは『裂けた谷底』に向かうぞ」

 ファレルさんを先頭に、俺達のパーティは移動を開始した。
 不気味で薄暗い谷を俺達はゆっくりと降下してゆく。
 下へ降りるに従い、ヒンヤリとしてきた。
 どうやら、下に行くほど、気温もやや低いようだ。
 また、岩と土ばかりで足元は凸凹しており、尚且つ、傾斜もあるので、歩きにくい所であった。
 ファレルさん達は慣れているのか、足取りも軽快である。
 だが、ミュリンは初めてらしいので、結構、大変そうだ。
 まぁそんな感じの所なのだが、それ以上に目を引くのは、周囲にある無数の骨であった。
 そこかしこに、人骨や獣の骨が散乱しているからである。
 しかも、それらは武装しているので、兵士や冒険者と思われる人骨がかなり多いのだ。
 酷い有様であった。
  
「ファレルさん……凄い骨の数ですね。ココはさながら、地獄の入口って感じですよ」
「ああ、この骨か。これらは、数年前の戦いで命を落としたアレングランド兵と魔物のモノだろう。凄まじい戦いだったと聞くからな」

 この骨の数を見るに、かなり凄惨な戦いだったようだ。
 相当な命が、双方失われたに違いない。

「へぇ……その時のモノなのですか。確かに、白骨遺体が殆どですもんね。ン?」

 俺はそこで、殺気のような霊的気配を感じ取った。
 それは、前方に見える大きな岩からであった。
 とりあえず、リーダーに報告するとしよう。

「ファレルさん……向こうに見える大きな岩陰に、何かが潜んでいますよ」

 全員が息を飲み、俺に振り向いた。

「何だと……」
「あの岩に?」
「え? そんなのわかるの、エイシュンさん」
「エイシュン、本当に?」

 俺は頷いた。

「職業柄、殺気には敏感なのでね。あそこに、殺意を持った何かがいます。敵意向きだしですから、用心してください」
「わかった」

 俺の忠告を聞き、全員が真顔になった。
 そして、すぐに戦闘に入れるよう、武器に手を掛けつつ、歩を進めたのである。
 程なくして、俺達はその大岩へと近づいた。
 すると、その直後であった。

「シャァァ! メシだ! 殺して喰っちまえ!」

 予想通り、魔物共が姿を現し、襲い掛かって来たのである。
 それは人型の化け物で、数は10体。
 チンパンジーくらいの大きさで、くすんだ緑色の肌をした魔物であった。
 吊り上がった大きな目と、テングザルのような長鼻。
 肉食獣のような牙が生えた大きな口と、角が生えたツルッパゲの頭。
 手には、棍棒や剣等の武器が握られている。
 武装した小鬼。それが俺の第一印象であった。

「ゴブルか……皆、弱い魔物だが、気を抜くなよ! 俺とサリアは前に行く。エイシュンさんとリンクとミュリンは、討ち漏らした魔物を頼んだぞ。ルーミアは魔法で援護してくれ。いくぞ!」

 そして、戦いが始まったのである。
 ファレルさんやサリアは手慣れたもので、それらの小鬼を容赦なく斬って捨てていた。
 俺が刀を抜くまでもない戦いだった。
 次々とファレルさん達が始末してくれたからだ。
 リンクも軽やかに動き、剣で魔物の首を斬りつけていた。
 ルーミアさんはいつでも魔法を使えるよう、戦況を見ている。
 この動きを見る限り、ファレルさん達のパーティはそこそこ熟練の者達で構成されているのだろう。
 ちなみにだが、何もしないのもアレなので、俺も不動術で何体か足止めはしておいた。
 また、ミュリンも火の魔法を使えるのか、それを魔物に放っていたのである。
 それは小さな火炎放射といった感じのモノであった。 
 だが弱い火力なので、それだけで魔物を倒すには至らないようである。
 もう少し火傷を負いそうな気がしたが、霊力……いや、魔力で作られた炎なので、化学反応で起きる普通の炎とは、また違うからかもしれない。
 とはいえ、初めて見る魔法なので、ちょっと興味が湧いたところだ。
 休憩の時にでも、ミュリンに訊いてみるとしよう。  
 それはさておき、程なくして、ファレルさんが最後の1体にトドメを刺し、戦闘が終わったのであった。

「よし、これで終わりだ。では進もう」

 そして、俺達は移動を再開したのである。
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