我、迷い込みし者也

書仙凡人

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vol.13 捻れた回廊

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   [Ⅰ]


 安らぎの結界内で休憩を終えた俺達は、捻れた回廊という区域へ足を踏み入れた。
 そこから先は洞窟内の光景が様変わりする。
 なぜなら、そこからは鍾乳洞のような様相をしているからだ。
 黒い溶岩石のような壁面ではなくなっているのである。
 おまけに川でもあるのか、水の流れるような音が、どこからともなく響いていた。
 それに加え、気温も肌寒く、湿度も高い。
 ただ、それよりも気になるのは、進む道だろう。
 どうしてこうなったのか? と言うくらい、奇妙にうねっているからだ。
 蛇のようにくねくねと曲がり、上下の落差も凄い。
 その所為か、洞窟全体が歪んで捻れているかのように錯覚するのである。
 これが捻れた回廊と言われる由縁なのだろう。
 おまけに、ここは足場が悪い事もあり、地に足を付ける魔物の類はあまりいない。
 その代わり、悪霊のような実体のないレイスという魔物や、宙を舞うデカいトンボみたいな魔物が多いのである。
 そして、今もそういう魔物と戦っている最中だったりするのだ。

「エイシュンさんにルーミアにミュリン、またレイスだ。魔法で対処してくれるだろうか。我々はドゥヴァンの方をなんとかする」

 ドゥヴァンとはトンボみたいな魔物の名前である。

「了解です」
「わかりました」

 つーわけで、俺は浄化の霊符を使い、奴等を何体か撃退した。
 ルーミアさんは、グランディス教仕込みの魔法『慈悲の光』を使い、奴等を消し去っていた。
 また、ミュリンは火の魔法で、奴等を迎え撃つのである。
 とまぁこんな感じで、俺達は戦闘しているのであった。

「ほうほう……悪霊の類は、お主の敵ではないのう。流石はシンモンの末裔じゃな」

 肩にいるサタが小さく囁いてきた。
 気楽なもんである。
 ちなみに、このアレングランドでは悪霊の事をレイスというらしい。
 スコットランドの民話伝承にも、レイスと呼ばれる亡霊がいるが、それとの関係性はわからない。
 というか、ゲームにもよく出てくるお馴染みのゴーストモンスターだろう。
 生前の姿をした悪意ある煙のような霊体で、中には魔法を使ってくる妙なモノまでいる。
 俺が今まで退けてきた悪霊とは、少しタイプの違うモノであった。
 だが、ファレルさん曰く、レイスは厄介な魔物の1つだそうだ。
 直接攻撃が通じず、魔法じゃないと対処が難しいからというのが、その理由のようである。
 とはいえ、ゴーストバスターは俺の最も得意とするところ。
 その為、俺的にはある意味で、楽な回廊であった。
 浄化の霊符や、身体に霊気を纏わせる霊的格闘術が大活躍なのである。
 逆にファレルさん達は苦手な感じであった。
 やはり、直接の物理攻撃が通じない、もしくは通じにくい魔物が多いからだろう。
 それもあり、この捻れた回廊ステージは、俺とミュリンとルーミアさんが戦闘の要となっているのである。
 しかし……ゴースト系を相手にできるのが、3人というのはちょっと心許ない。
 つーわけで、俺はやむを得ず、ある手段を講じる事にしたのである。
 戦いが終わったところで、俺はファレルさんに言った。

「ファレルさん、ちょっといいですかね?」
「ん? どうしたんだ、エイシュンさん。何かあったのか?」
「この回廊は悪霊が多いので、3人だけでレイスを対処するのは効率悪いです。なので、ファレルさんとサリアさんの剣に、悪霊を斬れる術を付加させてもらいたいんですけど、良いですかね?」

 するとファレルさん達は、目を大きくしたのであった。

「え! そんな事ができるのか?」
「そんな魔法あるの!?」

 この反応……恐らく、そういう魔法の類がないんだろう。
 まぁいい、続けよう。

「ええ、私はできます。なので、ちょっと剣に破魔の術紋を描かせて欲しいのです。良いですかね?」
「そんな魔法があるのなら、願ってもない話だ。是非お願いしたい」
「私もお願いするわ」
「じゃあ、俺も」

 ファレルさん達3人はそう言うと、俺の前に剣を差し出した。
 つーわけで、俺は早速、破魔の術紋の付加作業に取り掛かったのである。
 俺は道具入れから、筆と霊薬を取り出し、剣の刃に術紋を描いていった。
 そして描いた後、術紋に俺の霊力を籠め、即席の霊刀が仕上がったのである。
 俺はそこで、剣を3人に返した。

「はい、どうぞ。これで恐らく、悪霊共を斬れるはずです。一時的なモノなので、ずっとではありませんがね」

 刀身に描いた黒い紋様を3人は不思議そうに眺めていた。
 ミュリンとルーミアさんもである。

「この模様がそうなのか。初めて見るな」
「エイシュンさんて、本当に変わった魔法を使えるのね……」
「俺も……こんなの初めて見たよ」

 ファレルさんとサリア、それとリンクは、物珍しそうに見ている。
 ちょっと余計な事をしたかもしれないが、あまりにも非効率なので、止むを得んところである。

「本当ですわ……グランディス教の高司祭も、こんな魔法の知識はありませんから、非常に気になる魔法です」

 ルーミアさんは興味津々の様子だ。

「ですが、あんまり長くは続きませんから、早めに捜索を終えましょう」
「ああ、わかった。では行くぞ」――

 そして俺達は、捜索を再開したのである。



   [Ⅱ]


 俺達は捻れた回廊を隈無く捜索していった。
 だが未だに、アルミナさんという方の姿はおろか、手掛かりすらも見つからない状況なのであった。
 ファレルさんが言うには、まだ半分近く捜索したくらいとの事なので、これから先、何かが掴めてくるのかもしれない。
 今は辛抱強く探すしか無いようである。
 まぁそれはさておき、ファレルさん達前衛は、俺が施した破魔の術紋の効果もあり、レイスにも攻撃が通じるようになった。
 その為、捜索は大分楽になったところだ。
 だが、俺はこのレイスという魔物に、少々違和感を覚えていたのである。

(この回廊に出る悪霊……いや、レイスといったか。何かおかしい……悪霊のような禍々しい負の念がない。そればかりか、同一人物と思われる霊魂と、何回か遭遇しているんだよな。どういう事だ……倒しても倒しても、同じ人物の亡霊が出るなんて、普通はあり得ないんだが……)

 そう、そこが気掛かりであった。
 普通は消滅したら、それで終わりだからである。
 同じ人物の亡霊が出るなんて事は、まずないのだ。
 しかし、1つだけ……可能性として考えられる事があった。
 とはいえ、それはあまり考えたくない事ではあった。
 なぜなら、日本における呪術業界では、左道と言われる邪悪な秘法に通じるモノでもあったからだ。

(まさかとは思うが……あの系譜の術を魔物共が使っているのか? だとすれば、今のレイスの現象の説明がつくんだよな。考えたくはないけど……)

 とはいえ、無視できない事なので、とりあえず、俺は確認する事にした。

「ファレルさん……目的のパーティはここに向かったそうですが……今、この悪魔の爪痕を探索しているパーティって何組くらいいますかね?」
「探索しているパーティか……一応、斡旋所の記録だと、我々とアルミナ達を含め、4組のパーティが来ている事になってたと思うが……それがどうかしたかな?」
「他にもいるんですね。ちなみに、アルミナさん達以外にも、捜索依頼って来てますかね?」

 ファレルさんは渋い表情で頷いた。

「ああ……依頼は来ているよ。まぁとはいっても、殆どは消息不明で未解決が多いんだがな。恐らく、そういった冒険者の多くは、魔物の餌食になっているんだろう。捜索依頼は、意外と難しい依頼になるんだよ。その分、高額な報酬だけどね。アルミナ達も無事だと良いんだがな。ところで……何か気になる事でもあるのか、エイシュンさん」
「ええ、ちょっとね。ついでなんで、もう1つ訊きます。我々より、深く潜っている探索者っていますかね?」
「いや、他のパーティはたぶん、裂けた谷底までだろう。今日は我々が一番深く潜っている筈だ」
「今日は我々だけですか……ン? またお出ましですね」
「何!」

 ファレルさんは俺の視線の先を追う。
 そして真顔になり、剣を構えたのである。

「皆、またレイス共が来たぞ。戦闘態勢に入れ!」

 ファレルさんの号令で、全員が武器を構えた。
 程なくして、魔物は俺達の前へと迫って来た。
 現れたのは5体のレイスであった。
 するとそこで、ファレルさんの大きな声が響き渡ったのである。

「な! 馬鹿な……このレイスは……ア、アルミナ達じゃないか!」
「アルミナさん! なんで……」

 ファレルさんとサリアは、現れたレイスを見て息を飲んでいた。
 どうやら、このレイス達は捜索対象の方々のようだ。

「な、なんでアルミナさん達がレイスになってんだよ! まさか……もう既に死んじまって……」

 リンクは蒼い顔になっていた。
 ファレルさん達は予想外の展開に戸惑っている。
 だが、現れたレイス達は、そんなのお構いなく、俺達に襲い掛かってきたのであった。

「シャァァァ」という奇声をあげて……。
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