我、迷い込みし者也

書仙凡人

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vol.16 不死身の秘密

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   [Ⅰ]


 黒い甲冑の魔物が俺に迫る。
 俺はそこで縮地の呪法を使い、素早く元いた位置へと戻った。
 魔物達はそれを見て、一気に俺へと間合いを詰めてくる。
 あまりにも思惑通りなので、俺はほくそ笑んだ。

(おお、来た来た。さてと……当初の予定が狂ったが、ようやくトラップ発動だ)

 俺は地面に仕込んだ術紋に剣を突き立て、手印を組み、トラップを発動した。
 すると次の瞬間、俺を中心とした地面に、蒼白い五芒星が浮かび上がったのである。
 そして、黒い甲冑の魔物は金縛りに遭ったように、小刻みに震えながら動きを止めたのだった。
 ちなみにこれは、不動五行紋と呼ばれる不動霊縛の結界術だ。
 真紋の一族における初歩的な結界術の1つである。
 とはいえ、術者以外を全て巻き込むので、使いどころの難しい術ではあるが。

「な!? マドゥラの騎士の動きを止めただと! 貴様……なんですか、その魔法は……」

 フェラドゥンとかいう魔物も少し驚いたようだ。
 とはいえ、俺的には少し不満があるところであった。
 なぜなら、結界の霊力源であるこの辺りの霊力は邪気が多いので、いつもよりやや弱い結界だったからである。
 事実、魔物は僅かではあるが、身体が動いているのだ。

(ふむ……こんなもんか。ちょっと弱いが、効力はまぁまぁあるから、これで我慢するとしよう。さて……まずはコイツ等から降魔といこうか。コイツ等は恐らく、邪悪な霊魂が鎧に憑依したリビングメイルと呼ばれる現象の一種だろう。よって、中を消毒してやる! 汚物は消毒だぁ!)

 俺はそこで、霊刀に描かれた浄化の秘紋に触れ、呪言を小さく唱えた。
 その直後、刀身に眩い清らかな白い光が発せられたのであった。
 不浄を祓う秘剣、摩利支天浄魔光剣と呼ばれる奥義である。 
 これで準備完了だ。

 ちなみに話は変わるが、摩利支天という名前がついてるが、ただの比喩表現で使われてるだけで、密教の摩利支天尊とは全く関係が無かったりする。
 俺の家は、表向きは密教系の単立寺院なので、先祖はそこから流用したんだろう。
 摩利支天は太陽の光を神格化したモノでもあるからだ。
 どうもご先祖様は、その辺が適当だったようである。
 というわけで、話を戻そう。

 摩利支天浄魔光剣を発動させた俺は、身動きできない魔物へと近づき、甲冑の隙間に刀を突き刺した。
 その刹那、魔物は白く発光し、鎧はガラガラと崩れていったのである。
 中の邪悪な霊魂が消滅した為、ただの鎧と化したのだ。
 もう1体も同じ要領で、俺は中の邪悪な魂を浄化した。
 そして甲冑の魔物は、無機質な鎧へと戻っていったのである。
 と、そこで、フェラドゥンという魔物が、俺を睨みつけてきた。

「グッ……貴様……ならば私が始末するまでです!」

 魔物は俺に杖のようなモノを向け、呪文を唱えてきた。
 すると次の瞬間、蜷局を撒いた大蛇のような紅蓮の炎が発生したのである。
 それは、かなり強力な炎の魔法であった。
 道中に俺が使った迦楼羅焔の火炎呪と良い勝負である。

「ホホホホ、フェラドゥンの力を見せて差し上げましょう。ゴルモアの炎で、悶え苦しみながら死になさい!」
「ゴルモアの炎だって!? マズい! エイシュンさん、今すぐにその場から離れるんだ! 相手を焼き尽くすまで消えない、邪悪な魔法だぞ!」

 ファレルさんの大きな声が響き渡った。

「ホホホホ、もう遅いですよ。さぁ死になさい!」

 魔物は俺に向かい、紅蓮の炎を解き放つ。

「キャァァ、エイシュン!」

 ミュリンの悲鳴じみた声も聞こえてきた。
 そんな中、炎の大蛇が俺に襲い掛かってきたのである。
 だが、五行紋の結界に到達した瞬間、炎は霧散し、消えていったのだ。

「な!? ゴルモアの炎が掻き消えただと! そんな馬鹿な!」

 フェラドゥンとかいう魔物は、口をあんぐりと開けて驚いていた。
 髑髏なのでキモいの一言である。

「あれ……消えた」
「え? なんで?」
「ゴルモアの炎が消えたわ……なぜ?」

 ギャラリーはポカンとしている。
 たぶん、理解不能の現象なんだろう。
 まぁそれはさておき、この五行紋の結界……いや、真紋の一族が使う不動結界は、基本的に外部からの呪術は干渉できない。
 術者以外の霊力を拒絶するのだ。
 だから消えたのである。
 つまり、ある意味では、強力な防御結界でもあるのだ。

「あはは、残念だったな。この五行紋の結界は、俺以外の霊力を受け入れないんだよ」
「ゴギョウモン? チッ、忌々しい奴め! だが、そんな結界の中にいては、私を倒す事はできませんよ。ずっとそこに閉じこもっているつもりですか、お馬鹿さん。我々を倒すと息巻いている割に、情けない奴ですねぇ。ホホホホ」

 誘っているのだろう。
 よかろう。
 俺も確認したいことがある。
 誘いに乗ってやるとしよう。
 つか、元々その予定だが。

「良いこと言うね。それもそうだ。お前をシバくには、結界の外に出なきゃならんからな」
「え?」

 俺は堂々と結界から出てやった。
 フェラドゥンとかいう魔物は、中途半端な表情で俺を見ている。
 すんなり出てきたので、向こうも少し面食らったのだろう。

「ホ……ホホホホ、ようやく殺されに出てきましたか」
「ははは、違うな。俺がお前をシバく為に出てきたんだよ。あ、そうそう……お前、武器も魔法も通じないんだって?」
「ホホホホ、そうですよ。フェラドゥンですからね。私は不死身となったのです。神に近い存在なのですよ」
「へぇ……じゃあ、どのくらい不死身か、テストするわ」
「は? てすと?」

 俺はそこで印を素早く組み、呪言を唱え、迦楼羅焔の火炎呪を行使した。
 次の瞬間、蒼白い炎が出現する。
 そして遠慮なく、火炎呪を奴に見舞ったのである。

「何ィ! グボァァァ!」

 蒼白い炎の塊が奴に直撃する。
 炎は燃え広がり、奴を火達磨にした。
 俺は即座に次の行動にでる。
 縮地の術を使って一気に間合いを詰め、摩利支天浄魔光剣で3段攻撃をお見舞いしてやったのだ。
 ちなみに3段目は虎切の剣技であった。
 所謂、ツバメ返しというやつである。

「グギャァァ! いつの間にィィィ!」

 その刹那、燃え盛る奴の身体は、俺の斬撃により3つに分かれ、バタバタと地面に落ちたのだ。
 まるで、刀の試し斬りに使われる巻藁の如しである。
 奴の身体が骨と皮だけなので、スパスパいったのだ。

「あ、あの一瞬に……3回も斬ったのか……」
「エイシュンさん……凄い……」
「め、滅茶苦茶強いじゃんか、エイシュンさん」
「エイシュン様は、これほどの腕を持った方だったのですね……」
「本当に強いのね、エイシュン……やだ、惚れ直しちゃったかも……」
「相変わらず、容赦がない奴じゃのう……」

 ギャラリーがかなり驚いてるようだ。
 正直、誰も見てないところで戦いたかったが、この際、仕方ないだろう。

(この後が面倒臭そうだが……まぁいい。さて……本当に不死身かどうかを見せてもらおうかな)

 燃え盛る奴の身体は微動だにしなかった。
 程なくして、迦楼羅焔の炎は消えてゆく。
 すると、分離した身体が次第にくっつき始め、ノソノソと立ち上がってきたのである。
 不死身なのは確かなようだ。

「クッ、やっぱりフェラドゥンは倒せない……身体が復活してきた」
「ああ……もう終わりだ。やっぱりフェラドゥンは倒せないんだ」

 ファレルさんとリンクの残念そうな声が聞こえてきた。
 まぁ確かに、凄い再生能力である。
 とはいえ、当たり前だが、服は再生しなかった。
 その為、奴は今、全身が素っ裸の干物状態であった。
 煮ると臭い出汁が出てくるに違いない。
 ちなみにだが、股間には干からびたチンコみたいなのがあったので、一応、元は男のようだ。
 見たくない光景だったのは、言うまでもない。
 まぁそれはさておき、俺は魔物に拍手してあげた。

「おお、ブラボー、ブラボー。やるじゃん、お前。不死身って言うから試してみたが、なかなかの復活具合だな」

 魔物はかなりお怒りのようで、俺をキッと睨みつけてきた。

「クッ……おのれぇ……貴様はぶっ殺す! コケにしやがって! フェラドゥンの力を見せて差し上げましょう」
「いや、面倒臭いから、そういうのもう良いよ。そろそろ、お前を始末するわ」
「え?」

 俺はそこで足元にある仕込んでおいた術紋に剣の切っ先を付け、手で印を組み、呪言を唱えたのである。
 その直後、俺と奴を囲う八芒星の白い光の結界が、地面に出現したのであった。
 浄魔八葉印と呼ばれる強力な降魔用の不動結界である。
 これも勿論、真紋の一族の秘術だ。
 五行紋の結界よりも、さらに強力なのは言うまでもない。

「悪いな、すでに結界の術紋は仕込んであったんだよ」
「ガッ……そんな……か、身体が動か……グアアァァァ」

 魔物は動きを止め、絶叫していた。
 とはいえ、俺的には少し驚いたところだ。

「へぇ……やるじゃないか、お前。この結界の中で喋れるとはね」

 恐らく、結界の霊力源が良くないからだろう。
 穢れのない霊力に変換する術紋があるのだが、そこでロスが起きているに違いない。
 何事も完全にはいかないモノだ。
 まぁとはいえ、作業に支障はないレベルなので、このままシバくとしよう。

「グッ……貴様、一体何者だ……こんな魔法を使えるなんて……」
「俺か? 俺はただの旅人さ」
「た、旅人だと……クッ、おのれ! いかに貴様が強かろうとも、私は不死身です! お前がくたばるまで、私は何度も生き返ってやりますよ。ホ、ホホ、ホホホホ」
「へぇそうかい。じゃあ、試してやろう」

 俺はそこで一太刀振るった。
 その刹那、奴の腕がボトリと地面に落ちる。
 そして、暫し様子を見たのである。
 だが、手はくっつく事はなかった。
 ずっとそのままだったのだ。

「そ、そそ、そんな馬鹿な! なぜ腕がくっつかない! なぜだ!」

 奴に謎解きしてやるとしよう。

「良いこと教えてやろう……この結界内はな、お前の本当の居場所から一時的に切り離されているんだよ。俺達はその居場所の事を幽世かくりよと呼んでいるがな。つまり、お前はもう幽世の力を使えないという事だ。そう……お前が不死身なのは、幽世から仮初の肉体を操れたからに過ぎない。よって……この結界内ならば、お前を始末可能という事なんだよ。わかったか、この干物野郎!」
「な、なんだってェェ! き、貴様……私の身体の謎を知っていたのか! 死と生の狭間に魂を置いている事を!」

 これには流石の魔物も脅えた表情であった。
 不死身のネタを明かされたからだろう。 

「ああ、そうそう、これも言っておこう。俺は、お前みたいな奴を何回か相手した事あるんだよ。ま、俺達の業界用語じゃ、お前達みたいなのを尸解仙しけせんと呼んでいるんだけどな。ただ、お前の場合、まだ肉体の尸解しけが完全に終わってないから、中途半端な状態だ。だから、かなり楽な部類で助かったよ。完全に尸解すると面倒だが、今ならまだ仮初とは言え、肉体に括られているからな。ちなみに、あの柱に溜め込んだ冒険者達の生気をつかって、それをするつもりだったんだろ?」
「グググッ……な、何という事だ……まさか、こんな奴がいたとは……」

 魔物は悔しそうに歯ぎしりをしていた。

「あははは、残念だったねぇ……つーわけで、お前を退治させてもらうよ」
「ま、待て! グギャァァ!」

 俺は摩利支天浄魔光剣を奴の脳天から振り下ろし、一刀両断した。

「わ、私の計画がァァァ! ギャァァァ!」

 そして奴は、断末魔の悲鳴と共に、身体が灰となり、消滅したのであった。
 これにて降魔完了だ。 
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