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vol.19 騎士団長
しおりを挟む[Ⅰ]
ウォーレン隊長達の後に続き、俺達はアレングランド城へとやってきた。
西洋風の頑固な王城の城門には、盾と槍を持った兵士達が背筋を伸ばして沢山立っており、物々しい雰囲気となっていた。
今は悪魔の爪痕という問題を抱えているので、魔物の来襲に備えて警戒は怠ってないのだろう。
ちなみに、今は夕暮れ時という事もあり、外はやや薄暗い。
それもあり、城の入口には既に篝火のような松明が灯っていた。
だが、こんな不鮮明な明かりでは、夜の帳が降りてくる頃になると、なかなか確認し辛いに違いない。
電気のない世界は色々と大変である。
まぁそれはさておき、そんな物々しい城門を潜り、俺達はその後、城の中へと足を踏み入れた。
城内は流石に厳かな装いであった。
床は磨かれた石畳で、純白の壁には絵画や甲冑が飾られている。
また天井には写実的な宗教画を思わせる壁画が描かれていた。
それはまるで、ルネサンス期を代表する芸術家、レオナルド・ダ・ヴィンチの画風を思わせるような壁画であった。
なんというか、海外旅行に行った気分である。
そして、そんな城内を暫く進み続け、俺達はとある部屋へと案内されたのだ。
そこは兵士の修練場のような所であった。
室内はかなり広いが、今は無人で、俺達以外誰もいない。
壁には剣や槍に斧といった武器や、鎧に盾といった防具が立て掛けられている。
幾多の兵士達が、ここで汗水を垂らして修練しているのだろう。
それを物語るように、壁際にある武器の握り部分は、かなり色褪せていた。防具も傷だらけだ。
この感じだと、さぞかし香ばしい香りがするに違いない。
というか、この場所……仄かに汗臭いっス。
持ってはいないが、ファブリーズを噴霧したい気分であった。が、今は俺も人の事は言えない。
なぜなら、この世界に来て2週間あまり……なんと俺は一度の入浴もしてないからである。
最初の3日くらいはかなり気持ち悪かったが、今はもう慣れたモノだ。って、慣れたらアカン!
この後、俺はちゃんと風呂に入るんだ。
なかったらせめて行水するって決めてんだよ。
ああ、もう……なんて不潔な世界なんだ、ここは。
そう……この中世風の異世界は、文明人にはかなり厳しい環境なのである。
今の俺が日本にいたならば、家族にさえ距離を置かれそうである。
早く日本に帰って、ゆっくり温泉にでも浸かりたい気分であった。
おまけに、トイレ事情も推して知るべしの状況だ。気が滅入る話である。
わかっていた事だが、生きていれば必ず排泄があるのだ。
そう、必ず……いや、多くは語るまい。
考えるな! 感じろ! だ。
というわけで、中世風の異世界は非常にヤバいという話でした。終わり。
「ファレル、ここで待っていて貰えるか。今、アルシオン様を呼んで来る」
「わかりました。ウォーレン隊長」
ウォーレンというアールヴ族の兵士はそう言って、この部屋を後にした。
仲間達はこの突然の状況に若干戸惑っているのか、言葉少なでそわそわしていた。
お上からの突然のお呼び出しだから、まぁ仕方ない事だろう。
とはいえ、俺は気になる事があるので、ファレルさんに訊ねる事にした。
「あ、ファレルさん、今、質問いいですかね?」
「なんだろうか?」
「さっきの隊長さんが、貴方の事を元アレングランドの騎士と言ってましたけど、そうなんですか?」
するとファレルさんの表情が曇った。
訊いてはいけない事だったのだろうか?
「ああ、その通りだ……俺は元々、アレングランド騎士団に所属していた。今はわけあって冒険者をしている。だが……」
「だが?」
「いや……なんでもない。まぁとりあえず、そういう事だ」
「そうですか。なんか、ややこしそうですね。まぁこれ以上、深くは訊かないでおきますよ」
ファレルさんは申し訳なさそうに頷いた。
「すまないが、そうしてくれると助かる」
「ちなみに、あのウォーレンという方は、アルミナさんの兄なのですか? それと先程、隊長と言っておられましたが」
「ああ、そうだよ。彼はアルミナの兄だ。そして、アレングランド騎士団の1つ、王都守護隊の隊長でもある。俺が騎士団にいた頃、世話になった方だ」
「なるほど、そういう事ですか。ん?」
そこでサリアが俺の隣に来た。
「エイシュンさん、実はアルミナさんも元騎士よ。そして私もね。といっても、私は見習いだけど……」
「はぁ? サリアもなのか? どういう事だ、一体……」
するとファレルさんが頭を押さえ、溜息を吐いた。
「あのな、サリア……俺達は今、冒険者なんだ。口を慎め」
「いいじゃない。エイシュンさんは私達の仲間になったんだし。それに、リンクやルーミアさんも、私達が元騎士だって事は知ってるわ。ミュリンだって知ってる筈よ」
「そうじゃない。お前は誓いを忘れたのか?」
「も、勿論よ。忘れてなんかいないわ」
この口ぶり……恐らく、あまり人に言えない事情がありそうだ。
もしかすると、救出したアルミナという女性もそういう境遇なのかもしれない。
「ファレルの言う事もわかります。サリアももう少し、時と場所を考えた方がよいでしょう。ファレルはそれを言っているのですよ」
「確かにそうだけど……んもう、わかったわ」
ルーミアさんの指摘に、サリアはバツの悪そうな顔になった。
ちょっとは自覚があるのだろう。
というか、この一連のやり取りを見て思ったが、サリアは意外と軽率な行動をとりそうな女であった。気を付けるとしよう。
「ルーミアの言う通りだ。サリア、もう少し考えて行動しろ。ン?」
と、そこで扉が開き、ウォーレンと共に1人の男が姿を現したのである。
年齢は40前後か。欧米系の白人で、ブロンドの長い髪を後ろに流し、口と顎に渋い髭を生やしたイケオジな男であった。
青いマントに高級感溢れる白い鎧を装備しており、首や腕はかなり太い。上背も結構あり、180cm以上あるだろう。
眼光も鋭く、武人といった雰囲気がありありと感じられる猛者であった。
強そうな男である。というか、強いだろう。雰囲気が全然違うからだ。
まぁそれはさておき、程なくして、2人は俺達の前へとやって来た。
「アルシオン騎士団長、この者達で御座います」
騎士団長と呼ばれた男は、俺達に視線を向ける。
ファレルさん達はそこで背筋を伸ばした。
俺はよくわからん状況なので自然体である。
「探索者ファレルよ、此度は魔物から冒険者達を見事救い出したそうだな。其方達の今回の働き、アレングランドの兵士を束ねる者として、まずは礼を言いたい。よくぞ救出してくれた。其方達の活躍に感謝するぞ」
「ハッ! 勿体無いお褒めの言葉、ありがとうございます。アルシオン騎士団長」
「アレンの誓いを立てた元騎士である其方が、フェラドゥンのような魔物を倒したと聞いて、陛下も喜んでおられるところだ。そして、これはその礼である……」
騎士団長はそう言うと、ファレルさんの前に一振りの剣を差し出したのである。
それはシンプルな西洋風の長剣だが、強い霊力を感じる代物であった。
なかなかの高位武具のようだ。
実際、ファレルさんもその剣を見て驚いていた。
「こ、この剣は……聖なる剣、グラムドア!? よいのですか……このような剣を頂いて? 我が国に数本しかない、グランディスの加護を受けた魔を祓う剣です。そのような貴重な剣を私に……」
「これは陛下からの贈り物だ。そしてファレルよ、これは陛下が其方に期待しているという事の証でもあるのだよ。其方もアレンの誓いを忘れぬようにな。私も其方に期待しているのだ。さぁ、受け取るがいい」
ファレルさんは剣を恐る恐る受けとった。
「あ、ありがたき、幸せ! 今後ともアレンの誓いを忘れぬよう、邁進してゆきます。そして、このアレングランドを蝕む禍いの正体を突き止めてみせます」
「うむ、その意気だ。さて……ではこれについては終わりにしよう。それでだが……ファレルよ、訊きたい事がある」
「ハッ! 何でございましょうか?」
「其方達が倒した魔物についてだ。どういう魔物なのだ? 宮廷魔導師長のワーグナー殿も気にしていてな。ウォーレンの妹であるアルミナは、その魔物の事を死神と言っていたそうだが……」
「そ、それは……」
ファレルさんは口ごもり、俺をチラッと見た。
どう答えていいか、わからないのだろう。
仕方ない、茶々を入れるか。
俺はそこで、手を上げた。
「ええっと……お初、お目にかかります、アルシオン騎士団長殿。私はファレルさんの冒険者仲間で、エイシュンという者です。このような場で差し出がましいのですが、その件について少しばかり、発言機会を頂いてよろしいでしょうか?」
俺の突然の行動に、騎士団長は怪訝そうに少し眉を寄せた。
だが程なくして、頷いてくれた。
「ふむ、よかろう。して、エイシュンとやら、何を話したいのだ?」
「魔物の正体についてでございます」
「ほう……で、その正体とは?」
「かの魔物は恐らく、元は我々と同じ存在だと思われます。つまり、何らかの方法で不死の魔物へと変貌を遂げたのかと」
騎士団長と隊長は大きく目を見開いた。
「同じ存在!?」
「元は我々と同じ存在だと……なぜそう思う?」
「その魔物は、我々のような種族の干からびた死体でした。つまり、爪痕内を徘徊する腐った死体達と似たような魔物なのです。ただし、1つだけ決定的に違う事があります」
「なんだそれは?」
「徘徊する死体に意思はありません。ですが、その魔物は我々と会話も可能な上、強力な魔法を操れるのです。しかも、底なしの魔力で傷ついた身体をすぐに回復してね。我々が倒せたのは運が良かっただけと思ってください」
騎士団長と隊長は、険しい表情で俺の話を聞いていた。
とりあえず、ある程度事実に即した事を教えておいた。
今回の件をあまり軽く考えられても困るからだ。
「意思を持った死体の魔物だと……それは本当か?」
「はい、本当でございます。ここにいる皆が、それを目撃してますのでね」
「よく倒せたな、そんな魔物を……すぐに身体を回復なんて、本当にフェラドゥンだったんじゃないのか?」
ウォーレン隊長はそう言って驚いていた。
さて、ここからは少々誤魔化すとしよう。
ファンタジー世界でファンタジーな報告である。
「ええ、実際、死ぬかと思うくらいに大変でした。ですが、絶え間ない我々の攻撃が奴の再生能力を上回り、何とか倒せたのです」
俺はそこで、ファレルさんに目で合図を送った。
「はい、エイシュン殿の言う通りです。何とか倒せた感じなので、非常に厳しい戦いでした。ですが、恐らく、フェラドゥンではないでしょう。我々でも倒せたのですから」
はい、よくできました。
あとでヴィレアを奢ってあげよう。
俺は続けた。
「そうなのです。大変な戦いでした。ですが、それで少々気になる事があったのです」
「気になる事? なんだ、言ってみよ」
「その魔物は、どうやらワレムという名前のようなのです。その名に心当たりございませんか?」
騎士団長と隊長はその名前を聞いた瞬間、ハッとした表情になり、顔を見合わせた。
もしかすると知ってるのかもしれない。
「ワレムだと……その魔物はそう名乗っていたのか?」
「はい」
騎士団長の顔はみるみる険しくなっていった。
さてさて、何者なのやら……。
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