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7話
「おいおいセシーリア! 玄関にあるのはなんだ!」
食事をしていると慌てた父の声が聞こえてくる。
完全にアロルドを運ぶのを忘れていたのを思い出し、父と共に玄関へ向かう。
完全に伸びてしまったアロルドを見下ろした父はため息を吐いた。
「話には聞いていたが、本当にセシーリアに恋情を抱き、わざわざやって来るとは……」
「非常に困っています。迷惑なだけだから」
「確かに彼の経緯を知る上では最悪で馬鹿な行為だな」
父は使用人達にアロルドを応接間のソファに寝かせておくように指示する。
恐らく私と同じく、今からやって来るレーヴ公爵の前にお披露目するのだろう。
大人しい性格だけど、貴族社会で生き抜いてきたしたたかさは私以上だ。
「後はお父様に任せても良いですか」
「そうだな。正直に言って気絶させてくれて助かったよ、余計な問答もなく進められる」
気絶したアロルドが応接間に運ばれた後。
暫くして、予定通りの時間にレーヴ公爵が訪れた。
「ようこそお越しくださいました、レーヴ公爵」
「うむ、出迎えを感謝するセシーリア。それにノベール伯爵よ」
「いえ……公爵様にご足労いただき申し訳ありません」
「元は我が娘と、アロルドの不始末であり……ノベール伯爵家は被害者なもの、私が出向くのは当たり前だ。気にしないでくれ」
レーヴ公爵は冷静に私達を被害者として応対する。
当然か、事実として我がノベール家に非などあるはずもないのだから。
「では応接間へ……少し困った経緯もあり、聞いていただけますか」
とはいえ、父は少し怯えたように声を震わせて応対する。
アロルドが来ていた経緯を説明する表情もこわばり、手は震えていた。
気弱な父だからこそ、公爵という最高位の貴族との応対に緊張しているのだろう。
「その前にこれを受け取ってくれるか」
レーヴ公爵が渡したのは小切手だった。
彼の署名と共に、かなりの額が記載されていた。
「改めて娘の不始末への謝罪として受け取ってほしい」
これを受け取って初めて、契約は完了となる。
そのために父はしっかりと小切手を受け取り、公爵家からの謝罪を容認した。
「確かに受け取りました。契約通りに今度の騒動、公爵家の不名誉となる件は他言無用といたします」
「助かる」
公爵家との因縁は手打ちとなった。
だが今朝にやって来たもう一つの問題のため、レーヴ公爵を応接室へと案内して事の経緯を説明した。
「……ということで、アロルド殿は我が娘に会うために屋敷にやって来たようです。急いで馬車を飛ばして寝ていなかったのか、会った途端に気絶してしまったようですが」
本当は私が拳で気絶させたのだけどね。
父は良い言い訳を考えてくれてありがたい。
「アロルド殿はそれなりの年齢で大人になっていると思っていたが、娘の純潔を奪った頃から成長していないようだな」
レーヴ公爵の意見には完全同意だ。
アロルドは少し大人になると思っていれば、まるで成長をしていない。
それもそうか、毎日飽きもせずに盛っているだけだったから。
「セシーリア殿も迷惑をかける。アロルド殿には相応の責任を取ってもらわねばな」
「ありがとうございます。レーヴ公爵様」
応接間にたどり着き、レーヴ公爵はアロルドの頬を軽く数度叩く。
起きない……
すると公爵は飲み水を手に含み、アロルドの顔へとかけた。
「っ! こ、ここは」
飛び起きたアロルドに、レーヴ公爵は淡々と言葉を告げる。
「アロルド殿、先日の忠告が君にはまるで理解できていないようだな」
「っ……え、レーヴ公爵様? ど、どうしてここに!」
「我が娘と、君の不始末についてノベール伯爵家に改めて謝罪に来たのだよ。君はなにをしに? 呼ばれてもいないはずだ」
「お、俺はその……」
「まさかこりもせず、まだセシーリア殿との関係を続けようと?」
厳密には始まってもいないのだけどね。
続けるなんてごめんだわ。
「……」
言葉に詰まり、目線をさまよわせるアロルド。
その困惑ぶりが手に取るように分かるが、必死に言い訳を考えたのか、彼は口を開いた。
「ち、違うのです。俺は互いの利益のある話を……しに来たのです」
「利益だと?」
その言葉にレーヴ公爵は目線を落とす。
貴族として、利益を重んじる公爵は喰いついた。
「申してみろ」
「は、はい。我がベイロン伯爵家は先日の通りに収益の三割をレーヴ公爵家に納めます。ですが……大前提の問題として、ベイロン伯爵家の財務状況はそれほど明るくありません」
「……今でも充分な利益を収めているはずだ」
「それは、紛れもなくセシーリアが領地管理を行っていたからこそです。彼女の領民への献身的な姿勢と共に財務処理における使用用途の厳選のおかげでもあります」
アロルド……まさか、ここに来て私を評価しつつ……傍に置こうというの?
最悪な提案を予想して、思わず握った拳に爪が食い込む。
「よって我がベイロン伯爵家の財務状況を維持して、レーヴ公爵家に利益をもたらすにはセシーリアが必要なのです」
自らが成長する気もなく、私にすがりつく姿勢。
反吐が出るほどに嫌気が差す。
だが利益だけで見れば、レーヴ公爵が惹かれているのはその目線で分かった。
「ノベール伯爵も考えてみてください。白い結婚とはいえ離婚をした女性では、今後の良縁もないはず。であれば我がベイロン伯爵家の財務管理をセシーリアの職務としてください」
「……なにを言って」
「対価に収益の二割を差し上げます。良縁恵まれぬ娘を置いておくより、実益になる事は間違いありません」
「良いのではないか、セシーリアの今後はノベール伯爵も困っておいでだろう?」
すっかり乗り気なレーヴ公爵は利益しか見ていない。
そりゃ、私がアロルドの元にいれば懐が潤うと思えば賛成もするだろう。
最悪だけど、それが貴族だ。
「セシーリアの生活だって潤う、良縁もない彼女の生きる道はそれしか––––」
好き勝手な言葉の数々に怒りの熱が身体を帯びて、握った拳に力が入っていく。
だが……
その激情をかき消すように、机を叩く衝撃音が鳴り響いた。
父が拳を打ち付けたのだ。
「ふざけるな!」
初めて父の激情の灯った声を聞いた気がする。
私の怒りが薄れる程に、父はその声に力を込めた。
「我が娘を侮辱する気ですか? これ以上……娘の人生を我らの利害関係のしがらみで縛り付ける気は無い!」
「お父様……」
「たとえレーヴ公爵が賛成なさっても、娘の自由を奪う事は許さん!」
公爵と話すのさえ憶する父が、今は真っ向から公爵と対峙する意思を示す。
私のため、私の人生のために表明してくれた父。
普段は臆病で強く言えない父の背が、今はとても大きく見えた。
食事をしていると慌てた父の声が聞こえてくる。
完全にアロルドを運ぶのを忘れていたのを思い出し、父と共に玄関へ向かう。
完全に伸びてしまったアロルドを見下ろした父はため息を吐いた。
「話には聞いていたが、本当にセシーリアに恋情を抱き、わざわざやって来るとは……」
「非常に困っています。迷惑なだけだから」
「確かに彼の経緯を知る上では最悪で馬鹿な行為だな」
父は使用人達にアロルドを応接間のソファに寝かせておくように指示する。
恐らく私と同じく、今からやって来るレーヴ公爵の前にお披露目するのだろう。
大人しい性格だけど、貴族社会で生き抜いてきたしたたかさは私以上だ。
「後はお父様に任せても良いですか」
「そうだな。正直に言って気絶させてくれて助かったよ、余計な問答もなく進められる」
気絶したアロルドが応接間に運ばれた後。
暫くして、予定通りの時間にレーヴ公爵が訪れた。
「ようこそお越しくださいました、レーヴ公爵」
「うむ、出迎えを感謝するセシーリア。それにノベール伯爵よ」
「いえ……公爵様にご足労いただき申し訳ありません」
「元は我が娘と、アロルドの不始末であり……ノベール伯爵家は被害者なもの、私が出向くのは当たり前だ。気にしないでくれ」
レーヴ公爵は冷静に私達を被害者として応対する。
当然か、事実として我がノベール家に非などあるはずもないのだから。
「では応接間へ……少し困った経緯もあり、聞いていただけますか」
とはいえ、父は少し怯えたように声を震わせて応対する。
アロルドが来ていた経緯を説明する表情もこわばり、手は震えていた。
気弱な父だからこそ、公爵という最高位の貴族との応対に緊張しているのだろう。
「その前にこれを受け取ってくれるか」
レーヴ公爵が渡したのは小切手だった。
彼の署名と共に、かなりの額が記載されていた。
「改めて娘の不始末への謝罪として受け取ってほしい」
これを受け取って初めて、契約は完了となる。
そのために父はしっかりと小切手を受け取り、公爵家からの謝罪を容認した。
「確かに受け取りました。契約通りに今度の騒動、公爵家の不名誉となる件は他言無用といたします」
「助かる」
公爵家との因縁は手打ちとなった。
だが今朝にやって来たもう一つの問題のため、レーヴ公爵を応接室へと案内して事の経緯を説明した。
「……ということで、アロルド殿は我が娘に会うために屋敷にやって来たようです。急いで馬車を飛ばして寝ていなかったのか、会った途端に気絶してしまったようですが」
本当は私が拳で気絶させたのだけどね。
父は良い言い訳を考えてくれてありがたい。
「アロルド殿はそれなりの年齢で大人になっていると思っていたが、娘の純潔を奪った頃から成長していないようだな」
レーヴ公爵の意見には完全同意だ。
アロルドは少し大人になると思っていれば、まるで成長をしていない。
それもそうか、毎日飽きもせずに盛っているだけだったから。
「セシーリア殿も迷惑をかける。アロルド殿には相応の責任を取ってもらわねばな」
「ありがとうございます。レーヴ公爵様」
応接間にたどり着き、レーヴ公爵はアロルドの頬を軽く数度叩く。
起きない……
すると公爵は飲み水を手に含み、アロルドの顔へとかけた。
「っ! こ、ここは」
飛び起きたアロルドに、レーヴ公爵は淡々と言葉を告げる。
「アロルド殿、先日の忠告が君にはまるで理解できていないようだな」
「っ……え、レーヴ公爵様? ど、どうしてここに!」
「我が娘と、君の不始末についてノベール伯爵家に改めて謝罪に来たのだよ。君はなにをしに? 呼ばれてもいないはずだ」
「お、俺はその……」
「まさかこりもせず、まだセシーリア殿との関係を続けようと?」
厳密には始まってもいないのだけどね。
続けるなんてごめんだわ。
「……」
言葉に詰まり、目線をさまよわせるアロルド。
その困惑ぶりが手に取るように分かるが、必死に言い訳を考えたのか、彼は口を開いた。
「ち、違うのです。俺は互いの利益のある話を……しに来たのです」
「利益だと?」
その言葉にレーヴ公爵は目線を落とす。
貴族として、利益を重んじる公爵は喰いついた。
「申してみろ」
「は、はい。我がベイロン伯爵家は先日の通りに収益の三割をレーヴ公爵家に納めます。ですが……大前提の問題として、ベイロン伯爵家の財務状況はそれほど明るくありません」
「……今でも充分な利益を収めているはずだ」
「それは、紛れもなくセシーリアが領地管理を行っていたからこそです。彼女の領民への献身的な姿勢と共に財務処理における使用用途の厳選のおかげでもあります」
アロルド……まさか、ここに来て私を評価しつつ……傍に置こうというの?
最悪な提案を予想して、思わず握った拳に爪が食い込む。
「よって我がベイロン伯爵家の財務状況を維持して、レーヴ公爵家に利益をもたらすにはセシーリアが必要なのです」
自らが成長する気もなく、私にすがりつく姿勢。
反吐が出るほどに嫌気が差す。
だが利益だけで見れば、レーヴ公爵が惹かれているのはその目線で分かった。
「ノベール伯爵も考えてみてください。白い結婚とはいえ離婚をした女性では、今後の良縁もないはず。であれば我がベイロン伯爵家の財務管理をセシーリアの職務としてください」
「……なにを言って」
「対価に収益の二割を差し上げます。良縁恵まれぬ娘を置いておくより、実益になる事は間違いありません」
「良いのではないか、セシーリアの今後はノベール伯爵も困っておいでだろう?」
すっかり乗り気なレーヴ公爵は利益しか見ていない。
そりゃ、私がアロルドの元にいれば懐が潤うと思えば賛成もするだろう。
最悪だけど、それが貴族だ。
「セシーリアの生活だって潤う、良縁もない彼女の生きる道はそれしか––––」
好き勝手な言葉の数々に怒りの熱が身体を帯びて、握った拳に力が入っていく。
だが……
その激情をかき消すように、机を叩く衝撃音が鳴り響いた。
父が拳を打ち付けたのだ。
「ふざけるな!」
初めて父の激情の灯った声を聞いた気がする。
私の怒りが薄れる程に、父はその声に力を込めた。
「我が娘を侮辱する気ですか? これ以上……娘の人生を我らの利害関係のしがらみで縛り付ける気は無い!」
「お父様……」
「たとえレーヴ公爵が賛成なさっても、娘の自由を奪う事は許さん!」
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