【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか

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8話

「それ以上、私の娘を縛り付けるような案は受け入れる事はできん!」

 父の拒否に対して、レーヴ公爵は目を丸くしていた。
 普段はイエスマンである弱気な父が、見たこともない拒否を示したからかもしれない。
 実際私も驚いていた。

「ノベール伯爵……」

「こちらの意志はなにを言われても変わりません。娘の同意もなく話を進められても困ります。もし娘に危害を及ぼすなら、先程の謝罪金は突き返してでも私は構いませんよ」

「そ、それは確かに君の言う通りだ。気を悪くしたならすまない」

 レーヴ公爵は意外にも、非を認めて頭を下げる。
 アロルドはその姿に右往左往し、情けなくも私を見つめた。

「君の意志はどうなんだ……セシーリア。共にいられないのか?」

「行くはずがないと、何度も伝えているはずよ」

 示した拒否感、拒絶。
 これ以上……父の手も煩わせたくはない。
 だから私も取るべき手段を講じさせてもらおう。

「レーヴ公爵、実は本日予定していた話し合いにてお伝えしたい事が私からもあります」

「セシーリア殿? なにかな?」

「アロルドは私との復縁を迫った際、レーヴ公爵を言いくるめる手段があると私に言っておりました」

「なに?」

「その手段をこちらでも調べてみたのですが……どうやらローザとの関係を社交界にて明かす覚悟にて、人を雇っていたようです」

 アロルドの瞳が大きく見開き、その身体が震え出す。
 私が知らぬと思っていたのだろうか?
 貴方が隠していた財務、そこから捻出して人を雇っていた事など容易に調べられた。

「アロルドの目的としてはレーヴ公爵を脅してでも、私との関係を継続する覚悟だったのでしょう」

 公爵家を敵に回す……そんな覚悟を背負ってアロルドと共に居たいかと言われると真っ先に首を横に振るだろう。
 彼の計画は浅はかで馬鹿ではある。
 だけど弓を引こうとしていたのは事実だ。

「それらを示す財務帳簿を渡しておきます。金の流れを精査すれば、私の言っていた事は事実と分かるはず」

「な、なな……ま、待てよセシーリア! それをどこで!」

「毎日貴方が盛んにローザと接しているのよ? 隠し場所なんていつも隙だらけだったじゃない」

 もう少し考えて隠すことね……なんて今さら言っても遅いだろうけど。

「アロルド、お前とはローザを交えて再び話合う機会が必要だな」

「レ、レーヴ公爵……お、お待ちください。俺は別に実行しようなどと思っては……」

「実行前とはいえ、計画をしていた事自体が信頼を喪失するに十分な理由だ。この処遇はレーヴ公爵家としては厳しくさせてもらう」

「違う、違う! 違うんです! 俺は単にセシーリアに安心してもらうため……いわば復縁のための一案に過ぎず! 決してレーヴ公爵家に害を成そうなどとは思っておりません」

「……」

「お願いします、お願いします! 俺は決して……誓ってレーヴ公爵家に仇なす気は無かった。ただ……ただセシーリアと添い遂げたいと思った気の迷いなのです!」
 
 いくら言い訳を並べても、やる気はなかったと叫んでも遅い。
 実行を考えてしまった時点で信頼できるはずがないのだから。

「……セシーリア殿、報告を感謝する。どうやら私はアロルド殿とはさらに話し合う必要がありそうだ」

「こちらこそ、ご理解を感謝いたします。ぜひアロルドは好きに連れて行ってください」

「ええ、そうさせてもらう」

 私とレーヴ公爵と交わされた会話。
 それを聞いたアロルドは青ざめ、その視線を右往左往させて滑稽な醜態を晒す。

「まま、待ってくれ。セシーリア……君からもレーヴ公爵を説得してくれ、このままじゃ俺が……」

「貴方がなに? なんだというの?」

「っ!」

 いい加減に理解してもらおう。
 白い結婚はなかった事になどできなかった。
 だから私達はもう……

「もう夫でもない、私には恋情もない、庇う気なんてないの。どうか好きに落ちぶれていってもらえる?」

「セ、セシーリア! セシーリアァ……待ってくれ、どうしてそんな」

「では、さようなら」

 アロルドの哀れな嘆きを聞く気はない。
 レーヴ公爵に目配せすれば、意図を汲み取って彼はアロルドの腕を掴んで連れていく。
 あとはもう、私には関係ない事だ。

「さぁ、アロルド殿。これから君の邸宅に戻るまで……しっかりと話し合いをしようじゃないか」

「レ、レーヴ公爵……俺は……」

 どんな落としどころとなるかは、レーヴ公爵次第だろう。
 とはいえ、その結果はどちらにせよアロルドの落ちぶれを招くだろう。
 彼らは馬車に乗り、邸宅を離れていく。
 
「はぁ……なんとか終わって良かった」
 
 安堵したのか、力なく倒れてくる父を支える。
 片手でその体重を支えつつ、私は思わず微笑む。

「お父様には助けられました。アロルドの提案を否定してくださって、嬉しかったです」

「も、もう娘の人生を犠牲にはできんだけだ。父として当然の事をしたまでだ」

「それが嬉しいのですよ」

 弱気な父の勇気に感謝しつつ、私は改めて考えていた事を告げる。

「とはいえレーヴ公爵も恐らく、先ほどのアロルドの提案は諦めていないでしょう。公爵家にとって利益があるのは確かですから」

 恐らく何度も、何度もこういった話し合いという名の無駄な時間を過ごす事になる。
 せっかく耐え忍んで手に入れた自由な人生に、余計なしがらみで無駄にしたくない。
 だから……

「私は自由な生活のため、王都から離れた地にて暮らす事とします」

「お前の秘密事のためにも……それがいいだろう。私もそうすべきと考えていた」

 どうやら父も同じ考えだったようだ。
 視線を合わせ、互いに微笑む。
 父は私の頭を撫でてくれた。

「自由になってもいいと約束したのだ。だからセシーリア……お前の望むままに生きればいい。それが父の望みだ」

「ありがとうございます。頻繁に会いにきますから」

「あぁ、いつでもお前を待っているさ。ところでどこへ向かうのか聞いても?」

「辺境伯領へ参ります」 

 その言葉に父は啞然としつつも、小さく笑った。
 辺境伯領という場所のを思い出しつつも、きっと私なら何も問題はないと思ってくれたのだろう。
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