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19話
「苦労も多くあっただろう、それだけ大きな力があると」
フィリクス様との話は互いの力についての問いかけへとなっていく。
お互いが、自分とは違う特異体質について聞きたがっていた。
「えぇ、小さな頃から父を持ち上げられるほどは力がありましたから。幼い頃から怪我をさせる事もありました」
「制御ができるようになったのか」
「父のおかげです。怪我をしながらも、私を突き放さずにいてくれました」
「そうか、素晴らしい父君だ」
フィリクス様の目は細められて、どこか羨むようであった。
だからこそ気になって問い返す。
「フィリクス様は力について、いつ気付いたのですか」
「……幸い、俺には八歳になるまではそういった事に気付く事はなかった」
「八歳まで?」
「あぁ、俺は別に人離れした力がある訳じゃないからな」
ならどうして私と渡り合えたというのだろうか。
疑問に答えるように彼は話を続けた。
「だが八つの歳、辺境伯として剣の稽古を始めた時にそれは発覚した」
フィリクス様いわく、初めて剣を握った時からその扱い方が身体に自然と馴染んだという。
訓練初日に、辺境伯領でも有数の騎士を同時に一人で相手にして勝ちを得たのだ。
「剣でも、槍でも、槌でもいい。どんな武器だろうと手に取れば自然と使い方が訓練を積んだ者よりも卓越して扱えた」
東の国では武芸百般というあらゆる武器に長けた者に授ける名称があるらしい。
彼はいわば、特異体質のおかげでそれが標準であったというのだ。
「加えて、俺の目も特異のようでな。どこにどう攻撃すれば相手が致命傷になるのか感じ取れた」
以前、的確に飛竜の逆鱗を攻撃していたのを思い出す。
急所に正確な一突きをしていたが、そういった特異な目があったからこそなのか。
私と渡り合ったのも、人並み外れた戦闘技術を特異体質によって得ているからだ。
加えて辺境伯という役目ゆえに魔物との戦いに明け暮れて、その技術はさらに磨かれている。
「辺境伯という職務においては、才能ですね」
「そう良い事ばかりでもない。魔物憑きと呼ばれている通りに、人並み外れた力には多くの者が忌避を抱いている」
「……やはり、そうなんですね」
「両親は俺と距離を置いて、幼い頃からの婚約者に至っては謝罪金を寄越せという始末だ」
「謝罪金? 酷い婚約者ですね」
「互いに八歳の頃ゆえに、相手側の女性も全力で拒否したかったのだろう、気持ちは分からないでもない」
辺境伯家の子息であったフィリクス様との結婚ともなれば、それなりの良縁だったはずだ。
だが将来の夫が魔物憑きと呼ばれる存在だと知って、相手側が拒否を示したのだろう。
考えは分かるが、そこまで拒絶するなんて……
「相手側の女性は俺との婚約がよほど嫌だったのだろう。魔物憑きという存在について辺境伯領の民へと触れ回り、俺は領民に忌避された」
「な……特異体質である事実を公表してなお……謝罪金を求めるなど道理に反しています!」
「もちろん相手側の当主が謝罪をしてくれた。娘の失態を許してほしいと金を積んでな」
「当然です! なんて非常識な……」
「気にしていない。相手も俺との婚約はそれほどに嫌だったのだろう」
「聞いていいのか分かりませんが、相手の家名を教えていただけますか? 私もそういった人に知られては面倒になるので知っておきたくて」
警戒すべき家名は知っておいた方がいい。
そう思っての問いかけだが、フィリクス様の返答は想像外だった。
「レーヴ公爵家の令嬢だ。名をローザといったか」
「っ!」
なんという因縁だろうか。
いや、だがフィリクス様の話を聞けば腑に落ちる部分もある。
レーヴ公爵がやけに彼女について失望したような言葉を吐いていたのは、そういった失礼な前科があるからなのだろう。
「自分が魔物憑きと呼ばれて、仲の良い者から忌避される存在となってからは食事が喉を通らなかった」
フィリクス様の経緯を聞けば、私よりも悲惨だ。
幼い頃から理解者である父に隠して育ててもらった私と違い、交友を重ねた人物に知られて嫌われるなど耐えられない。
「あの日から味など感じた事がなかったが……君と会ってあんなに美味いものを知れた」
「良かったです。フィリクス様にとって良い食事を届けられて」
フィリクス様は私を見つめる。
綺麗な紅の瞳に吸い込まれるように目が合うと、彼は小さく頷いた。
「食事だけじゃない。同じ境遇の君と会えて、良かった」
「私もです。フィリクス様」
「……すまないが時間だ。そろそろ戻る」
お忙しい方で、時間の合間に来てくれたのだろう。
もう少し話したい気持ちもあったが、こればかりは仕方ない。
フィリクス様は礼と言って、それなりのお金を置いて立ち上がる。
「また来てもいいだろうか」
「え?」
「以前に捕らえた者達の調査報告もあるが……それ以外にも、もっと話したい」
そう言われて、こちらに拒否する気は無かった。
親近感を抱くフィリクス様とは、私も会いたい。
もっと魔物肉の美味さを分かち合いたかった。
「ぜひ、また来て下さい!」
かけた言葉に小さく微笑んだフィリクス様は屋敷を出て行った。
その後に残ったのは……
「起きて~エミネ~」
様々な驚きの連続、衝撃の数々で限界だったのだろう。
失神してしまったエミネを起こすために声をかけ続けた。
フィリクス様との話は互いの力についての問いかけへとなっていく。
お互いが、自分とは違う特異体質について聞きたがっていた。
「えぇ、小さな頃から父を持ち上げられるほどは力がありましたから。幼い頃から怪我をさせる事もありました」
「制御ができるようになったのか」
「父のおかげです。怪我をしながらも、私を突き放さずにいてくれました」
「そうか、素晴らしい父君だ」
フィリクス様の目は細められて、どこか羨むようであった。
だからこそ気になって問い返す。
「フィリクス様は力について、いつ気付いたのですか」
「……幸い、俺には八歳になるまではそういった事に気付く事はなかった」
「八歳まで?」
「あぁ、俺は別に人離れした力がある訳じゃないからな」
ならどうして私と渡り合えたというのだろうか。
疑問に答えるように彼は話を続けた。
「だが八つの歳、辺境伯として剣の稽古を始めた時にそれは発覚した」
フィリクス様いわく、初めて剣を握った時からその扱い方が身体に自然と馴染んだという。
訓練初日に、辺境伯領でも有数の騎士を同時に一人で相手にして勝ちを得たのだ。
「剣でも、槍でも、槌でもいい。どんな武器だろうと手に取れば自然と使い方が訓練を積んだ者よりも卓越して扱えた」
東の国では武芸百般というあらゆる武器に長けた者に授ける名称があるらしい。
彼はいわば、特異体質のおかげでそれが標準であったというのだ。
「加えて、俺の目も特異のようでな。どこにどう攻撃すれば相手が致命傷になるのか感じ取れた」
以前、的確に飛竜の逆鱗を攻撃していたのを思い出す。
急所に正確な一突きをしていたが、そういった特異な目があったからこそなのか。
私と渡り合ったのも、人並み外れた戦闘技術を特異体質によって得ているからだ。
加えて辺境伯という役目ゆえに魔物との戦いに明け暮れて、その技術はさらに磨かれている。
「辺境伯という職務においては、才能ですね」
「そう良い事ばかりでもない。魔物憑きと呼ばれている通りに、人並み外れた力には多くの者が忌避を抱いている」
「……やはり、そうなんですね」
「両親は俺と距離を置いて、幼い頃からの婚約者に至っては謝罪金を寄越せという始末だ」
「謝罪金? 酷い婚約者ですね」
「互いに八歳の頃ゆえに、相手側の女性も全力で拒否したかったのだろう、気持ちは分からないでもない」
辺境伯家の子息であったフィリクス様との結婚ともなれば、それなりの良縁だったはずだ。
だが将来の夫が魔物憑きと呼ばれる存在だと知って、相手側が拒否を示したのだろう。
考えは分かるが、そこまで拒絶するなんて……
「相手側の女性は俺との婚約がよほど嫌だったのだろう。魔物憑きという存在について辺境伯領の民へと触れ回り、俺は領民に忌避された」
「な……特異体質である事実を公表してなお……謝罪金を求めるなど道理に反しています!」
「もちろん相手側の当主が謝罪をしてくれた。娘の失態を許してほしいと金を積んでな」
「当然です! なんて非常識な……」
「気にしていない。相手も俺との婚約はそれほどに嫌だったのだろう」
「聞いていいのか分かりませんが、相手の家名を教えていただけますか? 私もそういった人に知られては面倒になるので知っておきたくて」
警戒すべき家名は知っておいた方がいい。
そう思っての問いかけだが、フィリクス様の返答は想像外だった。
「レーヴ公爵家の令嬢だ。名をローザといったか」
「っ!」
なんという因縁だろうか。
いや、だがフィリクス様の話を聞けば腑に落ちる部分もある。
レーヴ公爵がやけに彼女について失望したような言葉を吐いていたのは、そういった失礼な前科があるからなのだろう。
「自分が魔物憑きと呼ばれて、仲の良い者から忌避される存在となってからは食事が喉を通らなかった」
フィリクス様の経緯を聞けば、私よりも悲惨だ。
幼い頃から理解者である父に隠して育ててもらった私と違い、交友を重ねた人物に知られて嫌われるなど耐えられない。
「あの日から味など感じた事がなかったが……君と会ってあんなに美味いものを知れた」
「良かったです。フィリクス様にとって良い食事を届けられて」
フィリクス様は私を見つめる。
綺麗な紅の瞳に吸い込まれるように目が合うと、彼は小さく頷いた。
「食事だけじゃない。同じ境遇の君と会えて、良かった」
「私もです。フィリクス様」
「……すまないが時間だ。そろそろ戻る」
お忙しい方で、時間の合間に来てくれたのだろう。
もう少し話したい気持ちもあったが、こればかりは仕方ない。
フィリクス様は礼と言って、それなりのお金を置いて立ち上がる。
「また来てもいいだろうか」
「え?」
「以前に捕らえた者達の調査報告もあるが……それ以外にも、もっと話したい」
そう言われて、こちらに拒否する気は無かった。
親近感を抱くフィリクス様とは、私も会いたい。
もっと魔物肉の美味さを分かち合いたかった。
「ぜひ、また来て下さい!」
かけた言葉に小さく微笑んだフィリクス様は屋敷を出て行った。
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