【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか

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戻らない君④ アロルドside

「どういうことだっ!」
 
 執務室にて受け取った報告書を見て思わず叫んでしまう。
 叫ばずにはいられない。
 先日、セシーリアの母であるリエンネの伝手で雇った者達に彼女を連れてくるように指示を出した。
 だが……報告書ではそれは叶わず、彼らは捕まったというのだ。

「……申し訳ないが、ここまでリスクがある仕事だとは聞いていない。仲間もしばらく戻ってこれないだろうから、今後の依頼は受けられない」

 傭兵派遣を仲介してくれる者も悔しげに呟く。
 高い前金を払ったというのに、まるで役に立たないではないか。

「すでに前金は払っているだろう! 俺が依頼したのはセシーリアを連れ戻すように言ったはずだ! せめて話す機会を得たい。どうしてそれができない!」

「厄介な相手がいるようでね。これ以上はうちも関わるリスクが大きい」

 聞けば辺境伯がセシーリアの周囲に居るというのだ。 
 理由は分からないが、定期的に通っているという。

「は? なぜ、辺境伯が」

「分からないが、旦那も気をつけてください。捕まった奴らは依頼上は貴方の事を証言はしないでしょう……加えて貴方から依頼されたという証拠は残らぬようにしています……高い前金は貴方の安全を保障するものですから」

「……だが、彼女が帰ってこないのでは意味がない」

「その女性について、一応は情報は仕入れております」

「なんだ、何が言いたい」

「報告では辺境伯様と件の女性はそれなりに親密な様子。下手にこれ以上関わればこちらの損害が増えるだけです」

「……っ」

 辺境伯とセシーリアが親密だと?
 どういうことだ、いつから彼女と辺境伯と関わる機会があった。
 
「……」

 胸がジクジクと痛み、三ヶ月前まで傍に居たはずのセシーリアが他の男に取られた感情が渦巻く。
 これは嫉妬というのだろう。
 彼女の美しさに気付いたからこそ、身を焼かれるような、言いようのない怒りが考えを支配した。
 結局、これ以上は傭兵に頼る事は不可能だと念押しされ、仲介役は屋敷を後にした。


   ◇◇◇
 

 その夜、食卓を囲んだローザは不満そうに俺を見つめた。

「ねぇアロルド、どうしてさっきから黙っているの」

「あ、いや……少し執務で疲れていてな」

「もっと話してよ、それとも私を愛してくれていないから話してくれないの?」

「違う、ただ休ませてほしいだけだ」

 面倒だ。
 ローザは結婚してから、愛を欲しがるような駄々をこねる。
 煩わしいが答えてやらねば不機嫌になる。

「ねぇアロルド、こっち見て話してよ。さっきから顔……怖いよ」

 俺はたしかに彼女を愛していたはずなのに、愛を確かめるような行動の数々に辟易する。
 可愛いと思っていた部分が鬱陶しい、尽きないと思っていた愛がまるで消えている。

「……」

「やっぱり、やっぱり貴方はセシーリアの事を愛しているんでしょ! 私と一緒に居たくないのよね!」

「何度も言わせないでくれ。俺はただ……」

「あの女は貴方を誘惑した毒婦よ! 私と結婚すると知っていながら、貴方をたぶらかしたのよ……信じられない!」

 好き勝手に叫んだローザは食事を置いて出ていってしまう。
 それを追うような事は、俺には出来なかった。
 一人残り、虚しい食事をする。

「大変そうですね、アロルドさん」

 ふとしっとりとした、妖艶な声が聞こえて顔を上げる。
 いつの間に来ていたのか、セシーリアの母であるリエンネが食卓に入ってきていた。

「なぜ……どうやって中に」

「貴方がセシーリアに関わる事だからと、使用人達に私の出入りを自由にするように指示していたはずですよね」

「あ……あぁ。そうだったな」

 リエンネは対面に座り、妖しい笑みを浮かべる。
 この女性を信用していいのか分からないが、今の俺は藁にも縋る思いだった。

「君の指示通りの事をしたが、セシーリアは帰ってこなかった」

「そのようですね。失礼をいたしました……まさか辺境伯様まで関わってくるなんて」

「どうすればいい。セシーリアとまた会う方法はないのか? 俺が動いている事は、レーヴ公爵にも知られるわけにはいかないから直接は動けない」

「分かっております、しっかりと考えておりますよ」

 リエンネはローザが飲んでいたワイングラスを手に取って揺らす。
 そして口をつけ、潤んだ唇で含む。
 
「ふふ、手始めにあのローザという子。少しお借りしてもいいかしら?」

「ローザを?」

「えぇ、ああいう子は色々と扱いやすいから」

「…………どうでもいい」

 正直、今のローザとは関わる時間を減らしたいと思う程だ。
 それゆえにリエンネがなにをしようと、どうでもよかった。

「ありがとうございます。では、私はこれで……」

「なぁ、セシーリアを本当に連れ戻せるのか? 俺に話す機会はあるのか?」

「もちろんです。私はあの子を普通の女の子に戻してみせるから……その後はどうぞ自由に」

 リエンネはそう言ってニコリと笑う。
 言葉の意味は分からないが、今は彼女にすがるしかない。



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