24 / 48
戻らない君④ アロルドside
「どういうことだっ!」
執務室にて受け取った報告書を見て思わず叫んでしまう。
叫ばずにはいられない。
先日、セシーリアの母であるリエンネの伝手で雇った者達に彼女を連れてくるように指示を出した。
だが……報告書ではそれは叶わず、彼らは捕まったというのだ。
「……申し訳ないが、ここまでリスクがある仕事だとは聞いていない。仲間もしばらく戻ってこれないだろうから、今後の依頼は受けられない」
傭兵派遣を仲介してくれる者も悔しげに呟く。
高い前金を払ったというのに、まるで役に立たないではないか。
「すでに前金は払っているだろう! 俺が依頼したのはセシーリアを連れ戻すように言ったはずだ! せめて話す機会を得たい。どうしてそれができない!」
「厄介な相手がいるようでね。これ以上はうちも関わるリスクが大きい」
聞けば辺境伯がセシーリアの周囲に居るというのだ。
理由は分からないが、定期的に通っているという。
「は? なぜ、辺境伯が」
「分からないが、旦那も気をつけてください。捕まった奴らは依頼上は貴方の事を証言はしないでしょう……加えて貴方から依頼されたという証拠は残らぬようにしています……高い前金は貴方の安全を保障するものですから」
「……だが、彼女が帰ってこないのでは意味がない」
「その女性について、一応は情報は仕入れております」
「なんだ、何が言いたい」
「報告では辺境伯様と件の女性はそれなりに親密な様子。下手にこれ以上関わればこちらの損害が増えるだけです」
「……っ」
辺境伯とセシーリアが親密だと?
どういうことだ、いつから彼女と辺境伯と関わる機会があった。
「……」
胸がジクジクと痛み、三ヶ月前まで傍に居たはずのセシーリアが他の男に取られた感情が渦巻く。
これは嫉妬というのだろう。
彼女の美しさに気付いたからこそ、身を焼かれるような、言いようのない怒りが考えを支配した。
結局、これ以上は傭兵に頼る事は不可能だと念押しされ、仲介役は屋敷を後にした。
◇◇◇
その夜、食卓を囲んだローザは不満そうに俺を見つめた。
「ねぇアロルド、どうしてさっきから黙っているの」
「あ、いや……少し執務で疲れていてな」
「もっと話してよ、それとも私を愛してくれていないから話してくれないの?」
「違う、ただ休ませてほしいだけだ」
面倒だ。
ローザは結婚してから、愛を欲しがるような駄々をこねる。
煩わしいが答えてやらねば不機嫌になる。
「ねぇアロルド、こっち見て話してよ。さっきから顔……怖いよ」
俺はたしかに彼女を愛していたはずなのに、愛を確かめるような行動の数々に辟易する。
可愛いと思っていた部分が鬱陶しい、尽きないと思っていた愛がまるで消えている。
「……」
「やっぱり、やっぱり貴方はセシーリアの事を愛しているんでしょ! 私と一緒に居たくないのよね!」
「何度も言わせないでくれ。俺はただ……」
「あの女は貴方を誘惑した毒婦よ! 私と結婚すると知っていながら、貴方をたぶらかしたのよ……信じられない!」
好き勝手に叫んだローザは食事を置いて出ていってしまう。
それを追うような事は、俺には出来なかった。
一人残り、虚しい食事をする。
「大変そうですね、アロルドさん」
ふとしっとりとした、妖艶な声が聞こえて顔を上げる。
いつの間に来ていたのか、セシーリアの母であるリエンネが食卓に入ってきていた。
「なぜ……どうやって中に」
「貴方がセシーリアに関わる事だからと、使用人達に私の出入りを自由にするように指示していたはずですよね」
「あ……あぁ。そうだったな」
リエンネは対面に座り、妖しい笑みを浮かべる。
この女性を信用していいのか分からないが、今の俺は藁にも縋る思いだった。
「君の指示通りの事をしたが、セシーリアは帰ってこなかった」
「そのようですね。失礼をいたしました……まさか辺境伯様まで関わってくるなんて」
「どうすればいい。セシーリアとまた会う方法はないのか? 俺が動いている事は、レーヴ公爵にも知られるわけにはいかないから直接は動けない」
「分かっております、しっかりと考えておりますよ」
リエンネはローザが飲んでいたワイングラスを手に取って揺らす。
そして口をつけ、潤んだ唇で含む。
「ふふ、手始めにあのローザという子。少しお借りしてもいいかしら?」
「ローザを?」
「えぇ、ああいう子は色々と扱いやすいから」
「…………どうでもいい」
正直、今のローザとは関わる時間を減らしたいと思う程だ。
それゆえにリエンネがなにをしようと、どうでもよかった。
「ありがとうございます。では、私はこれで……」
「なぁ、セシーリアを本当に連れ戻せるのか? 俺に話す機会はあるのか?」
「もちろんです。私はあの子を普通の女の子に戻してみせるから……その後はどうぞ自由に」
リエンネはそう言ってニコリと笑う。
言葉の意味は分からないが、今は彼女にすがるしかない。
執務室にて受け取った報告書を見て思わず叫んでしまう。
叫ばずにはいられない。
先日、セシーリアの母であるリエンネの伝手で雇った者達に彼女を連れてくるように指示を出した。
だが……報告書ではそれは叶わず、彼らは捕まったというのだ。
「……申し訳ないが、ここまでリスクがある仕事だとは聞いていない。仲間もしばらく戻ってこれないだろうから、今後の依頼は受けられない」
傭兵派遣を仲介してくれる者も悔しげに呟く。
高い前金を払ったというのに、まるで役に立たないではないか。
「すでに前金は払っているだろう! 俺が依頼したのはセシーリアを連れ戻すように言ったはずだ! せめて話す機会を得たい。どうしてそれができない!」
「厄介な相手がいるようでね。これ以上はうちも関わるリスクが大きい」
聞けば辺境伯がセシーリアの周囲に居るというのだ。
理由は分からないが、定期的に通っているという。
「は? なぜ、辺境伯が」
「分からないが、旦那も気をつけてください。捕まった奴らは依頼上は貴方の事を証言はしないでしょう……加えて貴方から依頼されたという証拠は残らぬようにしています……高い前金は貴方の安全を保障するものですから」
「……だが、彼女が帰ってこないのでは意味がない」
「その女性について、一応は情報は仕入れております」
「なんだ、何が言いたい」
「報告では辺境伯様と件の女性はそれなりに親密な様子。下手にこれ以上関わればこちらの損害が増えるだけです」
「……っ」
辺境伯とセシーリアが親密だと?
どういうことだ、いつから彼女と辺境伯と関わる機会があった。
「……」
胸がジクジクと痛み、三ヶ月前まで傍に居たはずのセシーリアが他の男に取られた感情が渦巻く。
これは嫉妬というのだろう。
彼女の美しさに気付いたからこそ、身を焼かれるような、言いようのない怒りが考えを支配した。
結局、これ以上は傭兵に頼る事は不可能だと念押しされ、仲介役は屋敷を後にした。
◇◇◇
その夜、食卓を囲んだローザは不満そうに俺を見つめた。
「ねぇアロルド、どうしてさっきから黙っているの」
「あ、いや……少し執務で疲れていてな」
「もっと話してよ、それとも私を愛してくれていないから話してくれないの?」
「違う、ただ休ませてほしいだけだ」
面倒だ。
ローザは結婚してから、愛を欲しがるような駄々をこねる。
煩わしいが答えてやらねば不機嫌になる。
「ねぇアロルド、こっち見て話してよ。さっきから顔……怖いよ」
俺はたしかに彼女を愛していたはずなのに、愛を確かめるような行動の数々に辟易する。
可愛いと思っていた部分が鬱陶しい、尽きないと思っていた愛がまるで消えている。
「……」
「やっぱり、やっぱり貴方はセシーリアの事を愛しているんでしょ! 私と一緒に居たくないのよね!」
「何度も言わせないでくれ。俺はただ……」
「あの女は貴方を誘惑した毒婦よ! 私と結婚すると知っていながら、貴方をたぶらかしたのよ……信じられない!」
好き勝手に叫んだローザは食事を置いて出ていってしまう。
それを追うような事は、俺には出来なかった。
一人残り、虚しい食事をする。
「大変そうですね、アロルドさん」
ふとしっとりとした、妖艶な声が聞こえて顔を上げる。
いつの間に来ていたのか、セシーリアの母であるリエンネが食卓に入ってきていた。
「なぜ……どうやって中に」
「貴方がセシーリアに関わる事だからと、使用人達に私の出入りを自由にするように指示していたはずですよね」
「あ……あぁ。そうだったな」
リエンネは対面に座り、妖しい笑みを浮かべる。
この女性を信用していいのか分からないが、今の俺は藁にも縋る思いだった。
「君の指示通りの事をしたが、セシーリアは帰ってこなかった」
「そのようですね。失礼をいたしました……まさか辺境伯様まで関わってくるなんて」
「どうすればいい。セシーリアとまた会う方法はないのか? 俺が動いている事は、レーヴ公爵にも知られるわけにはいかないから直接は動けない」
「分かっております、しっかりと考えておりますよ」
リエンネはローザが飲んでいたワイングラスを手に取って揺らす。
そして口をつけ、潤んだ唇で含む。
「ふふ、手始めにあのローザという子。少しお借りしてもいいかしら?」
「ローザを?」
「えぇ、ああいう子は色々と扱いやすいから」
「…………どうでもいい」
正直、今のローザとは関わる時間を減らしたいと思う程だ。
それゆえにリエンネがなにをしようと、どうでもよかった。
「ありがとうございます。では、私はこれで……」
「なぁ、セシーリアを本当に連れ戻せるのか? 俺に話す機会はあるのか?」
「もちろんです。私はあの子を普通の女の子に戻してみせるから……その後はどうぞ自由に」
リエンネはそう言ってニコリと笑う。
言葉の意味は分からないが、今は彼女にすがるしかない。
あなたにおすすめの小説
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです
藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。
理由は単純。
愛などなくても、仕事に支障はないからだという。
──そうですか。
それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。
王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。
夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。
離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。
気づいたときにはもう遅い。
積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。
一方で私は、王妃のもとへ。
今さら引き止められても、遅いのです。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
「侯爵夫人を5年演じた私が離縁を決めたら、今さら愛していると言わないでください」
まさき
恋愛
「サインはもういただきました。あとは私が王都を出るだけです」
伯爵令嬢として申し分ない家柄で嫁いだはずだった。なのに侯爵夫人としての五年間は、夫の隣ではなく、夫の後ろで微笑み続ける日々だった。
隣国の公爵令嬢・レイナが社交界に現れてから、夫・セイルの目はソフィアを映さなくなった。
嫉妬も、訴えも、すべて飲み込んだ。完璧な侯爵夫人を演じ続けた。でも、もう十分だった。
離縁状に署名した翌朝、セイルは初めてソフィアの名を叫んだ。
——五年間、一度も呼ばれなかったその名前を。
すべてを手放した女が、初めて自分のために歩き出す。
泣き終わった侯爵夫人の、静かで鮮やかな再生の物語。
幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました
ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。
けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。
やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。
――もう、この結婚には見切りをつけよう。
夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。
身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。
一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。
幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。
白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。
けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。
それでも旦那様は優しかった。
冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。
だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。
そんなある日、彼女は知ってしまう。
旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。
彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。
都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る
静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。
すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。
感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく