【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか

文字の大きさ
25 / 48

20話

 フィリクス様と話をしてから、もう十日が経った。
 あれから彼がまた来訪するとの知らせを聞いて、エミネが心配そうに語りかける。

「今日もフィリクス様とお会いなさるのですか?」

「えぇ、今日も来てくれるそうよ」

「……嬉しそうですね、お嬢様」

 エミネの言葉に振り返れば、彼女は微笑んで言葉を続けた。

「楽しそうで、私は少し安心しております」

「た、楽しそうに見えるかしら」

「えぇ、私はずっとお傍に居ましたから分かります。最近のお嬢様は上機嫌だと」

 自分では気付かなかったけれど、エミネには分かるらしい。
 なんだか気恥ずかしい。

「私はお傍に居る事はできますが、お嬢様の本当の理解者にはなれません。だからこそ同じ境遇のフィリクス様との出会いはお嬢様にとって特別なのでしょう」

「エミネ……そんなことは」

「いえ、事実です。私はお嬢様のように力で解決する方法などちっとも理解できないので。隠す方のハラハラも知らないですものね」

「う……謝るわよ」

「ふふ、冗談です。本当に嬉しいのですよ……きっと旦那様も喜んでくださるはずです」

 エミネの笑みに釣られるように、私も笑ってしまう。
 ずっと傍で見守ってくれていたエミネがそう言ってくれるなら、フィリクス様との出会いは良いものだと改めて思えた。

「それにしても、お嬢様は男性と仲良くなれて羨ましいですよ」
 
「別に……まだ仲良くなどなっていません。本当に偶然に出会っただけだから」

「それがいいのですよ! 私だって運命の男性と出会いたいものです。両親から結婚をせがまれて帰るたびに縁談をするのも疲れました」

「いい相手が来てくれるならいい事よ」

「ぜんぜんいい相手じゃないです! みーんな仕事を辞めて家で給仕をしろなんて望むんですよ!」

「貴方は働きたいのね」

「もちろんです! それに……ビビッとくる相手と出会いたいじゃないですかぁ」

 エミネは働く事に生きがいを感じると言っていたので、結婚すれば職を辞める事を望む男性が多いのが不満なのだ。
 彼女の苦悩? 愚痴? を聞いていると、玄関扉の呼び鈴が鳴った。

「来られたみたいですね」

 玄関へと向かうと、フィリクス様がやってきていた。
 しかし前回と違うのは、今日は帯剣しているということ。

「フィリクス様、来ていただきありがとうございます」

「あぁ」

「今日はお伝えしていた通りに、外へ……」

 実は今日、フィリクス様と私は外へと出ていく予定だ。
 それはなぜか?
 魔物肉の在庫が切れたので、共に魔物を狩りに行くからだ。

「ではさっそく向かいますか」

「あぁ、その前に紹介をしておかないとな。レックス、こっちだ」

 フィリクス様が背後へと声をかければ、一人の騎士が走ってくる。
 珍しい赤い髪に、整えられた顔立ちには犬のように快活な笑みを浮かべる男性。
 エミネと同年代ぐらいだろうか……レックスと呼ばれた彼は敬礼をとる。

「はじめまして! フィリクス辺境伯様に仕える騎士であるレックスと申します!」

「は、はじめまして。フィリクス様、彼は?」

「こいつは辺境伯領で唯一……俺の友人でもある」

「フィリクス様とは若い頃から一緒でしたからね。力があるからって関係は変わらないですよ」

 どうやらフィリクス様にも、私にとってのエミネのような理解者がいるのだろう。
 たった一人でも、傍に誰か居るのは安心できるものだ。

「それでフィリクス様、彼を連れてきたわけは?」

「前回、君たちの屋敷にやってきた者達については調査中だが……また増援が来る可能性はある。その際に俺達が不在で侍女が一人では不安だろう? せめて今回の外出の間だけでもと護衛を頼んだ」

 なるほど、そこまで気を回してもらえるなんてありがたい。
 レックスという騎士はペコリと挨拶をしつつ、「お屋敷の護衛はお任せください」と明るく言う。

「レックスは辺境伯領では選りすぐりの騎士だ。護衛として充分なはずだ」

「フィリクス様には敵いませんがね。お任せください」

「ありがたいお話です。頼めますか?」

「もちろんです!」

「そう言う事よエミネ、私達が不在の間はレックスさんと共に……」

 エミネに伝えようと振り返ると、彼女は頬を紅潮させてぼうっとしている。
 視線の先はレックスへと向けられて惚けているのだ。

「エミネ、エミネ?」

「あ、え! は、はい」

「留守をレックスさんと頼みますね」

「わ、わわ。分かりました!」

 慌てているが、その視線はレックスへと向けられて離れない。
 これは……もしかして一目惚れというものか?

「…………ビビっときたのね」

 小声でエミネに語りかければ、彼女は赤面しつつコクコクと何度もうなずいた。
 なんだか面白い反応に笑ってしまうが、からかい過ぎるのも良くないだろう。

「では、私とフィリクス様は出ますね。屋敷をお願いします」

「分かりました! お任せください!」

 送り出してくれるレックスへと頭を下げながら、フィリクス様と歩き出していく。
 後方ではエミネの上ずった声が聞こえた。

「さ、さむくないですか? 紅茶をお出ししますので……中へ!」

「ありがとうございます。いただきます!」

 なんだか微笑ましい二人だ。
 エミネがあそこまで男性に緊張しているのも珍しい。
 恋とは……そうなるものなのだろうか。

「行こうか」

「あ……はい。行きましょう」
 
 フィリクス様に呼ばれて、止めていた足を動かす。
 どうして今さら、恋がどうかとか、そんな事を考えていたのだろうか。
 不思議に思いながら、今は彼との時間に集中しないと……

「すまないな、二人きりになりたいとの要望を叶えてもらえて」

 そう、今回は彼の要望で二人きりになる時間を設けている。
 エミネには聞かせられない話だろうか。
 だから私の提案で、今日は魔物を狩りに向かうのだ。

「いえ……私もちょうどフィリクス様と魔物を狩りたいと思っていたので」

「あぁ、もちろん協力させてもらう。美味い食事のためだ」

「それで、二人で話したい事とは?」

「魔物憑きについてだ」

 二人で雪道を歩きながら、フィリクス様は話をしてくれた。
 自身が幼い頃に魔物憑きだと知られた際、多くの学者たちに研究された過去を……

「あの頃は、本当に大勢に調べられた」

「大変ですね……」

「今はもうおぼろげな記憶だ。だけどつい最近、君の領民申請を再度確認した際に気付いた事がある」

「気付いた事ですか?」

「あぁ、領民申請の際には身分証明のために両親の名を記す必要があるだろう? 離婚していても同じだ」

「そうですね。ですが……それとなんの関係が?」

 降り続ける雪の中で、フィリクス様は少しだけ沈黙した後に言葉を続けた。

「君の母は、リエンネという名だな」

「はい……そうですが」

「思い出したんだ。過去に魔物憑きの研究で来ていた際に、唯一の女性がいた事を」

「え……」

「魔物憑き研究者の補助員として働いていた。その女性の名も……リエンネだったはずだ」

 私の母である可能性はあるが、確証はない。
 だからフィリクス様は二人きりの時に話してくれたのだろう。

「あ、ありえません。母は魔物憑きを嫌っており、私を置いて行くほどでしたから」

「俺もそう思う。だが一応は情報共有をさせてもらう」

 母が魔物憑きについて調べている?
 その可能性は……本当にあるだろうか。

「……」

「すまないな。余計な話をした。気分を変えるよう」

 フィリクス様の言葉にハッと意識を取り戻す。
 そうだ、考えたって仕方がない。
 だから今は、彼との時間に集中しよう。
感想 167

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

『「ママは我慢してればいいんでしょ?」と娘に言われた日、私は妻をやめた』~我慢をやめた母と、崩れていく家族、そして再生~

まさき
恋愛
私はずっと「いい妻」でいようとしてきた。 夫に逆らわず、空気を読み、波風を立てないように生きる。 それが、この家を守る唯一の方法だと思っていた。 娘にも、そうであってほしかった。 けれど── その願いは、静かに歪んでいく。 夫の言葉をなぞるように、娘は私を軽んじるようになった。 そしてある日、夕食の後片付けをしていた私に、娘は言った。 「ママはさ、我慢してればいいんでしょ?」 その一言で、何かが壊れた。 我慢することが、母である証だと思っていた。 だがそれは、私自身をすり減らすだけの“呪い”だった。 ──もう、我慢するのはやめる。 妻であることをやめ、母として生き直すために。 私は、自分の人生を取り戻す決意をした。 その選択は、家族を大きく揺るがしていく。 崩れていく夫婦関係。 離れていく娘の心。 そして、待ち受ける“ざまぁ”の行方。 それでも私は問い続ける。 母とは何か。 家族とは何か。 そして──私は、どう生きるべきなのか。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為