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23話
『ごめんなさい、セシーリア……』
『私は、貴方を娘だとは思えないの』
かつて母に言われた言葉が頭に響いてくる。
忘れていた、記憶の奥底にしまっていたはずのもの。
だけどローザが発した母の名に、嫌でも思い出してしまう。
「ローザ、貴方がどうして……母と関わっているの」
「彼女が私に教えてくれたのよ、幸せな生活のために協力をするって、そして色々と教えてくれたのよ。貴方の居場所だってね?」
ローザはそこまでしゃべりながら、不満そうに鼻を鳴らす。
そしてくいッと顎をしゃくる。
「それよりも私という客がいながら、応接室に案内もしないの? 玄関だと寒いのだけど」
「今はこちらの質問に答えなさい」
「そこの侍女、さっさと案内しなさい。こんな初歩的なマナーすら教育してもらっていないのかしら」
ローザの高飛車なセリフ、傲慢な態度は相変わらずのものだ。
だけど今は元母との関わりの答えを知りたくて、それがはぐらかされたようで苛立ってしまう。
思わず腕をつかみ上げ、私は彼女を睨みつけた。
「質問に答えろと言っているの。それ以外を話す必要はないわ」
「ひっ……い、痛いわね」
「リエンネと言ったわね。彼女とはどういう理由で関わっているの」
「はは、本当にあの人が言っていた通りね」
「なにを言っているの、なにを聞いたの」
「そうやって体質特有の力で、私を脅してなにを聞きたいの?」
驚きで思わず手を離してしまう。
ローザは手首を痛がりながらも、余裕のある笑みを浮かべた。
「もし話が聞きたかったら応接室に案内しなさいと言っているのよ。私は貴方が隠している事を知っているのだからね」
「……エミネ」
主導権を握られているのは癪だが、聞きださねばならない事が多すぎる。
なにより今まで関わりすら見せてこなかった元母がどうして今になって……
考える事が多いが、ローザを応接室に案内する。
「まず本題に入る前に、私から不満だけ言わせてもらうわ」
ローザはこちらが話を始める前から、私に向かって絶えずに言葉を続けた。
「私は貴方を恨んでいるの。アロルドとの結婚が決まった私を知りながら、あの人の心を奪うような誘惑をして、こちらの家庭を崩壊させたのだから」
「それ、言いがかりだと気付いている?」
「……えぇそうね。これは言いがかり、私のどうしようもない苛立ちをぶつけているだけ」
思うよりもすんなりと認める態度。
意外な反応に虚を突かれる。
「でも貴方にも非はあったと思わねば、心が保てなかったのよ」
「……」
「好きな相手の心を奪われる経験なんて、貴方はないでしょう? それが耐えられる? 自分の好きな相手がこちらを向いてくれないなんて惨めな思いを経験できる?」
「した事はないけれど、それで私を責められても困るだけよ」
「分かっている。言いがかりだって、でも私は幸せになれると思っていたの。三年間の我慢の末に、ようやく望んだ幸せを手に入れられるって……でも今はまるで違う」
ローザは俯いたまま、言葉を続けていく。
「今の私達は最悪よ。アロルドは未来の余裕がなくて疲弊し、ずっと貴方を追い続けている。病的にね」
「……」
「私は愛していたアロルドにまた振り向いてほしいの。それってワガママではなく、普通の願いのはずよ」
「話が長いわ。何がいいたいの? 愚痴を聞く時間などないのだけれど」
ハッキリと告げる。
これ以上、私に関係ない問題を聞いている義理はない。
だけどローザは私を見つめた。
「セシーリア、身勝手だと分かっているけれど私は貴方を責めたくなってしまう。言いがかりだと言われてもこうなった原因は貴方にもあると思ってしまうの」
「だから、なにが言いたくて」
「でも同時に貴方の過去の境遇を聞いて、同情もしているわ」
「……」
「母に捨てられた経験なんて、私なら耐えられない。貴方も不幸だったのね」
同情するような口ぶりだが私には分かる。
ここからがローザが押し通そうとする要求なのだろう。
この芝居がかったセリフも、私に頷かせるための言葉で、本心ではないと感じる。
「リエンネさんに頼まれたの。その特異体質を隠すために協力してほしいってね」
「っ!」
「その不幸な体質のせいで隠れて暮らしているのよね? でも私が、私の公爵家が協力して不幸な状況から貴方を普通の人間にしてあげるわ」
さも感謝してほしい。
そう言いたげに、仰々しい身振りと共にローザは私に手を伸ばす。
「いま、私と共に来てくだされば貴方の身柄は完全に隠してあげる」
「その対価に、なにをしろと言う気?」
「簡単な事よ、貴方には体質がバレない暮らしを提供する代わりに、私の幸せのためにアロルドの執務を行ってほしいだけ」
「要求が、あの人と同じね」
「さっきも言った通りアロルドには今、余裕がないの。貴方が彼の時間を生んでくれればきっとまた私を見てくれる。貴方はこれまで通りに離れて暮らして執務だけを行ってくれればいいだけよ」
ローザは身を乗り出し、興奮した口ぶりで話す。
さっさと了承しろと急かすようでもあった。
「貴方にとっても悪くないわよね? 魔物憑きのような体質、気持ち悪いものね? それを隠すのだって大変でしょう? でも私が父に頼んで貴方を隠し通してあげる」
「……断ればどうする気」
「それは、仕方ないけれど私だってアロルドとの生活が壊された恨みがある。だから私なりの方法をとらせてもらうわ」
なにをするのか、私は容易に想像できていた。
だってこの女はすでに一度、フィリクス様でそれを行っている。
だから彼女の同情は嘘であり、脅す内容も私には分かっていた。
「貴方の特異体質について公表するわ。王家にまで伝えて大々的に皆に知らせるの」
「……」
「隠してきた事、全部……全部を公表するわ!」
母はどうして、この女に私の身体の事を明かしたのか。
最悪な選択、愚劣な行為だ。
でもその意味を聞く前に、今はこの女へと答えよう。
「答えを聞かせてくれる? これからずっと蔑まれて生きるか。私の要望に応えて生きるか選びなさい」
特異体質を隠していくため、アロルドたちのために生きていくか。
それとも事実を公にされて、蔑まれて生きていくか。
問いかけを投げかけてきたローザは勝ち誇っていた。
「私は貴方に良い条件を提示してあげているはずよ、賢明な判断をしてくれると嬉しいのだけどね」
考える時間などなくても、最初から答えなんて決まっていた。
私にとってそれは、ローザが勝ち誇るような問いかけじゃない。
「好きにしなさい」
「は?」
「聞こえなかったのかしら、好きにすればいいと言っているのよ」
「わ、私が言った事が分からなかったのかしら? 貴方の特異体質について王家にさえ報告すると言っているのよ」
「構わないわ」
「多くの者達に蔑まれていくわよ。きっと貴方の傍に居てくれる人なんていない、それでもいいというの? 貴方の母親のリエンネはそれを望んでいるのかしら?」
「出て行った母の望みなんて私が聞く気はない」
ごめんなさい……お父様。
でも啖呵を切ったからには、この答えが最悪な結果にならぬようにしてみせるから。
『私は、貴方を娘だとは思えないの』
かつて母に言われた言葉が頭に響いてくる。
忘れていた、記憶の奥底にしまっていたはずのもの。
だけどローザが発した母の名に、嫌でも思い出してしまう。
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「彼女が私に教えてくれたのよ、幸せな生活のために協力をするって、そして色々と教えてくれたのよ。貴方の居場所だってね?」
ローザはそこまでしゃべりながら、不満そうに鼻を鳴らす。
そしてくいッと顎をしゃくる。
「それよりも私という客がいながら、応接室に案内もしないの? 玄関だと寒いのだけど」
「今はこちらの質問に答えなさい」
「そこの侍女、さっさと案内しなさい。こんな初歩的なマナーすら教育してもらっていないのかしら」
ローザの高飛車なセリフ、傲慢な態度は相変わらずのものだ。
だけど今は元母との関わりの答えを知りたくて、それがはぐらかされたようで苛立ってしまう。
思わず腕をつかみ上げ、私は彼女を睨みつけた。
「質問に答えろと言っているの。それ以外を話す必要はないわ」
「ひっ……い、痛いわね」
「リエンネと言ったわね。彼女とはどういう理由で関わっているの」
「はは、本当にあの人が言っていた通りね」
「なにを言っているの、なにを聞いたの」
「そうやって体質特有の力で、私を脅してなにを聞きたいの?」
驚きで思わず手を離してしまう。
ローザは手首を痛がりながらも、余裕のある笑みを浮かべた。
「もし話が聞きたかったら応接室に案内しなさいと言っているのよ。私は貴方が隠している事を知っているのだからね」
「……エミネ」
主導権を握られているのは癪だが、聞きださねばならない事が多すぎる。
なにより今まで関わりすら見せてこなかった元母がどうして今になって……
考える事が多いが、ローザを応接室に案内する。
「まず本題に入る前に、私から不満だけ言わせてもらうわ」
ローザはこちらが話を始める前から、私に向かって絶えずに言葉を続けた。
「私は貴方を恨んでいるの。アロルドとの結婚が決まった私を知りながら、あの人の心を奪うような誘惑をして、こちらの家庭を崩壊させたのだから」
「それ、言いがかりだと気付いている?」
「……えぇそうね。これは言いがかり、私のどうしようもない苛立ちをぶつけているだけ」
思うよりもすんなりと認める態度。
意外な反応に虚を突かれる。
「でも貴方にも非はあったと思わねば、心が保てなかったのよ」
「……」
「好きな相手の心を奪われる経験なんて、貴方はないでしょう? それが耐えられる? 自分の好きな相手がこちらを向いてくれないなんて惨めな思いを経験できる?」
「した事はないけれど、それで私を責められても困るだけよ」
「分かっている。言いがかりだって、でも私は幸せになれると思っていたの。三年間の我慢の末に、ようやく望んだ幸せを手に入れられるって……でも今はまるで違う」
ローザは俯いたまま、言葉を続けていく。
「今の私達は最悪よ。アロルドは未来の余裕がなくて疲弊し、ずっと貴方を追い続けている。病的にね」
「……」
「私は愛していたアロルドにまた振り向いてほしいの。それってワガママではなく、普通の願いのはずよ」
「話が長いわ。何がいいたいの? 愚痴を聞く時間などないのだけれど」
ハッキリと告げる。
これ以上、私に関係ない問題を聞いている義理はない。
だけどローザは私を見つめた。
「セシーリア、身勝手だと分かっているけれど私は貴方を責めたくなってしまう。言いがかりだと言われてもこうなった原因は貴方にもあると思ってしまうの」
「だから、なにが言いたくて」
「でも同時に貴方の過去の境遇を聞いて、同情もしているわ」
「……」
「母に捨てられた経験なんて、私なら耐えられない。貴方も不幸だったのね」
同情するような口ぶりだが私には分かる。
ここからがローザが押し通そうとする要求なのだろう。
この芝居がかったセリフも、私に頷かせるための言葉で、本心ではないと感じる。
「リエンネさんに頼まれたの。その特異体質を隠すために協力してほしいってね」
「っ!」
「その不幸な体質のせいで隠れて暮らしているのよね? でも私が、私の公爵家が協力して不幸な状況から貴方を普通の人間にしてあげるわ」
さも感謝してほしい。
そう言いたげに、仰々しい身振りと共にローザは私に手を伸ばす。
「いま、私と共に来てくだされば貴方の身柄は完全に隠してあげる」
「その対価に、なにをしろと言う気?」
「簡単な事よ、貴方には体質がバレない暮らしを提供する代わりに、私の幸せのためにアロルドの執務を行ってほしいだけ」
「要求が、あの人と同じね」
「さっきも言った通りアロルドには今、余裕がないの。貴方が彼の時間を生んでくれればきっとまた私を見てくれる。貴方はこれまで通りに離れて暮らして執務だけを行ってくれればいいだけよ」
ローザは身を乗り出し、興奮した口ぶりで話す。
さっさと了承しろと急かすようでもあった。
「貴方にとっても悪くないわよね? 魔物憑きのような体質、気持ち悪いものね? それを隠すのだって大変でしょう? でも私が父に頼んで貴方を隠し通してあげる」
「……断ればどうする気」
「それは、仕方ないけれど私だってアロルドとの生活が壊された恨みがある。だから私なりの方法をとらせてもらうわ」
なにをするのか、私は容易に想像できていた。
だってこの女はすでに一度、フィリクス様でそれを行っている。
だから彼女の同情は嘘であり、脅す内容も私には分かっていた。
「貴方の特異体質について公表するわ。王家にまで伝えて大々的に皆に知らせるの」
「……」
「隠してきた事、全部……全部を公表するわ!」
母はどうして、この女に私の身体の事を明かしたのか。
最悪な選択、愚劣な行為だ。
でもその意味を聞く前に、今はこの女へと答えよう。
「答えを聞かせてくれる? これからずっと蔑まれて生きるか。私の要望に応えて生きるか選びなさい」
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「構わないわ」
「多くの者達に蔑まれていくわよ。きっと貴方の傍に居てくれる人なんていない、それでもいいというの? 貴方の母親のリエンネはそれを望んでいるのかしら?」
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