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27話
「……分かりました」
長い沈黙の後に大臣からの返答があった。
重苦しい空気の中で、彼はフィリクス様へと言葉を続ける。
「ですが貴方達は王家の意向に反すると決めた。それに伴う信頼喪失の大きさは理解できておりますか? 王家から辺境伯へと税率の引き上げなどの処置が下される可能性もあります」
「やってみろ」
「っ!」
「ただ俺はこれまで何年も王家の命により、辺境伯領の民を守り続けてきた。どれだけ民に蔑まれてもだ」
「……」
「実績を無視して魔物憑きというだけで判断するのなら、好きにしろ……だが俺はもうただ言いなりになる気は無い」
「どうして、そこまで……以前の貴方は従順だったはず。魔物憑きである事を自覚し、迷惑をかけぬように生きていたはず!」
「魔物憑きである事を卑下したままでは、隣にいる彼女に失礼になる。俺は同じ魔物憑きである彼女のために権利を主張する事にしただけだ」
フィリクス様はそう言って私へと視線を送る。
そして私も頷いて、大臣へと言葉を告げた。
「私達は魔物憑きですが、それだけで差別され、制限を受けるつもりはありません」
「……」
「フィリクス様と同じく、お互いの権利のために主張を変える気は無い」
大臣は口を噤み、しばらく浅い呼吸を繰り返す。
そして沈黙を破った。
「国王陛下にはそう報告をしておきます」
「承知いたしました。それではお帰りください」
王家の方々は皆、一様に不満げに帰っていく。
国家として、意向に反する私達への不満を呑み込みつつ、大人しく帰ってくれた。
さて……
「ありがとうございました、フィリクス様」
「いい。すまないな、来るのが遅れた」
「いいんです。報告を受けてすぐに来てくれたんですよね」
私はそっと彼の胸に手を当てる。
走って来たのだろう、いまだに心臓が激しく鳴っていた。
「私よりも体力がないのに、無理しすぎですよ」
笑って言えば、フィリクス様も小さく笑った。
「君よりも、器用に問題を解決できるからな」
「ふふ……器用か分かりませんが。確かに、助けられました」
フィリクス様と話をしつつ、私は床へと視線を向けた。
そう……残った人物との問題が残っている。
「残ったのは貴方だけね、ローザ」
「か……かは……」
そろそろ呼吸が落ち着いてきただろうローザ。
彼女の手を掴み、片手で引き上げて立たせる。
「色々と言いたい事はあるけれど、まず教えなさい。私の母は今どこにいるの?」
「ふ、ふふ。アロルドの所よ。そこで私達の幸せのために協力してくれているの。それ以外は私はなにも知らないわ」
母の思惑は分からないし、ローザも知っていそうにない。
だったら話を変えよう。
「昔の事を思い出させるようで悪いけれど、貴方はフィリクス様が魔物憑きだと明かしたのよね?」
フィリクス様の瞳が動くが、ローザは気付かずに笑った。
「事実を公表して何が悪いのよ。領民に教えてあげただけよ、辺境伯様は人間じゃないってね」
「……」
「でもあの話は謝罪金を積み、辺境伯がそれを受け取った時点で手打ちよ! 今さら蒸し返されても迷惑なの!」
「そうやって責任を放棄して、謝罪もしないわけね」
「なに? 殴ってでも怒りをぶつける気? そうやって暴力で制裁でもやってみなさいよ!」
「そう……じゃあやってあげる」
拳を握る。
力に怒りを込めて、それをローザへと振りかざす。
咄嗟にエミネが止めようと「お嬢様!」と声を出したが、それも当たり前のことだ。
私が殴れば女性なんてすぐに死んでしまう。
だけど……止めずに拳を打ち下ろした。
「っ!」
ローザの眼前で拳を止める。
だけど起きた風圧だけが、彼女の顔を揺らして滑稽な顔を見せた。
「あ……ひっ」
「暴力で解決なんてする訳がないでしょう。でもね……考えは変わったわ」
「か、考え?」
「私はもうアロルドや貴方と関わる気は無かった。だから本心で貴方達の幸せを祈っていたのよ? でも二人そろって邪魔をしてきた」
「なにを……考えているの」
「これ以上は邪魔だから、私が本気で貴方達を追い込んであげる。貴方の妄想通りにやってあげるわ、二度と私に関われないように徹底的にね」
ローザの顔つきが変わっていくのが分かった。
私が初めて向けた敵意を感じ取ったのだろう。
「まず手始めに、貴方の持っている資産……だけじゃない、レーヴ公爵とアロルドからも揃って謝罪金を積んでもらうわ」
「ど、どういう理屈よ! そんなお金を要求する資格は……」
「あるのよ、貴方は過去にフィリクス様に迷惑をかけて謝罪金を積んだでしょう?」
「えぇ、それがなに!?」
「馬鹿な貴方は知らないのでしょうけど、謝罪金を渡す際に結ばれる契約には加害者が関わることを禁ずる事項を盛り込むのが常識。フィリクス様……契約にはそうあったはずです」
「あぁ、その通りだ。俺にローザが関わらぬ事を誓う記載は確かにあった」
ローザの表情が少しずつ変わっていく。
ようやく分かってきたようね。
「わ、私は貴方に会いに来ただけよ! 辺境伯に会いに来たわけじゃ!」
「でも貴方は先ほど、確かにフィリクス様を魔物憑きと罵倒し、あろうことか人間でもないと罵った。これが関わっていないと言えるかしら?」
「あ……」
「ねぇローザ、貴方の幸せなんてもう考えてあげない。私は自由に生きたかっただけ、それを邪魔したのは貴方よ……だから」
彼女の耳元で囁く。
怒りを伝えるようにしっかりと告げた。
「覚悟して、徹底的に相手してあげるから」
長い沈黙の後に大臣からの返答があった。
重苦しい空気の中で、彼はフィリクス様へと言葉を続ける。
「ですが貴方達は王家の意向に反すると決めた。それに伴う信頼喪失の大きさは理解できておりますか? 王家から辺境伯へと税率の引き上げなどの処置が下される可能性もあります」
「やってみろ」
「っ!」
「ただ俺はこれまで何年も王家の命により、辺境伯領の民を守り続けてきた。どれだけ民に蔑まれてもだ」
「……」
「実績を無視して魔物憑きというだけで判断するのなら、好きにしろ……だが俺はもうただ言いなりになる気は無い」
「どうして、そこまで……以前の貴方は従順だったはず。魔物憑きである事を自覚し、迷惑をかけぬように生きていたはず!」
「魔物憑きである事を卑下したままでは、隣にいる彼女に失礼になる。俺は同じ魔物憑きである彼女のために権利を主張する事にしただけだ」
フィリクス様はそう言って私へと視線を送る。
そして私も頷いて、大臣へと言葉を告げた。
「私達は魔物憑きですが、それだけで差別され、制限を受けるつもりはありません」
「……」
「フィリクス様と同じく、お互いの権利のために主張を変える気は無い」
大臣は口を噤み、しばらく浅い呼吸を繰り返す。
そして沈黙を破った。
「国王陛下にはそう報告をしておきます」
「承知いたしました。それではお帰りください」
王家の方々は皆、一様に不満げに帰っていく。
国家として、意向に反する私達への不満を呑み込みつつ、大人しく帰ってくれた。
さて……
「ありがとうございました、フィリクス様」
「いい。すまないな、来るのが遅れた」
「いいんです。報告を受けてすぐに来てくれたんですよね」
私はそっと彼の胸に手を当てる。
走って来たのだろう、いまだに心臓が激しく鳴っていた。
「私よりも体力がないのに、無理しすぎですよ」
笑って言えば、フィリクス様も小さく笑った。
「君よりも、器用に問題を解決できるからな」
「ふふ……器用か分かりませんが。確かに、助けられました」
フィリクス様と話をしつつ、私は床へと視線を向けた。
そう……残った人物との問題が残っている。
「残ったのは貴方だけね、ローザ」
「か……かは……」
そろそろ呼吸が落ち着いてきただろうローザ。
彼女の手を掴み、片手で引き上げて立たせる。
「色々と言いたい事はあるけれど、まず教えなさい。私の母は今どこにいるの?」
「ふ、ふふ。アロルドの所よ。そこで私達の幸せのために協力してくれているの。それ以外は私はなにも知らないわ」
母の思惑は分からないし、ローザも知っていそうにない。
だったら話を変えよう。
「昔の事を思い出させるようで悪いけれど、貴方はフィリクス様が魔物憑きだと明かしたのよね?」
フィリクス様の瞳が動くが、ローザは気付かずに笑った。
「事実を公表して何が悪いのよ。領民に教えてあげただけよ、辺境伯様は人間じゃないってね」
「……」
「でもあの話は謝罪金を積み、辺境伯がそれを受け取った時点で手打ちよ! 今さら蒸し返されても迷惑なの!」
「そうやって責任を放棄して、謝罪もしないわけね」
「なに? 殴ってでも怒りをぶつける気? そうやって暴力で制裁でもやってみなさいよ!」
「そう……じゃあやってあげる」
拳を握る。
力に怒りを込めて、それをローザへと振りかざす。
咄嗟にエミネが止めようと「お嬢様!」と声を出したが、それも当たり前のことだ。
私が殴れば女性なんてすぐに死んでしまう。
だけど……止めずに拳を打ち下ろした。
「っ!」
ローザの眼前で拳を止める。
だけど起きた風圧だけが、彼女の顔を揺らして滑稽な顔を見せた。
「あ……ひっ」
「暴力で解決なんてする訳がないでしょう。でもね……考えは変わったわ」
「か、考え?」
「私はもうアロルドや貴方と関わる気は無かった。だから本心で貴方達の幸せを祈っていたのよ? でも二人そろって邪魔をしてきた」
「なにを……考えているの」
「これ以上は邪魔だから、私が本気で貴方達を追い込んであげる。貴方の妄想通りにやってあげるわ、二度と私に関われないように徹底的にね」
ローザの顔つきが変わっていくのが分かった。
私が初めて向けた敵意を感じ取ったのだろう。
「まず手始めに、貴方の持っている資産……だけじゃない、レーヴ公爵とアロルドからも揃って謝罪金を積んでもらうわ」
「ど、どういう理屈よ! そんなお金を要求する資格は……」
「あるのよ、貴方は過去にフィリクス様に迷惑をかけて謝罪金を積んだでしょう?」
「えぇ、それがなに!?」
「馬鹿な貴方は知らないのでしょうけど、謝罪金を渡す際に結ばれる契約には加害者が関わることを禁ずる事項を盛り込むのが常識。フィリクス様……契約にはそうあったはずです」
「あぁ、その通りだ。俺にローザが関わらぬ事を誓う記載は確かにあった」
ローザの表情が少しずつ変わっていく。
ようやく分かってきたようね。
「わ、私は貴方に会いに来ただけよ! 辺境伯に会いに来たわけじゃ!」
「でも貴方は先ほど、確かにフィリクス様を魔物憑きと罵倒し、あろうことか人間でもないと罵った。これが関わっていないと言えるかしら?」
「あ……」
「ねぇローザ、貴方の幸せなんてもう考えてあげない。私は自由に生きたかっただけ、それを邪魔したのは貴方よ……だから」
彼女の耳元で囁く。
怒りを伝えるようにしっかりと告げた。
「覚悟して、徹底的に相手してあげるから」
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