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29話
「思ったよりも早く終わって良かったですね」
三人目で証言を受けて、調書を取り終えた。
自由になった喜びと共にフィリクス様へと告げた。
「あぁ、セシーリアの提案のおかげで固い口から供述させる事ができた」
「強引な正当防衛でしたけどね」
なんにせよこれで準備も出来た。
「これなら、アロルドを罪に問えますか?」
「あぁ、不法に領地に入った傭兵を雇ったとあれば責任問題だ。加えて元妻への誘拐まがいの行為もあったとなれば充分に罪に問える」
「であれば、交渉としては充分ですね」
「交渉? なにをする気だ?」
「残った資産、私に害をなそうとした人物まで全てから搾り取ってあげようと思って!」
「……君が金を得ても余らせそうだな」
「ふふ、確かにそうですね。だから得た資産は、父に渡します。親孝行です」
雑談をしつつ、屋敷へ帰ろうと収容所の扉を開く。
しかし開けた隙間から入り込んだ猛吹雪が、一気に私とフィリクス様の体温を冷ましていく。
「辺境伯様、現在外は猛吹雪の状況です! 大雪の恐れもあるために外には出ないでください! 近隣の村人たちもこの収容所の空き施設の大部屋で避難してもらっています」
な……
再び外を見てみれば、確かにこれはとんでもない吹雪だ。
私の屋敷にはエミネが残っている、レックスさんも一緒だから大丈夫だとは思うが……
「これは帰るには苦労しますね」
「あぁ」
仕方ない。
ここは吹雪が収まるまで、しばらくゆっくりさせてもらおう。
収容所の空き部屋をフィリクス様と共に、待機所として使わせてもらう。
「ここでしばらく待てば、収まりますよね」
「あぁ、収まるまで保てばいいが」
「?」
意味深な言葉を吐いたフィリクス様だったが、その言葉の意味はすぐに分かった。
部屋の外がざわつき出して、騎士達がなにか言っている。
耳を澄ませば、その声が嫌でも聞こえてきた。
「せっかく避難してきたのに、魔物憑きの辺境伯様がいると聞きましたわ!」
「これじゃあ魔物共と一つ屋根の下にいるのと同じだ、危なくて眠れない」
「あの辺境伯様が魔物を呼び寄せているんだろ? さっさと追い出してくれ!」
騎士達がなだめる声が聞こえるが焼け石に水。
避難してきた村人たちの声は増えていく一方だった。
「……やはりすぐに広まるか」
「フィリクス様」
「気にしないでいい、いつもの事だ。俺は近くの別邸に行く……そこなら設備も整っているから一人で過ごすのにちょうどいい」
「私も行きますよ」
「いい、他に誰もいない。男と二人で一つ屋根の下は君も気まずいだろう」
そう言って部屋を出ていくフィリクス様。
聞こえてきたのは村人たちの叫び声であり、阿鼻叫喚と共に蔑んだ声が聞こえる。
「……これが、魔物憑きの現実か」
ローザの言っていたように、私達は人間扱いもされていない。
魔物以上に嫌われて蔑まれているのだ。
こんな人達が魔物に襲われて、どうして救う必要が……
「こんな考えは駄目ね…………ごめんなさい……エミネ、お父様」
支えてくれた人達を想いながら、悔しい気持ちを噛み締めた。
◇◇◇
吹雪は収まるどころか酷くなっていく。
フィリクス様の居ない空き部屋は寂しくて、沈黙の耳鳴りが響く。
「……行こうかな」
吹雪は収まっていないけれど、私は収容所の扉を開く。
他の騎士達が目を離した隙に全速力で駆け出した。
フィリクス様の別邸については方角だけ聞いていたので、そちらに向かって行けばすぐに分かった。
「設備が整っているなんて、嘘じゃないですか」
辿り着いたのは廃墟に近い屋敷。
こんな場所にわざわざ来たのは、村人たちに不安を与えぬためだ。
そして一人になる事を望んだのは私への配慮。
「……」
無言のまま廃墟へと入っていく。
すきま風が吹く中、奥の暖炉の前でたった一人で座る男性がいた。
もちろん彼だ。
「嘘が下手ですね、フィリクス様は」
「っ! セシーリア……どうしてここに」
「一人で抱え込む人に会いに来ただけです」
二人掛けのソファだったので、私も隣に座らせてもらう。
暖炉の炎による熱はあるが、寒いのは変わらない。
「……毛布はあるんですね」
「あ、あぁ」
暖炉の前で毛布にくるまり、吹雪が収まるのを待つつもりだったのだろう。
なんという自己犠牲だろうか。
「寒いだろう。俺はこの地の生まれで慣れている。君が使え…………可能なら収容所に戻ろう」
フィリクス様は私に毛布を被せてくれるが、私はその手を握る。
「っ!」
「ずっとそうやって一人で抱え込むんですね」
毛布を手に取りながら、彼の肩にもかけて寄り添う。
恥ずかしいが、伝えたい事があって言葉を続ける。
「私は貴方に会えて嬉しかった。一人じゃないと思えたから」
「セシーリア……」
「良き理解者ができて嬉しかった。そして私は貴方にとってもそうでありたい」
「っ、それは」
肩に寄りかかって語りかけていく。
心臓は激しく高鳴り、苦しいほどに鼓動する。
「フィリクス様にとって私は、頼れぬ相手ですか?」
「そんな事は無い」
「なら一人にならずに頼ってください。私は……貴方がこの辺境伯領に居て良いと言ってくれた時。本当に嬉しかったんです」
「セシーリア……」
「貴方にとって私が頼れる相手なら、行動で示してください」
気持ちを伝えた途端に、私の身体が引かれたのが分かった。
抵抗できなかったのは初めてだったかもしれない。
抱きしめられて、思考が止まる。
「俺と居れば、君まで差別の的だ」
「それがなんですか、私は気にしません」
「俺が気にする。君に傷ついてほしくない」
「……どうして、ですか」
問いかけた声は答えを求めていた。
互いに息が近い、それでも気持ちを確かめ合うこの距離を離れたくはなかった。
「どうして、私を傷つけたくないのですか」
「……君が好きだからだ」
ハッキリと聞こえた声。
吹雪の吹く風の中で、毛布にくるまる私達の熱は決して冷める事はなかった。
三人目で証言を受けて、調書を取り終えた。
自由になった喜びと共にフィリクス様へと告げた。
「あぁ、セシーリアの提案のおかげで固い口から供述させる事ができた」
「強引な正当防衛でしたけどね」
なんにせよこれで準備も出来た。
「これなら、アロルドを罪に問えますか?」
「あぁ、不法に領地に入った傭兵を雇ったとあれば責任問題だ。加えて元妻への誘拐まがいの行為もあったとなれば充分に罪に問える」
「であれば、交渉としては充分ですね」
「交渉? なにをする気だ?」
「残った資産、私に害をなそうとした人物まで全てから搾り取ってあげようと思って!」
「……君が金を得ても余らせそうだな」
「ふふ、確かにそうですね。だから得た資産は、父に渡します。親孝行です」
雑談をしつつ、屋敷へ帰ろうと収容所の扉を開く。
しかし開けた隙間から入り込んだ猛吹雪が、一気に私とフィリクス様の体温を冷ましていく。
「辺境伯様、現在外は猛吹雪の状況です! 大雪の恐れもあるために外には出ないでください! 近隣の村人たちもこの収容所の空き施設の大部屋で避難してもらっています」
な……
再び外を見てみれば、確かにこれはとんでもない吹雪だ。
私の屋敷にはエミネが残っている、レックスさんも一緒だから大丈夫だとは思うが……
「これは帰るには苦労しますね」
「あぁ」
仕方ない。
ここは吹雪が収まるまで、しばらくゆっくりさせてもらおう。
収容所の空き部屋をフィリクス様と共に、待機所として使わせてもらう。
「ここでしばらく待てば、収まりますよね」
「あぁ、収まるまで保てばいいが」
「?」
意味深な言葉を吐いたフィリクス様だったが、その言葉の意味はすぐに分かった。
部屋の外がざわつき出して、騎士達がなにか言っている。
耳を澄ませば、その声が嫌でも聞こえてきた。
「せっかく避難してきたのに、魔物憑きの辺境伯様がいると聞きましたわ!」
「これじゃあ魔物共と一つ屋根の下にいるのと同じだ、危なくて眠れない」
「あの辺境伯様が魔物を呼び寄せているんだろ? さっさと追い出してくれ!」
騎士達がなだめる声が聞こえるが焼け石に水。
避難してきた村人たちの声は増えていく一方だった。
「……やはりすぐに広まるか」
「フィリクス様」
「気にしないでいい、いつもの事だ。俺は近くの別邸に行く……そこなら設備も整っているから一人で過ごすのにちょうどいい」
「私も行きますよ」
「いい、他に誰もいない。男と二人で一つ屋根の下は君も気まずいだろう」
そう言って部屋を出ていくフィリクス様。
聞こえてきたのは村人たちの叫び声であり、阿鼻叫喚と共に蔑んだ声が聞こえる。
「……これが、魔物憑きの現実か」
ローザの言っていたように、私達は人間扱いもされていない。
魔物以上に嫌われて蔑まれているのだ。
こんな人達が魔物に襲われて、どうして救う必要が……
「こんな考えは駄目ね…………ごめんなさい……エミネ、お父様」
支えてくれた人達を想いながら、悔しい気持ちを噛み締めた。
◇◇◇
吹雪は収まるどころか酷くなっていく。
フィリクス様の居ない空き部屋は寂しくて、沈黙の耳鳴りが響く。
「……行こうかな」
吹雪は収まっていないけれど、私は収容所の扉を開く。
他の騎士達が目を離した隙に全速力で駆け出した。
フィリクス様の別邸については方角だけ聞いていたので、そちらに向かって行けばすぐに分かった。
「設備が整っているなんて、嘘じゃないですか」
辿り着いたのは廃墟に近い屋敷。
こんな場所にわざわざ来たのは、村人たちに不安を与えぬためだ。
そして一人になる事を望んだのは私への配慮。
「……」
無言のまま廃墟へと入っていく。
すきま風が吹く中、奥の暖炉の前でたった一人で座る男性がいた。
もちろん彼だ。
「嘘が下手ですね、フィリクス様は」
「っ! セシーリア……どうしてここに」
「一人で抱え込む人に会いに来ただけです」
二人掛けのソファだったので、私も隣に座らせてもらう。
暖炉の炎による熱はあるが、寒いのは変わらない。
「……毛布はあるんですね」
「あ、あぁ」
暖炉の前で毛布にくるまり、吹雪が収まるのを待つつもりだったのだろう。
なんという自己犠牲だろうか。
「寒いだろう。俺はこの地の生まれで慣れている。君が使え…………可能なら収容所に戻ろう」
フィリクス様は私に毛布を被せてくれるが、私はその手を握る。
「っ!」
「ずっとそうやって一人で抱え込むんですね」
毛布を手に取りながら、彼の肩にもかけて寄り添う。
恥ずかしいが、伝えたい事があって言葉を続ける。
「私は貴方に会えて嬉しかった。一人じゃないと思えたから」
「セシーリア……」
「良き理解者ができて嬉しかった。そして私は貴方にとってもそうでありたい」
「っ、それは」
肩に寄りかかって語りかけていく。
心臓は激しく高鳴り、苦しいほどに鼓動する。
「フィリクス様にとって私は、頼れぬ相手ですか?」
「そんな事は無い」
「なら一人にならずに頼ってください。私は……貴方がこの辺境伯領に居て良いと言ってくれた時。本当に嬉しかったんです」
「セシーリア……」
「貴方にとって私が頼れる相手なら、行動で示してください」
気持ちを伝えた途端に、私の身体が引かれたのが分かった。
抵抗できなかったのは初めてだったかもしれない。
抱きしめられて、思考が止まる。
「俺と居れば、君まで差別の的だ」
「それがなんですか、私は気にしません」
「俺が気にする。君に傷ついてほしくない」
「……どうして、ですか」
問いかけた声は答えを求めていた。
互いに息が近い、それでも気持ちを確かめ合うこの距離を離れたくはなかった。
「どうして、私を傷つけたくないのですか」
「……君が好きだからだ」
ハッキリと聞こえた声。
吹雪の吹く風の中で、毛布にくるまる私達の熱は決して冷める事はなかった。
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