【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか

文字の大きさ
35 / 48

29話

「思ったよりも早く終わって良かったですね」

 三人目で証言を受けて、調書を取り終えた。
 自由になった喜びと共にフィリクス様へと告げた。

「あぁ、セシーリアの提案のおかげで固い口から供述させる事ができた」

「強引な正当防衛でしたけどね」

 なんにせよこれで準備も出来た。
 
「これなら、アロルドを罪に問えますか?」

「あぁ、不法に領地に入った傭兵を雇ったとあれば責任問題だ。加えて元妻への誘拐まがいの行為もあったとなれば充分に罪に問える」

「であれば、交渉としては充分ですね」

「交渉? なにをする気だ?」

「残った資産、私に害をなそうとした人物まで全てから搾り取ってあげようと思って!」

「……君が金を得ても余らせそうだな」

「ふふ、確かにそうですね。だから得た資産は、父に渡します。親孝行です」

 雑談をしつつ、屋敷へ帰ろうと収容所の扉を開く。
 しかし開けた隙間から入り込んだ猛吹雪が、一気に私とフィリクス様の体温を冷ましていく。

「辺境伯様、現在外は猛吹雪の状況です! 大雪の恐れもあるために外には出ないでください! 近隣の村人たちもこの収容所の空き施設の大部屋で避難してもらっています」

 な……
 再び外を見てみれば、確かにこれはとんでもない吹雪だ。
 私の屋敷にはエミネが残っている、レックスさんも一緒だから大丈夫だとは思うが……

「これは帰るには苦労しますね」

「あぁ」

 仕方ない。
 ここは吹雪が収まるまで、しばらくゆっくりさせてもらおう。
 収容所の空き部屋をフィリクス様と共に、待機所として使わせてもらう。

「ここでしばらく待てば、収まりますよね」

「あぁ、収まるまで保てばいいが」

「?」

 意味深な言葉を吐いたフィリクス様だったが、その言葉の意味はすぐに分かった。
 部屋の外がざわつき出して、騎士達がなにか言っている。
 耳を澄ませば、その声が嫌でも聞こえてきた。

「せっかく避難してきたのに、魔物憑きの辺境伯様がいると聞きましたわ!」
「これじゃあ魔物共と一つ屋根の下にいるのと同じだ、危なくて眠れない」
「あの辺境伯様が魔物を呼び寄せているんだろ? さっさと追い出してくれ!」

 騎士達がなだめる声が聞こえるが焼け石に水。
 避難してきた村人たちの声は増えていく一方だった。

「……やはりすぐに広まるか」

「フィリクス様」

「気にしないでいい、いつもの事だ。俺は近くの別邸に行く……そこなら設備も整っているから一人で過ごすのにちょうどいい」

「私も行きますよ」

「いい、他に誰もいない。男と二人で一つ屋根の下は君も気まずいだろう」

 そう言って部屋を出ていくフィリクス様。
 聞こえてきたのは村人たちの叫び声であり、阿鼻叫喚と共に蔑んだ声が聞こえる。

「……これが、魔物憑きの現実か」

 ローザの言っていたように、私達は人間扱いもされていない。
 魔物以上に嫌われて蔑まれているのだ。
 こんな人達が魔物に襲われて、どうして救う必要が……

「こんな考えは駄目ね…………ごめんなさい……エミネ、お父様」
 
 支えてくれた人達を想いながら、悔しい気持ちを噛み締めた。


   ◇◇◇

 吹雪は収まるどころか酷くなっていく。
 フィリクス様の居ない空き部屋は寂しくて、沈黙の耳鳴りが響く。

「……行こうかな」

 吹雪は収まっていないけれど、私は収容所の扉を開く。
 他の騎士達が目を離した隙に全速力で駆け出した。
 フィリクス様の別邸については方角だけ聞いていたので、そちらに向かって行けばすぐに分かった。

「設備が整っているなんて、嘘じゃないですか」

 辿り着いたのは廃墟に近い屋敷。
 こんな場所にわざわざ来たのは、村人たちに不安を与えぬためだ。
 そして一人になる事を望んだのは私への配慮。

「……」

 無言のまま廃墟へと入っていく。
 すきま風が吹く中、奥の暖炉の前でたった一人で座る男性がいた。
 もちろん彼だ。

「嘘が下手ですね、フィリクス様は」

「っ! セシーリア……どうしてここに」

「一人で抱え込む人に会いに来ただけです」

 二人掛けのソファだったので、私も隣に座らせてもらう。
 暖炉の炎による熱はあるが、寒いのは変わらない。

「……毛布はあるんですね」

「あ、あぁ」

 暖炉の前で毛布にくるまり、吹雪が収まるのを待つつもりだったのだろう。
 なんという自己犠牲だろうか。

「寒いだろう。俺はこの地の生まれで慣れている。君が使え…………可能なら収容所に戻ろう」

 フィリクス様は私に毛布を被せてくれるが、私はその手を握る。

「っ!」

「ずっとそうやって一人で抱え込むんですね」

 毛布を手に取りながら、彼の肩にもかけて寄り添う。
 恥ずかしいが、伝えたい事があって言葉を続ける。

「私は貴方に会えて嬉しかった。一人じゃないと思えたから」

「セシーリア……」

「良き理解者ができて嬉しかった。そして私は貴方にとってもそうでありたい」

「っ、それは」

 肩に寄りかかって語りかけていく。
 心臓は激しく高鳴り、苦しいほどに鼓動する。

「フィリクス様にとって私は、頼れぬ相手ですか?」

「そんな事は無い」

「なら一人にならずに頼ってください。私は……貴方がこの辺境伯領に居て良いと言ってくれた時。本当に嬉しかったんです」

「セシーリア……」

「貴方にとって私が頼れる相手なら、行動で示してください」
 
 気持ちを伝えた途端に、私の身体が引かれたのが分かった。
 抵抗できなかったのは初めてだったかもしれない。
 抱きしめられて、思考が止まる。

「俺と居れば、君まで差別の的だ」

「それがなんですか、私は気にしません」

「俺が気にする。君に傷ついてほしくない」

「……どうして、ですか」

 問いかけた声は答えを求めていた。
 互いに息が近い、それでも気持ちを確かめ合うこの距離を離れたくはなかった。

「どうして、私を傷つけたくないのですか」

「……君が好きだからだ」

 ハッキリと聞こえた声。
 吹雪の吹く風の中で、毛布にくるまる私達の熱は決して冷める事はなかった。
感想 167

あなたにおすすめの小説

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。 けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。 それでも旦那様は優しかった。 冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。 だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。 そんなある日、彼女は知ってしまう。 旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。 彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。 都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る 静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。 すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。 感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです

藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。 理由は単純。 愛などなくても、仕事に支障はないからだという。 ──そうですか。 それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。 王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。 夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。 離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。 気づいたときにはもう遅い。 積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。 一方で私は、王妃のもとへ。 今さら引き止められても、遅いのです。