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戻らない君⑥ アロルドside
その日、届いた一報に手が震えた。
セシーリアからの手紙であり、その内容はとても信じられないものだったからだ。
「リ、リエンネ殿はいるか!」
早急に屋敷を歩き回ってリエンネを探す。
連日来ている彼女は、当たり前のようにリビングにて過ごしていた。
そんな彼女に手紙を突きだす。
「セシーリアから手紙がっ!」
「あの子から? 王家の管理下になったのではないの」
ローザが帰ってきていなかったから、俺達は今だに王家とセシーリアの状況を知らなかった。
だが以前に彼女の父であるノベール殿が言っていた言葉が頭を反芻する。
自然と震える手で内容を読み上げた。
「現在、ローザは……辺境伯であるフィリクス様を誹謗した罪にて拘留中だと書いてある」
「ローザが? 王家とはどうなったの。あの子は連れて行っていたはずよ」
焦らなくとも直ぐに読み上げる。
大人しく聞いてくれと目線で告げつつ、手紙の続きを読み上げた。
「リエンネ殿、元母である貴方の考えている事は分からないが……私の自由を侵害しようとした事に強い怒りを抱いております」
「っ!」
「貴方が仕向けたのか分からないですが、王家との交渉にて私の身柄は自由のままとなりました」
リエンネはへなへなと腰を下ろしていく。
信じられないといった表情だが、続く俺の読み上げる言葉に彼女の表情はさらに一変していく。
「ア、アロルド達と共謀して私に危害を及ぼそうとした事実にていずれ勾留させてもらうと」
「な、勾留って……わ、私はなにも……危害など」
「待ってくれリエンネ殿、この続きがまだあるようだ」
再び手紙に視線を落として、内容を読み上げる。
俺の声は自然と震えてしまっていた。
「先日、辺境伯領に不法侵入して私に危害を及ぼそうとした傭兵から雇い主がアロルドである事が判明……した」
「あ……あの傭兵……どうして口を割って」
「その傭兵たちを紹介したのがリエンネである事も分かっています。近日中にその罪を問うための話し合いの場を設けますので、大人しく待っていてください」
手紙を読み終えながら沸き立つ感情は、焦りと怒りだった。
高い前金を払って雇った傭兵たちが俺が関わっている事を自白しただと?
あの者達の口は堅いと確かに聞いていた。
いったい、いったいなにをしたんだ。
「セシーリアからは、いつ来るか書かれていますか?」
リエンネの問いかけに首を横に振る。
こちらに来るような日時は書かれていない。
「で、では直ぐに王城へと向かいましょうか」
「は? なぜ王城へ?」
リエンネは直ぐに立ち上がり、汗を流しながら荷物をまとめていく。
ここまで彼女が慌てている姿を見るのは初めてだ。
「ノベールの言っていた通りに王家の管理下にならなかったなんて……計画は破綻してしまった。さらに私まで捕らえられてしまえば、もう本当に終わってしまう!」
「リエンネ殿、どうしたというのですか!」
「あの子は王家の管理下に入らねばならないの! だから直ぐに国王陛下にかけあって……強引な手段を講じてでも……」
「リエンネ殿……なにを言って」
「すでに知り合いの者からは、王家が魔物憑きの危険性を認識して対策をしていると聞いているの。そこに私の後押しもあればきっといい案が……」
「落ち着いてください! 貴方の娘でしょう! まずは話をすべきです」
俺にも焦りはある。
しかしまた彼女と話し合う機会が出来たと考えれば、むしろ状況は好転したと言える。
「話し合う機会が出来たんだ。俺が傭兵を雇ったのだって、レーヴ公爵の監視があったからと誤解を解けば納得してくれる」
「……」
「貴方にもここまで娘に関わった理由があるのでしょう? あの日……セシーリアが魔物憑きだと知ってから。俺は魔物憑きについて調べました」
「調べた? そういえば、貴方は言葉すら知らなかったのね」
リエンネの無知だと馬鹿にするような態度は、焦りによる苛立ちからだろう。
だが言い返す言葉を呑み込んで話を続ける。
「えぇ、調べれば酷い扱いを受けるものだと分かった。そんな事にセシーリアを巻き込むのは俺の本意ではない」
「……」
「話し合いの機会を得たんだ。王家ではなく、直接話すべきです」
リエンネは静かに首を横に振った。
そして小さな、か細い声で呟いた。
「話などできないわ」
「え……」
「怖いのよ、ずっと……ずっと怖いの」
「なにを言って」
「あの子を魔物憑きに産んでしまった私が、会っていいはずがない」
リエンネは荷物をまとめ終えたのか、玄関の方へと向かい始めた。
その足は止まらなかった。
「待ってくれ、事情を説明するためにもリエンネ殿が必要なんだ!」
「王家だって馬鹿じゃない。きっとセシーリアへの対策に王家騎士団を動かすはず。私のアドバイスもあればあの子を管理下に置けるチャンスなの! これを逃せば本当に終わってしまうわ」
「誤解を解いて話し合えば、きっとセシーリアだって戻ってきてくれるはずで–––」
「戻らないわよ」
リエンネが玄関扉を開いた瞬間だった。
俺の言葉に返すように、セシーリアの声が響いて視線を向ける。
驚きで声が出なかった。
なぜなら玄関に立っていたのは紛れもなく、セシーリア本人だったから。
「あ……どう、して。ここに」
「言ったでしょう。話し合いの場を設けるって…」
「なにを言って––––っ!」
そこから問いかけを漏らそうとした俺の言葉は、途中で切れた。
今目の前でセシーリアが、リエンネの首元に指先をトンっと押した。
ただそれだけで、彼女は言葉もなく意識を失ったのだ。
「へ…………なに、して」
「話し合いをするのですから、落ち着いた場所でしましょうか」
「っ!」
「また起きた時に話をしましょうか、アロルド」
リエンネと同じく、顎に指を置かれた瞬間。
意識が暗転して途切れていく。
俺には伝えたい事がある、君に戻ってきてほしい、謝らないといけない事がある。
…………伝えたいのに、意識を取り戻す事は出来なかった。
セシーリアからの手紙であり、その内容はとても信じられないものだったからだ。
「リ、リエンネ殿はいるか!」
早急に屋敷を歩き回ってリエンネを探す。
連日来ている彼女は、当たり前のようにリビングにて過ごしていた。
そんな彼女に手紙を突きだす。
「セシーリアから手紙がっ!」
「あの子から? 王家の管理下になったのではないの」
ローザが帰ってきていなかったから、俺達は今だに王家とセシーリアの状況を知らなかった。
だが以前に彼女の父であるノベール殿が言っていた言葉が頭を反芻する。
自然と震える手で内容を読み上げた。
「現在、ローザは……辺境伯であるフィリクス様を誹謗した罪にて拘留中だと書いてある」
「ローザが? 王家とはどうなったの。あの子は連れて行っていたはずよ」
焦らなくとも直ぐに読み上げる。
大人しく聞いてくれと目線で告げつつ、手紙の続きを読み上げた。
「リエンネ殿、元母である貴方の考えている事は分からないが……私の自由を侵害しようとした事に強い怒りを抱いております」
「っ!」
「貴方が仕向けたのか分からないですが、王家との交渉にて私の身柄は自由のままとなりました」
リエンネはへなへなと腰を下ろしていく。
信じられないといった表情だが、続く俺の読み上げる言葉に彼女の表情はさらに一変していく。
「ア、アロルド達と共謀して私に危害を及ぼそうとした事実にていずれ勾留させてもらうと」
「な、勾留って……わ、私はなにも……危害など」
「待ってくれリエンネ殿、この続きがまだあるようだ」
再び手紙に視線を落として、内容を読み上げる。
俺の声は自然と震えてしまっていた。
「先日、辺境伯領に不法侵入して私に危害を及ぼそうとした傭兵から雇い主がアロルドである事が判明……した」
「あ……あの傭兵……どうして口を割って」
「その傭兵たちを紹介したのがリエンネである事も分かっています。近日中にその罪を問うための話し合いの場を設けますので、大人しく待っていてください」
手紙を読み終えながら沸き立つ感情は、焦りと怒りだった。
高い前金を払って雇った傭兵たちが俺が関わっている事を自白しただと?
あの者達の口は堅いと確かに聞いていた。
いったい、いったいなにをしたんだ。
「セシーリアからは、いつ来るか書かれていますか?」
リエンネの問いかけに首を横に振る。
こちらに来るような日時は書かれていない。
「で、では直ぐに王城へと向かいましょうか」
「は? なぜ王城へ?」
リエンネは直ぐに立ち上がり、汗を流しながら荷物をまとめていく。
ここまで彼女が慌てている姿を見るのは初めてだ。
「ノベールの言っていた通りに王家の管理下にならなかったなんて……計画は破綻してしまった。さらに私まで捕らえられてしまえば、もう本当に終わってしまう!」
「リエンネ殿、どうしたというのですか!」
「あの子は王家の管理下に入らねばならないの! だから直ぐに国王陛下にかけあって……強引な手段を講じてでも……」
「リエンネ殿……なにを言って」
「すでに知り合いの者からは、王家が魔物憑きの危険性を認識して対策をしていると聞いているの。そこに私の後押しもあればきっといい案が……」
「落ち着いてください! 貴方の娘でしょう! まずは話をすべきです」
俺にも焦りはある。
しかしまた彼女と話し合う機会が出来たと考えれば、むしろ状況は好転したと言える。
「話し合う機会が出来たんだ。俺が傭兵を雇ったのだって、レーヴ公爵の監視があったからと誤解を解けば納得してくれる」
「……」
「貴方にもここまで娘に関わった理由があるのでしょう? あの日……セシーリアが魔物憑きだと知ってから。俺は魔物憑きについて調べました」
「調べた? そういえば、貴方は言葉すら知らなかったのね」
リエンネの無知だと馬鹿にするような態度は、焦りによる苛立ちからだろう。
だが言い返す言葉を呑み込んで話を続ける。
「えぇ、調べれば酷い扱いを受けるものだと分かった。そんな事にセシーリアを巻き込むのは俺の本意ではない」
「……」
「話し合いの機会を得たんだ。王家ではなく、直接話すべきです」
リエンネは静かに首を横に振った。
そして小さな、か細い声で呟いた。
「話などできないわ」
「え……」
「怖いのよ、ずっと……ずっと怖いの」
「なにを言って」
「あの子を魔物憑きに産んでしまった私が、会っていいはずがない」
リエンネは荷物をまとめ終えたのか、玄関の方へと向かい始めた。
その足は止まらなかった。
「待ってくれ、事情を説明するためにもリエンネ殿が必要なんだ!」
「王家だって馬鹿じゃない。きっとセシーリアへの対策に王家騎士団を動かすはず。私のアドバイスもあればあの子を管理下に置けるチャンスなの! これを逃せば本当に終わってしまうわ」
「誤解を解いて話し合えば、きっとセシーリアだって戻ってきてくれるはずで–––」
「戻らないわよ」
リエンネが玄関扉を開いた瞬間だった。
俺の言葉に返すように、セシーリアの声が響いて視線を向ける。
驚きで声が出なかった。
なぜなら玄関に立っていたのは紛れもなく、セシーリア本人だったから。
「あ……どう、して。ここに」
「言ったでしょう。話し合いの場を設けるって…」
「なにを言って––––っ!」
そこから問いかけを漏らそうとした俺の言葉は、途中で切れた。
今目の前でセシーリアが、リエンネの首元に指先をトンっと押した。
ただそれだけで、彼女は言葉もなく意識を失ったのだ。
「へ…………なに、して」
「話し合いをするのですから、落ち着いた場所でしましょうか」
「っ!」
「また起きた時に話をしましょうか、アロルド」
リエンネと同じく、顎に指を置かれた瞬間。
意識が暗転して途切れていく。
俺には伝えたい事がある、君に戻ってきてほしい、謝らないといけない事がある。
…………伝えたいのに、意識を取り戻す事は出来なかった。
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