【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか

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33話

「な、治さなくていいって……あ、あなたは何を言って……」

「言った通りです。魔物、食べられなくなるので」

「ま、魔物って! え、貴方……魔物をたべ、え……食べ……え!?」

 冗談でも言っていると思っているのか、リエンネはすっごく困惑していた。
 だけど私は気にせずに話を続けさせてもらう。
 そもそも彼女は大きな勘違いをしている。

「言っておきますが、私は一度でも魔物憑きである事を不幸などと思ったことはないです」

「でも、差別を受けて……隠れて暮らしていくのよ」

「だけど、この力があるからこそ得られた幸せがある。それは知識ある人や技術を持つ人と同じただの個性です」

「こ、個性って……それを皆が受け入れてくれると? 人間ではないと思われているのよ!」

「人と違う事を、皆に受け入れてもらう必要はありますか? 私は私であり、恥ずべき事も間違いも犯していないのに」

 リエンネは必死に問いかけてくる。
 だけど私は自分は間違っていないと確信を持って答えられる。

「人と違う事に怯えて生きていくなど、そんな窮屈な日々が……自分の人生だと言えますか?」

「わ、私は貴方のためを想って」

「そうやって私が人と違うから不幸だと決めつけてくる相手に、どうして私が合わせる必要があるの」

「っ!」

「私は自分の人生を生きていく。それこそ……人間らしい生き方じゃないのですか」

 確かに魔物憑きというのは、未だに実態が分からない力だ。
 恐ろしいのも理解はできる。
 でも誰かに差別されるから、嫌われるからと自らの個性を潰す事が正解だと私は思えない。

「私のためという言葉でしたが、独りよがりな行為は迷惑なだけです」

「セシーリア、お願いだから私の言う事を聞いてちょうだい。貴方が人間になるには、これしかないのよ」

「何度も言わせないで、私はもう人間よ。貴方が捨てた時から変わらない」

 私の言葉に同意するようにして、フィリクス様が肩を叩いてくれる。
 そして彼が一歩前に出て呟いた。

「リエンネ殿、貴方が研究者の助手として俺を調べていた事を覚えていますか?」

「……えぇ、あれはセシーリアのために……」

「あの時の俺が人間扱いだったと、間近で見ていた貴方は思うのですか?」

「……」

「あんな事を娘にさせるか? 知っていたら出来ないはずだ。貴方がしたいのは娘のためではなく、自分自身の後悔を消したいだけだ」

「ちが、違う。私……私は本気でこの魔物憑きを終わらせ、終わらせられると……やっと娘が人間に」

 母が何度も呟く言葉に、私は疑問に思う事を問いかけた。

「それで私が人間になれば、どうなるというのですか?」

「っ……」

「それで許してほしいと? それであの時に捨てられた悲しみが消えると思っているの?」

「セシーリア……私は貴方に傷付いてほしくないの。私は貴方が人として生きていけるように、親として」

「私はあの時、あの日……母に捨てられた日だけが、人間ではないと思われる扱いでした。私を傷つけたのは貴方だけです!」

「……っ」

「親として思っているのは父だけです。私を自分の贖罪のための道具にしないで、貴方は最後まで私を人間扱いしていないのよ」

 一度吐き出してしまえば、止まる事はなく母を責める言葉を羅列していく。
 耐えられなかった想い、あの捨てられた日から決して外には出さなかった感情を吐露する。
 全てを話し終えた時にはスッキリはしなかったけれど、言い切った達成感はあった。

「そういうわけで、貴方には然るべき処罰を伯爵家の主導で正式に対応をいたします」

「セシー……リア……」

「私にとって貴方はもう……母じゃない。魔物憑きだろうと愛してくれる父だけが、私の肉親よ」

 母は私の言葉を聞いてから、何かを言おうと口を開く。
 だけどその前に、別の言葉が響き渡った。

「いやぁ、流石はノベール伯爵だ。魔物憑きの娘をそこまで懐柔できる手腕は陛下にお知らせすべきだろう」

 乾いた拍手の音が響いてきたから、そちらへと視線を向けた。
 足音は聞こえていたが、厄介な相手がやって来たようだ。
 あの日、フィリクス様の威圧に逃げ帰っていた大臣が再度やって来たみたいね。
 彼の背後を見れば、あぁこれはまた大勢の重装備の騎士が行進していた。

「こちらは身内の話し合いをしている。邪魔をするな」

 フィリクス様が一歩前に出て言ってくれたが、大臣は頭を横に振った。

「そうもいきません。今日は私達との話し合いを貴方とセシーリア殿に優先していただかねばなりません」

「国軍を動員してまで、何の用だ」

 国軍が動員されたと聞いて呆れてしまう。
 王家が命じて、この軍が動いているということだ。
 つまり……

「国王陛下の命により、君たち二人とは改めて交渉をしたい。今回は先日のようにはいかないと覚悟してほしい」

「交渉……ですか。こちらの意向は前回伝えたはずですが」

「王家相手に一個人の主張を押し通せるとお思いですか? それを認めてしまえば主権国家は崩壊する。だからこそ阻止せねばならないのです。国家の威厳を賭けてでも」

 大臣は口元を歪ませる。

「今一度問います。王家の命令に従う気はありますかな?」

 話し合いを邪魔された苛立ち、しつこい交渉への怒り。
 それらが合わさった私とフィリクス様は目線を合わせた後…………互いに笑って大臣へと答えた。

「あるわけないわ」

 口を揃えた返事に、大臣はため息を吐く。

「……そう言うと思っておりましたよ」

 大臣は私達の返答を受け、両手を挙げる。
 まるで降参するかのようなポーズかと思えば、後方へと振り返る。

「レーヴ公爵の言う通りに交渉は決裂いたしました。ここからは貴方の番ですよ」

 大臣の視線の先から、雪を踏み歩いてくるのはレーヴ公爵だった。
 驚きはしない、母から私が魔物憑きであると教えられた事は知っている。 
 だから当然……こうして王家と繋がることも分かっていた。

「レーヴ公爵、なんの用でしょうか」

「……まずはセシーリア殿。我が娘の失態を申し訳なく思う。謝罪をさせてほしい」

 雪の中に膝を落として頭を下げるレーヴ公爵。
 誠意を示した彼はアロルド達のように感情的ではなく、理性的に判断をする人物だ。
 そんな彼が王家と組んでなにをする気か分からず警戒してしまう。

「レーヴ公爵、謝罪は必要ありません。それより大臣たちと共に謀って私達になにをする気でしょうか?」

「落ち着いて聞いてほしい。このまま王家に対抗したままでは上手くいくはずがない」

「上手くいかない?」

「あの大臣は理性的に立ち回れず、現国王も直情的なせいでこうして間違った命令を下してしまう。これに君たちが反発するのは当たり前のことだろう」

「っ! レーヴ公爵殿! 話が違いますぞ! 貴方が説得してみせると言ったから連れてきて……」

 大臣が騒ぎ出すが、レーヴ公爵は「黙ってもらえるか」と一蹴する。
 そして再びこちらに語りかけた。

「私は……君たち魔物憑きと、我らとの共存を実現したいと考えている」
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